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第二十六話 『除印』
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「盗賊……ですか……」
キャロルと対面したエリザは不安そうに呟く。
「エリザ……さんでいいよね? 盗賊に対して悪いイメージをお持ちのようだけど……」
「あ、エリザで構いませんよ。……話を続けてください」
生真面目なエリザは盗人が許せないのだろう。
彼女にしては珍しく敵意のこもった目でキャロルのことを見つめている。
「私は盗賊の中でも俗にホワイトシーフと言われているの。普通の盗賊は一般人から強奪を行うんだけど、私達が狙うのは汚いお金だけ。例えば、麻薬密売人のお金とかね」
エリザはそれを聞くと表情を少し緩めて、しかしまだ緊張した様子でキャロルに問う。
「それで、盗んだお金はどうするんですか?」
「それは人に寄るけど、私の場合は麻薬中毒者の社会復帰に向けての治療活動費に充てているわ」
そこまで聞くとエリザはようやくほっとした表情になり、
「ご無礼をお許しください。キャロルさんは立派な方なんですね」
「いやいや、所詮は盗賊だから、そんなかしこまらないでよ」
キャロルは照れた様子で頭を掻く。
俺からも一言付け加えておくか。
「彼女は俺の幼馴染で、爺ちゃんの修業を一緒に受けた仲なんだ。腕前と人柄は保証するよ」
もっとも俺はキャロルがどのように成長したのかはほとんど知らない。
幼少期の記憶とつい先ほどの武道大会での記憶だけだ。
しかしその二つだけでも十分に信頼足り得る確信があった。
「ところで、エリザには死の刻印が刻まれているんでしたっけ?」
「……はい」
エリザは伏し目がちに返事をする。
初めこそ空元気を出していたものの、死の恐怖はやはり拭えないようでエリザの顔は憔悴していた。
「そんな暗い顔しないで。私ならその刻印、取り払うことが出来ると思うわ」
えっ。とその場にいるもの皆が驚く。
「麻薬中毒者の治療活動をしているって言ったでしょ? その影響で医学についてみっちり勉強したから、下手な医者なんかよりよっぽど詳しいのよ、自慢じゃないけどね」
「魔王しか使えない刻印の解除法まで学ぶってどんだけだよ……」
キャロルの底知れなさに少し震える。
「早速処置を行うわよ、縫合手術とかも必要になるから男は出て行きなさい」
「え、ああ、俺の事か。……キャロ、エリザを頼んだぞ」
「うん、任せなさいって!」
腕をまくり上げて快活に笑うキャロルの姿は頼もしかった。
◇ ◆ ◇ ◆
「服、めくるわよ」
「はい、お願いします」
エリザの着ているシャツを背中からまくり上げると、そこには六芒星の形の痣、死の刻印が確かに刻まれていた。
「これは根が深いわね。処置に時間がかかるかもしれないわ。でも安心して、必ず除去してみせるから」
エリザを励ますように私はグッと親指を立てる。
「あのー、うちにも何か出来ることないかな……」
おろおろした様子でミカが問いかける。
彼女もエリザの為になにかしたいのだろう。
「そうねえ。……水を外から汲んできて、それから沸かしてもらえるかしら? 薬草の煮沸消毒に使いたいの」
「うぃーっす!」
ミカは鍋を持って水を汲みに外に出て行った。
「あの子、いつもあんな感じなの? なんか掴みどころのない感じ」
私は箱型の鞄を開けて、医療品を整理しながらエリザと雑談を始める。
「そうですね、ミカちゃんはいつもあんな感じで天真爛漫ですよ」
「……アル君はああいう子が好きなのかな」
「アルフさんですか? どうでしょう? ミカちゃんからは元気をもらってるとは思いますけど」
「ふーん、そうなの……」
肝心の事が聞けずにモヤっとしてしまう私。私が知りたいのは……。
――ガタンッ
「キャロルー! 水汲んできたよー!」
勢いよくドアを開けてミカが戻ってきた。
「早かったわね、そうしたらお湯を沸かしましょう」
火の初級魔法を詠唱し、鍋に火をつけて、沸騰したところに薬草を入れる。
十分に熱したところで薬草を取り出し、今度はすり鉢で粉状になるまで薬草を潰した。
「これで下準備は完了。処置を始めるわよ」
エリザはこくりと頷き、上着を脱いだ。
死の刻印、それは強力な魔力によりかけられた呪詛。
通常の呪いであれば教会でお祓いをする程度で解除することができる。
しかしこれは魔王の血族による呪い。一筋縄ではいかない。
「痛むと思うけど、我慢してね」
その強力な呪詛は肉体と密接に絡み合っているため、物理的に刻印を除去する必要がある。
私はエリザの背中にナイフを突き立てた。
「っ――――!」
エリザの顔が苦痛で歪む。
六芒星の痣を削り取ると同時に、傷口に先程用意した薬草の粉末を塗り込む。
「この薬草はエーテルライトといってね、傷の修復力が一般的な薬草の百倍以上もあるのよ」
ちなみに値段の方は百倍どころではなく数千倍はする。
一般にはほとんど出回ることがなく、王族御用達の代物であるが盗賊にとっては関係ない。
「術後安静にしてれば跡も残らないから、今だけ頑張って耐えなさい」
エリザの返事はない。
この子は強い子だな、と私は感心する。
エーテルライトがなければ出血多量で死んでもおかしくないほどの大手術だ。
その痛みは想像を絶するはず。
それを声も上げずに堪えるだなんて。
「あっ……」
ミカが何かに気付いたように声を上げる。
「エリザっち戦闘不能になってるよ」
「――え、どういうこと!?」
たしかに大手術だけど、手術で戦闘不能になるなんて聞いたことがない。
「えーとー、キャロルは知らないだろうけどエリザっちHP2しかないから……」
HPが2!? それでよく今までやってこれたものね……。
「でもこれは手術をするには好都合だわ。このまま寝ていてもらいましょう」
その後手術は無事進行し、死の刻印は取り除かれたのであった。
キャロルと対面したエリザは不安そうに呟く。
「エリザ……さんでいいよね? 盗賊に対して悪いイメージをお持ちのようだけど……」
「あ、エリザで構いませんよ。……話を続けてください」
生真面目なエリザは盗人が許せないのだろう。
彼女にしては珍しく敵意のこもった目でキャロルのことを見つめている。
「私は盗賊の中でも俗にホワイトシーフと言われているの。普通の盗賊は一般人から強奪を行うんだけど、私達が狙うのは汚いお金だけ。例えば、麻薬密売人のお金とかね」
エリザはそれを聞くと表情を少し緩めて、しかしまだ緊張した様子でキャロルに問う。
「それで、盗んだお金はどうするんですか?」
「それは人に寄るけど、私の場合は麻薬中毒者の社会復帰に向けての治療活動費に充てているわ」
そこまで聞くとエリザはようやくほっとした表情になり、
「ご無礼をお許しください。キャロルさんは立派な方なんですね」
「いやいや、所詮は盗賊だから、そんなかしこまらないでよ」
キャロルは照れた様子で頭を掻く。
俺からも一言付け加えておくか。
「彼女は俺の幼馴染で、爺ちゃんの修業を一緒に受けた仲なんだ。腕前と人柄は保証するよ」
もっとも俺はキャロルがどのように成長したのかはほとんど知らない。
幼少期の記憶とつい先ほどの武道大会での記憶だけだ。
しかしその二つだけでも十分に信頼足り得る確信があった。
「ところで、エリザには死の刻印が刻まれているんでしたっけ?」
「……はい」
エリザは伏し目がちに返事をする。
初めこそ空元気を出していたものの、死の恐怖はやはり拭えないようでエリザの顔は憔悴していた。
「そんな暗い顔しないで。私ならその刻印、取り払うことが出来ると思うわ」
えっ。とその場にいるもの皆が驚く。
「麻薬中毒者の治療活動をしているって言ったでしょ? その影響で医学についてみっちり勉強したから、下手な医者なんかよりよっぽど詳しいのよ、自慢じゃないけどね」
「魔王しか使えない刻印の解除法まで学ぶってどんだけだよ……」
キャロルの底知れなさに少し震える。
「早速処置を行うわよ、縫合手術とかも必要になるから男は出て行きなさい」
「え、ああ、俺の事か。……キャロ、エリザを頼んだぞ」
「うん、任せなさいって!」
腕をまくり上げて快活に笑うキャロルの姿は頼もしかった。
◇ ◆ ◇ ◆
「服、めくるわよ」
「はい、お願いします」
エリザの着ているシャツを背中からまくり上げると、そこには六芒星の形の痣、死の刻印が確かに刻まれていた。
「これは根が深いわね。処置に時間がかかるかもしれないわ。でも安心して、必ず除去してみせるから」
エリザを励ますように私はグッと親指を立てる。
「あのー、うちにも何か出来ることないかな……」
おろおろした様子でミカが問いかける。
彼女もエリザの為になにかしたいのだろう。
「そうねえ。……水を外から汲んできて、それから沸かしてもらえるかしら? 薬草の煮沸消毒に使いたいの」
「うぃーっす!」
ミカは鍋を持って水を汲みに外に出て行った。
「あの子、いつもあんな感じなの? なんか掴みどころのない感じ」
私は箱型の鞄を開けて、医療品を整理しながらエリザと雑談を始める。
「そうですね、ミカちゃんはいつもあんな感じで天真爛漫ですよ」
「……アル君はああいう子が好きなのかな」
「アルフさんですか? どうでしょう? ミカちゃんからは元気をもらってるとは思いますけど」
「ふーん、そうなの……」
肝心の事が聞けずにモヤっとしてしまう私。私が知りたいのは……。
――ガタンッ
「キャロルー! 水汲んできたよー!」
勢いよくドアを開けてミカが戻ってきた。
「早かったわね、そうしたらお湯を沸かしましょう」
火の初級魔法を詠唱し、鍋に火をつけて、沸騰したところに薬草を入れる。
十分に熱したところで薬草を取り出し、今度はすり鉢で粉状になるまで薬草を潰した。
「これで下準備は完了。処置を始めるわよ」
エリザはこくりと頷き、上着を脱いだ。
死の刻印、それは強力な魔力によりかけられた呪詛。
通常の呪いであれば教会でお祓いをする程度で解除することができる。
しかしこれは魔王の血族による呪い。一筋縄ではいかない。
「痛むと思うけど、我慢してね」
その強力な呪詛は肉体と密接に絡み合っているため、物理的に刻印を除去する必要がある。
私はエリザの背中にナイフを突き立てた。
「っ――――!」
エリザの顔が苦痛で歪む。
六芒星の痣を削り取ると同時に、傷口に先程用意した薬草の粉末を塗り込む。
「この薬草はエーテルライトといってね、傷の修復力が一般的な薬草の百倍以上もあるのよ」
ちなみに値段の方は百倍どころではなく数千倍はする。
一般にはほとんど出回ることがなく、王族御用達の代物であるが盗賊にとっては関係ない。
「術後安静にしてれば跡も残らないから、今だけ頑張って耐えなさい」
エリザの返事はない。
この子は強い子だな、と私は感心する。
エーテルライトがなければ出血多量で死んでもおかしくないほどの大手術だ。
その痛みは想像を絶するはず。
それを声も上げずに堪えるだなんて。
「あっ……」
ミカが何かに気付いたように声を上げる。
「エリザっち戦闘不能になってるよ」
「――え、どういうこと!?」
たしかに大手術だけど、手術で戦闘不能になるなんて聞いたことがない。
「えーとー、キャロルは知らないだろうけどエリザっちHP2しかないから……」
HPが2!? それでよく今までやってこれたものね……。
「でもこれは手術をするには好都合だわ。このまま寝ていてもらいましょう」
その後手術は無事進行し、死の刻印は取り除かれたのであった。
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