猫舌ということ。

結愛

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旅の始まり、旅の終わり

第164話

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ボヤァ~っと目を開ける。肩には妃馬さんの頭があり、窓の外を見るとまだ高速道路だった。
渋滞しているのかなかなか進まない。
「んんんん~♫んんん~んん~♫」
鹿島の鼻歌が聞こえる。
「んんん~んん~んん~んん~♫」
森本さんの鼻歌も聞こえる。
「それってなんかのゲームの主題歌?」
匠の声。
「そうそう。ワスベスの主題歌。最っっ高にクールよ」
「Cassos take ALLね」
「あぁ、The Worst to be the Bestだっけ?なんかMyPipeでも賑わってるよね」
「そうそう。NSSPさんも実況、たしか発売日深夜かな?
ダウンロード版は予約者限定だけど、日付変わった瞬間にできるようになるから
0時1秒越えた瞬間に生配信してたよ」
「見た見た。ああいう配信って、大概さっくんのレベル上げだったりして
まろあさんがめっちゃレベル高かったりするけど
発売された瞬間だったから珍しく全員同じレベルからだったね」
「たしかにね。でもどうせ裏でレベル上げして
まろあさんが1番レベル高くなるのが目に見えてわかる」
「わかるわかる。でさっくんが1番レベル低くてね」
「で、どうなん?実際プレイしてみて」
「ワスベス?劇的に最高。ね、ふー」
「うん。マジで時間忘れてプレイできる。お陰で他のゲーム最近やってないわ」
「わかるわかる。トップ オブ レジェンズ腕鈍ってるかもなぁ~。エイムボロボロな気がする」
「そんなおもしろいんだ?まあ、実況動画見てるだけでおもしろそうだったけど」
「あ、そういえばENINSHOWさんもやってたね。生配信。見てないけど」
「見てないんかーい」
「いや、それこそ同時刻だったからさ、NSSPさんと」
「なるほどね。ちなみにENINSHOWはキャラクリに時間かけるで有名だから。
今回もキャラクリに1時間くらいかけてた」
「1時間!?キャラクリで!?まぁ、ワスベスキャラクリすごいからなぁ~」
「すごいとは?」
「いや、たしかに時間かかるよなって。
それこそ写真からその人に似たキャラを自動で作ってくれたり
2次元の写真でもそのキャラに似たキャラ作ってくれたり
3Dっぽいリアル路線の、それこそモンナンみたいなキャラでもいけるし
2次元のアニメっぽいキャラも作れるのよ」
「うわぁ~…それは…時間かかるな」
「そうそう。え、でも毎回?ENINSHOWさんって毎回そんな1時間とかかけてキャラ作るの?」
「そうそう。キャラクリからのときは大概配信の最初の1時間くらいはキャラクリ。
めっちゃ変なキャラ作るのよ毎回」
「あぁ~。なるほどね。変なキャラ作りか。さすがは実況者ってとこか。
いやそれはNSSPさんも同じ…か?…あ、いや違うか。
さっくんは割と変なキャラ作るけど。モンナンのときとか」
「あぁ、青ダコね」
「そうそう。てかなっさんも見てんだよね?NSSPさん」
「見てるよー」
「じゃあふーだけか。見てないの」
「私だけじゃないですーサキちゃんと暑ノ井さんもですー」
「今2人は寝てますー」
すると音成がシートとシートの間から顔を出す。目が合う。
「おぉ、おはよう」
音成が小声で言う。
「おはよう」
小声で返す。
「妃馬さんは?やっぱまだ寝てる?」
コクコクと頷く音成。顔を引っ込めるとそこから今度は匠が顔を覗かせる。
「おぉおはよ」
「おはよ」
「もう少しでサービスエリアよ」
「あ、そうなんね」
「スッゲェ渋滞でなかなか進まんけど」
そんな話をし、前4人の話を目を瞑って聞いていると
左に曲がる感覚、慣性の法則で体が右側に寄る。
その感覚で目が覚めたのか、フッっと肩から重さが消える。
「ん…おはようございます…」
「おはようございます。サービスエリアつきましたよ」
「サービスエリア…そっか」
「空ーいーてーるーかーなー」
鹿島がそう言いながら車を走らせる。駐車場を練り走り
ちょうど出る車が見えたので少し待ち、その出たところに入った。
「とりあえず一旦休けー!」
全員で車を出る。とりあえずまずはトイレへ行き
男子陣は早く終わり、トイレ前の少し開けたところで女子陣を待つ。
そして行きと同じように妃馬さんと僕以外の4人はお昼ご飯へ行き
妃馬さんと僕はお土産屋さんを回ったりして最終的にはアイスに行き着いた。
81という有名なアイスのお店があり、そこで注文することにした。
僕はオレンジ味とヨーグルト味のダブルを頼んだ。店員さんから受け取る。カップにした。
妃馬さんもカップにしたようで店員さんから受け取った。
人通りが少なく、でも陽差しを凌げる場所へ移動した。
「「いただきます」」
プラスチックのスプーンを使ってまずはオレンジ味を食べる。
滑らかな口触りにオレンジの濃い味に香りが広がる。
「なににしたんですか?」
白いプラスチックのスプーンをちょうど口から出した妃馬さんが聞いてくる。
「僕はオレンジとヨーグルトです」
「一口」
その顔が可愛かった。
「どうぞ」
カップを差し出す。妃馬さんがスプーンで少し掬い、まずはオレンジ味のアイスを食べる。
「んー!んーんー!」
プラスチックのスプーンを入れたまま喋っているので「ん」でしか聞こえないが
恐らく「美味しい」と言っているのだろう。
次はヨーグルト味にスプーンを入れる。そして口へ運ぶ。
「んん!んんんん!」
恐らく「うんうん」と言っている。なぜなら頷いているから。
「妃馬さんは?なににしたんですか?」
「桃と苺です」
「貰っても?」
「もちろん」
そう言ってカップを差し出す妃馬さん。プラスチックのスプーンで少し掬う。口に入れる。
苺の果実が入っていて、自然な苺の香りと少し人工的な苺の香りが混ざり
自然と人工的なものの良いとこ取り。次は桃をいただく。自然の桃よりも味も香りも濃く
ジェラートのような、アイスよりも氷感があり、しかしシャーベットよりも滑らかな舌触り。
そのままプラスチックのスプーンを咥えたまま
無言で親指を立てて「GOOD」サインを妃馬さんに出す。
妃馬さんも笑顔でプラスチックのスプーンを咥えて
僕と同じように親指を立てて「GOOD」サインを出してくれる。可愛い。カチッ。と音がする。
「噛みすぎた」
妃馬さんが笑顔でプラスチックのスプーンをカチカチ噛む。
「その音か」
2人で笑う。
「やっぱあれですか?溶けて混ざっても大丈夫なような組み合わせにしたんですか?」
「おぉ~さすが怜夢さん。もしかして?」
「ですよ。僕も溶けても美味しい組み合わせにしました」
「オレンジヨーグルト」
「ですです。ジャムみたいな感じ?」
「私はぁ~ストロベリーピーチスムージー?」
「健康に良さそう」
「激甘ですけどね」
「じゃ、健康的ではないか」
「ですね」
2人で笑う。妃馬さんと僕が食べ終えると他の4人が昼ご飯を食べ終え合流して
その4人もアイスを買って、妃馬さんは音成や森本さんの
僕は鹿島や匠のアイスを貰いながら食べ終えるのを待って
自動販売機で飲み物を買って車に戻った。
そこからは森本さんの運転となり、妃馬さんと僕は酔いとの戦いが始まる。
妃馬さんの枕と化した肩に重さが加わる。
前のシート4人は妃馬さんと僕に気を遣って、声を抑え気味になぞなぞを始めた。
走ったり止まったり。あぁ、帰省の帰省ラッシュで渋滞してるんだな。
そう思っているといつの間にか眠っていた。
起きたときにはもう高速道路を出て一般道を走っていた。
一般道ではさすがに軽やかに走っていた。
まだ着かなそうだったので眠ろうとしたが結局車が完全に止まるまで眠ることはできなかった。
「とぉ~ちゃぁ~く」
森本さんの声がする。どうやら音成も匠も寝ていたらしく
「んん~」
という声が聞こえる。隣の妃馬さんも起きたらしく
「んん~」
と声が聞こえた。
「小野田さんどうすればいいですか?」
「ん。ん、あぁ、鍵鍵。あ、怜夢、オレのバッグ取って」
と言われたので後ろを振り返り、匠のリュックを取り、匠へ渡す。
かと思ったら車用の門が開く。
「とりあえず頭から入れてもらって。とりあえず」
「りょーかいです」
再び車が動き出す。
「じゃ、とりあえず降りますか」
と全員で車を降りた。匠邸に着いたのは16時7分。まだ空は明るかった。
門が開いたのがわかったのか、家から匠のお父さんが出てきた。
音成、妃馬さん、森本さん、僕は家が近いので
鹿島だけ匠のお父さんが家まで送ってくれることになった。
運転席に匠のお父さん、後ろに鹿島と匠が乗って
「じゃ!またね」
と鹿島が窓を開けて言うので
「またねぇ~」
「またぁ~」
などみんなで言った後に匠のお父さんに
「ありがとうございました」
とみんな各々で言った。匠のお父さんは
「みんな無事帰ってきて良かったよ。楽しかった?」
などの話をした後に車に手を振る。
「疲れてるだろうし、いいですよ」と言われたがいつものように音成と妃馬さんを家まで送る。
音成を家まで送り、手を振り、音成が家に帰っていく。ほんの少しの距離を妃馬さんと帰る。
そしてあっという間に根津家の入っているマンションのエントランス前に着く。
「楽しかったぁ~」
「ですね。またみんなで行きたい」
「ですね」
無言になる。空はオレンジ色に染まっていた。
「じゃ、またLIMEします」
「はい。私のほうが先にLIMEするかも」
「どっちが先ですかね」
「どっちかな?」
その妃馬さんの顔が可愛かった。ドキッっとした。
「じゃ、また。あとでLIMEでも」
と手を挙げる。
「はい。また。あとでLIMEで」
妃馬さんも手を挙げる。するとその手を僕の掌に合わせてギュッっと握ってきた。
ドキッっとした。が僕もそれに応えるように指を折り
妃馬さんの白く小さく柔らかな手を包み込む。
「じゃ」
と少し照れくさそうな妃馬さん。
「じゃ」
僕も照れくさい。しばらく無言で手を握り合い、ほぼ同じタイミングで手を開き
ハイタッチのように1回、パンッっと掌をあて、手を振り駅へと歩き出した。
曲がり角を曲がり、スマホで音楽を聴こうと思った。右の掌を見る。きっと自分の体温だろう。
でもどこかまだ妃馬さんの温かさが残っている気がした。
スマホを取り出し、ホームボタンを押す。すると妃馬さんからLIMEが来ていた。

「私のほうが先でしたー(´꒳`*)どやあああ」

可愛くて思わず笑みが溢れる。
その通知をタップして、トーク画面に飛び、返信を打ち込む。

「くそ~!今送ろうと思ってたのにw負けた」

送信ボタンをタップする。トーク画面に僕のメッセージが反映されたのを見てから
最近使用したアプリ一覧を開いて音楽アプリを開く。
スマホにイヤホンを差し、耳にも入れる。
「お気に入り」のプレイリストをシャッフル再生して、駅までを歩き出す。
たった3日、たった3日しか離れていないのにひさしぶりに感じた。
改札もひさしぶり、ホームもひさしぶり
暖かな風を引き連れてホームへ入ってくる電車もひさしぶり、電車に乗るのもひさしぶり
自分の家の最寄り駅もひさしぶり、自分の家に帰る道もひさしぶりな気がした。
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