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新鮮な日々
第113話
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ホームに降りてもなお続いた。次第に楽しくなってきていた。
「あれ?笑ってる?」
「笑って~」
「笑ってるでしょ」
改札が近づき一旦やめる。改札に交通系電子マネーをあて、外に出る。
「ほら、やっぱり笑ってる」
「だってしつこいから」
「しつこ…まぁたしかに」
「途中でなんだこれって思っちゃって」
「それは僕も思いました」
妃馬さんの家への道を歩き出す。
「姫冬ちゃんもバスケ部ですよね?」
「そうですね」
「試合見に行ったらりしました?」
「しましたよー。でも姫冬は高校からの初心者だったので
レギュラーにはなれなかったんですけど」
「あら残念」
「でも割とシュートは決めれるほうだったので試合後半に交代して
フィジカルも強いほうではなかったので姫冬以外でパス回して
最終姫冬に回ってきてってのが多かったですね」
「活躍はしてたんですね。すごい」
「シュート決まったら家族で喜んでました」
「微笑ましい」
「怜夢さん家は違うんですか?」
「いや、まぁ違わないですけど、僕あんま試合見るの自体は興味なかったので
スマホいじってて父母が「おぉー!」ってなって
コート見たら、もう自陣に走ってる妹でって感じでしたね」
「あぁ~…」
「まぁもちろんスマホいじってないときもあって、そんときは見てましたけどね?」
「そのときに限って妹さんシュートしなかったり?」
「それ!よく分かりましたね?」
「私もありましたもん。
ちょうど風邪で行けないときの試合で姫冬がシュート決めまくってたってこと」
「うわぁ~辛い。なんなんでしょうねあれ」
「なんなんだろう」
「なんか匠が言ってたな…なんだっけ…。あっ!物欲センサーだ」
「なんか聞いたことある」
「そういや鹿島も言ってたな。
ゲームで欲しいアイテム求めてやると全然出ないって」
「あぁ!フィンちゃんから聞いたのかも」
「そっか。森本さんもゲーム好きですもんね」
「そうそう。あ!聞きました?」
「ん?なにをです?」
「フィンちゃんと鹿島さんだいぶ仲良くなったらしいですよ?」
「あぁ~…。聞いたってか。んん~どうなんだろ。
一緒に出掛けたってのは聞きましたけど、そんな仲良くなってるとは聞いてないかも」
「こないだ一緒にポップアップストア行ったらしいですよ?」
「マジっすか?あいつ…聞いてねぇぞ」
「ふふっ。隠してるんですかね?」
「今度、いやもしかしたら今日みっちり聞き出そ」
「フィンちゃんは話合うから一緒にいて楽しいって言ってました」
「うっわ~。マジか。あ、でも鹿島も初めて?大学で会ったとき
ワックに誘って話したとき、めっちゃ話合って楽しかったって言ってました」
「あぁ!その話フィンちゃんからも聞きました。あの一緒に映画行ったときですよね?」
「そうそう。あのとき森本さん大学来てたらしくて」
「はい。フィンちゃんから「大学顔出すー」って連絡来て
「今日はサボりまーす」って言ったら「おい!」って来ました」
「森本さんのほうが来てない日多いのに」
「ほんとにねー」
「というか僕全然森本さんに会えてないんですよねぇ~」
「あぁ、言われてみればたしかに」
「高校のときのめざめのテレビでのあの姿でしか想像できてないです。
あのルームツアーのときも鹿島と匠は見たらしくて
「めっちゃ美人だった」って言ってたけど僕は見れなかったし」
「めっちゃすれ違ってますね」
「あのめざめのテレビのときから変わってます?」
「んん~そうですね。基本は変わってないと思います。
髪が伸びて、あと染めたくらいかな?」
「ほお~」
そんな話をしていたら、あっという間にいつもの曲がり角に来ていて
いつも通りその角を曲がると根津家の入っているマンションのエントランスが見える。
「今日も来ませんでしたしね」
「あれですか?森本さん、妃馬さんと大体同じ講義取ってます?」
「そ う で す ね。でもフィンちゃん、1年のときに落としてるやつとかも多いので
取ってる講義は多いはずなんですけどね」
「匠と同じだ」
「小野田さんも大学全然行ってなかったんですか?」
「はい」
少し妃馬さんに近づいて、別に小声じゃなくてもいいはずなのになぜか小声で
「あいつ鬱になって」
と言った。すると妃馬さんはなんとも言えない表情になり
「あぁ~…」
と声を漏らした。そして続けて
「実はフィンちゃんも鬱だったときあるんですよ」
と今度は妃馬さんが僕に少し近づいてきて小声でそう言った。
「あ、やっぱりそうだったんですね」
「そうなんですよ」
曲がり角を曲がってから少しゆっくり歩いていたつもりだが
それでもいつの間にかエントランスの前に到着していた。
「なんかすいません。暗い話で終わっちゃって」
「いえいえ。まさか小野田さんも鬱だったとは…」
「なんかこんなこと言ったらあれでしょうけど
匠と森本さんもなんとなく仲良くなれそうだなぁ~なんて思っちゃいました」
「私も!私もそれ思っちゃいました」
目が合い少し照れる。
「妃馬さんと匠は麺類好きでしょ?森本さんと匠は~…まぁ鬱経験者?
森本さんと鹿島はゲーム好き。鹿島と音成さんは~なんだろ。
あぁ、妃馬さんと鹿島も「なんだろ」か」
「んん~まぁそうですねぇ~」
「匠と音成さんは…まぁ…仲良いとかではないし、ねぇ?」
「ねぇ?」
妃馬さんも少しニマニマ顔で僕に合わせてくれる。
なにかもう少し話したいけど、少し話すともう少し
あと少しとなってしまいそうでどうしようか考える。
妃馬さんと僕の間にしばしの沈黙の時間が訪れる。
「じゃ…あ」
と別れの言葉を絞り出す。
「あ、はい」
「じゃ、また明日?」
「明日…5限?」
「そうですね?」
「明日5限休講らしいですよ?」
「マジっすか?」
「らしいっす」
「じゃあ~…明後日?」
「そうですね?」
「じゃ、また明後日」
いつも通り軽く手を振る。
「はい。また明後日」
妃馬さんもいつも通り軽く手を振り返してくれる。
この感じが「いつも通り」になっていることが嬉しく
踵を返し、ニヤけを我慢しながら歩き出す。音楽を聴きながら駅まで歩く。
交通系電子マネーの電子音が近づき、
改札に交通系電子マネーをあて、ホームに入る。電車を待つ。
春から夏に変わりそうな春の夜風より少し暖かく湿気を帯びた風が吹く。
鼻から空気を吸い込む。春に少し夏を感じる。
スマホを取り出し、ホームボタンを押す。妃馬さんからの通知。
いつもの「送っていただいてありがとうございます」のメッセージだと思い
通知欄で確認することなく、通知をタップし、妃馬さんとのトーク画面に飛ぶ。案の定
「今日も今日とて送っていただき、ありがとうございましたm(_ _)m」
のメッセージの後に猫が「ありがとう!」と言ってるスタンプが送られていた。
しかしそのスタンプの後にもう1つメッセージがあった。
「みんなの関係性?の話のときに聞きそびれちゃったんですけど
私と怜夢さんはどんな関係ですか?」
唾を飲み込む。心臓が跳ねるかと思ったが心臓すら跳ねるのを忘れているようだった。
「私と怜夢さんはどんな関係ですか?」
別に体の関係だけがあってその女の子から
「私たちってどんな関係?」と言われているわけでもないのに変な気持ちになった。
「どんな関係」その言葉に惑わされる。
「どんな関係…」
無意識に言葉が漏れる。心臓が自分の仕事を思い出したかのように大きく跳ね始める。
「す…」
「き」と言いかけてやめる。自分の呟こうとしていた言葉にまた心臓が慌ただしく跳ねる。
「妃馬さんと匠は麺類好きでしょ?森本さんと匠は~…まぁ鬱経験者?
森本さんと鹿島はゲーム好き。鹿島と音成さんは~なんだろ。
あぁ、妃馬さんと鹿島も「なんだろ」か」
「匠と音成さんは…まぁ…仲良いとかではないし」
妃馬さんと交わした自分の発した言葉を思い出す。
「妃馬さんとオレの関係か…」
考えていると、もはや懐かしいことを思い出した。
「盛り上がってる!?」
テンション高めの4年生の先輩がグラス片手に乱入してきた。
「仲良くなりました!」
と鹿島が山笠くんと肩を組む。山笠くんもそれに応えるように腕を鹿島の肩に回す。
「おぉ!それは良いね!あっそうだ」
となにかを思い出したように席に戻り
「これさ、2つ頼んじゃってさ。えぇーと?1、2、3、4、5人か。
じゃあオレも入るから、ロシアンルーレットやろ」
と6つのたこ焼きが乗ったお皿を持って戻ってきた。
「いいっすね」
鹿島こういうノリあんま好きじゃないと思ってたけど、ほんとはどう思ってんだろ。
そう思いながらも僕たちも乗ることにした。
「じゃあ、好きなの取ってってー」
と先輩が姫冬ちゃんにお皿を渡す。
各々見た目ではわからないのに少し悩み、結局自分の目と運を信じ選んだ。
先輩の元へ1つのたこ焼きが乗ったお皿が戻る。
「あぁ、狙ってたの君に取られたわ」
と先輩が鹿島を指指す。
「いただきました!」
と鹿島が爪楊枝に刺さったたこ焼きを上げる。
「んじゃ、せーので行くぞ?」
「あっ、いや、オレ猫舌なんすよねぇ~」
とボヤくように、でも先輩にも聞こえるような声量で言う。
「大丈夫大丈夫。猫舌ってあれよ?あのぉ~舌の使い方下手なだけだから
1回たこ焼きみたいな激熱のをバクンッっといけば克服できるって」
と先輩はすでにホロ酔い状態なのか少し上機嫌のような感じで笑いながら言う。
こんなところでも嫌いな言葉が。
そう思っていると
「私も猫舌なんで少し冷ましたいかもです」
そう声をあげたのは妃馬さんだった。
「え、あ、そっか。うぅ~ん。
ホントはみんなで一気のほうが盛り上がるけど…。うん。まぁいいや。
2人は冷ましてからでいいよ。オレたち4人は先食べるから」
そう言い
「せーのっ!」
の先輩の掛け声と共に
先輩、鹿島、山笠くん、姫冬ちゃんが一斉に口の中へたこ焼きを運んだ。
先輩は他のテーブルに行った。
たこ焼きの空き皿を残して。
「先輩にとって良い案に繋がって良かったです。怪我の功名ってやつですかね」
そう妃馬さんに向かって笑いながら言う。
「たしかに。それにこっちは辛い思いも熱い思いもしないで済みましたしね」
そう微笑みながら言う。
「ありがとうございます。助けに入ってくれて。助かりました」
そうお礼を言うと妃馬さんは少し首を傾けて不思議そうな顔を向ける。
「いや、軽い同窓会とかのときとかでもさっきみたいなことがあって
「オレ猫舌なんだよね」とか言ってもオレ以外猫舌いない状況で
「大丈夫大丈夫」で押し切られちゃってオレも結局…。
ってことあったから妃馬さんが味方に来てくれて助かりました。ありがとうございました」
そう言って頭を軽く下げる。
「いえいえ全然全然。私もホントに猫舌ですし
それに私も言われたことありますしね「舌の使い方がへたなだけ」って」
そう言って笑う。そして続けて
「でも私そういうの嫌い…っというかあんまり好きじゃないんです。
「へたなだけ」っていうの。なんて言うのかな?人の苦労を知ろうとしない?
人の気持ちに寄り添おうとせず切り捨てる感じって言うのかな?
でも私はそれも「個性の1つ」だと思ってるんです。
まぁそれはちょっと美化しすぎかもしれませんけどね」
急行の電車が目の前を通過する。強い風が吹きつけ、現在に引き戻された感覚に陥る。
返信を打ち込む部分をタップし、返信を打ち込む。
「もはや当たり前になりましたw」
その後にフクロウが胸に拳をあて「まかせなさい!」と言っているスタンプを送った。
一度指が止まる。深呼吸をし、思ったままを打ち込む。
「僕と妃馬さんですか。僕からしたら恩人?憧れの人?ってとこですかね?
最初に会ったときに同じ猫舌ってだけじゃなくて
僕にはない価値観というか考え方?をしていてすごいなぁ~というか。
なんというか言葉にするのは難しいですね。
…って、すいません。解答になってないですねw」
送信ボタンを押そうとして一度指が止まる。深呼吸し、送信ボタンをタップする。
今打った文が妃馬さんとのトーク画面に表示される。駅構内にアナウンスが流れ、冷静になる。
うわぁ~。なんて文送ってんの?なに?恩人って。なに?憧れの人って。
しかも「どんな関係?」って聞かれてるのに全然解答になってないし。
頭の中で後悔と反省、羞恥が入り混じる。電車がホームに入ってくる。
スマホをポケットにしまう。電車の扉が開く。乗客が降りてきて、乗り込む。
いつも通り扉のサイド、シートの端の壁にもたれかかる。
すぐ降りるため、ただただ窓の外の景色を見ていた。扉が閉まり、ゆっくりと動き出す。
慣性の法則で蹌踉めく。スマホを取り出し、ホームボタンを押す。妃馬さんからの通知。
一度画面から顔を背け、窓の外を流れる景色に目をやる。
先程送った自分の変なメッセージのことがあり
妃馬さんからのメッセージを素直に喜べない自分がいた。
意を決めたように口から息を吐き、もう一度ホームボタンを押し
妃馬さんからの通知をタップし、妃馬さんとのトーク画面に飛ぶ。
「当たり前に…w嬉しい…かな?w」
そのメッセージの後に猫がキャッ!っと顔を隠しているスタンプが送られていた。
普段なら妃馬さんのこのメッセージに99%の喜びがあった僕だが
次のメッセージが気になり、50%も喜べていなかった。
「じゃっあぁ~…猫舌仲間?٩(。˃ ᵕ ˂ )وイェーィ」
妃馬さんの顔文字のお陰で感情が伝わり、一安心することができた。
「ふぅ~」
息を吐く。安心するとメッセージの内容に
顔がどんどんニヤけてきているのがわかり、左手で口元を隠しながら返信を打ち込む。
「当たり前になるのってなんかいいですよね」
フクロウが腕を組み頷いているスタンプ。
「いいですね猫舌仲間wじゃあ次は鹿島と音成さんですね。あとは鹿島と妃馬さんもですね」
送信ボタンをタップする。スマホをポケットにしまい
窓の外を流れる景色を眺める。ガラスに自分の顔が写る。
ニヤけている自覚はなかったが口角の上っている自分の顔が写っていた。
そんな自分の顔を見て、笑ってしまった。そして、そこからはいつも通り。
自分の家の最寄り駅で降り、自分の家へ歩く。玄関の扉を開く。
「おかえりぃ~」
母の声がしたと思ったら、ガチャッ。背後の扉が開く。
「おぉ~」
妹の声。振り返る。
「おかえり」
妹がローファーを脱ぎかけで言う。
「おぉ、夢香もおかえり。てか帰ってきて一発目にオレにおかえり?ただいまが先じゃね?」
「あ、たしかにね」
靴を脱ぎ、シューズクローゼットに入れ、イヤホンを取り、妹に声をかける。
「お兄ちゃんも今帰ったの?」
「そだよー」
「飲みとか行かないの?」
「んん~。あんま飲まないからな」
「合コンとかも?」
「行かないねぇ~」
妹もローファーを脱ぎ、2人で並んで狭い洗面所で手を洗う。
「彼女いないくせに?」
「うるせっ」
腰を横に曲げ、妹にアタックする。
「いった!おらっ!」
妹も僕にお返しとばかりにアタックする。さすがにうがいは交互に行い、2人で階段を上る。
「夢香今高2だろ?」
「うん」
「バスケ部で2年ってーと、もう主戦力だろ」
「んん~。なんとも言えん。まだ5月だから3年生もまだまだやってるから」
「あぁ~ラストイヤーだもんな」
「そうそう。それこそバスケ推薦とかの人もいるし」
「オレんときもいたかなぁ~バスケ推薦」
「お兄ちゃんも続けてればバスケ推薦とか狙えてたかもなのにね」
「それは~まぁしゃーないだろ。先輩の態度が気に食わなかったんだから」
「まぁ、あるよね」
そんな会話が一段落もしていない、キリも良くないのに兄妹だからか、そんなこと気にせず
妹が自分の部屋にあっさりと入る。僕も部屋に入り、部屋着に着替え
洗濯に出すTシャツ、靴下を持ち、部屋を出る。
妹は着替えに時間がかかるのか、僕より先に部屋入ったのにまだ部屋から出てこなかった。
1階に下り、洗面所の洗濯籠に洗濯物を投げ入れ、リビングに入る。
母はダイニングテーブルのイスに座り、スマホを眺めていた。
キッチンに入り、自分のグラスにココティー(心の紅茶の略称)のストレートティーを注ぎ
ソファーへ向かう。ソファーに腰を下ろす。目の前のテレビを見る。報道番組。
「なんか見る?」
背後から母の声。
「あぁ~別にいいや、あんがと」
僕はソファーに寝転がり、スマホを取り出す。
妃馬さんの通知に思わずニヤける。左手を握り、その拳で口元を隠す。
「そうですね。生活の一部になってるというか」
「スタンプを送信しました」
「そこなんですよねぇ~。鹿島さんと恋ちゃん。鹿島さんと私…難しい…」
鹿島と音成さん。鹿島と妃馬さん。
この組み合わせの共通点というか仲良くなるキッカケとかはなんだろう…。
心の中で考える。画面が暗くなる。もう一度ホームボタンを押し
妃馬さんからの通知をタップし、妃馬さんとのトーク画面へ飛ぶ。
「共通点…共通点ねぇ~」
呟くように繰り返す。考えていると
「お兄ちゃん足邪魔」
と妹が僕の足を叩く。
「あぁ」
寝転がっている状態から座り状態になる。
背もたれに寄りかかり、スツールともオットマンとも呼ばれるものに足を乗せる。
「んん~」
スマホの角を額にトントンとあてる。
考えたが答えは出ず、返信を打ち込むことにした。
「生活の一部…?まぁそうかな?」
フクロウが悩んでいるスタンプ。
「どうしてもそこが思いつかないんですよねぇ~。鹿島ゲームしかないから…」
妃馬さんとのトーク画面に僕の送ったメッセージ、スタンプが表示される。
トーク一覧に戻る。そういえば。と思い、鹿島と匠と僕、3人のグループに入り
「明日5限休講らしいぞ」
と送った。と言ってもまぁあいつは
「デートか」
と声に出していた。
「え、なになに?誰がデートしてるって?」
さすがに近くにいた妹は聞き逃すことはせず、食い入るように聞いてきた。
「あ?匠だよ匠」
「えっ!?小野田くんが!?」
「なにショックか?初恋だろ?」
「違いますー。ただの憧れですー」
「ほんとか?匠が遊びにくる度に目輝かせてたくせに」
「うるさっ。で?誰と?」
「誰とって。言っても知らんよ夢香は」
「大学の人?」
「いや、中学1年から同じ学校だったらしい人」
「え、ヤバくない?どーゆーこと?」
まあ事の経緯はだいたい知っていたが、まだすべてをペラペラ話していいもんか?と考え
「いや、どーゆーことかは知らん」
と一旦嘘をついた。
「えぇ~。どーゆーことなんだろ。まぁ小野田くんだからね。
ずっと片想いって子がいても全然不思議じゃないよね」
「まぁなぁ~。そうなると罪な男だよな」
「たしかに。イケメンは罪だね」
「そうなると鹿島もか」
「あぁ~京弥くんはギリヘーキでしょ」
「なんで?アイツも充分イケメンだろ」
「まぁイケメンはイケメンだよ?でもなんか安いわ」
「安い…」
つい笑ってしまう。
「なんだろうね。小野田くんは崖の上に生えた一輪の花。
京弥くんも小野田くんと同じ種類の花なんだけど
花屋に売ってる感じ?毎日見れて、勇気出して飛び込めば買える感じ?」
「まぁ言わんとしてることはわかる」
「んでお兄ちゃんは」
「オレ?」
「お兄ちゃんはねぇ~…わからん」
「なんだよっ」
「なんかとっつき辛そう」
「とっつき辛い?」
「京弥くんと違ってパリピー感はないじゃん?」
「はあ」
「1軍だけど話しかけ辛いタイプ」
「匠と同じじゃん」
「あぁ~一緒にしないで。小野田くんはもう話しかけるのは諦めてるパターン」
「へいへい。サーセン」
「小野田くんに話しかけるのはめっちゃ勇者か、めっちゃなんとも思ってないか」
「お前よくおんなじ学校でもないのにそんなこと堂々と言えるよな」
「いや、あの顔のレベルなんてそうそういないよ?」
「でも猫井戸レベル高いだろ」
「んん~どうなんだろ。そうなんかな。五ノ高校のほうがレベル高いでしょ」
「あぁ~あそこら辺は意味わからんから」
「そう考えると京弥くんレベルがゴロゴロいんのか」
「そうなんかな?」
「京弥くんに聞いてみてよ」
「アイツに聞いたら「オレが一番カッコ良かったで」とか言いそう」
「あぁ~言いそう」
「夢香の中学の友達にいないの?五ノ高校行った人」
「いっぱいいるよ」
「じゃあ、聞きゃいいやん」
「あぁ~もう付き合い薄いしなぁ~」
「へぇ~」
会話に一段落もついていない、キリも良くないところで会話が途切れる。
しばらくすると母がキッチンに立ち、料理をする音が聞こえ始め
それからしばらくして父が帰宅した。家族全員で夜ご飯を食べ、家族団欒。
各々のタイミングでお風呂に入り、各々のタイミングで部屋に戻った。
「あれ?笑ってる?」
「笑って~」
「笑ってるでしょ」
改札が近づき一旦やめる。改札に交通系電子マネーをあて、外に出る。
「ほら、やっぱり笑ってる」
「だってしつこいから」
「しつこ…まぁたしかに」
「途中でなんだこれって思っちゃって」
「それは僕も思いました」
妃馬さんの家への道を歩き出す。
「姫冬ちゃんもバスケ部ですよね?」
「そうですね」
「試合見に行ったらりしました?」
「しましたよー。でも姫冬は高校からの初心者だったので
レギュラーにはなれなかったんですけど」
「あら残念」
「でも割とシュートは決めれるほうだったので試合後半に交代して
フィジカルも強いほうではなかったので姫冬以外でパス回して
最終姫冬に回ってきてってのが多かったですね」
「活躍はしてたんですね。すごい」
「シュート決まったら家族で喜んでました」
「微笑ましい」
「怜夢さん家は違うんですか?」
「いや、まぁ違わないですけど、僕あんま試合見るの自体は興味なかったので
スマホいじってて父母が「おぉー!」ってなって
コート見たら、もう自陣に走ってる妹でって感じでしたね」
「あぁ~…」
「まぁもちろんスマホいじってないときもあって、そんときは見てましたけどね?」
「そのときに限って妹さんシュートしなかったり?」
「それ!よく分かりましたね?」
「私もありましたもん。
ちょうど風邪で行けないときの試合で姫冬がシュート決めまくってたってこと」
「うわぁ~辛い。なんなんでしょうねあれ」
「なんなんだろう」
「なんか匠が言ってたな…なんだっけ…。あっ!物欲センサーだ」
「なんか聞いたことある」
「そういや鹿島も言ってたな。
ゲームで欲しいアイテム求めてやると全然出ないって」
「あぁ!フィンちゃんから聞いたのかも」
「そっか。森本さんもゲーム好きですもんね」
「そうそう。あ!聞きました?」
「ん?なにをです?」
「フィンちゃんと鹿島さんだいぶ仲良くなったらしいですよ?」
「あぁ~…。聞いたってか。んん~どうなんだろ。
一緒に出掛けたってのは聞きましたけど、そんな仲良くなってるとは聞いてないかも」
「こないだ一緒にポップアップストア行ったらしいですよ?」
「マジっすか?あいつ…聞いてねぇぞ」
「ふふっ。隠してるんですかね?」
「今度、いやもしかしたら今日みっちり聞き出そ」
「フィンちゃんは話合うから一緒にいて楽しいって言ってました」
「うっわ~。マジか。あ、でも鹿島も初めて?大学で会ったとき
ワックに誘って話したとき、めっちゃ話合って楽しかったって言ってました」
「あぁ!その話フィンちゃんからも聞きました。あの一緒に映画行ったときですよね?」
「そうそう。あのとき森本さん大学来てたらしくて」
「はい。フィンちゃんから「大学顔出すー」って連絡来て
「今日はサボりまーす」って言ったら「おい!」って来ました」
「森本さんのほうが来てない日多いのに」
「ほんとにねー」
「というか僕全然森本さんに会えてないんですよねぇ~」
「あぁ、言われてみればたしかに」
「高校のときのめざめのテレビでのあの姿でしか想像できてないです。
あのルームツアーのときも鹿島と匠は見たらしくて
「めっちゃ美人だった」って言ってたけど僕は見れなかったし」
「めっちゃすれ違ってますね」
「あのめざめのテレビのときから変わってます?」
「んん~そうですね。基本は変わってないと思います。
髪が伸びて、あと染めたくらいかな?」
「ほお~」
そんな話をしていたら、あっという間にいつもの曲がり角に来ていて
いつも通りその角を曲がると根津家の入っているマンションのエントランスが見える。
「今日も来ませんでしたしね」
「あれですか?森本さん、妃馬さんと大体同じ講義取ってます?」
「そ う で す ね。でもフィンちゃん、1年のときに落としてるやつとかも多いので
取ってる講義は多いはずなんですけどね」
「匠と同じだ」
「小野田さんも大学全然行ってなかったんですか?」
「はい」
少し妃馬さんに近づいて、別に小声じゃなくてもいいはずなのになぜか小声で
「あいつ鬱になって」
と言った。すると妃馬さんはなんとも言えない表情になり
「あぁ~…」
と声を漏らした。そして続けて
「実はフィンちゃんも鬱だったときあるんですよ」
と今度は妃馬さんが僕に少し近づいてきて小声でそう言った。
「あ、やっぱりそうだったんですね」
「そうなんですよ」
曲がり角を曲がってから少しゆっくり歩いていたつもりだが
それでもいつの間にかエントランスの前に到着していた。
「なんかすいません。暗い話で終わっちゃって」
「いえいえ。まさか小野田さんも鬱だったとは…」
「なんかこんなこと言ったらあれでしょうけど
匠と森本さんもなんとなく仲良くなれそうだなぁ~なんて思っちゃいました」
「私も!私もそれ思っちゃいました」
目が合い少し照れる。
「妃馬さんと匠は麺類好きでしょ?森本さんと匠は~…まぁ鬱経験者?
森本さんと鹿島はゲーム好き。鹿島と音成さんは~なんだろ。
あぁ、妃馬さんと鹿島も「なんだろ」か」
「んん~まぁそうですねぇ~」
「匠と音成さんは…まぁ…仲良いとかではないし、ねぇ?」
「ねぇ?」
妃馬さんも少しニマニマ顔で僕に合わせてくれる。
なにかもう少し話したいけど、少し話すともう少し
あと少しとなってしまいそうでどうしようか考える。
妃馬さんと僕の間にしばしの沈黙の時間が訪れる。
「じゃ…あ」
と別れの言葉を絞り出す。
「あ、はい」
「じゃ、また明日?」
「明日…5限?」
「そうですね?」
「明日5限休講らしいですよ?」
「マジっすか?」
「らしいっす」
「じゃあ~…明後日?」
「そうですね?」
「じゃ、また明後日」
いつも通り軽く手を振る。
「はい。また明後日」
妃馬さんもいつも通り軽く手を振り返してくれる。
この感じが「いつも通り」になっていることが嬉しく
踵を返し、ニヤけを我慢しながら歩き出す。音楽を聴きながら駅まで歩く。
交通系電子マネーの電子音が近づき、
改札に交通系電子マネーをあて、ホームに入る。電車を待つ。
春から夏に変わりそうな春の夜風より少し暖かく湿気を帯びた風が吹く。
鼻から空気を吸い込む。春に少し夏を感じる。
スマホを取り出し、ホームボタンを押す。妃馬さんからの通知。
いつもの「送っていただいてありがとうございます」のメッセージだと思い
通知欄で確認することなく、通知をタップし、妃馬さんとのトーク画面に飛ぶ。案の定
「今日も今日とて送っていただき、ありがとうございましたm(_ _)m」
のメッセージの後に猫が「ありがとう!」と言ってるスタンプが送られていた。
しかしそのスタンプの後にもう1つメッセージがあった。
「みんなの関係性?の話のときに聞きそびれちゃったんですけど
私と怜夢さんはどんな関係ですか?」
唾を飲み込む。心臓が跳ねるかと思ったが心臓すら跳ねるのを忘れているようだった。
「私と怜夢さんはどんな関係ですか?」
別に体の関係だけがあってその女の子から
「私たちってどんな関係?」と言われているわけでもないのに変な気持ちになった。
「どんな関係」その言葉に惑わされる。
「どんな関係…」
無意識に言葉が漏れる。心臓が自分の仕事を思い出したかのように大きく跳ね始める。
「す…」
「き」と言いかけてやめる。自分の呟こうとしていた言葉にまた心臓が慌ただしく跳ねる。
「妃馬さんと匠は麺類好きでしょ?森本さんと匠は~…まぁ鬱経験者?
森本さんと鹿島はゲーム好き。鹿島と音成さんは~なんだろ。
あぁ、妃馬さんと鹿島も「なんだろ」か」
「匠と音成さんは…まぁ…仲良いとかではないし」
妃馬さんと交わした自分の発した言葉を思い出す。
「妃馬さんとオレの関係か…」
考えていると、もはや懐かしいことを思い出した。
「盛り上がってる!?」
テンション高めの4年生の先輩がグラス片手に乱入してきた。
「仲良くなりました!」
と鹿島が山笠くんと肩を組む。山笠くんもそれに応えるように腕を鹿島の肩に回す。
「おぉ!それは良いね!あっそうだ」
となにかを思い出したように席に戻り
「これさ、2つ頼んじゃってさ。えぇーと?1、2、3、4、5人か。
じゃあオレも入るから、ロシアンルーレットやろ」
と6つのたこ焼きが乗ったお皿を持って戻ってきた。
「いいっすね」
鹿島こういうノリあんま好きじゃないと思ってたけど、ほんとはどう思ってんだろ。
そう思いながらも僕たちも乗ることにした。
「じゃあ、好きなの取ってってー」
と先輩が姫冬ちゃんにお皿を渡す。
各々見た目ではわからないのに少し悩み、結局自分の目と運を信じ選んだ。
先輩の元へ1つのたこ焼きが乗ったお皿が戻る。
「あぁ、狙ってたの君に取られたわ」
と先輩が鹿島を指指す。
「いただきました!」
と鹿島が爪楊枝に刺さったたこ焼きを上げる。
「んじゃ、せーので行くぞ?」
「あっ、いや、オレ猫舌なんすよねぇ~」
とボヤくように、でも先輩にも聞こえるような声量で言う。
「大丈夫大丈夫。猫舌ってあれよ?あのぉ~舌の使い方下手なだけだから
1回たこ焼きみたいな激熱のをバクンッっといけば克服できるって」
と先輩はすでにホロ酔い状態なのか少し上機嫌のような感じで笑いながら言う。
こんなところでも嫌いな言葉が。
そう思っていると
「私も猫舌なんで少し冷ましたいかもです」
そう声をあげたのは妃馬さんだった。
「え、あ、そっか。うぅ~ん。
ホントはみんなで一気のほうが盛り上がるけど…。うん。まぁいいや。
2人は冷ましてからでいいよ。オレたち4人は先食べるから」
そう言い
「せーのっ!」
の先輩の掛け声と共に
先輩、鹿島、山笠くん、姫冬ちゃんが一斉に口の中へたこ焼きを運んだ。
先輩は他のテーブルに行った。
たこ焼きの空き皿を残して。
「先輩にとって良い案に繋がって良かったです。怪我の功名ってやつですかね」
そう妃馬さんに向かって笑いながら言う。
「たしかに。それにこっちは辛い思いも熱い思いもしないで済みましたしね」
そう微笑みながら言う。
「ありがとうございます。助けに入ってくれて。助かりました」
そうお礼を言うと妃馬さんは少し首を傾けて不思議そうな顔を向ける。
「いや、軽い同窓会とかのときとかでもさっきみたいなことがあって
「オレ猫舌なんだよね」とか言ってもオレ以外猫舌いない状況で
「大丈夫大丈夫」で押し切られちゃってオレも結局…。
ってことあったから妃馬さんが味方に来てくれて助かりました。ありがとうございました」
そう言って頭を軽く下げる。
「いえいえ全然全然。私もホントに猫舌ですし
それに私も言われたことありますしね「舌の使い方がへたなだけ」って」
そう言って笑う。そして続けて
「でも私そういうの嫌い…っというかあんまり好きじゃないんです。
「へたなだけ」っていうの。なんて言うのかな?人の苦労を知ろうとしない?
人の気持ちに寄り添おうとせず切り捨てる感じって言うのかな?
でも私はそれも「個性の1つ」だと思ってるんです。
まぁそれはちょっと美化しすぎかもしれませんけどね」
急行の電車が目の前を通過する。強い風が吹きつけ、現在に引き戻された感覚に陥る。
返信を打ち込む部分をタップし、返信を打ち込む。
「もはや当たり前になりましたw」
その後にフクロウが胸に拳をあて「まかせなさい!」と言っているスタンプを送った。
一度指が止まる。深呼吸をし、思ったままを打ち込む。
「僕と妃馬さんですか。僕からしたら恩人?憧れの人?ってとこですかね?
最初に会ったときに同じ猫舌ってだけじゃなくて
僕にはない価値観というか考え方?をしていてすごいなぁ~というか。
なんというか言葉にするのは難しいですね。
…って、すいません。解答になってないですねw」
送信ボタンを押そうとして一度指が止まる。深呼吸し、送信ボタンをタップする。
今打った文が妃馬さんとのトーク画面に表示される。駅構内にアナウンスが流れ、冷静になる。
うわぁ~。なんて文送ってんの?なに?恩人って。なに?憧れの人って。
しかも「どんな関係?」って聞かれてるのに全然解答になってないし。
頭の中で後悔と反省、羞恥が入り混じる。電車がホームに入ってくる。
スマホをポケットにしまう。電車の扉が開く。乗客が降りてきて、乗り込む。
いつも通り扉のサイド、シートの端の壁にもたれかかる。
すぐ降りるため、ただただ窓の外の景色を見ていた。扉が閉まり、ゆっくりと動き出す。
慣性の法則で蹌踉めく。スマホを取り出し、ホームボタンを押す。妃馬さんからの通知。
一度画面から顔を背け、窓の外を流れる景色に目をやる。
先程送った自分の変なメッセージのことがあり
妃馬さんからのメッセージを素直に喜べない自分がいた。
意を決めたように口から息を吐き、もう一度ホームボタンを押し
妃馬さんからの通知をタップし、妃馬さんとのトーク画面に飛ぶ。
「当たり前に…w嬉しい…かな?w」
そのメッセージの後に猫がキャッ!っと顔を隠しているスタンプが送られていた。
普段なら妃馬さんのこのメッセージに99%の喜びがあった僕だが
次のメッセージが気になり、50%も喜べていなかった。
「じゃっあぁ~…猫舌仲間?٩(。˃ ᵕ ˂ )وイェーィ」
妃馬さんの顔文字のお陰で感情が伝わり、一安心することができた。
「ふぅ~」
息を吐く。安心するとメッセージの内容に
顔がどんどんニヤけてきているのがわかり、左手で口元を隠しながら返信を打ち込む。
「当たり前になるのってなんかいいですよね」
フクロウが腕を組み頷いているスタンプ。
「いいですね猫舌仲間wじゃあ次は鹿島と音成さんですね。あとは鹿島と妃馬さんもですね」
送信ボタンをタップする。スマホをポケットにしまい
窓の外を流れる景色を眺める。ガラスに自分の顔が写る。
ニヤけている自覚はなかったが口角の上っている自分の顔が写っていた。
そんな自分の顔を見て、笑ってしまった。そして、そこからはいつも通り。
自分の家の最寄り駅で降り、自分の家へ歩く。玄関の扉を開く。
「おかえりぃ~」
母の声がしたと思ったら、ガチャッ。背後の扉が開く。
「おぉ~」
妹の声。振り返る。
「おかえり」
妹がローファーを脱ぎかけで言う。
「おぉ、夢香もおかえり。てか帰ってきて一発目にオレにおかえり?ただいまが先じゃね?」
「あ、たしかにね」
靴を脱ぎ、シューズクローゼットに入れ、イヤホンを取り、妹に声をかける。
「お兄ちゃんも今帰ったの?」
「そだよー」
「飲みとか行かないの?」
「んん~。あんま飲まないからな」
「合コンとかも?」
「行かないねぇ~」
妹もローファーを脱ぎ、2人で並んで狭い洗面所で手を洗う。
「彼女いないくせに?」
「うるせっ」
腰を横に曲げ、妹にアタックする。
「いった!おらっ!」
妹も僕にお返しとばかりにアタックする。さすがにうがいは交互に行い、2人で階段を上る。
「夢香今高2だろ?」
「うん」
「バスケ部で2年ってーと、もう主戦力だろ」
「んん~。なんとも言えん。まだ5月だから3年生もまだまだやってるから」
「あぁ~ラストイヤーだもんな」
「そうそう。それこそバスケ推薦とかの人もいるし」
「オレんときもいたかなぁ~バスケ推薦」
「お兄ちゃんも続けてればバスケ推薦とか狙えてたかもなのにね」
「それは~まぁしゃーないだろ。先輩の態度が気に食わなかったんだから」
「まぁ、あるよね」
そんな会話が一段落もしていない、キリも良くないのに兄妹だからか、そんなこと気にせず
妹が自分の部屋にあっさりと入る。僕も部屋に入り、部屋着に着替え
洗濯に出すTシャツ、靴下を持ち、部屋を出る。
妹は着替えに時間がかかるのか、僕より先に部屋入ったのにまだ部屋から出てこなかった。
1階に下り、洗面所の洗濯籠に洗濯物を投げ入れ、リビングに入る。
母はダイニングテーブルのイスに座り、スマホを眺めていた。
キッチンに入り、自分のグラスにココティー(心の紅茶の略称)のストレートティーを注ぎ
ソファーへ向かう。ソファーに腰を下ろす。目の前のテレビを見る。報道番組。
「なんか見る?」
背後から母の声。
「あぁ~別にいいや、あんがと」
僕はソファーに寝転がり、スマホを取り出す。
妃馬さんの通知に思わずニヤける。左手を握り、その拳で口元を隠す。
「そうですね。生活の一部になってるというか」
「スタンプを送信しました」
「そこなんですよねぇ~。鹿島さんと恋ちゃん。鹿島さんと私…難しい…」
鹿島と音成さん。鹿島と妃馬さん。
この組み合わせの共通点というか仲良くなるキッカケとかはなんだろう…。
心の中で考える。画面が暗くなる。もう一度ホームボタンを押し
妃馬さんからの通知をタップし、妃馬さんとのトーク画面へ飛ぶ。
「共通点…共通点ねぇ~」
呟くように繰り返す。考えていると
「お兄ちゃん足邪魔」
と妹が僕の足を叩く。
「あぁ」
寝転がっている状態から座り状態になる。
背もたれに寄りかかり、スツールともオットマンとも呼ばれるものに足を乗せる。
「んん~」
スマホの角を額にトントンとあてる。
考えたが答えは出ず、返信を打ち込むことにした。
「生活の一部…?まぁそうかな?」
フクロウが悩んでいるスタンプ。
「どうしてもそこが思いつかないんですよねぇ~。鹿島ゲームしかないから…」
妃馬さんとのトーク画面に僕の送ったメッセージ、スタンプが表示される。
トーク一覧に戻る。そういえば。と思い、鹿島と匠と僕、3人のグループに入り
「明日5限休講らしいぞ」
と送った。と言ってもまぁあいつは
「デートか」
と声に出していた。
「え、なになに?誰がデートしてるって?」
さすがに近くにいた妹は聞き逃すことはせず、食い入るように聞いてきた。
「あ?匠だよ匠」
「えっ!?小野田くんが!?」
「なにショックか?初恋だろ?」
「違いますー。ただの憧れですー」
「ほんとか?匠が遊びにくる度に目輝かせてたくせに」
「うるさっ。で?誰と?」
「誰とって。言っても知らんよ夢香は」
「大学の人?」
「いや、中学1年から同じ学校だったらしい人」
「え、ヤバくない?どーゆーこと?」
まあ事の経緯はだいたい知っていたが、まだすべてをペラペラ話していいもんか?と考え
「いや、どーゆーことかは知らん」
と一旦嘘をついた。
「えぇ~。どーゆーことなんだろ。まぁ小野田くんだからね。
ずっと片想いって子がいても全然不思議じゃないよね」
「まぁなぁ~。そうなると罪な男だよな」
「たしかに。イケメンは罪だね」
「そうなると鹿島もか」
「あぁ~京弥くんはギリヘーキでしょ」
「なんで?アイツも充分イケメンだろ」
「まぁイケメンはイケメンだよ?でもなんか安いわ」
「安い…」
つい笑ってしまう。
「なんだろうね。小野田くんは崖の上に生えた一輪の花。
京弥くんも小野田くんと同じ種類の花なんだけど
花屋に売ってる感じ?毎日見れて、勇気出して飛び込めば買える感じ?」
「まぁ言わんとしてることはわかる」
「んでお兄ちゃんは」
「オレ?」
「お兄ちゃんはねぇ~…わからん」
「なんだよっ」
「なんかとっつき辛そう」
「とっつき辛い?」
「京弥くんと違ってパリピー感はないじゃん?」
「はあ」
「1軍だけど話しかけ辛いタイプ」
「匠と同じじゃん」
「あぁ~一緒にしないで。小野田くんはもう話しかけるのは諦めてるパターン」
「へいへい。サーセン」
「小野田くんに話しかけるのはめっちゃ勇者か、めっちゃなんとも思ってないか」
「お前よくおんなじ学校でもないのにそんなこと堂々と言えるよな」
「いや、あの顔のレベルなんてそうそういないよ?」
「でも猫井戸レベル高いだろ」
「んん~どうなんだろ。そうなんかな。五ノ高校のほうがレベル高いでしょ」
「あぁ~あそこら辺は意味わからんから」
「そう考えると京弥くんレベルがゴロゴロいんのか」
「そうなんかな?」
「京弥くんに聞いてみてよ」
「アイツに聞いたら「オレが一番カッコ良かったで」とか言いそう」
「あぁ~言いそう」
「夢香の中学の友達にいないの?五ノ高校行った人」
「いっぱいいるよ」
「じゃあ、聞きゃいいやん」
「あぁ~もう付き合い薄いしなぁ~」
「へぇ~」
会話に一段落もついていない、キリも良くないところで会話が途切れる。
しばらくすると母がキッチンに立ち、料理をする音が聞こえ始め
それからしばらくして父が帰宅した。家族全員で夜ご飯を食べ、家族団欒。
各々のタイミングでお風呂に入り、各々のタイミングで部屋に戻った。
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