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旅の始まり、旅の終わり
第156話
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匠はちょっと先に戻っててと言うので5人で先に戻ることにした。
花火大会は20時半から21時までということだった。匠が帰ってきた。
「もう行く?」
「行ってみる?」
スマホを取り出し、ホームボタンを押す。19時26分。
「行ってみるか」
「歩いて行ける感じですか?」
「行けるとこもあるし、歩きだと遠いとこもあります」
聞くと花火大会のときは商店街や海までの道は
毎度のようにお祭りのように屋台が出ているらしい。
なので商店街は歩いて…時間はかかるが行ける距離だ。
しかし海近くとなると車を出さないと厳しい。
結局満場一致で近くの商店街の屋台に行くことになった。
ホテルから出て、暗い道をスマホのライトをつけ、まるで肝試しのように山道を下っていく。
山を下りるともうすでに町が賑やかなのがわかる。
信号が青に変わるのを待ち、横断歩道を渡り、商店街を目指す。
途中でお祭りの商店街に行く人たちが合流して
人に囲まれているといつのまにか商店街の入り口に来ていた。
煙の匂いがする。6人で人混みの中、屋台を見て回る。
基本的に食べ物の屋台が多く、中にはスーパーボール掬いやヨーヨー釣りという
綺麗な模様の風船の中に水を入れ、口を結び、そこから輪ゴムが出ているというものもあった。
金魚掬いがないのがほんの少しだけお祭り要素を薄くしていた。
そんな気がした。商店街は意外と長く
あれ?さっき焼きそばなかったっけ?と同じ屋台があるくらいだった。
見て回るだけで時間を使った。この感じもお祭りっぽくて好きだったりする。
「あのさ!花火良く見える穴場あるんだけど、移動しない!?」
人が多いからか、匠が珍しく少しだけ声を張っていた。
「穴場!?いいね!じゃあ」
と商店街の端まで来たので今度は折り返して、買いたいものを買っていった。
匠の後を着いていく。信号が点滅し赤に変わる。
車は1台も通らなかったが、きちんと青に変わるのを待ってから横断歩道を渡った。
「せめて車1台くらい通ってよっ!」
匠がそう言いながら先導する。山を登る道をまたスマホで照らしながら歩く。
「鹿島あんなに食べたのにそんな買ったの?」
鹿島の手には焼きそば、たこ焼き、トルネードポテト
チュロスの入った白いビニール袋があった。
「まあ、1人じゃなくてふーと一緒に食べるけど」
「持つよ?」
「いいのいいの。ふーはふーで飲み物持ってくれてるし」
森本さんの手にはラムネが2本握られていた。
匠は匠で焼きそばとたこ焼きとラムネを買っていた。
音成はベビーカステラとラムネを買っていた。僕も焼きそばを食べたかったが
妃馬さんがくれるというので僕はたこ焼きとラムネを買っていた。
暗い山道をスマホのライトで照らしながら登っていると
僕たちの泊まっているホテルが現れた。戻ってきた。
「あ、こっちね」
匠に着いていく。すると匠が閉鎖された道のほうへ行く。
鍵付きの柵があり、完全に道が封鎖されていた。
その柵を照らすように傍に自動販売機があった。
もしかしてこの柵を越えていくとかいう、青春ドラマみたいなことをするのかと思ったら
カチャ。という音がしたと思ったら、キャイーギゴギギギ。その柵を開ける匠。
「どぞどぞぉ~」
「あ、どうも…」
みんな「いいの?入って」と少し不安に思いながら恐る恐る入っていく。
カチャン。内側から鍵をかけたらしい。
「もう少し登ったら着くから」
先導する匠に近寄って
「え、大丈夫なの?ここ入って」
と聞く。
「大丈夫大丈夫。オレたちが泊まってるホテルのオーナーの敷地だから」
「え、そうなんだ?」
「そそ。だからちゃんと鍵貸してもらってるし、ちゃんと許可得てるから平気よ」
別に匠の言葉を疑っているわけではないが
ホテルのオーナーとかそんな言葉がさらっと出てきて
脳の処理が追いつかず、ただただ聞き入れた。
少し進むと開けた場所があり、砂利の地面でベンチが置いてあった。
そのベンチに近寄るとそのベンチの前に綺麗な夜景が広がっていた。
「「わぁ~」」
「「おぉ~」」
目下には山肌に木々が生い茂り、その先に先程行った商店街など光り輝く夜景が広がっていた。
その光り輝く町の先には暗くて見えないが海が広がっているのだろう。
海上花火大会なので、ここは穴場も穴場である。
「マジ?ここ最高のスポットじゃん!」
鹿島が広場をまるでミュージカルのように回る。
ベンチは木を半分に割ったようなもので6人で充分に腰掛けられる長さがあった。
6人で腰掛ける。左から匠、音成、妃馬さん、僕、鹿島、森本さん。
スマホのライトを消すためホームボタンを押す。20時26分。
「あ、あと4分で始まる」
音成の声が聞こえる。それぞれスマホのライトを消すため、画面をつけたのだろう。
みんなうんうん頷き、空に期待を寄せている。
全員が全員なにかを食べようとしているのだろう。
プラスチックの透明な容器に輪ゴムが擦れる甲高い音が聞こえてくる。
たこ焼きはまだ熱そうだったので太ももの上に置いておく。
たこ焼きの熱がジーンズを通して伝わってくる。
「あっつっ」
隣から鹿島の声が聞こえてくる。
「怜ちゃんまだ食べないほうがいいよ。すごいよたこ焼き。まだ中とろとろの熱々」
「うん。なんとなくやめといてる」
「さすが。ポテト食べる?」
鹿島がトルネードポテトの棒を僕に差し出す。
「ん。じゃあお言葉に甘えて」
鹿島の手からトルネードポテトの棒を受け取る。
棒の先のその名の通り、トルネード状のポテトを食べようとすると
ピュー。という甲高い音に空を見上げる。一筋の光が空に打ち上がり、空に大きな花が咲く。
手元のトルネードポテトも僕たちも微かにその花の色に染まる。ドンッ。遅れて音が聞こえる。
「きれー!」
「始まりました!」
その1発の花火が開始の合図なのか、そこから小さな花火の連発。
トルネードポテトを食べながら花火を鑑賞する。
ラムネの蓋の部分のに栓の役割をしているビー玉を落とすために生まれた部品をはめ
掌で押し込む。手に衝撃が伝わるのと同時に
カランッっとビー玉がガラス製のラムネの瓶に落ちる綺麗な音が響く。
鹿島のほうからは焼きそばをすするズルズルという音が聞こえ
不覚にもお腹が減ってしまう。
ラムネの瓶から伝わった汗が手から腕に伝わり、肘までをひんやりと一筋の線を描く。
暗い夜空にも一筋の光が上がり、パーッっと大きく綺麗な花を咲かせている。
山道でラムネを開けていなかった数人がラムネを開ける音をガラスの綺麗な音を響かせる。
夜空でも胸に衝撃が来るような、しかし決して不快でもうるさくもない音が響く。
海上に噴射する花火が噴水のように横一列に上がる。
その上に小さな花火が時間差でいくつも上がる。
恒例の変わり種、星型の花火やハート型の花火。ニコちゃんマークの花火は逆さまだった。
「ニコちゃんマーク逆さまだ」
「ですね」
笑顔の妃馬さんになぜかドキッっとした。
大きな花火も上がり始め、小さな花火と大きな花火のコントラスト。
緑から鮮やかな青に変わる花火。赤から黄色に変わる花火。
「たーまやー!」
「かーぎやー!」
音成や鹿島が叫ぶ。ナイアガラと呼ばれる、咲いた花火がモンブランの上のクリームのように
線状に重力に抗うことなく落ちていく花火も上がる。
有りがちな言い方だと夜の黒いキャンバスにカラフルな花が咲き乱れる。
しかし海上花火大会。少し違うのが咲き乱れた花火が水面に写る。
富士山の麓の湖、本栖湖に写る逆さ富士のように湖のように綺麗な反射ではない。
海特有の波によって反射した花火にも波模様がつく。しかしそれもまた良い。
30分の花火大会は綺麗な花火を眺めているとあっという間にクライマックスへ。
小さな花火の怒涛の連続。段々大きな花火も混ざってきて特大の花火が5発。
1発ずつ順々に上がって行った。きっと浜辺も拍手喝采だろう。僕たち6人も拍手喝采だ。
「最高じゃん!」
「ね!めっちゃ綺麗だった!」
「しかもこんな穴場」
「小野田さんありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「あざっす」
「ありがとう」
「いえいえ」
あれだけ鮮やかで賑やかだった夜空に静寂が戻る。少し寂しい気がした。
「ちょっとトイレ行ってきますわ。小野田さんどこです?」
「あ、こっちです」
「じゃ、私も行こー」
「じゃ、私も…」
「サキちゃんは…ね?いなよ?」
「じゃ、オレは飲み物でも買ってこよー」
「あ、じゃあオレも行くよ。トイレ案内した後一緒に行こ」
「オッケーオッケー」
鹿島と匠は僕に気を遣ってか、妃馬さんと2人にしようとしてくれる。
「おぉ、いってらっしゃい」
「うぃ!」
「いってらっしゃい」
「いってきます!」
音成も森本さんもその場を離れ、4人で山道をスマホのライトで照らしてさらに上がって行く。
「キレーでしたね」
「すごかったです。ほんと、あっという間」
「ほんとあっという間。30分あった?って思いました」
「そうそう。全部綺麗でした」
「ね。あ、ニコちゃんマーク逆さまでしたね」
「そうそう。でもあるあるだったりしてね」
「たしかに。綺麗なニコちゃんマーク見たことないかも」
「惜しいのはありますよね。首傾げてるのかな?って感じのとか」
「あぁ!あるある!笑いながら首傾げてるから、少し怖い」
「たしかに」
2人で笑った。するとピュー。と音がした。
空を見上げると、もう花火大会は終わったはずなのに一筋の光が空高く上がって行った。
その光が消えたと思うと…ドンッっとピンクと黄色の花火が空一面に咲き誇った。
驚き、思わず妃馬さんのほうを見る。
するとほんのりピンクや黄色に染まった目を輝かせ
驚きながらも嬉しそうに楽しそうな妃馬さんがいた。
目の中には空に写る花火が小さくも反射していた。目を奪われた。
好きだ
「好きだ…」
そう思った。心臓がどんどんと高鳴っていってるのが手を取るようにわかった。
もうなにも考えられなかった。言葉を搾り出そうと唇が震える。
「妃馬さん…」
ただ名前を呼んだだけ。震える唇から搾り出した震える声。
ただ妃馬さんがこちらを向いただけ。なのにどんどん心臓がうるさくなっていく。
「妃馬さん…」
落ち着かせようとするがどうにも収まらない。
心臓が高鳴りすぎて少し胸が苦しくなる。鼻から深呼吸をする。
「好きです」
もう本当になにも考えられなかった。
この告白が失敗に終われば、この先気まずくなることは言うまでもない。
だから僕は旅行の最終日に告白しようと決めていた。そのはずだった。
でももうなにも考えられない。驚いた表情の妃馬さん。そのはずだ。
胸が冷たくなるほど心臓が動いている。
「私も…」
妃馬さんが一度下を向く。そしてもう一度顔を上げ、僕を見る。
「私も好きです」
目が合ったままそう言われた。妃馬さんはどこか嬉しそうに、どこか照れくさそうに笑う。
そのときドキドキがピークを迎え
苦しくもなぜか逆に心臓の動きが落ち着いているように感じた。
時の流れが長く感じ、夏の暑さとは違う、なにか温かなものに包まれているような
花火は上がっていないのに明るく感じた。
「付き合って…。僕と付き合ってください」
なぜかその言葉を言うときには胸はまだ苦しかったが心臓は落ち着いていた。
妃馬さんは笑顔だったがさらにもう一段階笑顔に変わり
「はい!」
と言ってくれた。嬉しかった。ただただ嬉しかった。
すると安心したのか、ぐぅ~とお腹が大きく鳴った。
恥ずかしかったが告白の緊張とか恥ずかしさ
照れをついさっき経験したばかりなのであまり恥ずかしさは感じなかった。
「お腹空きました?」
妃馬さんがどこか嬉しそうに、楽しそうに尋ねてくる。やはり聞こえていたらしい。
「そうー…ですね。花火大会のときに隣で鹿島が焼きそばすすってる音聞いたら
お腹空いてきちゃって。今の今まで忘れてました」
「私もお腹空いてたんです。私も怜夢さんのお腹の音聞くまで忘れてました」
と言うと白いビニール袋からカシャカシャと焼きそばを出す妃馬さん。
透明なプラスチックの容器と輪ゴムが擦れる音が響く。パキンと割り箸を割る音。
「あぁ、綺麗に割れなかった」
割り箸を見ると綺麗に半分には割れておらず、片方が細く、片方が太かった。
「ほんとだ」
そんな些細なことで2人で笑う。
その左右で太さの違う割り箸で妃馬さんが焼きそばを持ち上げる。
「はい。どうぞ」
「え?」
「あ、あぁ~ん」
戸惑ったが顔を近づける。また心臓がうるさく鳴り始めた。
顔を近づけ、妃馬さんが持ち上げる焼きそばを口に入れる。
ドキドキのせいでほんの少し味が薄く感じた。でもとても、とても美味しかった。
「うん。美味しいです」
妃馬さんが笑う。今までも見てきた笑顔。でもこの時だけは特別な笑顔に感じた。
「あ、じゃあ」
僕もすっかり忘れていた太ももの上に乗せていた白いビニール袋から
たこ焼きの入った容器を出し、輪ゴムを取る。爪楊枝でたこ焼きを1つ刺し
「良かったら」
と差し出してみた。
「じゃあ…」
と妃馬さんが顔を近づける。口を開け、たこ焼きを食べる妃馬さん。
視線が左右に揺れ、口の右側に付いたソースとマヨネーズを舐める。
「うん。美味しいです。温度もちょうどいい」
笑顔に変わる妃馬さん。まだ付き合っているという実感は湧かないものの
今この2人の空間は特別なものに感じた。僕もたこ焼きを食べる。
夏だからか、冷め切っていることはなかったが
出来立ての熱々さは消え去っていて、正直温かった。
「温くないです?」
「あ、やっぱり?空気的にちょうど良いって言った方がいいかなって」
「気遣いすぎ」
思わず笑った。心臓も落ち着き、妃馬さんも笑っていて、いつものこの感じに心も落ち着く。
「たっだーいま!」
その声に振り返る。笑顔の鹿島とコソコソ話す音成と森本さん。
匠は缶のソラオーラを飲んでいた。
「おぉ、おかえり」
「おかえり!」
妃馬さんも僕もみんなを迎える。その後少しだけ、みんなで花火の話などをしながら
たこ焼きや焼きそばなど買ったものを食べた。ちゃんとゴミを持って、ホテルへ帰った。
花火大会は20時半から21時までということだった。匠が帰ってきた。
「もう行く?」
「行ってみる?」
スマホを取り出し、ホームボタンを押す。19時26分。
「行ってみるか」
「歩いて行ける感じですか?」
「行けるとこもあるし、歩きだと遠いとこもあります」
聞くと花火大会のときは商店街や海までの道は
毎度のようにお祭りのように屋台が出ているらしい。
なので商店街は歩いて…時間はかかるが行ける距離だ。
しかし海近くとなると車を出さないと厳しい。
結局満場一致で近くの商店街の屋台に行くことになった。
ホテルから出て、暗い道をスマホのライトをつけ、まるで肝試しのように山道を下っていく。
山を下りるともうすでに町が賑やかなのがわかる。
信号が青に変わるのを待ち、横断歩道を渡り、商店街を目指す。
途中でお祭りの商店街に行く人たちが合流して
人に囲まれているといつのまにか商店街の入り口に来ていた。
煙の匂いがする。6人で人混みの中、屋台を見て回る。
基本的に食べ物の屋台が多く、中にはスーパーボール掬いやヨーヨー釣りという
綺麗な模様の風船の中に水を入れ、口を結び、そこから輪ゴムが出ているというものもあった。
金魚掬いがないのがほんの少しだけお祭り要素を薄くしていた。
そんな気がした。商店街は意外と長く
あれ?さっき焼きそばなかったっけ?と同じ屋台があるくらいだった。
見て回るだけで時間を使った。この感じもお祭りっぽくて好きだったりする。
「あのさ!花火良く見える穴場あるんだけど、移動しない!?」
人が多いからか、匠が珍しく少しだけ声を張っていた。
「穴場!?いいね!じゃあ」
と商店街の端まで来たので今度は折り返して、買いたいものを買っていった。
匠の後を着いていく。信号が点滅し赤に変わる。
車は1台も通らなかったが、きちんと青に変わるのを待ってから横断歩道を渡った。
「せめて車1台くらい通ってよっ!」
匠がそう言いながら先導する。山を登る道をまたスマホで照らしながら歩く。
「鹿島あんなに食べたのにそんな買ったの?」
鹿島の手には焼きそば、たこ焼き、トルネードポテト
チュロスの入った白いビニール袋があった。
「まあ、1人じゃなくてふーと一緒に食べるけど」
「持つよ?」
「いいのいいの。ふーはふーで飲み物持ってくれてるし」
森本さんの手にはラムネが2本握られていた。
匠は匠で焼きそばとたこ焼きとラムネを買っていた。
音成はベビーカステラとラムネを買っていた。僕も焼きそばを食べたかったが
妃馬さんがくれるというので僕はたこ焼きとラムネを買っていた。
暗い山道をスマホのライトで照らしながら登っていると
僕たちの泊まっているホテルが現れた。戻ってきた。
「あ、こっちね」
匠に着いていく。すると匠が閉鎖された道のほうへ行く。
鍵付きの柵があり、完全に道が封鎖されていた。
その柵を照らすように傍に自動販売機があった。
もしかしてこの柵を越えていくとかいう、青春ドラマみたいなことをするのかと思ったら
カチャ。という音がしたと思ったら、キャイーギゴギギギ。その柵を開ける匠。
「どぞどぞぉ~」
「あ、どうも…」
みんな「いいの?入って」と少し不安に思いながら恐る恐る入っていく。
カチャン。内側から鍵をかけたらしい。
「もう少し登ったら着くから」
先導する匠に近寄って
「え、大丈夫なの?ここ入って」
と聞く。
「大丈夫大丈夫。オレたちが泊まってるホテルのオーナーの敷地だから」
「え、そうなんだ?」
「そそ。だからちゃんと鍵貸してもらってるし、ちゃんと許可得てるから平気よ」
別に匠の言葉を疑っているわけではないが
ホテルのオーナーとかそんな言葉がさらっと出てきて
脳の処理が追いつかず、ただただ聞き入れた。
少し進むと開けた場所があり、砂利の地面でベンチが置いてあった。
そのベンチに近寄るとそのベンチの前に綺麗な夜景が広がっていた。
「「わぁ~」」
「「おぉ~」」
目下には山肌に木々が生い茂り、その先に先程行った商店街など光り輝く夜景が広がっていた。
その光り輝く町の先には暗くて見えないが海が広がっているのだろう。
海上花火大会なので、ここは穴場も穴場である。
「マジ?ここ最高のスポットじゃん!」
鹿島が広場をまるでミュージカルのように回る。
ベンチは木を半分に割ったようなもので6人で充分に腰掛けられる長さがあった。
6人で腰掛ける。左から匠、音成、妃馬さん、僕、鹿島、森本さん。
スマホのライトを消すためホームボタンを押す。20時26分。
「あ、あと4分で始まる」
音成の声が聞こえる。それぞれスマホのライトを消すため、画面をつけたのだろう。
みんなうんうん頷き、空に期待を寄せている。
全員が全員なにかを食べようとしているのだろう。
プラスチックの透明な容器に輪ゴムが擦れる甲高い音が聞こえてくる。
たこ焼きはまだ熱そうだったので太ももの上に置いておく。
たこ焼きの熱がジーンズを通して伝わってくる。
「あっつっ」
隣から鹿島の声が聞こえてくる。
「怜ちゃんまだ食べないほうがいいよ。すごいよたこ焼き。まだ中とろとろの熱々」
「うん。なんとなくやめといてる」
「さすが。ポテト食べる?」
鹿島がトルネードポテトの棒を僕に差し出す。
「ん。じゃあお言葉に甘えて」
鹿島の手からトルネードポテトの棒を受け取る。
棒の先のその名の通り、トルネード状のポテトを食べようとすると
ピュー。という甲高い音に空を見上げる。一筋の光が空に打ち上がり、空に大きな花が咲く。
手元のトルネードポテトも僕たちも微かにその花の色に染まる。ドンッ。遅れて音が聞こえる。
「きれー!」
「始まりました!」
その1発の花火が開始の合図なのか、そこから小さな花火の連発。
トルネードポテトを食べながら花火を鑑賞する。
ラムネの蓋の部分のに栓の役割をしているビー玉を落とすために生まれた部品をはめ
掌で押し込む。手に衝撃が伝わるのと同時に
カランッっとビー玉がガラス製のラムネの瓶に落ちる綺麗な音が響く。
鹿島のほうからは焼きそばをすするズルズルという音が聞こえ
不覚にもお腹が減ってしまう。
ラムネの瓶から伝わった汗が手から腕に伝わり、肘までをひんやりと一筋の線を描く。
暗い夜空にも一筋の光が上がり、パーッっと大きく綺麗な花を咲かせている。
山道でラムネを開けていなかった数人がラムネを開ける音をガラスの綺麗な音を響かせる。
夜空でも胸に衝撃が来るような、しかし決して不快でもうるさくもない音が響く。
海上に噴射する花火が噴水のように横一列に上がる。
その上に小さな花火が時間差でいくつも上がる。
恒例の変わり種、星型の花火やハート型の花火。ニコちゃんマークの花火は逆さまだった。
「ニコちゃんマーク逆さまだ」
「ですね」
笑顔の妃馬さんになぜかドキッっとした。
大きな花火も上がり始め、小さな花火と大きな花火のコントラスト。
緑から鮮やかな青に変わる花火。赤から黄色に変わる花火。
「たーまやー!」
「かーぎやー!」
音成や鹿島が叫ぶ。ナイアガラと呼ばれる、咲いた花火がモンブランの上のクリームのように
線状に重力に抗うことなく落ちていく花火も上がる。
有りがちな言い方だと夜の黒いキャンバスにカラフルな花が咲き乱れる。
しかし海上花火大会。少し違うのが咲き乱れた花火が水面に写る。
富士山の麓の湖、本栖湖に写る逆さ富士のように湖のように綺麗な反射ではない。
海特有の波によって反射した花火にも波模様がつく。しかしそれもまた良い。
30分の花火大会は綺麗な花火を眺めているとあっという間にクライマックスへ。
小さな花火の怒涛の連続。段々大きな花火も混ざってきて特大の花火が5発。
1発ずつ順々に上がって行った。きっと浜辺も拍手喝采だろう。僕たち6人も拍手喝采だ。
「最高じゃん!」
「ね!めっちゃ綺麗だった!」
「しかもこんな穴場」
「小野田さんありがとうございます!」
「ありがとうございます」
「あざっす」
「ありがとう」
「いえいえ」
あれだけ鮮やかで賑やかだった夜空に静寂が戻る。少し寂しい気がした。
「ちょっとトイレ行ってきますわ。小野田さんどこです?」
「あ、こっちです」
「じゃ、私も行こー」
「じゃ、私も…」
「サキちゃんは…ね?いなよ?」
「じゃ、オレは飲み物でも買ってこよー」
「あ、じゃあオレも行くよ。トイレ案内した後一緒に行こ」
「オッケーオッケー」
鹿島と匠は僕に気を遣ってか、妃馬さんと2人にしようとしてくれる。
「おぉ、いってらっしゃい」
「うぃ!」
「いってらっしゃい」
「いってきます!」
音成も森本さんもその場を離れ、4人で山道をスマホのライトで照らしてさらに上がって行く。
「キレーでしたね」
「すごかったです。ほんと、あっという間」
「ほんとあっという間。30分あった?って思いました」
「そうそう。全部綺麗でした」
「ね。あ、ニコちゃんマーク逆さまでしたね」
「そうそう。でもあるあるだったりしてね」
「たしかに。綺麗なニコちゃんマーク見たことないかも」
「惜しいのはありますよね。首傾げてるのかな?って感じのとか」
「あぁ!あるある!笑いながら首傾げてるから、少し怖い」
「たしかに」
2人で笑った。するとピュー。と音がした。
空を見上げると、もう花火大会は終わったはずなのに一筋の光が空高く上がって行った。
その光が消えたと思うと…ドンッっとピンクと黄色の花火が空一面に咲き誇った。
驚き、思わず妃馬さんのほうを見る。
するとほんのりピンクや黄色に染まった目を輝かせ
驚きながらも嬉しそうに楽しそうな妃馬さんがいた。
目の中には空に写る花火が小さくも反射していた。目を奪われた。
好きだ
「好きだ…」
そう思った。心臓がどんどんと高鳴っていってるのが手を取るようにわかった。
もうなにも考えられなかった。言葉を搾り出そうと唇が震える。
「妃馬さん…」
ただ名前を呼んだだけ。震える唇から搾り出した震える声。
ただ妃馬さんがこちらを向いただけ。なのにどんどん心臓がうるさくなっていく。
「妃馬さん…」
落ち着かせようとするがどうにも収まらない。
心臓が高鳴りすぎて少し胸が苦しくなる。鼻から深呼吸をする。
「好きです」
もう本当になにも考えられなかった。
この告白が失敗に終われば、この先気まずくなることは言うまでもない。
だから僕は旅行の最終日に告白しようと決めていた。そのはずだった。
でももうなにも考えられない。驚いた表情の妃馬さん。そのはずだ。
胸が冷たくなるほど心臓が動いている。
「私も…」
妃馬さんが一度下を向く。そしてもう一度顔を上げ、僕を見る。
「私も好きです」
目が合ったままそう言われた。妃馬さんはどこか嬉しそうに、どこか照れくさそうに笑う。
そのときドキドキがピークを迎え
苦しくもなぜか逆に心臓の動きが落ち着いているように感じた。
時の流れが長く感じ、夏の暑さとは違う、なにか温かなものに包まれているような
花火は上がっていないのに明るく感じた。
「付き合って…。僕と付き合ってください」
なぜかその言葉を言うときには胸はまだ苦しかったが心臓は落ち着いていた。
妃馬さんは笑顔だったがさらにもう一段階笑顔に変わり
「はい!」
と言ってくれた。嬉しかった。ただただ嬉しかった。
すると安心したのか、ぐぅ~とお腹が大きく鳴った。
恥ずかしかったが告白の緊張とか恥ずかしさ
照れをついさっき経験したばかりなのであまり恥ずかしさは感じなかった。
「お腹空きました?」
妃馬さんがどこか嬉しそうに、楽しそうに尋ねてくる。やはり聞こえていたらしい。
「そうー…ですね。花火大会のときに隣で鹿島が焼きそばすすってる音聞いたら
お腹空いてきちゃって。今の今まで忘れてました」
「私もお腹空いてたんです。私も怜夢さんのお腹の音聞くまで忘れてました」
と言うと白いビニール袋からカシャカシャと焼きそばを出す妃馬さん。
透明なプラスチックの容器と輪ゴムが擦れる音が響く。パキンと割り箸を割る音。
「あぁ、綺麗に割れなかった」
割り箸を見ると綺麗に半分には割れておらず、片方が細く、片方が太かった。
「ほんとだ」
そんな些細なことで2人で笑う。
その左右で太さの違う割り箸で妃馬さんが焼きそばを持ち上げる。
「はい。どうぞ」
「え?」
「あ、あぁ~ん」
戸惑ったが顔を近づける。また心臓がうるさく鳴り始めた。
顔を近づけ、妃馬さんが持ち上げる焼きそばを口に入れる。
ドキドキのせいでほんの少し味が薄く感じた。でもとても、とても美味しかった。
「うん。美味しいです」
妃馬さんが笑う。今までも見てきた笑顔。でもこの時だけは特別な笑顔に感じた。
「あ、じゃあ」
僕もすっかり忘れていた太ももの上に乗せていた白いビニール袋から
たこ焼きの入った容器を出し、輪ゴムを取る。爪楊枝でたこ焼きを1つ刺し
「良かったら」
と差し出してみた。
「じゃあ…」
と妃馬さんが顔を近づける。口を開け、たこ焼きを食べる妃馬さん。
視線が左右に揺れ、口の右側に付いたソースとマヨネーズを舐める。
「うん。美味しいです。温度もちょうどいい」
笑顔に変わる妃馬さん。まだ付き合っているという実感は湧かないものの
今この2人の空間は特別なものに感じた。僕もたこ焼きを食べる。
夏だからか、冷め切っていることはなかったが
出来立ての熱々さは消え去っていて、正直温かった。
「温くないです?」
「あ、やっぱり?空気的にちょうど良いって言った方がいいかなって」
「気遣いすぎ」
思わず笑った。心臓も落ち着き、妃馬さんも笑っていて、いつものこの感じに心も落ち着く。
「たっだーいま!」
その声に振り返る。笑顔の鹿島とコソコソ話す音成と森本さん。
匠は缶のソラオーラを飲んでいた。
「おぉ、おかえり」
「おかえり!」
妃馬さんも僕もみんなを迎える。その後少しだけ、みんなで花火の話などをしながら
たこ焼きや焼きそばなど買ったものを食べた。ちゃんとゴミを持って、ホテルへ帰った。
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「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
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マッサージ
えぼりゅういち
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