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第5話
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「いらっしゃいませー!お!和大(わひろ)さん!お疲れ様です!」
「お疲れ勝利くん」
「座敷のほう確保しときましたんで」
「ありがとぉ~」
「皆さんもお疲れ様です!」
その居酒屋の店員であろう、若いお兄さんがカウンターから笑顔で出迎えてくれた。
6人で座敷席に座る。
するとスラッっとした、恐らくハーフの女性がおしぼりとお冷を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ご注文お決まりになりましたら、お呼びください」
とても日本語が流暢である。
「あ、トレアちゃん、飲み物だけ先頼んじゃってもいいかな?」
と社長がハーフの店員さんを呼び止める。
「もちろんです」
「じゃあ、みんなどうする?」
「オレはカシオレで!」
累愛(るあ)がいの1番に注文する。メニュー表を明観(あみ)に渡す。
明観(あみ)はメニューを見ずに気恵(キエ)に渡しながら
「私は生ビールを、お願いします」
とハーフの店員さんに言った。
「じゃあ、オレも生ビールを、お願いします」
伊織も生ビールを頼んでからルビアに
「ルビアはどうする?」
と聞く。すると
「自分も生ビールをお願いします!」
「私も生ビールをお願いします」
と気恵(キエ)と被った。
「じゃあぁ~生ビールが5つに…」
社長が累愛(るあ)を見る。
「カシオレで!」
「カシオレ1つお願いします」
と言う。
「はい。生ビール5つにカシオレ1つですね!少々お待ちください!」
「うん。お願いね」
ハーフの店員さんは笑顔で去っていった。
各々のおしぼりで手を拭いたり水を飲んだりしている。
「社長、行きつけのお店なんですか?」
累愛(るあ)が社長に聞く。
「うん。よく1人で飲みにくるね。ルビアくんともここで会ったんだよ」
「え。そうなん?」
静かに驚く伊織。
「そうなんですよ。たまたま入ったら社長がいて、たまたま話してたら、うち来る?って」
「どんな社長だよ」
と笑う明観(あみ)。
「マジでポンポンスカウトしないで下さいよ?」
「大丈夫大丈夫。キャパ的にも今が限界だよ。あと伊織くん
ここ初めて来たみたいに言ってるけど、忘年会とか歓迎会のとき来てるからね?」
「あぁ~…そっか。なんか既視感あると思ったらそこか」
と言いながらも伊織は考える。今の会社のオフィスのデスクの配置を。
社長のデスクがあって、自分、累愛(るあ)、気恵(キエ)に明観(あみ)、そしてルビア。
席としては
社
累 伊
明 気
ル
こんな状態だ。
ルビアの席を
社
累 伊
明 気
ル
か
社
累 伊
明 気
ル
こうしたら、もう1人くらい入れるのでは?
と思った伊織だがルビアの教育係を任されたので
下手なことを言ってまた1人後輩が出来るのもなんだと思い
なにも言わずただ水を一口飲んだ。
「お待たせいたしましたぁ~。生ビールが、5つ」
とおぼんから生ビールを5つテーブルに置くハーフの店員さん。
「あぁ、ありがとうございます」
と少しだけ手伝う伊織とルビア。
「あ、ありがとうございます。5つとー。カシスオレンジになりますね」
「ありがとうございます!」
「あと、こちら。お通しの枝豆になりまーす」
と枝豆の入ったお皿と殻入れをテーブルに置いてくれた。
「ありがとぉ~」
「いえいえ。和大(わひろ)さんはいつもの焼き鳥盛り合わせ頼みます?」
「あ、うん。お願いしようかな。じゃあ、とりあえず焼き鳥盛り合わせ2つお願いします」
「はい!」
「あとはまた決まったら呼びます」
「かしこまりました!」
ハーフの店員さんが去っていく。
「ハーフ…ですよね」
「うん。トレアちゃん。フランスとのハーフなんだって」
「へぇ~」
「ま、とりあえず。遅くなったけど、ルビアくんの歓迎会ということで。
あと土日お疲れ様でしたというのも含めて」
全員がグラスを持つ。
「かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
コキン!カキン!とジョッキ、グラスのあたる音が響く。
喉を鳴らしながらビールを流し込んでいく。
「…っうんまっ」
「うまー」
「…最高」
「累愛(るあ)はビール飲まないんだっけか」
「飲まん。不味い」
「この美味さがわからんとは…子どもよのぉ~」
明観(あみ)がビールジョッキの中のビールをクルクルと回す。
「はっ。ビールがうまく感じないのが子どもなんじゃなくて
ビールをうまく感じるのが味蕾の壊れた大人なんですー」
「でもなんだろうね。この清涼感というかなんというか」
としみじみとビールを見ながら言う気恵(キエ)。
「たしかに。さっぱりしてもいますけど、濃厚というか、コクのある感じもしますよね」
「ルビアくんは味覚がいいよねぇ~」
「ルビアくんもそっち側ぁ~?」
寂しそうな声をあげる累愛(るあ)。
「でも、累愛(るあ)先輩の意見も正しいですよ。
人間って苦味を感じる器官が子どもの頃のほうが優れてるらしいです。
子どもの頃はなにを食べてよくてなにを食べちゃダメかってわからないから
とりあえず、苦いもの、辛いもの、酸っぱいものは
体が拒絶する仕組みになってるらしいです。
それが大人になって、食べれるもの、食べてはいけないものの判断がつくようになり
苦味がアクセントになるというのに気づいたり、辛いもの食べて、辛さに耐性がついたり
いろんな理由で、子どもの頃食べれなかったもの、飲めなかったものが
食べれるようになったり、飲めるようになるらしいです」
全員目を丸くする。伊織を除いて。
「ルビアくんすごいね!博識じゃん!」
「いやぁ~天才なのか。そうなのか」
「聞いたことはあったけど、全然、今の今まで覚えてなかったわ」
「さすがルビアくん。見込んだだけの子だ」
社長が嬉しそうな、満足そうな顔をしてビールを飲む。
「あ、そうだわ。メニューメニュー」
みんなでわちゃわちゃ話し合っていると
「お待たせしましたぁ~。焼き鳥盛り合わせ2皿になりまぁ~す」
「ありがとう」
「注文いいですか!」
累愛(るあ)が元気よく言う。
「はい」
「唐揚げ1つお願いします!」
「唐揚げ1つ。はい」
「あとパリパリサラダを」
「はい。パリパリサラダ1つ」
「ホタテのペペロンチーノをお願いします」
「ホタテのペペロンチーノ1つ」
「…」
「…」
「あ、生ビールおかわりお願いします」
「生ビールを…お1つでいいですか?」
「…」
全員目配せで確認する。
「はい。とりあえず以上で」
「かしこまりました。少々お待ちください」
ハーフの店員さんが去っていった。
「アイビルくんはなにか趣味とかあるの?」
気恵(キエ)が聞く。
「そうですねぇ~…。趣味…趣味…。んん~ないですね」
「ないの?」
「え。逆に尾内(オウチ)先輩あるんですか?」
「そりゃー趣味の1つや…2つ…くらい…あれ。ないかも」
「なかった」
隣で笑う明観(あみ)。
「ないじゃないですか」
「こー…これから!これから見つける!アイビルくん、一緒に趣味見つけようよ」
「たとえば?」
「たとえば…それこそゲームとか」
気恵は上半身を少し後ろに倒し、隣の明観がアイビルから見えるようにする。
「ゲームはやってますけどー」
アイビルが眠そうな目の明観を見る。
「趣味をも超越してる人が身近にいると…」
「こないだトップ オブ レジェンズでひさしぶりにカジュアル回したら
爪痕あと少しだったわ。19キル。ダメージ3700」
「ほらね」
「じゃあぁ~…曲、歌とか」
と気恵(キエ)が言うと、アイビルは視線を累愛(るあ)に向ける。
そのアイビルからの視線に気づいた累愛(るあ)は
「お!どーした?」
と反応する。
「累愛先輩は愛嬌ファーストクラスにどれくらいお金注ぎ込んでるんですか?」
「ん?月15とかかな」
「…え?」
「月15とか20?」
「…」
アイビルと気恵(キエ)は顔を見合わせる。
「え。小角決(おかけ)。20って20万ってこと?」
「うん。それ以外なんかある?」
当たり前のような顔をして、笑顔でカシスオレンジを飲む累愛(るあ)。
「こんな感じで音楽もゲームも、身近にとんでもない人がいるんですよ」
「…くっ…。なるほどなぁ~…」
「伊織先輩は?」
「ん?」
ビールを飲み終えた伊織。
「伊織先輩はなんか趣味あるんですか?」
気恵(キエ)は俄然気になるようで目を見開き、聞き逃さないように、伊織の声に全集中する。
「寝ること」
「寝ること?」
「仕事終えて家帰ってビール飲んで寝る。もう最高よね」
「…」
ジト目で見る気恵(キエ)。死んだ目でビールを飲もうとするが
もう飲み干してしまったことを思い出す。すると
「お待たせいたしましたぁ~。ホタテのペペロンチーノと。
あ、こちら取り皿になりますねぇ~」
手伝う伊織とルビア。
「ありがとうございます~。唐揚げとパリパリサラダです。あと生ビールになりまーす」
「ありがとうございまーす」
「空いたグラスお下げしますね」
「はーい。ありがとうございまーす」
「あ、すいません。生ビール、おかわり…尾内も飲む?」
「あ、う、うん!お願い」
「アイビルは?」
「いただきます」
「じゃあ、生ビールを4つお願いします」
「生ビール4つですね」
「あ!すいません!」
累愛(るあ)が手を挙げる。
「はい」
「マヨネーズってありますか?」
「マヨネーズ。たぶんあると思います」
「貰ってもいいですか?」
「わかりました。少々お待ちください」
累愛(るあ)の隣で感激している社長。
「伊織くん、ありがとぉ~。さすが不動産業。
そうやって視野を広く持って、お客様のご希望を汲み取る能力。
さすがは伊織くん。一見冷たそうだけど、お客様に対し」
「マジ!?会ったことあんの!?」
社長の声を掻き消す累愛(るあ)の声。
「いや、ゲームの中でよ?」
「ガチ!?」
「ガチかな。たぶん。トップ オブ レジェンズをサブアカでランク回してたら一緒になって。
ほら、私、野良さんに始まりと終わり挨拶するじゃん?
それで女性だって気づいてたらしくて。ま、あとすこぶる上手いしさ?
んで、パーティーに入ってきてボイスで「一緒にやってくれませんか?」って半ば強引に。
んで一緒にボイス繋いでやった。気がする」
「おいぃ~。呼んでくれよマジで」
「いや、まあ。ごめす」
社長が喋っている声は明観(あみ)と累愛(るあ)の喋り声でかき消され
伊織からはただパクパクしている社長に見える。
「うん。社長はこーゆー運命の人だよね」
頷く気恵(キエ)。
「不動産業にすべての運を使ったから、他の運のステータスが1くらいなのよ」
「Luckのステータスも大事だよぉ~?」
入ってくる明観(あみ)。
「お待たせいたしましたぁ~。生ビールがっ…4つですねぇ~」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
伊織とルビアが受け取る。
「あ、ありがとうございます。そしてこちらがマヨネーズになります」
と醤油皿のような小皿にマヨネーズが入っていた。
「あ、自分です!ありがとうございます!」
ハーフの店員さんが会釈する。
「空いたグラスいただきますねぇ~」
「ありがとうございます」
「あ、すいません!生ビール!おかわりお願いします!」
明観(あみ)が言う。
「かしこまりました」
空いたグラスを持ってハーフの店員さんが去っていく。
「景馬(ケイマ)、ペース早ない?あいつ酒強かったっけ?」
伊織が気恵(キエ)に聞く。
「いや?なんなら弱いはず。明観(あみ)大丈夫?ペース早くない?」
「ん?全然全然!家でも飲むようになって強くなったから」
両手を腰にあてる明観(あみ)。
「ほろ酔いです」
「“ほろ”か?」
などと話しながら、飲んで食べてをしていると
「んん~…」
「バチ酔いやん」
気恵(キエ)に寄りかかる明観(あみ)を見て伊織が言う。
「バチ酔いだね」
「明らかにペース早かったしな」
伊織が生ビールを飲みながら言う。
「おぉ~…これはデバフだぁ~…いやぁ~?今はきっと攻撃が半減されるから
ある意味ではバフかぁ~」
「こんなときでもゲームだもんな」
累愛(るあ)がカルーアミルクを飲みながら、笑いながら言う。
「すごいよな。どんだけ好きなんだよって話よ」
「まあ、明日もあるし、今日はこんなところで」
「うっす」
「うーす」
「はい」
「はい!」
「うんにゃー?」
「帰りますよ」
「あ、そお?」
社長が立ち上がる。
「勝利くーん。お会計お願い」
「お!和大(わひろ)さん。お帰りですか」
「うん。明日もあるからね」
「あ、明日もあるのか。そっか。定休日火水ですもんね」
「よく覚えてたね」
という会話が聞こえる。
「こいつ大丈夫なん?」
顎でクイッっと明観(あみ)を指す伊織。
「大丈夫ー…」
「お!射撃訓練場の的みたいなのある」
「あ、ダメだ。世界がゲームに侵食されてる」
「それはいつもだろ」
社長が帰ってきた。
「お会計済んだから」
「社長!ゴチになります!」
「ご馳走様です」
「ご馳走様でした」
「ご馳走様です!ありがとうございます!」
「うん。楽しかったね。またみんなで飲もうね。ま、とりあえず明日もあるから。解散!」
「はい!」
「よーし」
「大丈夫?立てる?」
「リンクエイドしてくれ。そしたら戦闘に戻れりゅ」
「リンク…なに?」
「リンクエイド。景馬(ケイマ)が好きなゲームの…なんていうのかな。
戦闘不能になった仲間を助ける手段」
「うん。わからん。とりあえず掴まって。帰るよ」
「にゃーす!アローハの姿」
そんなこんなで靴を履き
「ありがとうございましたぁー!」
「ありがとうございましたー!」
と店員さんたちに見送られ、全員で外に出た。
「おほぉ~。外は涼しーねー」
「んじゃ、ま、明日もあるから。明日もよろしくね」
「うっす!」
「うぃーす」
「お疲れ様でした。ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でした!」
「ご馳走様でしたー」
「作戦成功です!素晴らしい働きでしたよ!」
微笑み居酒屋に戻っていく社長。
「え。社長まだ飲むの」
「さすがすぎる」
「で、どうすんの?」
全員で明観(あみ)を見る。
「帰ってみんなでマヤガミっ、狩るぞー」
「私が送ってくからへーきだよ」
「でも尾内(オウチ)家逆でしょ。いいよ、オレが送ってくから」
「そお?」
「帰り同じ方向だし、なんなら、まあまあ家近いし」
「じゃあぁ~…お願いします」
「うい」
そんな話をしている最中、伊織はスマホに
尾内送ってくから先帰ってて
という文を打ち、ルビアに見せた。ルビアはコクンと頷きながらも、心の中で
先輩天使かよ
と思ったのだが、伊織の死んだ目を見て
うっ…んん~…。まだ悪魔の可能性も捨てきれん
と揺らぐのであった。
「んじゃ、よろしくね」
「任された!」
「あれ?気恵(キエ)家来ないん?」
「また今度ね」
「ふぇーい」
手を振って累愛(るあ)、明観(あみ)組と別れる伊織、気恵(キエ)、ルビア組。
なんてことない会話をしながら帰り
「んじゃ。また明日」
と気恵(キエ)と別れる場所まで来た。
「ではまた。尾内(オウチ)先輩、伊織先輩、お疲れ様でした!
今日はありがとうございました!」
「うん…お疲れ、ん?いや、汐田は」
「お疲れー」
ルビアに手を振る伊織。ルビアも笑顔で伊織と気恵(キエ)に手を振る。
ルビアが背を向けて歩き出す。少ししたらクルッっと振り返り
また伊織と気恵に手を振るルビア。もういいから。行け。という感じで手を振る伊織。
「じゃ。行くぞー」
と特に送ることについてはなにも言わず、気恵(キエ)の家の方向に歩く伊織。
「え。いいよいいよ。大丈夫だよ」
「景馬(ケイマ)ってあんな酒弱かったっけ」
無視して話をする伊織に、ぽっっとなる気恵(キエ)。
これはお酒。お酒であったかくなってるだけ
と言い聞かせる。
「ん?あ、ごめん。なんだっけ?」
「酔ってんの?」
「んふっ。ちょっと酔ってるかも」
「たしかに顔赤いもんな」
「え。そお?」
自分のほっぺを両手で触る気恵(キエ)。
「おん」
「で、なんだっけ?」
「景馬(ケイマ)。あんな酒弱かったっけ?」
「あぁ、明観(あみ)ね。歓迎会のとき覚えてない?」
「何年前だよ」
「4年?」
「覚えてないな」
そんな話をしながら伊織は気恵(キエ)を家の前まで送り届けた。
「んでさー?ワスベスワスベス」
「はいはい。予約ね。しましたよ」
「おぉ!!したか!よくやった!これで2人でできるな!」
ニコーッっと笑う明観(あみ)を見て
可愛いなこいつ
と思うがブンブンと頭を振る累愛(るあ)。
「どーしたー?」
「え?いや?楽しみだなーって」
「だなー。そう!そうなんよ!ワスベスの制作にはなんと!
なんと!ですよ!私の好きなゴッドリーダーの製作陣も加わってるんですよ!」
「あ、そうなん?知らんかった」
「私もー知らんかったんだけどーねー」
と笑う明観(あみ)。
「それ知ったときは狂喜乱舞したよねー」
「ポツッターが一時期とんでもないことになってたのはそれのせいか」
「そー」
そんな話をしていると明観の家の前に着いた。
「ほらーついたぞー」
「鍵ー。バッグん中ー」
「出せと?」
首が取れそうにコクンと頷く明観(あみ)。
「いいの?漁って」
「どっかー、ポケットの中あるはずー」
「じゃー。失礼しますー」
とバッグを覗く累愛(るあ)。ポーチがあったが
これは見ちゃいけないやつ。と思ってスルーし
バッグの内側のポケットの中を手探りで探す。
「こーれーか?」
バッグから手を抜き、手を広げる。
「おおぉーあーたーりー」
「お。豚小屋から両親を見つけたとき」
「That’s right!!」
「んじゃ。もう大丈夫ね?」
「大丈夫大丈夫。ん」
急に立ち直る明観(あみ)。
「ん?」
「ありがと、ね!」
ニカーという笑顔で掌を前に突き出し
某キャラクターの「んちゃ!」みたいなポーズをする明観(あみ)。ドキッっとする累愛(るあ)。
「お、おぉ。おぉ!任せておきなさい!」
「んふー。おやすみー」
「おやすみ」
フラフラと歩いていく明観(あみ)を心配そうに苦笑いで見守って
自分の帰路につく累愛(るあ)。
「おやすみ~おやすみ~」
と呟きながら帰った。
「んじゃ。また明日」
気恵(キエ)の家の前に着いた伊織と気恵。クルッっと振り返り、自分の家へと帰り出す伊織。
その後ろ姿を少しだけ見て
「あ。ありがとね!」
と夜ということもあり、周囲に配慮した大きな声で伊織に言う。
すると歩きながらクルッっと振り返り、胸の高さくらいで無言で手を挙げる伊織。
「また明日ね」
「また明日」
またクルッっと振り返り、家への道を歩き出す伊織。
嬉しさでニコニコしながらマンションのエントランスに入っていく気恵。
そんなこんなでルビアの歓迎会のあった1日は終わった。
「お疲れ勝利くん」
「座敷のほう確保しときましたんで」
「ありがとぉ~」
「皆さんもお疲れ様です!」
その居酒屋の店員であろう、若いお兄さんがカウンターから笑顔で出迎えてくれた。
6人で座敷席に座る。
するとスラッっとした、恐らくハーフの女性がおしぼりとお冷を持ってきてくれた。
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「ご注文お決まりになりましたら、お呼びください」
とても日本語が流暢である。
「あ、トレアちゃん、飲み物だけ先頼んじゃってもいいかな?」
と社長がハーフの店員さんを呼び止める。
「もちろんです」
「じゃあ、みんなどうする?」
「オレはカシオレで!」
累愛(るあ)がいの1番に注文する。メニュー表を明観(あみ)に渡す。
明観(あみ)はメニューを見ずに気恵(キエ)に渡しながら
「私は生ビールを、お願いします」
とハーフの店員さんに言った。
「じゃあ、オレも生ビールを、お願いします」
伊織も生ビールを頼んでからルビアに
「ルビアはどうする?」
と聞く。すると
「自分も生ビールをお願いします!」
「私も生ビールをお願いします」
と気恵(キエ)と被った。
「じゃあぁ~生ビールが5つに…」
社長が累愛(るあ)を見る。
「カシオレで!」
「カシオレ1つお願いします」
と言う。
「はい。生ビール5つにカシオレ1つですね!少々お待ちください!」
「うん。お願いね」
ハーフの店員さんは笑顔で去っていった。
各々のおしぼりで手を拭いたり水を飲んだりしている。
「社長、行きつけのお店なんですか?」
累愛(るあ)が社長に聞く。
「うん。よく1人で飲みにくるね。ルビアくんともここで会ったんだよ」
「え。そうなん?」
静かに驚く伊織。
「そうなんですよ。たまたま入ったら社長がいて、たまたま話してたら、うち来る?って」
「どんな社長だよ」
と笑う明観(あみ)。
「マジでポンポンスカウトしないで下さいよ?」
「大丈夫大丈夫。キャパ的にも今が限界だよ。あと伊織くん
ここ初めて来たみたいに言ってるけど、忘年会とか歓迎会のとき来てるからね?」
「あぁ~…そっか。なんか既視感あると思ったらそこか」
と言いながらも伊織は考える。今の会社のオフィスのデスクの配置を。
社長のデスクがあって、自分、累愛(るあ)、気恵(キエ)に明観(あみ)、そしてルビア。
席としては
社
累 伊
明 気
ル
こんな状態だ。
ルビアの席を
社
累 伊
明 気
ル
か
社
累 伊
明 気
ル
こうしたら、もう1人くらい入れるのでは?
と思った伊織だがルビアの教育係を任されたので
下手なことを言ってまた1人後輩が出来るのもなんだと思い
なにも言わずただ水を一口飲んだ。
「お待たせいたしましたぁ~。生ビールが、5つ」
とおぼんから生ビールを5つテーブルに置くハーフの店員さん。
「あぁ、ありがとうございます」
と少しだけ手伝う伊織とルビア。
「あ、ありがとうございます。5つとー。カシスオレンジになりますね」
「ありがとうございます!」
「あと、こちら。お通しの枝豆になりまーす」
と枝豆の入ったお皿と殻入れをテーブルに置いてくれた。
「ありがとぉ~」
「いえいえ。和大(わひろ)さんはいつもの焼き鳥盛り合わせ頼みます?」
「あ、うん。お願いしようかな。じゃあ、とりあえず焼き鳥盛り合わせ2つお願いします」
「はい!」
「あとはまた決まったら呼びます」
「かしこまりました!」
ハーフの店員さんが去っていく。
「ハーフ…ですよね」
「うん。トレアちゃん。フランスとのハーフなんだって」
「へぇ~」
「ま、とりあえず。遅くなったけど、ルビアくんの歓迎会ということで。
あと土日お疲れ様でしたというのも含めて」
全員がグラスを持つ。
「かんぱーい!」
「「かんぱーい!」」
コキン!カキン!とジョッキ、グラスのあたる音が響く。
喉を鳴らしながらビールを流し込んでいく。
「…っうんまっ」
「うまー」
「…最高」
「累愛(るあ)はビール飲まないんだっけか」
「飲まん。不味い」
「この美味さがわからんとは…子どもよのぉ~」
明観(あみ)がビールジョッキの中のビールをクルクルと回す。
「はっ。ビールがうまく感じないのが子どもなんじゃなくて
ビールをうまく感じるのが味蕾の壊れた大人なんですー」
「でもなんだろうね。この清涼感というかなんというか」
としみじみとビールを見ながら言う気恵(キエ)。
「たしかに。さっぱりしてもいますけど、濃厚というか、コクのある感じもしますよね」
「ルビアくんは味覚がいいよねぇ~」
「ルビアくんもそっち側ぁ~?」
寂しそうな声をあげる累愛(るあ)。
「でも、累愛(るあ)先輩の意見も正しいですよ。
人間って苦味を感じる器官が子どもの頃のほうが優れてるらしいです。
子どもの頃はなにを食べてよくてなにを食べちゃダメかってわからないから
とりあえず、苦いもの、辛いもの、酸っぱいものは
体が拒絶する仕組みになってるらしいです。
それが大人になって、食べれるもの、食べてはいけないものの判断がつくようになり
苦味がアクセントになるというのに気づいたり、辛いもの食べて、辛さに耐性がついたり
いろんな理由で、子どもの頃食べれなかったもの、飲めなかったものが
食べれるようになったり、飲めるようになるらしいです」
全員目を丸くする。伊織を除いて。
「ルビアくんすごいね!博識じゃん!」
「いやぁ~天才なのか。そうなのか」
「聞いたことはあったけど、全然、今の今まで覚えてなかったわ」
「さすがルビアくん。見込んだだけの子だ」
社長が嬉しそうな、満足そうな顔をしてビールを飲む。
「あ、そうだわ。メニューメニュー」
みんなでわちゃわちゃ話し合っていると
「お待たせしましたぁ~。焼き鳥盛り合わせ2皿になりまぁ~す」
「ありがとう」
「注文いいですか!」
累愛(るあ)が元気よく言う。
「はい」
「唐揚げ1つお願いします!」
「唐揚げ1つ。はい」
「あとパリパリサラダを」
「はい。パリパリサラダ1つ」
「ホタテのペペロンチーノをお願いします」
「ホタテのペペロンチーノ1つ」
「…」
「…」
「あ、生ビールおかわりお願いします」
「生ビールを…お1つでいいですか?」
「…」
全員目配せで確認する。
「はい。とりあえず以上で」
「かしこまりました。少々お待ちください」
ハーフの店員さんが去っていった。
「アイビルくんはなにか趣味とかあるの?」
気恵(キエ)が聞く。
「そうですねぇ~…。趣味…趣味…。んん~ないですね」
「ないの?」
「え。逆に尾内(オウチ)先輩あるんですか?」
「そりゃー趣味の1つや…2つ…くらい…あれ。ないかも」
「なかった」
隣で笑う明観(あみ)。
「ないじゃないですか」
「こー…これから!これから見つける!アイビルくん、一緒に趣味見つけようよ」
「たとえば?」
「たとえば…それこそゲームとか」
気恵は上半身を少し後ろに倒し、隣の明観がアイビルから見えるようにする。
「ゲームはやってますけどー」
アイビルが眠そうな目の明観を見る。
「趣味をも超越してる人が身近にいると…」
「こないだトップ オブ レジェンズでひさしぶりにカジュアル回したら
爪痕あと少しだったわ。19キル。ダメージ3700」
「ほらね」
「じゃあぁ~…曲、歌とか」
と気恵(キエ)が言うと、アイビルは視線を累愛(るあ)に向ける。
そのアイビルからの視線に気づいた累愛(るあ)は
「お!どーした?」
と反応する。
「累愛先輩は愛嬌ファーストクラスにどれくらいお金注ぎ込んでるんですか?」
「ん?月15とかかな」
「…え?」
「月15とか20?」
「…」
アイビルと気恵(キエ)は顔を見合わせる。
「え。小角決(おかけ)。20って20万ってこと?」
「うん。それ以外なんかある?」
当たり前のような顔をして、笑顔でカシスオレンジを飲む累愛(るあ)。
「こんな感じで音楽もゲームも、身近にとんでもない人がいるんですよ」
「…くっ…。なるほどなぁ~…」
「伊織先輩は?」
「ん?」
ビールを飲み終えた伊織。
「伊織先輩はなんか趣味あるんですか?」
気恵(キエ)は俄然気になるようで目を見開き、聞き逃さないように、伊織の声に全集中する。
「寝ること」
「寝ること?」
「仕事終えて家帰ってビール飲んで寝る。もう最高よね」
「…」
ジト目で見る気恵(キエ)。死んだ目でビールを飲もうとするが
もう飲み干してしまったことを思い出す。すると
「お待たせいたしましたぁ~。ホタテのペペロンチーノと。
あ、こちら取り皿になりますねぇ~」
手伝う伊織とルビア。
「ありがとうございます~。唐揚げとパリパリサラダです。あと生ビールになりまーす」
「ありがとうございまーす」
「空いたグラスお下げしますね」
「はーい。ありがとうございまーす」
「あ、すいません。生ビール、おかわり…尾内も飲む?」
「あ、う、うん!お願い」
「アイビルは?」
「いただきます」
「じゃあ、生ビールを4つお願いします」
「生ビール4つですね」
「あ!すいません!」
累愛(るあ)が手を挙げる。
「はい」
「マヨネーズってありますか?」
「マヨネーズ。たぶんあると思います」
「貰ってもいいですか?」
「わかりました。少々お待ちください」
累愛(るあ)の隣で感激している社長。
「伊織くん、ありがとぉ~。さすが不動産業。
そうやって視野を広く持って、お客様のご希望を汲み取る能力。
さすがは伊織くん。一見冷たそうだけど、お客様に対し」
「マジ!?会ったことあんの!?」
社長の声を掻き消す累愛(るあ)の声。
「いや、ゲームの中でよ?」
「ガチ!?」
「ガチかな。たぶん。トップ オブ レジェンズをサブアカでランク回してたら一緒になって。
ほら、私、野良さんに始まりと終わり挨拶するじゃん?
それで女性だって気づいてたらしくて。ま、あとすこぶる上手いしさ?
んで、パーティーに入ってきてボイスで「一緒にやってくれませんか?」って半ば強引に。
んで一緒にボイス繋いでやった。気がする」
「おいぃ~。呼んでくれよマジで」
「いや、まあ。ごめす」
社長が喋っている声は明観(あみ)と累愛(るあ)の喋り声でかき消され
伊織からはただパクパクしている社長に見える。
「うん。社長はこーゆー運命の人だよね」
頷く気恵(キエ)。
「不動産業にすべての運を使ったから、他の運のステータスが1くらいなのよ」
「Luckのステータスも大事だよぉ~?」
入ってくる明観(あみ)。
「お待たせいたしましたぁ~。生ビールがっ…4つですねぇ~」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます」
伊織とルビアが受け取る。
「あ、ありがとうございます。そしてこちらがマヨネーズになります」
と醤油皿のような小皿にマヨネーズが入っていた。
「あ、自分です!ありがとうございます!」
ハーフの店員さんが会釈する。
「空いたグラスいただきますねぇ~」
「ありがとうございます」
「あ、すいません!生ビール!おかわりお願いします!」
明観(あみ)が言う。
「かしこまりました」
空いたグラスを持ってハーフの店員さんが去っていく。
「景馬(ケイマ)、ペース早ない?あいつ酒強かったっけ?」
伊織が気恵(キエ)に聞く。
「いや?なんなら弱いはず。明観(あみ)大丈夫?ペース早くない?」
「ん?全然全然!家でも飲むようになって強くなったから」
両手を腰にあてる明観(あみ)。
「ほろ酔いです」
「“ほろ”か?」
などと話しながら、飲んで食べてをしていると
「んん~…」
「バチ酔いやん」
気恵(キエ)に寄りかかる明観(あみ)を見て伊織が言う。
「バチ酔いだね」
「明らかにペース早かったしな」
伊織が生ビールを飲みながら言う。
「おぉ~…これはデバフだぁ~…いやぁ~?今はきっと攻撃が半減されるから
ある意味ではバフかぁ~」
「こんなときでもゲームだもんな」
累愛(るあ)がカルーアミルクを飲みながら、笑いながら言う。
「すごいよな。どんだけ好きなんだよって話よ」
「まあ、明日もあるし、今日はこんなところで」
「うっす」
「うーす」
「はい」
「はい!」
「うんにゃー?」
「帰りますよ」
「あ、そお?」
社長が立ち上がる。
「勝利くーん。お会計お願い」
「お!和大(わひろ)さん。お帰りですか」
「うん。明日もあるからね」
「あ、明日もあるのか。そっか。定休日火水ですもんね」
「よく覚えてたね」
という会話が聞こえる。
「こいつ大丈夫なん?」
顎でクイッっと明観(あみ)を指す伊織。
「大丈夫ー…」
「お!射撃訓練場の的みたいなのある」
「あ、ダメだ。世界がゲームに侵食されてる」
「それはいつもだろ」
社長が帰ってきた。
「お会計済んだから」
「社長!ゴチになります!」
「ご馳走様です」
「ご馳走様でした」
「ご馳走様です!ありがとうございます!」
「うん。楽しかったね。またみんなで飲もうね。ま、とりあえず明日もあるから。解散!」
「はい!」
「よーし」
「大丈夫?立てる?」
「リンクエイドしてくれ。そしたら戦闘に戻れりゅ」
「リンク…なに?」
「リンクエイド。景馬(ケイマ)が好きなゲームの…なんていうのかな。
戦闘不能になった仲間を助ける手段」
「うん。わからん。とりあえず掴まって。帰るよ」
「にゃーす!アローハの姿」
そんなこんなで靴を履き
「ありがとうございましたぁー!」
「ありがとうございましたー!」
と店員さんたちに見送られ、全員で外に出た。
「おほぉ~。外は涼しーねー」
「んじゃ、ま、明日もあるから。明日もよろしくね」
「うっす!」
「うぃーす」
「お疲れ様でした。ご馳走様でした」
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でした!」
「ご馳走様でしたー」
「作戦成功です!素晴らしい働きでしたよ!」
微笑み居酒屋に戻っていく社長。
「え。社長まだ飲むの」
「さすがすぎる」
「で、どうすんの?」
全員で明観(あみ)を見る。
「帰ってみんなでマヤガミっ、狩るぞー」
「私が送ってくからへーきだよ」
「でも尾内(オウチ)家逆でしょ。いいよ、オレが送ってくから」
「そお?」
「帰り同じ方向だし、なんなら、まあまあ家近いし」
「じゃあぁ~…お願いします」
「うい」
そんな話をしている最中、伊織はスマホに
尾内送ってくから先帰ってて
という文を打ち、ルビアに見せた。ルビアはコクンと頷きながらも、心の中で
先輩天使かよ
と思ったのだが、伊織の死んだ目を見て
うっ…んん~…。まだ悪魔の可能性も捨てきれん
と揺らぐのであった。
「んじゃ、よろしくね」
「任された!」
「あれ?気恵(キエ)家来ないん?」
「また今度ね」
「ふぇーい」
手を振って累愛(るあ)、明観(あみ)組と別れる伊織、気恵(キエ)、ルビア組。
なんてことない会話をしながら帰り
「んじゃ。また明日」
と気恵(キエ)と別れる場所まで来た。
「ではまた。尾内(オウチ)先輩、伊織先輩、お疲れ様でした!
今日はありがとうございました!」
「うん…お疲れ、ん?いや、汐田は」
「お疲れー」
ルビアに手を振る伊織。ルビアも笑顔で伊織と気恵(キエ)に手を振る。
ルビアが背を向けて歩き出す。少ししたらクルッっと振り返り
また伊織と気恵に手を振るルビア。もういいから。行け。という感じで手を振る伊織。
「じゃ。行くぞー」
と特に送ることについてはなにも言わず、気恵(キエ)の家の方向に歩く伊織。
「え。いいよいいよ。大丈夫だよ」
「景馬(ケイマ)ってあんな酒弱かったっけ」
無視して話をする伊織に、ぽっっとなる気恵(キエ)。
これはお酒。お酒であったかくなってるだけ
と言い聞かせる。
「ん?あ、ごめん。なんだっけ?」
「酔ってんの?」
「んふっ。ちょっと酔ってるかも」
「たしかに顔赤いもんな」
「え。そお?」
自分のほっぺを両手で触る気恵(キエ)。
「おん」
「で、なんだっけ?」
「景馬(ケイマ)。あんな酒弱かったっけ?」
「あぁ、明観(あみ)ね。歓迎会のとき覚えてない?」
「何年前だよ」
「4年?」
「覚えてないな」
そんな話をしながら伊織は気恵(キエ)を家の前まで送り届けた。
「んでさー?ワスベスワスベス」
「はいはい。予約ね。しましたよ」
「おぉ!!したか!よくやった!これで2人でできるな!」
ニコーッっと笑う明観(あみ)を見て
可愛いなこいつ
と思うがブンブンと頭を振る累愛(るあ)。
「どーしたー?」
「え?いや?楽しみだなーって」
「だなー。そう!そうなんよ!ワスベスの制作にはなんと!
なんと!ですよ!私の好きなゴッドリーダーの製作陣も加わってるんですよ!」
「あ、そうなん?知らんかった」
「私もー知らんかったんだけどーねー」
と笑う明観(あみ)。
「それ知ったときは狂喜乱舞したよねー」
「ポツッターが一時期とんでもないことになってたのはそれのせいか」
「そー」
そんな話をしていると明観の家の前に着いた。
「ほらーついたぞー」
「鍵ー。バッグん中ー」
「出せと?」
首が取れそうにコクンと頷く明観(あみ)。
「いいの?漁って」
「どっかー、ポケットの中あるはずー」
「じゃー。失礼しますー」
とバッグを覗く累愛(るあ)。ポーチがあったが
これは見ちゃいけないやつ。と思ってスルーし
バッグの内側のポケットの中を手探りで探す。
「こーれーか?」
バッグから手を抜き、手を広げる。
「おおぉーあーたーりー」
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「んじゃ。もう大丈夫ね?」
「大丈夫大丈夫。ん」
急に立ち直る明観(あみ)。
「ん?」
「ありがと、ね!」
ニカーという笑顔で掌を前に突き出し
某キャラクターの「んちゃ!」みたいなポーズをする明観(あみ)。ドキッっとする累愛(るあ)。
「お、おぉ。おぉ!任せておきなさい!」
「んふー。おやすみー」
「おやすみ」
フラフラと歩いていく明観(あみ)を心配そうに苦笑いで見守って
自分の帰路につく累愛(るあ)。
「おやすみ~おやすみ~」
と呟きながら帰った。
「んじゃ。また明日」
気恵(キエ)の家の前に着いた伊織と気恵。クルッっと振り返り、自分の家へと帰り出す伊織。
その後ろ姿を少しだけ見て
「あ。ありがとね!」
と夜ということもあり、周囲に配慮した大きな声で伊織に言う。
すると歩きながらクルッっと振り返り、胸の高さくらいで無言で手を挙げる伊織。
「また明日ね」
「また明日」
またクルッっと振り返り、家への道を歩き出す伊織。
嬉しさでニコニコしながらマンションのエントランスに入っていく気恵。
そんなこんなでルビアの歓迎会のあった1日は終わった。
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