猫舌ということ。

結愛

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新鮮な日々

第120話

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外に出る。まだ夏は到来していないはずだが夜でも気温は高く、涼しさというのはない。
まだ暖かくはない、ほんの少しだけ涼しいかな?という夜風が肌を撫でる。
夜の香りはまだ春の香りが残っている。気がする。
「ラス1が長かったねぇ~」
「白熱しちゃった」
「しちゃった」
鹿島と匠がわざとらしく舌を出し「てへぺろ」を表現する。
「それだけ好きなことがあるってのは幸せよな」
「たしかに」
「ただの沼だけどな」
匠がパスタを食べるときに結んでいた髪を解く。白い綺麗な髪がふぁさ~っと流れる。
歩いていると派手で綺麗な匠を見る他の人の視線がわかる。
「相変わらず綺麗よなぁ~」
「あんがと」
「触ってみていい?」
「ん?別にいいけど」
鹿島が匠の後ろにいき、匠の髪を触る。
「うわっ意外と硬てーんだ?」
「そうそう。柔らかいのは水分含んだときだね。
乾いたら水分飛ぶから戻す前の春雨みたいなんよ。一応ケアはしてんだけどね」
「うん。予想よりは全然」
「サラサラはしてるでしょ」
「してるしてる。あと良い匂い」
「行きつけの美容院で買ったトリートメントね」
「へぇ~。いいね」
「でも京弥そんな痛んでないからいらんだろ」
「まあね?もっといらないのがこっちにいるけど」
「あぁ、全然いらないね。見よこの綺麗な黒髪を」
自分で自分の髪に手櫛を通す。
「怜ちゃんて1回も染めたことないの?」
「いや?金髪とかあるよ」
「金髪!?」
「うん。今の京弥より全然明るい」
「え、ブリーチしたってこと?」
「そうそう。それこそ、あのブリーチ剤のパッケージの人形の髪くらいの色にはしたよ」
「マジ!?あんな色!?」
「匠と一緒にやったよな」
「うん」
「マジか!?全然イメージできねぇ」
「写真あったかなぁ~」
「写真撮ったっけ?」
「見たい見たい!」
「ちょ、電車で探すわ」
そう言いながら駅に入る。そこで気づく。
「てか、乗る電車ちげーじゃん」
鹿島もハッっとした表情になり
「あ、そうじゃん」
と言う。匠は笑う。
「じゃ、探して後で送るよ」
「楽しみにしてるわ。んじゃ!またねぇ~」
鹿島が手を振って僕たちとは違う改札に入っていく。
匠と僕も鹿島に手を振り、京央線の改札に入り、ホームで電車を待つ。
土曜日の10時過ぎとなると人も多く、並んでいる人の後ろで匠も僕も電車を待つ。
匠はスマホを取り出す。
「あーるーかーなーっと」
チラッっと匠のスマホの画面を覗くと写真をスクロールしていた。
「金髪のとき写真撮った?」
僕も写真アプリを開いて、写真をスクロールして金髪時代の写真を探してみる。
「撮ったはーず」
「マジ?オレ匠のは撮った記憶あるわ」
「うん。ちょくちょく写真撮られてるからな」
「よく知ってんな」
「そりゃオレのほうにスマホ向けて、パシャって音聞こえりゃ気づくだろ」
「まぁ、そうか」
僕の「そうか」の「か」に被せるように
「あ!」
と匠が言う。
「お?あった?」
「ここらへんだわ」
と匠が1枚の写真をタップし、アップにする。
公園で匠が自撮りしたもので匠の顔の奥のほうに僕も小さく写っていた。
「うわっ、なっつ」
僕はもう探すのをやめ、スマホの電源を切り、ポケットにしまう。
匠が今度は写真を右にスワイプする。今度は匠の自撮りではなく、匠が僕を写した写真だった。
「こんなの撮ってたん?」
「撮ってたらしいね」
「若ぁ~」
「高…2かな?」
「たしかそう。あ、3かもだけど」
アナウンスが流れ、電車が来て、電車から乗客が降り切り、乗り込む。
ギュウギュウではないものの満員も満員だった。
でもそんな中でも匠と一緒に匠のスマホで懐かしの写真を見ていく。
なぜか金髪の僕が公園でサンドイッチを食べている瞬間の写真。
公園のテーブルの上にある匠が食べるためであろうナポリタン越しの金髪の僕。
匠がさらに右にスワイプする。
一瞬大きな声が出そうになるが電車内ということを瞬時に判断して
「うっわぁ~、懐かし」
と声を抑え気味で懐かしむ。
「高2だろうな」
金髪にしてプールに遊びに行ったときの駅前の写真だった。
「たけしじゃん。浩人もおる。懐」
「ヤバいね」
「2人と今も連絡とってる?」
「たけしとはちょくちょく」
「懐かしいわぁ~。たけし今なにやってんの?」
「北海道いるらしい」
「え!?北海道!?なんで?」
「大学が北海道らしい」
「随分難儀なとこ行ったな」
「な」
そこからは黒髪ぽっちゃりのたけしと茶髪高身長の浩人と金髪の匠と金髪の僕が
ひたすら楽しそうにプールを楽しんでる写真がスワイプされていった。
「いやぁ~…なんか…辛い」
「わかるわ」
「キラキラしてんなぁ~写真の中のオレら」
「な。夢ちゃんにちゃんと言わないと。青春目一杯楽しみなよって」
「うん。オレが言っとくから。会わんでいい」
「なんで」
「恋が再燃するから」
「ずっと言ってるけどそれ冗談だろ?ガチじゃないよな」
「3割冗談、7割ガチ」
「マジ?」
「いや、まあ本気で聞いたことはないけど、たぶんあいつの初恋、匠だぞ」
「うっそだろ」
「わからんけど、あり得るぞ」
「それがマジなら無駄に傷つけたくはないな。
夢ちゃんはオレにとっても可愛い大切な妹みたいなもんだし」
「ありがとうございます。あ、音成さんの告白成功したら、あいつに会ってもいいかも」
「あぁ~そーゆこと」
「そーゆーこと」
「あ、そうだ。写真送ってやらな」
「鹿島羨ましがりそう」
「羨ましがるだろうな」
そう匠とニヤニヤしながら匠が
鹿島、匠、僕、3人のグループLIMEに先程の匠僕が金髪の写真を数枚送った。
井の蛙線に乗り換えて、匠と別れて、僕は僕で帰路につく。家の玄関の扉を開く。
まだ母と妹はリビングにおり
「おかえり~」
と声をかけてくれた。
洗面所で手洗いうがいをし、自分の部屋で着替え、洗濯物を出し、リビングへ。
「あれ?父さんは?」
キッチンで四ツ葉サイダーを注ぎながら問う。
「お父さんはもう寝ちゃった?のかな?」
「あぁ、部屋に戻ったってことね」
「そうそう。疲れてるんだろうね」
「お疲れ様ですだよ」
「だね~」
ダイニングテーブルの自分の席のイスに座る。
テレビでちょうど今日見てきた劇場版名探偵ロナンのCMが流れる。
おもしろかったなぁ~。と心の中で思う。
しばらくリビングで母と妹と過ごした後、部屋へ戻る。ベッドに座り、スマホの画面をつける。
妃馬さんからの通知に加えて、鹿島、匠、僕、3人のグループLIMEの通知もあった。
まずは妃馬さんとのトーク画面に入る。

「今日は3人でご飯ですか。楽しそう。」
「もうお帰りですか?」

映画に行く前に妃馬さんに
「僕たちも今日出掛けるんです」
とメッセージを送っており、居酒屋でもたまに返信していた。

「焼き鳥食べてきました。」
「はい。もう家で着替えてベッドの上です」

送信ボタンをタップする。
「焼き鳥か~。焼き鳥もありなのか?」
そう妃馬さんと次夜ご飯を食べることがあれば
焼き鳥屋さんもありなのかを考えながらトーク一覧に戻る。
なにやら盛り上がっている鹿島、匠、僕の3人のグループLIMEのトーク画面に入る。

「おぉ!マジで怜ちゃん金髪じゃん!ウケるわw」
「割と似合ってない?」
「まあww似合ってはいるけど、ヤンキー感強いわww」
「まあ怜夢、冷徹クール魔人だからなw」

「誰が冷徹クール魔人だ」
半笑いで呟きながら続きを読む。

「たしかにwwマンガだとキリッっとした目の全然なびかない王子的な感じよねww」
「そうそう!w女の子がみんな声かけられないで、でも崇められてる存在ねw」
「それそれwマジでそれっぽいw」
「それで優しいからなw女子はコロッっといっちゃいそう」
「その「いっちゃう」はカタカナ?w」
「そっちの意味もあるねww」

「また下ネタ」
思わず笑う。

「そういえばだけどさ。匠ちゃんは?」
「?」
「匠ちゃんは金髪か白だけ?」
「いや?黒もあったし、茶髪もしたね」
「匠ちゃんの黒髪!それはそれで見たいな」
「卒アルしかないな」
「それでもいい!」
「いや、卒アルは無理だわ」
「なんでー」
「卒アルの写真ってなんか嫌じゃない?」
「まぁわかるけどw」
匠が写真を送信しました。
「これは極限までブリーチした金髪。
んで2枚目が白にしたかったけど、紫入れ過ぎて紫になったやつ」
「うわースゲェー!もうほぼ白じゃんw
あ、でもこの髪の人見たぞ。あれ匠ちゃんだったん?」
「大学で?大学でならオレかな」
「髪伸ばしてた?」
「まあ、今これだからね。伸ばしてましたよ」
「結んでたでしょ?」
「あぁ、結んでた結んでた」
「あれ匠ちゃんだったんだー」
「そうだったんだー」

そこが一番最新のメッセージだった。

「匠の黒髪写真ないか探してみるわ」

と送って、黒髪の匠の写真を探そうとトーク一覧に戻ると妃馬さんからメッセージが来ており
妃馬さん名前が二番目にあった。妃馬さんの名前をタップする。

「焼き鳥!いいですね!美味しそう」
「私も今ベッドで溶けてますw」

「溶けてるて」
笑いながら返信を打つ。

「今度夜ご飯食べるときがあったら行きますか?」

送ろうか少し迷ったが、送信ボタンをタップする。

「溶けてるwいいっすねwだらぁ~って感じかな?」

トーク一覧に戻ると今度は鹿島、匠、僕の3人のグループLIMEの通知が来ていたが
写真を探そうと、トーク画面には入らず、写真アプリで写真を探す。
スクロールしている間に画面の上部に妃馬さんからの通知
鹿島、匠、僕の3人のグループLIMEの通知が来ていた。
黒髪の匠の写真、茶髪の匠の写真を見つけた。正直なぜあるのかわからなかった。
黒髪の匠の写真は中学や高校1年のの頃の写真だったので
昔使っていたスマホから引き継いだのか
とにかくひさしぶりに見る黒髪の匠に笑ってしまう。
「わっかいなぁ~」
呟きながらLIMEのアプリに戻り、鹿島、匠、僕の3人のグループLIMEのトーク画面入る。

「待ってるぜ!」
「僕と握手?」
「懐かしいww」
「戦隊モノ見てた?」
「見てた見てた」
「握手しに行った?」
「行ったねぇ~。もれなく弟も行ったわ」
「そっか。京弥弟くんいるんだもんね」
「そうそう」
「弟くんが行ったときは一緒に行ったん?」
「行ったよー。弟可愛かったし、弟が戦隊モノ好きなときオレもまだ好きだったし」
「最近まで見てた勢?」
「いや?高校…1年で終わったかな。単純にそそられなかった」
「わかる!オレもそんくらいでやめた。
俳優の顔面クオリティーとともに戦隊モノ、ライダーのデザインもなんか…なんかになった」
「わかるわかる!ライダーのほうが好きだったなぁ~」
「オレもオレも!割とストーリーが大人向けよな」
「そうそう!意外にストーリーがおもしろかったりする」

「こいつら忘れてねぇか?」
現在進行形で進むトークの中、写真マークを押し、写真を選ぶ。
そこで写真を探すことになり
別にわざわざ写真アプリで探す必要なかったな。とほんの少し後悔をしながら
送る写真を選び、送信ボタンをタップする。

「意外とグロかったり、話が怖かったりするのよな」
「そうそう!怖かった記憶あるもん」
写真を送信しました。
「うわ!匠ちゃん可愛い!女の子やん!まあ今もだけどw」
「おい。ついてるもんついてるぞ」
「でも女装したらいけるよね」
「あぁ~男の娘ね。ネタに使えるし、やってみようかな」

「マジかw」

会話に参加する。

「匠ちゃん女装したら写真くれw」
「女装女装…なにすればええんや」
「髪伸ばす?」
「すでに伸びてる」
「あぁそっか」
「メイクは?」
「そっか!メイクだよメイク!」
「してる」
「してる!?」
「じゃなくて、もっと女性的メイク」
「あぁなるほどね」
「え、ちょっと待ってちょっと待って」
「お兄さん?」
「お兄さん?」
「いや、そう。いや違くて。え?メイクしてんの?」
「してるよー」
「え、怜ちゃんは知ってたの?」
「知ってたよ」
「マジか」
「メイクってもあれよ。眉毛描いたり
少しアイライン引いたり、あとは少し唇に色つけたり」
「はえぇ~。メイク男子ってやつだ」
「いやそんなすごいもんじゃない」
「匠は元々の顔が良いから」
「そーゆーこと」
「wwwww」
「でもあれね。匠ちゃん何色でも似合うね」
「え、なに?オレのこと口説いてる?」
「違うよww」

そこからも匠の髪色の話だったり、男子的な会話、下ネタ合戦になって
その日は実況を撮ることなく解散になった。布団に入り、眠りにつく。

日曜日。なに1つ変わったことは起きずに過ぎ去った。
そしてその次の日の月曜、火曜、水曜と変わらぬ日常が過ぎていった。
しかしその間も妃馬さん、音成を家まで送っていっていた。
それが「変わらぬ日常」となっているのが少し嬉しかったりもした。
木曜日。いつも通り、朝起きて家族と朝ご飯を食べ
妹、父を見送り、1限を当たり前のようにサボり、母とお昼ご飯を食べる。
大学へ行く準備を整えて、家を出る。
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