猫舌ということ。

結愛

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旅の始まり、旅の終わり

第163話

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ボヤァ~っと目覚める。相変わらず鹿島と匠はまだ気持ち良さそうに眠っていた。
匠は掛け布団を抱き枕のように抱きしめながら寝ており
鹿島に至ってはもうすぐベッドから落ちそうになっていた。そんな2人を起こす。
鹿島は起こした瞬間ベッドから落ちた。その後なぜかベランダで歯を磨いて
各々歯を磨き終えたタイミングで口を濯いで顔を洗った。
その後女子陣と部屋前の廊下で待ち合わせをして朝ご飯を食べに行った。
全員が全員パンの朝食だった。しかし種類はバラバラでクロワッサンの人もいれば
1/4にカットされた食パンの人もラスクの人もバターロールの人もいた。
大概みんな2種類くらいを取っていた。
誰とは言わないがいろんな種類を取ってバクバク食べている人もいた。
食事を終え、部屋に戻る。部屋に戻ると鹿島がまたお風呂を作り始める。
もう聞かなくてもわかる。匠も僕も無言で乗っかる。
またお風呂が出来上がるまで「キャサリンジテン」をプレイする。
みんなまだ慣れておらず、カタカナ語を言いかけたりして
「今のあり?」とか「はいー今もうモニターって言おうとしたの丸分かりでしたー」とか
ワイワイ楽しんでるうちにお風呂が出来た。
「キャサリンジテン」のポイント順に入ることにした。匠が最初に入る。
ベランダで過ごそうとしたが、朝とはいえ真夏。
厳しい陽射しが今の僕たちにはガード不可の攻撃だったので
大人しくヒール魔法「クーラー」の効いた部屋でテレビを見ていることにした。
匠が出て、次に僕が入る。夜に入るのとはまた印象が違く
もちろん空も明るいし、朝と夜で空気の香りも違う。
違うのは当たり前なのだが、違うことに少し感動しながらお湯に浸かる。
さすがは鹿島。温度は低めにしてくれており肩まで浸かれた。
肩まで浸かると浴槽からお湯が溢れ出し、洗い場にお湯が落ちる音が響く。
その音を聞きながら今日もいい天気だと空を眺める。一度ベランダに出る。
お湯でコーティングされているためか、厳しい真夏の陽射しは少し軽減されている。
スライドドアを開き
「鹿島ーこーたーい」
と鹿島にバトンタッチする。匠にバスタオルを投げてもらい、ベランダで水気を拭き取る。
さすがにお湯のコーティングが無くなると厳しい真夏の陽射しの攻撃で肌が焼ける感覚がある。
すぐにクーラーの効いた部屋に戻る。
もう11時にチェックアウトなのになぜか名残惜しくてもう一度浴衣を着た。
その後ベッドに座りながらテレビを見てゆっくりし、名残惜しいが浴衣から私服に着替える。
その後まだ少し時間があったので女子陣を部屋に呼んで
ボードゲームでもとも思ったのだが、呼びに行った鹿島が帰ってくると
「ダメだった。帰る準備してるって」
と胸の前で腕でバツマークを作っていた。
「あぁ、メイクとかかな」
「なーるほど」
ということで男子3人だけでまた「キャサリンジテン」をすることにした。
しばらくするとノックが聞こえ、女子陣が部屋に入ってきて、11時前には全員で部屋を出た。
匠がチェックアウトの手続きをしてくれて、僕たちはソファーに座って待った。
匠が帰ってくると
「お土産買う?」
と言ったので全員でお土産コーナーに行った。
お土産コーナーには珍しくフクロウのグッズがたくさんあった。
フクロウのグッズが珍しく「フクロウ」だけに目がいっていたが、フクロウの隣には猫がいた。
フクロウと猫。妃馬さんを探した。妃馬さんも僕を探していたのか目が合う。
お互いがお互いに近寄り
「ね」
「ね」
と言葉はそれだけだったが妃馬さんも嬉しそうだった。
「もしかしたら」という思い、そこそこな広さのお土産コーナーを妃馬さんと回る。
するとずっと探していたのものがそこにはあった。
「「あった」」
妃馬さんと顔を見合わせる。妃馬さんの顔がパッっと笑顔に変わる。
フクロウと猫が寄り添い眠っているスマホケース。

でもなぜ?

そう思いお土産を見ている匠に
「ねえねえ、なんでここフクロウと猫のお土産多いん?」
と聞いてみた。すると匠がパッっと手を上げる。
すると受付カウンターほうから着物の女性が小走りでこちらへ向かってくる。
「小野田様どうかされましたか?」
そうやら顔見知りのようだ。
「こちら、このホテルの女将さん」
「どうも。こちらのホテル「フクネ」のオーナーの妻で
女将?になるんでしょうか。をしております」
「あ、どうも。お世話になりました」
「いえ。こちらこそ当ホテルをご利用いただき、誠にありがとうございました」
「で?なんだっけ。あぁ、そうか
なんでこのホテルのお土産フクロウと猫が多いのか知りたいそうです」
「あ、なるほど。では軽く説明させていただきます。
当ホテル「フクネ」は創業130年を越えます。
ありがたいことに古くから多くの方に愛されてきた当ホテルですが
当ホテルの名前「フクネ」、当ホテルをまだ建設する前、名前を決める前
名前決めようとこの辺りを歩いているとフクロウの目が光ったのが見えたそうで
さらにそのフクロウの留まっている木の根元で猫の親子が眠っていたそうです。
それを見た創業者が「福(フクロウ)に見守られながら安心して(猫のように)寝られるように」
「福が眠る当ホテルで幸福を持って帰っていただけるように」
「猫の親子のように喧嘩していた者同士でも当ホテルでは仲良く戻れるように」
そんな思いを込めて「福が眠るところ」「フクネ」という名前になりまして
フクロウと猫のお土産が多いという形になります」
とすごく素敵な話を聞かせてもらった。
妃馬さんと匠と僕で聞いていたのに最終的には全員で聞いていた。
「素敵なお話ですね」
「ありがとうございます」
「ね、素敵」
「ありがとうございます」
その良い話を聞いた後、それぞれお土産を買った。もちろんそのスマホケースも買った。
お土産の入ったビニール袋や紙袋に、それぞれのバッグ、キャリーバッグだったり
リュックだったりを持って先程の着物の女将さんにもう一度
「お世話になりました」と挨拶をしてホテルを出た。駐車場で車に荷物を入れ
車に乗るというのは少し嫌で深呼吸をしてから乗り込んだ。
運転席、助手席、その後ろに2シートあって、さらにその後ろに2シートある。
真ん中のスライドドアから車内に入り、一番後ろのシートに入る。
てっきり来るときと同じだと思ったが
「よっ、っと」
と言いながら真ん中のシートを縫って妃馬さんが隣に来た。
「え、妃馬さん?」
「はい」
「あ、…あぁ」
「なんですか、その反応」
「いや、匠だと思ってたので」
「嫌ですか?」

そんなわけない

「そんなわけないじゃないですか」
妃馬さんがニコッっと笑う。隣のシートに座る。
「でも前のシートのほうが寝やすそうじゃなかったですか?」
「まあぁ~…寝やすかったですね」
「…あぁ、なるほど?そーゆーこと?」
「どーゆーこと?」
「いや、妃馬さんのことだから、音成と匠がもっさんと鹿島たちと話せるように…とか?」
「正解!」
「やっぱり」
「さすがです」
「いや、妃馬さんがね?」
2人で顔を見合わせて笑った。
「なら出発しまーす!」
「おなしゃーす」
「頼んだ!」
「レッツ」
「「ゴー!」」
と車が発車した。妃馬さんと僕は車に酔わないように眠ることにした。
目を瞑る。車の振動、革のシートの香り。
「せっかくだしこの後少し寄り道してから帰ろうか」
「いいね!」
「じゃ、とりあえず走ってるから調べてぇ~」
「「はぁ~い」」
という音成、森本さん、鹿島、匠の会話が聞こえる。

寄り道か。寄り道…どこだろ

と考えていると肩に重さが加わったのと同時にふわっとシャンプーのいい香りが鼻に届いた。
うすぅーく目を開け肩の方を見ると妃馬さんの頭があった。
心臓が速く動き出す。目を瞑る。車の振動、革のシートの香り。
そこに妃馬さんの髪の香りと自分の心臓の音が加わる。
妃馬さんの髪の香りのお陰で酔わないかな?なんてことも思ったが
酔いそうだったので寝ることにした。



「サキちゃん、サキちゃん」
妃馬さんを呼ぶ声で目を覚ます。妃馬さんも起きたようで僕の肩から重さがふっと無くなる。
「ん…ん?」
「ついたよー」
「どこに?」
「ん?山」
「山?」
「山?」
「あいじょう岬です」
「あいじょう岬?」
車を降りて、ロープウェイ乗り場まで歩く。
「私とたっくんのこれからを願って」
「音成ってほんと匠絡むとIQ5くらいになるよな」
「誰がIQ5だよ」
脛に鋭くも重い衝撃が走る。
「いっ…てぇな」
「ひさしぶりでしょ?この感じ」
「うんーひさしぶりーでも全っ然嬉しくない」
「うふふぅ~」
「うふふぅ~」
ロープウェイの往復のチケットを買い、ロープウェイに乗り込む。
その「あいじょう岬」があるからか、カップルだったり夫婦が多かった。
屋根の方からレールを巻く?モーター音がし
微々たる揺れがこのロープウェイというものでしか味わえないと思い
新鮮で少しワクワクし、どこか少し嬉しさもあった。
開いた扉から外に出て、まずはカフェに寄った。海を見渡せるテラスで全員で一休みをする。
それぞれソフトクリームだったり、アイスコーヒーなどを片手に席につく。
「めっちゃ可愛い!」
女子陣は揃って「あいじょうソフト」なるものを頼んでいた。
透明なプラスチックのカップにソフトクリームが入っていて
ソフトクリームの渦巻きの終点のぴょろんとなった部分に
ハート型のチョコレートが飾ってあった。
「写真撮ろ写真!」
女子陣は3つのソフトクリームを逆三角形に並べて写真を撮っていた。
僕たち男子陣はそれを眺めながらソフトクリームを食べていた。
少しシャリっとするような、滑らかなソフトクリームもいいが
こういったシェイクのもっと固形版のようなソフトクリームもいいなと思った。
紅茶を飲みながらソフトクリームを食べる。たまに鹿島のカフェラテを貰い
匠もたまに鹿島のカフェラテを貰ったり、音成のキャラメルラテを貰ったりしていた。
男子陣全員違う味のソフトクリームを買っていたので、男子陣で分け合ったり
音成、森本さん、妃馬さんたちも男子陣全員のソフトクリームを一口食べたりした。
各自頼んだものを食べ終え、飲み終え、そのカフェで買った絵馬にそれぞれ願い事を書いた。
「見られんの恥ずかしいなぁ~」
「それ僕もですよ?」
絵馬にはそれぞれカップルや夫婦が絵馬の右半分と左半分にわけて
1枚の絵馬に一緒に書いて結ぶというのが多いらしい。
なので僕たち6人もそれぞれカップルで1枚の絵馬に書くことにした。
ネームペンが絵馬にインクを落とす少し引っかかるような感覚
キュッキュッっという音がする。この感覚がひさしぶりで少し嬉しい。
高校生のとき、教科書や提出用のノートに名前を書いていた以来。

8月26日。
ありがたいことに付き合うことができました。
来年でも再来年でもまた思い出の花火大会を見られるように、この先も2人で思い出を作り
幸せを貰い、幸せを返せるようにしていきます。

ネームペンのキャップを閉める。
「ん?ありがたいことに」
「読んでる。ん?なに?告白してもらって?」
「あーダメでーす」
そう言って妃馬さんが両手で自分が書いているほうを隠す。
「自分が最初に見てきたくせに」
「えぇ~っと?ありがたいことに」
「ダメでーす。自分だけ読むのはズルいでーす」
僕も両手で自分のほうを隠す。
「えー」
「えーじゃない」
いい天気で、夏の陽差しが海に反射してキラキラ輝いていて
横には「えー」と少し不満そうな彼女の顔。青春を感じた。
2人でたくさん絵馬が結ばれているところにいって2人で結んだ。
音成匠カップルも森本さん鹿島カップルも書き終え、結んだ。
その後テラスで昨日遊んだ海を眺めたり、僕は妃馬さんとカップルで一緒に写真を撮ったり
他の人に頼んで6人でも写真を撮ってもらった。
そのテラスの他にも日本の「性」をテーマとした博物館があったのだが
なんとなくやめておいた。往復のチケットでまた帰りのロープウェイに乗って下りる。
ロープウェイを降り、車を停めてある駐車場まで歩く。またこれから酔いとの闘い。
一番後ろのシートで妃馬さんと隣り合わせで座る。
「名残惜しいけど帰りますか」
「はーい」
「あーい」
「ほんならしゅっぱーつ!」
「「おー!」」
静かにエンジンがかかり、ゆっくりと動き出した。
また妃馬さんが僕の肩に頭を預けて寝始める。さすがにまだ慣れない。
心拍数が早く、鼓動が大きくなるのが手に取るようにわかる。
もしかしたら妃馬さんに聞こえてしまっているのではないか。
落ち着かせるように鼻から深呼吸をする。
「また帰りサービスエリア行く?」
「行くよー。そこでまたふーと交代してもらう」
「なるほどね」
「嫌だわ~帰り。高速のほうがよっぽど楽じゃん」
「それはそう」
「やっぱ違うの?東京と…は」
「違うねー」
「なにが違うの?」
「そうだなー。そもそも車が死ぬほど多い」
「あぁ~」
「あとあれもない?Over Eatsのチャリとかが怖い」
「あるある!わかる!」
「なるほどねぇ~」
「いや、ちゃんとしてる人はいいんですよ。でもたまにスマホ見ながら運転してたり
車の信号守らずに歩行者用信号が青だからってのでガン進みするチャリとかいるからさ
でも事故ったら車側が悪いわけだから、マジで勘弁してほしい」
「あぁ~これで勘弁してください。と偽札じゃありません。リアルな賄賂です。と」
「なにゆーてんねん」
そんな会話を聞きながら静かに眠りについた。
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