The Worst to be the Best

結愛

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新しい世界への挑戦

第2話

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チュンチュンチュン。朝。屋根や街灯に留まる小鳥たちの囀りが聞こえる。
カーン!カーン!カーン!留まっていた小鳥たちが一斉に飛び立つ。
「起きろー!」
武器屋のおっちゃんがフライパンにおたまをぶつけて、騒々しい音を鳴らす。
「うるさっ!」
思わず耳を塞いで目を丸くして起きるヲノ。
「おぉ、そうか。おまえさんもいたか。忘れてた」
「忘れんなよ」
驚くことにそれでもグースカ寝ている大男。
「耳塞いでろ」
という武器屋のおっちゃん。言われた通り耳を塞ぐヲノ。
先程より力を込めて思いっきりフライパンにおたまをあてる。
その音でようやく薄目を開けるダイン。
「…ふぁ?」
「ふぁじゃねぇよ。ふぁじゃ。起きろ。朝だぞ」
「毎朝こんななのか?」
「そうだ。こいつはとにかく1回寝たら、なかなか起きねぇんだ」
そう言う武器屋のおっちゃんの手に持たれたフライパンは
信じられないほどボコボコに凹んでいた。
「…フライパンってそんな凹む?」
武器屋のおっちゃんはフライパンをまじまじと見て、今度はヲノの見てニヤッっと笑い
「ちなみにこれ、何回も裏返ってるからな」
もっと信じられない事実が告げられた。
「おっちゃん…おはよー…」
ベッドにギシギシと音を立てさせながら起きるダイン。
「2人とも歯磨いて顔洗ってこい」
とコンロに火をつけ、料理の準備をし始める武器屋のおっちゃん。
「そっか。歯…歯ブラシ持ってきてねぇや」
と言うヲノに顎でクイッっと洗面所のほうを指す武器屋のおっちゃん。
デカい図体でデカい鏡とデカい洗面所の前でダルそうに
眠そうに背中を丸めながら歯を磨くダイン。洗面台の上を見ると
大きな洗面台には似つかわしくない、小さなコップに小さな歯ブラシが入っていた。
武器屋のおっちゃんが準備してくれていたようだ。
「サンキューおっちゃん!」
と言うヲノ。聞こえているが、あえて返事をせず料理を続ける粋なおっちゃん。
丸いケースの蓋を取る。歯磨き粉が入っており、歯ブラシで歯磨き粉を掬い取って蓋を閉める。
ベーサーと呼ばれる種族、いわば至って普通の人間と
ムスコル族と呼ばれる筋肉隆々の大男が隣り合わせで洗面所で歯を磨くという奇妙な光景。
顔を洗って目が覚めたダイン。いい香りにさらに目が覚める。
「おら、朝メシだ」
どデカいテーブルに置かれたどデカいお皿。
そこには茶色の木のボウルに盛られた荒々しい料理。茶色のボウルに負けじと料理も茶色い。
「…」
ジーっとジト目で見るヲノ。
「どーした。ほら、座れよ」
武器屋のおっちゃんに促されイスに座る。
「んじゃ、いただきます!」
「いただーきーまーす!」
ダインが大声で言って、自分の取り皿に取ってバクバクと食べる。
「…」
「ヲノ、どーした?お前さんも食べな」
ヲノの前にもダインや武器屋のおっちゃんと同じ大きさの取り皿が置かれている。
「見てるだけで胃もたれすんだけど」
ヲノがいたメモトゲ家の朝食はトーストにハム、もしくはソーセージ。
もしくはコーンフレークに牛乳にヨーグルト。
茶色いお皿なんてなかったし、茶色い料理なんてほぼなかった。
「パンとかないの?」
「パン?」
「朝食はパンなんだよ。お米って…ニッポンジンじゃん」
ニッポンジンとはこの世界に存在する種族の1つで、手先が器用で軽い読心術が使えるが
筋肉のつきは悪く、筋力はあまりないという特徴がある。
それに加えて、農作を得意としており
料理に関してはニッポンジンの右に出る種族はいないと言われているほどの種族なのだ。
「いいから食ってみろ。この後マナトリアとの闘いの特訓なんだから、体力つけとけ」
と言われ、自分の胸の幅ほどある取り皿にちょこんと装う。
口に入りそうもない大きなスプーンで口に運ぶ。
「!」
目を見開くヲノ。
「美味しい」
「ふふーん。だろー?」
装った1杯は軽く食べられた。
「「「ご馳走様でした」」」
ヲノとダインは服を着替え、ダインはハンマーを担ぎ、ヲノはブレードを背負い
「じゃ、おっちゃん。ヲノの特訓行ってくるわ」
「おう!気ーつけろよー。オレもこの後店開けないとな」
「…いってくる」
とあまり城から出掛けたことのないヲノにとっては少し小っ恥ずかしいセリフだった。
「おう!」
クシャッっとした髭面のおっちゃんの笑顔。扉から外に出るため
おっちゃんに背を向け、おっちゃんに見られない角度になると口角が緩んだ。
ヲノとダインは前日スポーレとムガルルを狩った広場へ向かった。
広場に足を踏み入れると早速スポーレが相も変わらず
可愛く耳を足のように使って歩いていた。
「じゃ、今日はスポーレ10体な」
と言いながらドスンとハンマーを地面に置いて座り込むダイン。
ハンマーの周囲の地面はハンマーを下ろした勢いで凹んでいた。
「10?ヨユーだろ」
意気揚々なヲノ。
「はあ…はあ…はあ…」
ブレードを構え、息絶え絶えなヲノ。
「どーしたー。まだ2体倒しただけだろー」
「わっ…わかってる…ってーの…」
目を鋭く、赤く光らせたスポーレが逆立ち状態の足で攻撃してくる。
ヲノはブレードでガードする。グリップを握る手、ブレードの側面にあてた手に衝撃が伝わる。
「うっ…ぐっ…」
追撃がやってくる。
「こいつ…攻撃、はえーんだよ」
スポーレは表面的に傷付ける攻撃こそないが
体が小さく、耳を器用に使って繊細な移動をするため、攻撃を繰り出す速度が速い。
「ブレード使いなんだから、スポーレの速度なんて屁でもないくらいにならないと」
「わかっ…てるよっ!」
スポーレの足の攻撃をブレードでガードする。今までは体の前で片方はグリップを
もう片方の手はブレードの側面にあて、その衝撃を体全身で耐えていたが
今回はあえて体の前ではなく、体に左側にブレードの刃の部分を出し
ブレード刃でスポーレの攻撃を受ける。するとその攻撃の勢いでブレードは後ろに流れる。
「うらっ!」
その勢いを利用し、半回転し、ブレードの側面でボールを打つようにスポーレを叩いた。
スポーレはヲノの攻撃を喰らい体勢を崩したが、所詮ブレードの側面での攻撃。
スポーレはネックスプリングの要領で起き上がる。
「この技はっ…ヒットと…名付け…ようっ!」
ブレードで左下から右上に斬りあげる。スポーレは
「きゅうぅ~…」
という鳴き声を上げて息絶えた。
「ふう…」
「おぉ~。今のはなかなか良かったんじゃないか?」
「こいつはもういける気がするわ」
その言葉は本当だったらしく、その後7体を軽々
「…はあ…はあ…」
ではないが倒し切った。
「おぉ~」
大きく、分厚い手で拍手をするダイン。
「はあ…はあ…。あぁ~…疲れたぁ~…」
芝の上で大の字に寝転がるヲノ。
「お疲れ。スポーレ10体。…ま、そんな稼ぎにはならないけど」
ダインはスポーレの耳をロープで括り、ネックレスのように首から下げる。その様子を見て
「…蛮族か」
とツッコむヲノ。
「じゃ、オレは一旦コイツらを肉屋に卸してくる」
「ならオレも」
「いや、この後ムガルルを倒しに行く。ここで待ってろ」
「マジ!?」
「マジ。じゃ、ちょっと行ってくる」
「はいはい」
ダインは森の中へ消えていった。と思ったら
「そうだ、これ」
とダインが戻ってきた。首にスポーレのネックレスはない。
ダインがとあるものを投げてきた。キャッチする。手を開く。
「なんだこれ。…錆びた硬貨?」
銀色の硬貨だが錆びており「10」という数字が。
「錆びた10ワースコインだ。御守りとして持っとけ」
「御守り?これが?」
「いいから。ポケットしまっとけ」
疑問に思いながらもポケットにしまうヲノ。
「じゃ」
と言ってそそくさとまた森へ消えていったダイン。
「…なんだったんだ。はあ…」
しばらくしてダインが帰ってきた。
「ほれ」
またなにかを投げてきた。茶色い紙袋。
「…っと。今度はなんだ」
「?ま、開けてみな」
カシャカシャと紙の音をたてながら開ける。
「サンドウィッチ!」
肉肉しい肉だけが溢れんばかりに挟まったサンドイッチ。
「野菜ゼロ?」
「やひゃい?(野菜?)いりゃんりゃろ(いらんだろ)」
もぐもぐと食べながら喋るダイン。ジト目でそれを見るヲノ。
「…。あとこんな食えん」
長さはヲノの前腕ほど。太さはヲノの太ももほどある。
「ほうは?(そうか?)のほいあふっへやうああ(残りは食ってやるから)とりあえず食え」
ということで2人はお昼にした。ヲノもそのサンドイッチに食らいついた。
めちゃくちゃ美味しくて目が輝いた。
とはいえやはりそれだけの大きさは食べ切れず、残りはダインに食べてもらった。
「ふぅ~…」
「「ご馳走様でした」」
ヲノを見て笑顔になるダイン。満更でもない表情のヲノ。
「んじゃ、ちょっと奥行くぞ」
「お、おう」
「ムガルルだ。オレも闘うけど、特訓だからな。頑張ってみろ」
「お、おう」
と広場を進んでいると木の影からスポーレが出てきた。
ヲノはブレードを構え、闘う姿勢を取った。しかしダインはそのまま進み
「よっ」
っと言いながらハンマーを右下から真上に振り上げた。
キーン!という高音とゴーンという重低音が混じった音を響かせ
スポーレが空の太陽を隠した。そして降ってきた。ダインはスポーレの耳をナイスキャッチ!
「この奥だ。行くぞ」
と何事もなかったかのように木の間を縫って行く。
「…カッケェ」
ダインには聞こえないくらいの声が漏れた。ブレードを鞘にしまってダインの後をついていく。
「ここだ」
木々がなくなり、また広場に出た。
ヲノがまじまじと周りを見回していると向こう側の木の影からムガルルが現れた。
「おぉ。中型個体だな」
ハンマーを構えるダイン。それを見てヲノもブレードを構える。
ムガルルもヲノとダインを認識した。するとムガルルの立髪が逆立ち
今まで至って普通だった前足や胴、後ろ足の筋肉が急成長した。
「デカくねぇか?」
「だから言ったろ。こないだのは小さい個体だったって」
ムガルルが土埃をたてて走って近づいてくる。
「避けろ!」
「え?」
ムガルルがそのままヲノに体当たりをした。
そのあまりの勢いに吹っ飛んで、ゴロゴロ転がるヲノ。
「横っ腹ガラ空き!」
ガーン!とギーン!の間のような音が響く。
少し効いたらしく、ムガルルは鼻からフーと息を吐き出した。
ゆっくりとダインのほうに向くムガルル。
「いい面してやがる」
唇をピクピク振るわせ、剥き出しの牙は唾液で光っていた。
「殺意剥き出し」
「うらぁ~!!」
ヲノがブレードでムガルルの両後脚を斬る。しかし頑丈な筋肉で覆われた後ろ脚。
多少の傷はついたものの、足蹴にされるヲノ。
「ぐっ…」
腹を蹴られ、その場にうずくまる。
「よいしょおぉ~!」
チラッっとヲノのほうを向いたムガルルに隙を突いて
ダインは思い切りハンマーを振り上げ、ムガルルの脳天から振り下ろした。
地面が小さな隕石が衝突したように凹む。大きく土埃が舞う。
「ふぅ~」
討伐完了。
「気ぃ逸らすの、ナイスだったぞ」
ダインがヲノに近寄る。
「大丈夫か」
ダインが手を差し伸べる。
「…お、おう…」
ダインの影よりさらに大きな影に覆われるヲノ。
ダイン後ろには頭と目から血を流したムガルルがいた。
ヲノはブレードを片手に、差し伸べてくれたダインの手を足場にし
ダインの肩に上り、ダインの肩からジャンプして
「うぅーおぉ~おぉ~らぁ~!!」
とムガルルの脳天にブレードを突き刺した。ムガルルが倒れる。ムガルルの上に立つヲノ。
夕暮れになりかけて、日が森の木々の葉々の隙間から差し込む。
しかもそれがヲノの背後からであり、ダインからは逆光として見える。
「さ…サンキュー」
カッコよく決めたヲノ。ブレードをムガルルから抜く。
抜いた途端、ムガルルの脳天から血が吹き出し、ヲノの顔にかかる。
「…」
顔にかかった血を右手で拭い、掌を見る。赤黒い。
ヲノは疲れと緊張が解けたのと、血を見たショックで倒れた。
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