猫舌ということ。

結愛

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暑さの終わり

第169話

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なんでもない日が過ぎ、日曜日の夕方、外でスマホのトーク画面を眺める。

「日曜日お祭り行きませんか?」
「お祭り!いいですね!もしかして大宮七幡宮の?」
「おぉ。そうです。さすがに知ってますね。地元が近いだけあって」
「私も中学生のときとか高校生のとき行ってましたから」
「そうなんですね。じゃあ6時頃に鳥居の前でいいですか?」
「はい!わかりました!楽しみです!」
「僕も楽しみです!」
「じゃ、おやすみなさい!」
「おやすみなさい」



「おはようございます!今日ですね!」
「ですね!楽しみです」
「私も楽しみです!」
「今出ました!」
「わかりました」

お祭りの賑わいの横でニヤける。スマホの電源を落とし、ジーンズのポケットに入れる。
妃馬さんを待っていると白髪をお団子にして
かんざしを刺しているまるで女の子のような顔が目に入った。
きっと匠も音成とお祭りデートなのだろう。
別にダブルデートでも良かったが、なんとなく声をかけずにおいた。
もしかしたら鹿島もいるのでは?なんて思っていると
「お待たせしましたー」
と妃馬さんの声が聞こえる。振り返ると当たり前だが妃馬さんがいた。
「怜夢さん早くないです?」
「そんなことないー…と思いますけど」
「だってまだ6時になってないですし」
「そもそも6時「頃」なのでね」
「あぁ~」
「そういえばさっき匠いました」
「え!じゃあ恋ちゃんも?」
「来てると思います」
「バレないようにしなきゃ」
「やっぱり?」
「お?というと?」
「僕も匠に声かけないでおいたんですよ。
まあ4人で回っても全然良いとは思うんですけど、今回はそれぞれのほうがいいかな~って」
「さすがです。私も2人でがいいなって思ってたので」
ドキッっとした。夕暮れに照らされる妃馬さん。お祭りの賑わいで一際特別な時間に思えた。
「僕も、2人がよかった…かな?」
本音だが照れ臭かったので少し冗談のように言った。
「んふふ」
笑顔の妃馬さん。やっぱり照れる。鳥居の方を見ると先程も人がたくさんいたが
変わらない気もするが増えている気もした。なので
「手…繋ぎますか」
と手を差し出す。すると妃馬さんはどこか照れているような笑顔になって
「はいっ!」
と言って僕の手に手を重ねてくれた。
妃馬さんの白く小さく柔らかい、温かな手が僕の手を握る。僕も握り返す。
僕の緊張の汗なのか、少ししっとりしていた。鳥居をくぐり、賑わいの一員となる。
お祭りの笛やら太鼓の音がどこからともなく聞こえる。
女の子の中には浴衣の子も多く見かけられた。ちなみに妃馬さんは洋服だ。
たこ焼きの煙、焼きそばの煙、屋台の煙の香り
熱された鉄板の香り、焦げたソースの香り、人々の香水の香り、汗の香り。ザ お祭り。
屋台がずらっと並んだ道を妃馬さんの手を握り歩く。
スーパーボール掬いやヨーヨー掬い、金魚掬いもあった。
やりはしなかったがスーパーボール掬いでポイが破れてしまった少年や
ヨーヨー掬いで見事吊り上げて、バインバイン手にヨーヨーをあてて
喜んでいる浴衣姿の…高校生?くらいの女の子
丸メガネのとんでもなく金魚掬いが上手い女の子を見ていた。
途中でわたあめ、たこ焼き、ベビーカステラを買って階段を上り切った。
階段を上り切った社の前の広場ではちょうどお神輿が出ているところだった。
さすがにベンチはカップルやら浴衣姿の友達同士?の女の子などで完全に埋まっていたので
神社の出入口の辺りのガードレールのパイプ版、ガードパイプに2人で腰掛ける。
とりあえずまずはわたあめを食べる。割り箸に巻き付けてあるわたあめ。ひさしぶりに持った。
雲に顔を埋めるようにかぶりつく。鼻がベトベトになりそうと思いながらも
わたあめの軽さ、美味しさ、口の中で溶けて塊になる感じもひさしぶりに味わった。
きっとまだ僕たちにはたこ焼きは熱いだろうからということでお次はベビーカステラを食べた。
「いいですね。やっぱ大宮七幡宮」
「ですね。妃馬さんはー…高校生以来?」
「そう…です…ね…」
「すいません。モグモグタイムに」
「モグモグ…タイムって…動物園のモルモットじゃないんですから」
「的確な例え」
「高校…3年…行ったかな?勉強…してたしなぁ~」
「僕はぁ~…どうだったかな。…高3…勉強はしてたなぁ~」
「してたんですかー?」
「してましたよ。自分で言うのもなんですけどまあまあしてましたよ?」
「あ、そうなんですか?」
「高3でしょ?それこそ大学受験のために頑張ってたー気がします」
「気がします?」
「いや!してましたよ?してたんですけどそんな真面目だったか…って考えると…」
「真面目にはしてなかった?」
「んん~…9月頃はまだそんな真面目にはしてなかったかなーって」
「私も9月頃はまだそんな真面目に勉強してなかったですよ?」
「ほんとですか?妃馬さんいつも真面目に勉強してそうだけど」
「んん~…どうだろ。フィンちゃんと授業中LIMEしてたりしたしなぁ~」
「あ、そうなんですね。意外」
「手紙回したり」
「あぁ!うちの高校の女子もやってましたそれ」
「うち女子校だったんで1日に何通も回ってましたよ」
懐かしトークで盛り上がり、あっという間にベビーカステラは消え去った。
わたあめとベビーカステラをゆっくり話しながら食べていたので
まあまあお腹は膨れていたがお次に待っているのはたこ焼き。
猫舌の僕たちにはちょうど良い温度になっていた。爪楊枝は1本。交互に食べた。
「だいぶお腹がパンパンに」
「それ。ベビーカステラが幅利かせてる」
「それ!」
2人でお腹をパンパンと叩きながらもお互い最後の1つを食べ終えた。
ちゃんとゴミはゴミ箱に捨て、また屋台を見て回った。そのときにソラオーラや
サイダーの中に「ラムネ」の文字を見て、喉が渇いてきたので2人ともラムネを買った。
先程のガードパイプのところに戻りラムネを開けた。ポンッ!カラン。
「おっ…おぉ!いったー。溢れなかったー」
次は妃馬さんの番。ポンッ!カラン。
「お?あぁ!あーあーあー…」
飲み口からラムネが溢れ出した。
「あーあーあー…」
妃馬さんがバッグからなにかを出そうとしていたので妃馬さんのラムネを持った。
「あ、ありがとうございます」
妃馬さんがバッグから恐らくティッシュかハンカチを探している。
妃馬さんのラムネと僕のラムネを入れ替える。ティッシュを取り出し手を拭いている。
「あ、1枚貰っていいですか?」
「あ、はい。…どーぞー」
妃馬さんからティッシュを1枚貰う。これは後で手を拭くためだ。
手を拭き終えたであろう妃馬さんにラムネを差し出す。
「あ、ありがとうございます」
妃馬さんがラムネを受け取る。
「あ、拭いてくれたんですか?」
と驚きと嬉しそうな顔が混じったような表情の妃馬さん。
本当は開けるのが成功した僕のラムネと
びちゃびちゃな妃馬さんのラムネを取り替えただけだが
「はい」
と言った。
「ありがとうございます!」
笑顔の妃馬さんと
「乾杯」
「かんぱーい」
カキンッ!涼しい音が響く。
あまり手を濡らしたくないので人差し指、中指、親指の3本の指の腹で支え、飲む。
冷やしたラムネの冷たさ、涼しい味がして景色は夜。
提灯の赤く優しい灯り、屋台を照らすための明かりなどが
東京の都会の繁華街の明るさとはまた違う、優しくも賑わっている雰囲気を醸し出している。
ザ お祭り、ザ 夏、ザ 青春を感じる。たまにビー玉が邪魔をして飲めなかったりした。
ラムネの瓶を捨て、ゴミ箱前で指をティッシュで拭き
それもちゃんと燃えるゴミのほうに捨てた。
帰りましょうか。ということで2人で帰り道を歩き始めた。まだ帰る人が少ないのか
ただただ僕たち2人が帰る道にたまたま人がいないのか
夜の街灯に照らされた住宅街の道を2人だけで歩く。
「お祭り良かったですね」
「良かったです。夏感もすごかったですし、青春感もすごかった」
「青春感…たしかに」
すると妃馬さんの手が僕の手に触れたかと思うとぎゅっと握ってきた。
引っ張られるように手が上がり
「青春感」
とどこか照れくさそうな笑顔で言ってきた。ドキドキせずにはいられなかった。
僕も妃馬さんの手を握り返し
「たしかに」
とだけ言った。その後も妃馬さんの家に着くまで
なんでもない話で笑いながら手を繋いでいた。
妃馬さんを家まで送り届けて、自分の家に帰るまで
手を繋いでいたほうの手を無駄に握ったりしていた。
家に帰り、夜ご飯を食べ終えていた父と母、妹はどうやらお祭りに行っているらしく母に
「会わなかった?」
と言われビックリした。母がお風呂に入り、次に父。
僕がリビングからお風呂に行くときにちょうど玄関のドアが開いて妹が帰ってきた。
お風呂に入り出るとちょうど妹が階段から下りてきていた。
妹はお風呂に僕はリビングへ行き、自分のグラスに氷と四ツ葉サイダーを入れ
氷が少し溶けて、グラス内でカランッという音に
なぜかラムネを思い出してニヤけてしまったりした。父と母に「おやすみ」と言い部屋に戻る。
ベッドに座り、ポケットからスマホを取り出し、画面を点ける。

「今日楽しかったです!またデート連れてってくださいね!」

妃馬さんからの通知に撃たれたようにスマホを胸にあてながらベッドに倒れる。
スマホを掲げた状態で妃馬さんからの通知をタップし
妃馬さんとのトーク画面に行って返信を打ち込む。

「僕も楽しかったです!夏ももう終わりですしー。次はどこ行きましょうね」

送信ボタンをタップしようとしたときにバタン!
「お兄ちゃん!」
扉の開いた音、妹の声にビックリして、スマホを落とし、顔面に直撃した。
「痛っ…たぁ~。あぁ、鼻折れた」
スマホの側面が直撃した鼻を触る。
「あぁ、ごめんごめん」
妹が部屋に入ってきてローテーブルを挟んで向かいに座る。
「なんだよ。なに怒ってんの」
「え、怒ってないけど?」
「じゃあなんだよあの勢い。…あぁ、鼻血、出てないか」
「出てない出てない」
「で、なに」
「お兄ちゃん今日お祭り行ってたんでしょ?」
「あぁ、夢香も行ってたらしいな」
「そそ。友達と遊んでそのままお祭り行ってきた」
「で?それがどうした?」
「妃馬さんと行ったの?」
妹がすごくおもしろそうにローテーブルに肘をつき、前のめりになって聞いてきた。
「まあ…そうね?」
「告った?告った?」
なるほど。お祭りに男女で行ったらだいたいそういう話になるか。と思った。
「さあね?どうでしょー」
惚けながらスマホを広い、送信ボタンを押す。
「あ、告ったな?で、どうだった?成功?失敗?」
「まず告ったって言ってねぇだろ」
「んん~…お兄ちゃんのその顔…成功したな」
「なんでだよ」
「あ!図星!?」
「さあ?でもなんで成功だと思ったの?」
「いや、お兄ちゃんもしフラれたら露骨に顔に出そうじゃん?」
「そー…かな?」
自分の頬を左手の人差し指と親指で両サイドからつまんでむにゅむにゅしてみる。
「うん。で!?で!?」
「言いません」
「んだよー。つまんないなー」
「あ。夢香が万が一にでも告白でもされたらちゃんと言えよ?
兄としてどんなやつか知っとかないとだから」
「言わんわ。お兄ちゃんも言わないんだからいいじゃん」
「オレは良くても夢香はダメ。ゴミみたいな男と付き合う可能性だってあるだろ」
「ちゃんとしてますー」
「どうだか」
そんな話をして
「じゃ、おやすみ」
「はいはい。おやすみー」
と言って妹が部屋を出ていった。
その後テレビを見て妃馬さんからのLIMEがあったらホーム画面で確認して
メッセージが来たのがついさっきなら少し時間を空けて返事をしたりした。
テレビを消し、部屋の電気を消し、タオルケットをかけて眠ろうとした。
暗い部屋、静かな空間。お祭りのあれこれを思い出し
心臓がだんだん高鳴っていくのがわかった。
目を瞑ると瞼の裏がスクリーンのようになって
お祭りの様子や妃馬さんの笑顔などが映し出されている気がした。
うるさい心臓を落ち着かせるように深呼吸を繰り返す。
自分の部屋の香りと夜の香りが鼻から肺に入り込む。口元がニヤけているのがわかった。
深呼吸を繰り返しているうちにいつの間にか眠りに落ちていた。
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