猫舌ということ。

結愛

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旅の始まり、旅の終わり

第154話

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ロビーはなんでこんな広いの?っていうほど広く、なのに受付は極普通の大きさだった。
鹿島が匠の荷物を受け取り、匠以外の5人はソファーに腰を下ろす。
匠が受付の人と話をしている。
「めっちゃいいとこやん」
森本さんが周りを見渡す。
「ね。このロビーでわかる」
「見て上」
「おぉ、シャンデーリア」
「あそこ、あれなんだっけ」
音成が指指す先見る。
「あぁ」
「「番傘?」」
妃馬さんとハモった。
「そうそう番傘」
「怜ちゃんなんでそんなすぐ出たん?」
「え、あつまれせいぶつの森であるから、番傘」
「なーるほーどねー」
「おいー」
匠が来た。と思ったら匠の隣に2人の従業員さんがいた。
どうやら部屋へ案内してくれるらしい。エレベーターに乗る。
従業員さん2人を合わせた8人で乗るとさすがに狭い。
エレベーターが開き、従業員さんが開くボタンを押してくれて
僕たち6人は頭を下げ「ありがとうございます」や「どうも」と言いながら内廊下に出る。
従業員さんが先導してくれて、部屋へ行く。角部屋2部屋だった。
女子陣と男子陣で別れて部屋を案内してもらう。
カード型のルームキーをドアノブの上のところにあてる。
するとピッっという音と共に内部で微かに機械音がして
従業員さんがドアを開けて、僕たち3人を中へ入れてくれる。
そこに広がったのはとにかく良い部屋。ベッドは大きめのものが2つ。きっとじゃんけんだ。
「ご夕食は18時から20時までのお時間でバイキング形式のものとなります。
お食事の会場へ足をお運びください。
朝食も同じバイキング形式となりまして、朝7時から9時までとなっております。
大浴場なのですが16時から17時と夜中2時から朝5時以外ではいつでもご利用いただけます。
午前と午後で男湯と女湯が入れ替わりますので
違った雰囲気を味わっていただけるかと思います」
この説明を全員「あっ」「はい」を呟きつつ、しっかり聞いた。
「なにかございましたらお電話でフロントまでおかけください」
「はい。ありがとうございます」
「では失礼いたします」
と従業員さんがお辞儀をして出ていった。
「見て見て!お風呂スッケスケ!匠ちゃん家みたい」
鹿島のほうに行くとベッドルームから丸見えのガラス張りの室内風呂があった。
「おぉ~室内風呂も檜なんだ?檜か?」
お風呂場に入ってみる。入ると檜の香りが身体全体を包み込んだ。
「檜だね」
「え、待って」
鹿島が扉を開ける。するとベランダに出られる仕組みとなっていた。
「え。プライベート露天風呂?」
「エグすぎん?」
鹿島と匠を見ると慣れているように荷物を置いてベッドに寝転がっていた。
「裸で外出てもいいんかな」
「ま、いいんでない?」
「夜みんなで入ろうね」
「大浴場にね」
「いや、ここに」
「ここではみんなでは入らんよ」
お風呂からベランダに続く扉を閉め、鹿島とベッドルームに戻る。
「どーする?予定より遅くて今もう2時だけど」
「どーしよーか。夜ご飯何時からだっけ?」
「6時からって言ってた」
「バイキングでしょ?」
「そそ」
「夜お祭りあるから。屋台でもなんか食べるとしたら」
「早めがいいか。それこそ6時きっかりとか」
「そうね」
「お風呂は?花火見てからでも大丈夫?」
「全然平気でしょ。2時までって言ってなかったっけ?」
「そうそう。あと4時から5時?もダメらしい」
「じゃ、全然へーきだ」
「近くでいいとこ探す?」
「なら女子陣も呼ばないと」
鹿島が部屋を出て行く。
「良い部屋だなぁ~」
「ね。お気に入り」
「あ、なに?前来たことあんだ?」
「そうそう。どこどこの旅行券というよりは
いくらまでの宿何人までって感じだったからお気に入りのここ選んだ」
「ほおぉ~ん?」
嘘か本当かはわからないが、ただ、ただ匠に感謝する。
「お邪魔しまぁ~す」
音成の声が聞こえる。
「どぉ~ぞぉ~」
「お邪魔んぬ」
「お邪魔しまぁ~す」
音成、妃馬さん、森本さんが入ってきた。
「ベッドに座ってください」
「どうも」
女子陣がベッドに座る。
「今この近くで行ってみたいとこあるかなぁ~って話してたとこなんです」
その後お祭りがあるので夜ご飯を早めに食べようと思っていること
そのためには18時にここへ帰ってこられるように
近くでいいとこないか探してることを話した。
テレビの音が流れる中、全員でスマホをいじる。
「あ、ここは?」
音成がスマホを見せる。全員で音成のスマホに寄る。
「「異豆山神社?」」
「そうそう。縁結びの神社なんだって」
「行こう」
即答の鹿島。乗り気だ。ただ音成のスマホを見るまで旅行の高揚感で忘れていたが
僕もこの旅行の最終日に大一番が待っている。
僕も行きたいと思ったし、なんなら明日も最終日も行きたいほどだ。
「いいね行こ」
お財布とスマホだけを持ち、部屋に荷物を置いて部屋を出る。
駐車場の車に乗り込み、また酔いとの闘いの始まり。結局道中眠ることはできず
スライドドアを開きスッっと出た妃馬さんに続き、僕も外に出る。
深呼吸をする。隣の妃馬さんと目が合う。
「車の後の外の空気、生き返りますよね」
「わかります。どこでも美味しいけど、ここは特に美味しい気がする」
足に伝わる砂利を踏む感覚。高校生以来だろうか。木々に囲まれ、空気も綺麗な気がする。
「んなら行きますか!」
歩いて異豆山神社を目指す。歩いていると手水舎が目に入った。
「え、もうあの手の水んとこある」
「ほんとだ。ってことはもうすぐそこ?」
「見て見て!かわいー」
音成の指指す先にはおみくじだろうか。
白い紙がくくり付けられたハート型のものがあった。
「わー!すごいね!おみくじかな?」
「おみくじひこうね!まずは参拝かな?」
「これどうやんだっけ?」
「えぇ~っと?…ん、なんだっけ。手…水…」
鹿島が恐らく検索している。
「そうそう!ちょうずね!ちょうず!
えぇまず右手で柄杓を持ってたっぷりと水をくみ、左手を清めます」
鹿島の言う通り、5人で並んで右手に柄杓を持って、左手に水をかける。
冷たいけど、どこか温かい。流れているから上のほうは冷たいけど
夏の暑さで下のほうに温かい部分もあるからだろうか。
「柄杓を左手に持ち替えて、右手を清めます」
鹿島の言う通りに持ち替えて、今度は右手に水をかける。
「再び柄杓を右手で持ち、左手で水を受け口をすすぎます。 
柄杓は直接口につけないでくださいだって」
右手に持ち替え、左手を水が溜まるようにして左手に水を注ぐ。しかしあまり溜まらない。
少し溜まった水を口に入れる。顎から少し水が垂れる。右腕で拭う。
「改めて左手を清めます。残った水で柄杓の柄を洗い清め、元に戻しますだって」
左手を洗うように水をかけ、柄杓の柄を洗い、元に戻した。
「ふぅ~。なんか初めてちゃんとやったかも」
「わかる」
「わかります」
「私はこないだやったなぁ~」
「あ、そうなんですか?」
「はい。こないだパパとママが帰ってきて、パパが神社好きっていうか、なので
神社行ってちゃんと参拝してきました」
「おぉ~なんか外国人ってエピソード」
「じゃ、行きますか」
「行きましょうか」
「ちょっと待ってくれる?君たちに説明してて僕できてなかったんだから」
振り返ると今まさに鹿島が手水をしていた。
「行こう行こう」
「行きましょう」
「ちょっと!」
鹿島が手水を終えるのを待ち、全員で本宮へ向かった。
「あ待って!めっちゃ可愛い」
匠が駆け寄る。その看板にはアニメ調の源頼朝と北条政子が描かれた看板があった。
「ほんとだかわいー」
「たしかに可愛い」
「写真撮っとこ。めっちゃ絵柄好き」
匠がスマホで看板の写真を撮った。その後本宮へ行った。
一応2人ずつお参りをすることにして、まずは音成と匠。二礼二拍手一礼。
次に森本さんと鹿島。同じように二礼二拍手一礼。
そして妃馬さんと僕。なぜかすれ違うとき鹿島に手を肩に置かれた。
笑顔を僕に向けて通り過ぎる鹿島。なんだ?と思う。
事前に用意していた5円玉を賽銭箱に放る。木の賽銭箱に5円玉が数回跳ねる音が聞こえる。
そして二礼二拍手一礼。2回深々と礼をして2回手を合わせる。
パンパン。乾いた拍手の音がズレて4回聞こえる。手を合わせながら願う。

神様。願わくば僕の妃馬さんへの告白を良い結果にしてください。
もしそれが難しいのであれば、せめて悪い結果には終わらせないでください。
そして複数願うのは良くないかと思いますが
僕の親友の匠、そして匠の彼女の音成が幸せのままでありますよう。
そして森本さんも幸せのままでありますよう。ついでに鹿島も。

目を開けて本宮を見る。もう一度深く礼をした。
隣を見ると妃馬さんがまだ目を瞑ってお願いをしていた。すぐに目を開け、深々と礼をした。
妃馬さんと振り返り
先程の紙がハート型にくくり付けられたところに集まっている4人の元へ向かう。
「お願い長かったですね。なにお願いしてたんですか?」
「え?それはぁ~…恋ちゃんとフィンちゃんの幸せを願いました」
「あ、言っちゃっていいんだ?」
「え?」
「よく言いません?言うと願いが叶わないって」
「言いますけど…怜夢さんが聞いたんじゃないですか!」
少し膨れる妃馬さん。可愛らしい。
「すいませんすいません」
「じゃあ、おあいこということで」
「あ、僕ですか?」
妃馬さんがコクコク頷く。
「僕もあの2人の幸せを願いました」
もちろん音成にも森本さんにも鹿島にも匠にも幸せのままいてほしい。
これは本心で、ちゃんと叶ってほしい願いだが僕の本当の願いは隠すことにした。
叶ってほしいし、言うのも恥ずかしい。4人に合流する。
話していた通りおみくじを買うことにした。
恋みくじというものがあり、全員でそれを買った。ハートのお守りが入っていた。
おみくじを開ける。…大吉。素直に嬉しかった。
「中吉だぁ~」
「吉だぁ~」
「私も吉」
「大吉の人いた?」
静かに手を挙げる。
「おぉ!2人も!」
隣を見ると手を挙げた妃馬さんと目が合う。心臓が跳ねた。
「内容は内容は?」
鹿島と匠が僕を囲む。作戦会議のように小声で話す。
「えぇと?」
「星座、蟹座が良い。妃馬さん何座?」
「さあ?オレと近いから蟹座かも」
肩をバンッっと鹿島に叩かれる。
「フゥー!」
「いってぇな」
「血液型。A型が良い。何型?」
「あぁ、そういえば聞いたことなかった」
「でもいいんじゃない?」
「オレらは応援してるから」
「うん。ありがと」
同じ星座であること、同じ血液型であることを願った。
「おみくじ結ぶのってあれだっけ?凶だけだっけ」
「わかんない。調べてみる」
音成がスマホで検索する。
「あ、別になんでも結んでいいらしいよ?」
「あ、そうなんだ?」
「じゃあ私普通のおみくじもひいて運良い方を持って帰って運悪いほうを結んでこ」
「いいねそれ!
私もあそこに結びたいって思ってたんだよねぇ~」
音成と森本さんが結びたい意欲が強く、結局みんなで普通のおみくじも引くことにした。
そして運の悪かったほうを結ぶことにした。
もちろん僕は普通おみくじを結ぶことにした。キュッっと結ぶ。
「暑ノ井くん暑ノ井くん!」
音成に呼ばれる。
「ん?」
「ちょ、こっち来て?」
「なに?」
音成の後をついていく。
「見て。鯉」
池の近く連れてこられ、音成の指指す先には
餌欲しさにパクパクと口を水面から出した鯉がたくさんいた。
「うん。鯉だね」
「恋愛の神社だから鯉。恋だから鯉」
ジーっと音成を見る。無言で踵を返し、他4人に合流する。
「ねえ!なんか言ってよ!辛いわ」
「なんだよ急に」
「いや、どんな反応するかと思って」
「お気に召しました?」
「あの目は…心に来るよ…」
「みんな結び終わった?」
「はい。結び終わりました」
「じゃ、戻りますか」
車に戻り、旅館に戻ることにした。
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