猫舌ということ。

結愛

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特別な日

第151話

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眠い目を擦りながら階段を下りる。朝ご飯を食べ、父を送り、少し眠った。
11時頃にスマホのアラームがけたたましく鳴り、眉間に皺を寄せ起きる。
1階に下り、洗面所で顔を洗い目を覚ます。服を考え、着替えて、ピアスも変える。
カップ焼きそばほどの大きさの鏡を見る。耳元でフクロウが嬉しそうに揺れていた。
「いってきまーす」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
扉を開けて、外に出る。音楽と共に駅まで歩く。電車に乗り、乗り換えて、甘谷まで行く。
改札を抜けた券売機の前の柱の辺りで待ち合わせだったが、妃馬さんらしき人の姿はない。
柱に寄りかかろうとしたら、肩を叩かれる。
振り返ると妃馬さんが立っていた。イヤホンを取る。
「おはようございます」
「おはようございます」
「一緒だったんですかね?」
「そうかもです」
「まだ待ち合わせ時間にしては早いですよ?」
「それを言うなら怜夢さんだって」
妃馬さんが笑う。
「たしかに」
僕も笑う。以前話していた
無計画でお店を覗いていくというスマホケース探しの旅2を始めていた。
今回は大吉祥寺の次の第2弾だ。
「さて、ま、テキトーに歩きますか」
「ですね」
本当にテキトーに歩いた。
テキトーに歩いてテキトーにお店に入り、洋服を見たり、お菓子を見たりしていた。
お目当てのスマホケースは見つからず、あっという間におやつの時間、15時になった。
「休憩します?」
「しましょうか」
休憩は無計画でなく、ちゃんとリーズナブルで
美味しそうなお店を検索して行くことにしていた。しかし結局ファミレスに行くことにした。
席に座り、フライドポテトとドリンクバーを頼んだ。
まず僕がドリンクバーに行き、ソラオーラを注いで帰る。
2本取ったおしぼりの1本を妃馬さんのほうへ置く。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
今度は妃馬さんが立ってドリンクバーに行き
恐らくアスピスの入ったグラスを持って帰ってきた。妃馬さんがグラスをテーブルに置く。
僕の前に置かれたソラオーラの入ったグラスは汗っかきなのか、もうビチャビチャだった。
紙ナプキンを取ってグラスとテーブルを拭く。
「お待たせしました。フライドポテトですねぇ~。ご注文以上でよろしかったでしょうか?」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「いえ。では失礼します」
店員さんが透明な筒に注文用紙を丸めて入れて軽く頭を下げて去っていった。
「あ、そういえば今日鹿島、もっさんと出掛けてる…というかデートか、してるらしいですよ」
「らしいですね。私も聞きました」
「なんかドライブらしいです」
「え、あ、車で出掛けてるんだ?」
「らしいーですね。ほら今度旅行あるじゃないですか」
「はいはい」
「そのときに匠ん家の車運転するんで練習してるらしいです」
「あ、そうなんですね」
「ですです」
「そしたらあれかなぁ~。フィンちゃんも運転するのかなぁ~」
「あ、もっさんも免許持ってるんですね」
「ですです」
「妃馬さんは?」
「私は持ってないです。怜夢さんは?」
「僕もないんです。なんで当日は鹿島ともっさん任せになりますね」
「そうなりますね。大丈夫かな」
「運転?」
「いや、私車酔いするんですよ」
「あぁ~。同じだ」
「怜夢さんも?」
「はい。だから家族で祖父母の家に行ったときも車ではずっと寝てます」
「あ、同じ同じ!でも案外寝れないんですよね」
「それ!マジでそれです!」
「あの車の角?とか硬いし、頭預けるやつもカッチリしてるから寝づらいし」
「めっちゃわかります。だから僕はタオル持ってって
折って枕みたいにして窓のとこに置いてそこに頭預けて寝ようと試みてます」
「でも振動で寝れない」
「はい。よくわかってらっしゃる」
「わかります。でも私は大概、最後は姫冬の力を借りて寝てます」
「あぁ、いいですね。さすがに妹の力は借りれないからなぁ~」
「怜夢さんが妹さんの肩借りて寝てるのすごく微笑ましいですけどね」
「たぶんふつーに嫌がられる。こっち倒れてこないでとか言われて」
「あらら」
ソラオーラを飲もうとグラスを手に持つ。グラスのかいた汗が手につく。
とりあえずいいやとソラオーラを飲む。手から水滴が滴り落ちる。
紙ナプキンで手とグラス、テーブルを拭く。
「どこ行ってるんだろ」
「たしかに」
「鹿島に聞いてみよ」
スマホを取り出し、LIMEの鹿島とのトーク画面に入る。
妃馬さんも森本さんに聞いているのかスマホをいじっていた。

「今日ドライブだよね?どこ行ってんの?」

送信ボタンを押す。スマホをポケットにしまう。
「怜夢さんのおじい様とおばあ様の家はどちらなんですか?」
「僕の祖父母ですか?父方の祖父母も母方の祖父母も両方とも山梨ですね」
「あ、山梨なんですね」
「だからまあ、車何回も長時間乗ってるんですけど慣れないんですよねぇ~」
「まあ、慣れ…るもんなんですかね」
「どうなんでしょ」
「あれはどうでした?修学旅行のバスとか」
「うわぁー。懐かしい!小中学生のときは酔い止めの薬持っていって飲んでましたけど
効きませんでしたね」
「あ、同じです。なんであれ効かないんですかね」
「いや、これね。思ったんです」
「お?」
「薬って即効性ってあんまないじゃないですか」
「なるほど!あ、私も乗る寸前とか朝ご飯と一緒にとかで飲んでました」
「そうなんですよ。僕もそうなんです。
朝ホテルで朝食のとき一緒にとかお昼ご飯バスで出掛けた先で食べたときに一緒にとか。
大概すぐ出発ですから効いてる頃にはたぶん歩いてたんじゃないですかね」
「なるほどですね。そっか。なるほど」
「まあ、この先酔い止めの薬飲む機会なんてないでしょうけど」
「たしかに。今度の旅行ではふつーに寝ればいいし」
「ですね」
「この教訓を生かすとしたら自分の子どもにとか?」
「なるほど!たしかに。「この薬はバス乗る1時間前に飲むんだよ」ってね」
「まあ自分の子どもは全然車酔いしない体質かもしれないですけど」
「あり得ますね」
2人で笑った。「猫舌」には食べ頃になったフライドポテトを食べる。
「妃馬さんは?妃馬さんのおじい様とおばあ様はどこなんですか?」
「父方の祖父母が香川にいて母方の祖父母は北海道です」
「お、北海道。匠と同じだ」
「え!あ、そうなんですか?」
「はい。たしかお母さんのほうのご実家が北海道だったはずです。お父さんは静岡だっけな」
「そうなんですね~じゃあ話合うかな」
「いや、もう充分仲良いでしょ」
「いや、そうなんですけどそーゆーことではなくて
なんというか、なんだろう。お赤飯トークとか」
「お赤飯トーク?」
「はい。北海道のお赤飯って甘いんですよ」
「あ!それ言ってた!え、あ、そうなんですね?」
「あ、言ってました?」
「言ってました言ってました。鹿島がお赤飯作ったときに、え、しょっぱって」
「お赤飯…私他で食べたっけ。でも高校のとき
誕生日の次の日の学校で余ったお赤飯をお弁当で持って行ったとき
友達に「あ、お赤飯だ。ちょーだい」って言われて「どーぞ」って食べてもらったら
「え、あまっ」って言われてその話になりました」
「へぇ~。知らなかった。あ、そうなんですね」
「そうなんですよ。というかそうらしいです」
「意外といるんですかね」
「どうなんでしょう。
ご両親のどちらかが北海道だったらお赤飯北海道寄りになりがちな気がします」
「そうなんですね」
「怜夢さんの家は今年夏休み行かれるんですか?」
「んん~行くんじゃないかな。まだ聞いてないですけど」
「あ、そうなんですね」
「妃馬さんは?」
「行きますよぉ~」
「北海道?」
「香川のほうです」
「北海道は?」
「冬に行きますね」
「匠ん家とおんなじだ」
「そうなんですね」
「もしかしたら近いかもですよ?」
「それはどうかなぁ~。北海道広いから」
「でっかいどーですからね」
「地元の人も言ってるくらいですから」
「テレビで見たことあります。なんか釣り行くのですら何時間もかかるとか」
「らしいですよ」
「話戻りますけど、香川いつ行くんですか?」
「えぇ~っとですね」
妃馬さんがスマホを取り出す。なにかを確認して
「17、18、19です」
「あ、3泊するんですね」
「そうですね。遠いし」
「ほあぁ~」
「ほあぁ~って」
妃馬さんが笑う。
「お気をつけて」
「はい。ありがとうございます」
フライドポテトを食べ終え、ドリンクバーを2杯おかわりして、ファミレスを出た。
その後もテキトーに歩いて、テキトーなお店に入って、運命的な出会いを求めたが
独特なデザインのスマホケースなどは見つけたものの
お目当てのスマホケースと出会うことはできなかった。
お店を出て、スマホを出し、ホームボタンを押す。鹿島からの通知。

「ちょっと奥多魔のほうまで行ってまいりました」

「奥多魔」
呟く。
「奥多魔?」
「あ、いや。鹿島ともっさん奥多魔まで行ったらしいです」
「あ、そうなんだ」
「いいですよね。ドライブも」
「たしかに。免許ねぇ~」
「めんどくさそうですよね」
「そこですよねぇ~」
「あ、妃馬さんもめんどくさそうって思うんですね」
「思いますよぉ~、まあ。今までずっと学校で勉強してきて、それに加えてまた勉強って…。
それに取ってもそんな運転しなそうだし」
「まあ、東京に住んでるとね。電車で済むし」
「大概そうですね。あとはレンタル自転車もあるし」
「電動キックボードもありますよね」
「あるある」
「ま、使ったことないですけど」
「私もです」
その後時間も時間だったので帰ることにして
いつものように妃馬さんを家まで送り届けて家へと帰った。
夜ご飯を食べ、お風呂に入り、部屋へ戻る。
ベッドに座りテレビを見ながらスマホをいじっていると
音成、妃馬さん、姫冬ちゃん、森本さん
鹿島、匠、僕の7人のグループLIMEに通知があった。

「ひさしぶりにファンタジア フィナーレやりませんか!」

鹿島からだった。その鹿島の一言でその日
ひさしぶりにみんなでファンタジア フィナーレをすることになった。
LIME通話に6人が集まる。
「おいっす~」
「おっす~」
「こんばんはです」
「おすおすぅ~」
「姉さんばんはぁ~」
「こんばんはです!」
「ねーむ」
妃馬さんと一緒にいるのだろう姫冬ちゃんの声もした。
「もっさん眠いんすか」
「眠い」
「珍しい」
「たしかに」
「珍しい」
「ひさしぶりに運転したから。気疲れ?」
「あ、もっさんも運転したんだ?」
「しましたしました。京弥に当日運転交代でして?って言われて」
「京弥…」
「おぉ」
鹿島から森本さんと付き合ったと話を聞いて
初めて森本さんの口から「京弥」呼びを聞き、疑ってはいなかったのだが
改めてこの2人が付き合っているのだと実感した。思わず声が出た。
「キャー!フィンちゃん鹿島先輩名前呼びぃ~」
「姫冬様こないだ聞いたじゃん」
「何回聞いても、いいね!」
「私はまだ慣れない」
「私もー」
「言っとくけど恋ちゃんときも結構な間慣れなかったからね」
「わかる」
「わかります」
同じワールドに集まり、ちょっと狩りをしたり
ボスに挑んだり、ショコボレースをしたりしていた。
バーのようなところに集まり、座って話をする。
「今度の旅行なんだけどさ」
「うん」
「はい」
「オレとふーが運転ということで」
「はい。お願いします」
「お願いします」
「キャー!鹿島先輩の生「ふー」だ!」
「姫冬ちゃんうぃ~」
「鹿島先輩うぃ~」
「そういえば海はどうするの?」
「京弥から聞いたんですけど、男子陣は行く感じなんですよね?」
「いや、うぅ~ん。まあ水着は一応持ってこうかって話は」
「したね。ま、海行かなくてもそんながさばんないから一応持っていこうかってね」
「そうそう」
「てか、計画立てる感じ?」
「なんで?恋ちゃん」
「いや、別に?」
「恋あれでしょ。計画立てるの好きじゃない人」
「あぁ、わかる」
「妃馬さんもですか」
「てかフィンちゃんもだよね?」
「うん。まあね」
「それは鹿島もじゃない?」
「それ言うなら怜ちゃんもでしょ」
「おまけに匠もね」
「全員計画立てない人かい!」
「たしかに」
「それな」
全員笑った。
「あ、そうだ。花火大会あるんですよ」
「あ、京弥から聞きました」
「言ったー。一緒に見ようねぇ~って」
「鹿島ちょっと黙って」
「黙って」
姫冬ちゃんが笑う。
「初日?だよな…6、そうそう。
初日の夜にあるらしいんで初日はとりあえず昼に旅館に行って荷物置いて
なにするかは向こうで決めるとして夜はみんなで花火大会見に行きましょう」
「オッケーです」
「楽しみぃ~」
「オッケー!」
「りょーかい」
「わかりました」
「ま、計画は立てなくともどっか行きたいとかは目星つけといてもいいかもですね」
「たしかに。当日までに考えときます」
「熱海かぁ~なんかあるかなぁ~」
「ま、とりあえず妃馬さんがレベル上がりそうだから
ちょっとレベルの高いボスみんなで倒してレベル上げて終わりにしますか…」
その後に鹿島があくびするのが聞こえた。
そのあくびに釣られたのか誰のあくびするのが聞こえ、僕もあくびが出た。
スマホを手に取り、ホームボタンを押す。1時48分。
鹿島が眠くなるにしては早いが恐らく車を運転して疲れたのだろう。
その後ショコボに乗ってエリアを移動し
妃馬さんの今のレベルより少し高いレベルのボスに挑みに行って
鹿島はタンクの役割、ボスを挑発し攻撃を自分に集中させ
森本さんは魔道士でみんなに攻撃力アップの魔法や
防御力アップの魔法などバフと呼ばれる良い効果の魔法をかけ続け、他4人で頑張って倒した。
妃馬さんのレベルが上がったところでその日はお開きとなった。
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