猫舌ということ。

結愛

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旅の始まり、旅の終わり

第157話

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「最後の時間差の花火。あれ打ち忘れがあって、それらしいよ」
「あ、そうなんだ。私あれが1番好きだったかも」
同じホテルに泊まった人も見ていたのだろう。ロビーでそんな話が聞こえてきた。
「最後の花火キレーだったな」
「どっち?あのどデカい花火?それとも花火大会終わったと思った後のやつ?」
「花火大会終わった後のやつ」
「わかるわかる。オレもあの花火すげー好き」
「色合いとか綺麗だったよね」
「黄色とピンクね」
「鮮やかな色ってやっぱいいよね」
「黄色は元気出る色だしね!」
「うん。京弥は黄色って感じ」
「そお?」
「うん。カレー好きそう」
「それ戦隊モノのイメージじゃね?」
女子陣は女子陣で、男子陣は男子陣で話をして部屋に戻った。
お風呂に行こうとしたがどうやら22時から24時まで
心霊番組がやっているということだったので
女子陣を呼んで男子陣の部屋で心霊番組を観ることにした。
投稿映像をランキング形式で紹介するもので、中には匠の家で見たものも含まれていて
女子陣は恐怖に慄いていたが
男子陣は怖かったものの、覚悟できていたので背筋がヒヤリとした程度で済んだ。
途中で芸人さんが心霊スポットでロケをして
リアクション芸人さんがバッチリと心霊現象をカメラに収めていて
もちろん怖かったのだが「さすがこの芸人さん、持ってるわ」というほうが強かった。
森本さんに至っては小さく拍手していた。部屋を明るくし、女子陣と別れ
フクロウのピアスの入っていた黒いケースに入れてきたファーストピアスと
フクロウのピアスを変え
浴衣と着替え用の下着のパンツとバスタオル、ボディータオルを持って大浴場に向かう。
大浴場から帰る浴衣姿の人と何人もとすれ違う。青の暖簾をくぐる。
着替える場所に行くといくつもの棚に籠が入っていて
その籠を見るとどうやら貸し切りのようだった。
時間も時間なのでこの時間から入ってくる人は少ないらしい。
全員服を脱ぎ、ボディータオルを持って、大浴場へと向かう。
スーっとモザイクガラスのスライドドアを開く。モワッっと暖かな蒸気が舞い込んでくる。
茶色というのか少し温かな色
でも暗く落ち着いた色のタイルが広がっており、まずは体と髪を洗うことにした。
プラスチックの桶にお湯を張り、ボディータオルを濡らす。
ボディーソープと書かれたボトルから2プッシュほどボディータオルに垂らし
ゴシュゴシュして泡立てる。
「いやぁ~花火大会良かったねぇ~」
「最高だった」
と言いながら告白の瞬間が頭にフラッシュバックする。
「どうだった?」
匠が聞いてくる。
「え、なにが?」
告白の瞬間を見られてたのか?と少し焦る。
「いや、怜ちゃんと妃馬さん2人にしてあげたのよ」
「そうそう」
そのことかと思う。
「あぁ~…。ありがとう?ありがとうか」
疑問に思ったが、結果付き合うことができたのでしっかりと感謝する。
「むふふぅ~ん」
鹿島が「どういたしまして」ばりの声を出す。
「で、どうだった?ハプニング花火もあって結構仲良くなれたんじゃない?」
「いや、まあ。元々仲良くはさせてもらってますので」
「そうだけど、なんてーの?最終日のための…なんつーの。なんつーの匠ちゃん」
「え?えぇ~畳み掛け?」
「そうそう!畳み掛け!格ゲーの壁ハメみたいな」
「このページから次のページの畳み掛けが!」
「あぁ~なるほどね。まあ…」
告白成功したのをすぐにでも言いたかったが
こんな体を洗っているところで言うのもなんだなと思ったので
「まあ…ね。良い感じなんではないでしょうか」
と今は言わずにいた。その後、髪を洗う。柑橘系の香りが鼻へと届く。
なぜかこの香りが「旅行へ来た」という感じを増幅させる気がする。
鹿島と僕がコンディショナーをするとき、まだ匠はシャンプーをしていた。
「怜ちゃん怜ちゃん」
「なに?」
「いくよ?じゃーんけんぽんっ」
急なじゃんけんに咄嗟にパーを出す。鹿島はグーだった。
「なに急に」
「いや、匠ちゃん終わるまであっち向いてホイでもしようかと思って」
「おぉ。いいよ?じゃあ行くぞ?あっち向いて~」
と匠がシャンプーを終えるまでの少しの時間、鹿島とあっち向いてホイをしていた。
匠がシャンプーを流し終え、3人で髪のダメージを補修し、潤いを与えている間
「いっせーので」とも「指スマ」とも「いってーのせ」とも「チッチーノ」とも呼ばれる
親指を立てて、何本上がるかというゲームをした。
全員でコンディショナーを洗い流し、室内の大きな浴槽に入る。
外気との温度差が少ないためか
足先だけ入れたとき熱いとは感じたもののスッっと入ることができた。
「「「っ…あぁ~…」」」
3人とも声が漏れ、3人とも浴槽の縁に頭を預ける。硬くてすぐやめる。
「いやぁ~温泉っていいなぁ~」
「な。やばい。マジでいい」
「成分とかよくわからんけど、家のお風呂とは違うよね」
「でもさ、ドッキリ番組とかで温泉のお湯どっかに移して、そこに水道水入れて
入って貰っても気づかない説とかあってもさ、気づかない気しない?
成分これですーみたいな紙あれば」
「あぁ~言われてれば先入観なのかなぁ~」
「その説もあるよね」
「その説やってくんないかなぁ~、水曜日」
「はいはい。あれね」
「そうそう」
「でもさ、温泉側が許可出さなそう」
「たしかに」
「温泉のお湯どうすんだって話だしね」
「温泉にとっての温泉は命みたいなもんだからね」
「しかも水道水とか入れたらワンチャン成分変わるかもだしね」
「たしかに」
「やってほしいけど」
「厳しそうね」
「でもたしかに見てみたい」
「たしかに」
そんな話をして暑くなり、縁に座って話し
「そろそろ行きますか」
と鹿島が親指で露天風呂を指す。匠と2人で頷き、露天風呂に続くスライドドアを開ける。
室内に比べたら涼しかったが、やはり夏。そこそこに暖かい。
石のタイルの道を歩き、露天風呂に入る。外のためか少し温く感じる。
灯篭型のライトに照れされた露天風呂はすごく雰囲気が良く、それだけでも綺麗だった。
「おぉ~…。いいね」
「夏でも温泉っていいよね」
「ね」
しばし黙って空を見上げる。東京よりは圧倒的に星が多く見える。
そこですっかり忘れていたことを思い出し
「あっ、そうだ」
と思わず声が出る。
「どした?」
「どった?怜ちゃん」
「あのですね…」
いざ言うとなると心臓が活発に動き出す。
2人も報告するときこんな感じだったのかなと鹿島、匠、2人の顔を交互に見ながら思う。
「あのぉ~…告白をしてしまいまして…」
「え?」
「え?」
「はいー…してしまったんですよぉ~…」
「え、告白したん?」
「え、マジで?」
「はいぃ~…でですね…オッケーでした」
「マジ!?」
「マジで!?」
よほど驚いたのか、温泉のお湯までも賑やかな音を立てた。
「マジです」
「え!良かったね!」
「おめでとうございます」
2人から拍手が贈られる。
「あ、ありがとうございます。ありがとうございます」
「え、でもさ最終日にするって言ってなかった?」
「そうそう。その後が気まずくなるからって」
「そうそう」
「いや、そう思ってたんだけど…」
2人に嘘をつくつもりも、隠し事をするつもりもないが
なにも考えられなかったのを伝えるのは恥ずかしく
「なんか…なんか告ってた」
とほんわか伝えた。
「なんだそれ」
鹿島が笑う。
「空気にやられたか」
匠も笑う。
「そ…れ、ですわ」
僕も笑った。この空気が心地良かった。
「えーマジか。良かったね!」
「ありがとうございます」
「ね。まさか告ってるとは」
「キスした?」
「バカかよ。してねぇーよ」
温泉のお湯を鹿島の顔にかける。
「うおっ」
鹿島が顔を背ける。鹿島がこちらに顔を向け、真顔で唇を震わせるリップロールをする。
すると鹿島の顔にかかったお湯が匠と僕に飛んでくる。
「お!やめろ!」
「汚ねぇ汚ねぇ」
「汚くないよ!オレの成分も含まれるから」
「それが嫌なんだよ」
「こっち来んな!」
リップロールでお湯を飛ばしてくる鹿島から逃げるという
貸し切りじゃなければ迷惑千万なことも貸し切りなのでできたりする。
本当はあまりよろしくないのかもしれないが。
一通り終わり、温泉の中で軽い追いかけっこをしたので暑くなり
3人で縁に座る。お尻に濡れた少し冷たく、でも温泉のお湯でどこか温かい石の感覚が伝わる。
「あ、そうだ」
と匠が立ち上がる。すると匠が露天風呂の屋根の下に竹のベンチがあるところに置いてある
木製の桶を数個持って灯篭型のライトに被せて、光を遮る。
「匠ちゃぁ~ん。なにしてんのー」
「んー?ちょっと…待っててぇ~…」
匠が最後の灯篭型のライトに桶を被せる。桶の下周辺だけが照らされ
先程までの露天風呂を全体的にぼんやり照らしていた明かりは消え、暗くなる。
「おぉ~…ここか」
匠が慎重に湯船に入ってきて、足だけを入れている湯船が揺れる感覚が足に伝わる。
匠が浴槽の縁、僕の隣に座る。
「なんで明かり消したん?」
「んー?上見てみ?」
「「ん?」」
鹿島と声が合い、鹿島とシンクロし空を見上げる。目に写った景色。
黒いキャンパスにカラフルな無数の星が散らばっていた。
その星は目が慣れてくれば慣れてくるほど、どんどん増えていく。
鹿島も僕も声すら出せず、その夜空をただただ見つめた。薄い黄色の星、薄い青の星、白い星。
小学校の頃に星座を習ったはずだがそれすらわからないくらい多い。
ただ星座を覚えていないというのもある。
「夏の大三角ってどれ?」
「わからん」
「なんだっけ。デネブ、アルタイル、ベガ?」
「仮面ライダーや」
「見てた見てた」
「オレもー」
「で、どれ?」
「「さあ?」」
その後も3人で星を眺めた。気づけば首が痛くなっていた。
ライトを覆った桶を外し、元に戻してから、首を回しながら、露天風呂から室内風呂場に入り
ボディータオルを絞りに絞って体を拭き、着替えの場所に入る。
籠からバスタオルを取り出し、髪を拭いてから体を拭く。
着替え用の下着のパンツを履き、ドライヤーが置いてある洗面台の並んだところへ行く。
ドライヤーを手に取り、スイッチを押す。ウワァァーン。もう周りの音や声は聞こえない。
髪を乾かす。ドライヤー温風特有の香りがする。
温かい、なんなら熱いくらいの風が髪にあたる。
手を使って満遍なく風をあて、ある程度乾いたところでドライヤーを元に戻した。
隣にはスッピンの鹿島がいて
ドライヤーの音がまだすると思ったら匠がまだ髪を乾かしていた。
浴衣を手に取り、少し緩めで帯を締める。
「おぉ~怜ちゃん浴衣似合うねぇ~」
「そお?鹿島はぁ~…」
足元から顔までを見る。
「チャラいな」
「チャラいって」
するとドライヤーの音が止み、下着のパンツ一丁の匠が歩いてきて
同じように浴衣を着て帯を締めた。
「匠ちゃんはぁ~」
鹿島と一緒に足元から顔までを見る。
「ん?」
匠がこっちを向く。
「女の子と勘違いするレベル」
「わかる」
「わかるなよ」
3人で荷物を全て持ち、青い暖簾をくぐりお風呂を出た。
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