猫舌ということ。

結愛

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お泊まり会

第106話

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「あ、そうだそうだ」
「ん?なに?」
「昨日妃馬さんたちが見たホラー映画見ようよ」
「あぁ「呪音」?」
「あ、そうそう。なに?森本さんに聞いたの?」
「そうそう。森もっさんも怖いって言ってた」
「音成も怖いって言ってたわ」
「満場一致で怖いんか」
「ま、それはここ3人が怖いって認めればだけどね?」
なぜか鹿島が得意げな顔をこちらに向ける。
「京弥は怖がるに1票」
「オレもそっちに1票」
「おい」
匠がリモコンで操作して「呪音」を再生する。

「あぁ~…無理無理無理。あぁ!この音!」
「鹿島うるさい」
鹿島は恐怖を紛らわせるためか、ぶつぶつ呟きながら
匠はジッっと黙って「呪音」を見る。
僕に「うるさい」と言われたからだろう、鹿島は両手で口を抑えながら見ている。

あらすじとしては主人公はなんの変哲もない女性会社員。
お昼休憩に同僚と外にご飯を食べに行く。
恋バナや仕事の愚痴、くだらない話に花を咲かせている中、同僚の1人がこんな話をする。
「ねぇ、ちょっと聞いてほしいんだけど、私の友達がね今行方不明なの。
友達が行方不明になる直前に会ってたのが私でさ
その子なんかガリッガリに痩せててね?「なに?どうしたの?」って聞いたら
「音…音がするの」って。その1週間後かな?電話しても出ないから、家行ってみたの。
鍵がかかってて開かなくて、しょうがないから帰ったんだけど、そのまた1週間後かな?
警察から電話がかかってきて「行方不明なんですがなにか知りませんか?」って」
「なに怖ーい」
「やめてよー」
なんてその時は冗談半分に聞いてたんだけど
その話をしていた同僚が体調不良で会社に来なくなって
その同僚に電話したら、震え声で「大丈夫」って。
その次の日もまたその次の日も休む同僚を心配して、家に行ったら、ガリッガリに痩せてて
「音が…音が…」って。あの話と同じ。主人公と同じように心配した同僚も家に行った。
その夜その同僚から電話がかかってきた。「その同僚がいない」と。
鍵がかかっておらず、覗いたら誰もいない。ただそこで変な音を聞いたらしい。
そして主人公の周りの同僚が次々と会社を休むようになり
同じセリフを言い、行方不明に。そしてついにその音が主人公に聞こえ…。

というものだった。2時間近くある割とオーソドックスな長さの映画だったが
長くもあっという間ににも思えた。肝が冷えたというのはこの事だろうか。
体の芯が冷んやりしたような感覚になる。
「ハレルヤ、電気をつけて」
匠の一言でリビングに明かりが戻る。
「こっわ…。こっわ…。」
「怖かったなぁ~。当たりだわ」
「いや外れだろ」
「怖いのが当たりで「は?」ってのが外れだろ」
「ストーリーが良かったね」
「たしかに。ストーリーがしっかりしてた」
「ホラー要素もババンッ!って感じじゃなくて
ジャパニーズホラーらしい、こうジワジワと来る感じ」
「妙にリアルで怖いよな」
「ちょ、怜ちゃん。オレリンゴジュース頼む」
「お前キッチン行くのが怖いだけだろ」
「そーんなこーとないし!」
「強がり…じゃあ行っておいで?」
鹿島は胸を張り大股でキッチンへ向かう。匠のほうを向く。匠と目が合う。
匠がイタズラを思いついたようにニヤリと笑い
手首にしていた髪をまとめるヘアゴムを左手の親指にひっかけ、右手で伸ばす。
鹿島の歩いている左側、階段の辺りを狙い
ピンと張ったヘアゴムを支える右手の親指と人差し指を離す。
直線的にヘアゴムが飛んでいき、階段の辺りでテチンッという音をさせる。
「ほっ!」
鹿島は右手に体を折った状態で右に跳ねた。
鹿島は左脇腹を押さえ、プルプルしながらうずくまる。匠と僕はそれを見て笑った。
「めっちゃ怖がってんじゃん」
「京弥ーなんで強がったんー」
「な!別にオレらに強がる必要ないよな?」
鹿島がプルプルしながらゆっくり立ち上がり
「たっ…たしかにな…」
と呟きながら階段に向かい、匠にヘアゴムを飛ばし返す。
「お、サンキュー」
鹿島がリンゴジュースを注いで戻ってくる。
「これ2あるけど見てみる?…ってか2どころじゃないわ。3もあるし、リターンもあるわ」
「うわぁ~なんか嫌な予感」
「わかるわかる」
「2見る人~」
「「は…はぁ~い」」
「乗り気じゃねぇな。まぁいいか。じゃ行くぞ?ハレルヤ、電気を消して?」
匠の一言で電気が消えた。匠が「呪音2」を再生する。

ストーリーのあらすじとしては
1のストーリーで行方不明になった主人公の女性の弟とその友達、4人が主人公の物語。
反抗期真っ只中の1の主人公の女性の弟は高校の夏休み中に
両親と行方不明になった姉の部屋を訪れる。両親にも姉にも反抗期だった弟は
両親が姉の失踪の手掛かりを探す中、姉がお金を隠していないか探すことに。
するとタンスの1段目と2段目を仕切る仕切の裏にお札を見つける。
映画などでしか見たことのないお札に少し怖かったが
友達に話せるネタになると思い剥がしてしまう。
ポケットに入れ、何食わぬ顔をして部屋を後にする。
その夜、お札を入れていた引き出しから妙な音を耳にするも、気にせず眠りにつく。
後日友達に会い、そのお札を見せると案の定、友達も盛り上がりをみせる。
そして友達の1人が
「お前の姉ちゃんの部屋で動画撮ったら、なんか撮れんじゃね?
したらMyPipeで人気になれるだろ」と提案する。
弟も含め全員が乗り気で、次の日の夜に
リビングの引き出しにしまってある姉の部屋の鍵をこっそり持ち出し
友達と4人で姉の部屋に侵入する。
「ここがお前の姉ちゃんの部屋ー?下着とかあんの?」
「おいやめろ」
など各自で騒ぐ。そして動画のオープニングを撮る。
そしてそこから長回しで朝まで4人で騒ぐ。
たまに変な音がするものの驚くほどではない。
「明日はちょっとの音でもリアクションするか」
そう言ってその日は解散。そしてその日の夜、また姉の部屋で録画を開始する。
すると1人あからさまに怖がるやつがいる。弟を含めた他の3人は
「迫真の演技すぎるだろ」と笑う。
その日もそのあからさまに怖がる1人以外はちょっとした音しか聞こえない。
しかし次の日、いつもの集合場所の姉のアパートの前に
あからさまに怖がっていた1人が来ない。電話をすると「音が…音がする…」とだけ言う。
「なんだ。あいつ狂ったか?」
と笑ってその日は3人だけで過ごす。
そして次の日もそいつは集合場所に来ず、4日来ない日が続いた。
痺れを切らし、そいつの実家に訪れる。
インターフォンを押すとそいつの両親が出てくる。
「あの子のお友達?あの子どこにいるか知らない?」
どうやら家にいないらしい。少し雲行きが怪しくなる。
その日も仕方なく3人で動画を撮る。すると1人が「え…なにこの音」と言い始める。
すると次はそいつが来なくなり、家にもいなくなる。そしてもう1人も同じようになり…。

という話だった。恐らく3人とも思っていた2は1より酷い作品だという予想を覆した。
「ハレルヤ、電気をつけて」
匠の一言でリビングが光に包まれる。
「え、めっちゃ怖いやん」
「な。無理なんだけど」
「これ音に敏感になるやつだよな」
「それな」
「もーやめよ?ね?」
「じゃ、寝る準備しますか~」
「寝る前に恋バナしよーね?ね?」
「まぁ恋バナかどうかはあれだけど、まぁ楽しい話はしよう。怖いから」
「そうそう。怖いから」
その後、お風呂場の洗面所で3人で並んで歯を磨いた。
2階に上がり、布団を敷きっぱなしにしていた和室のゲストルームに入る。
「あぁ、なんかタンスも怖ぇわ」
「まぁわかるけど」
「京弥お札ないか見てきなよ」
「あぁ~無理無理」
「いや匠ん家にお札ないって」
「でも無理。タンスの中覗くのが無理」
「まぁわかるな」
鹿島が明かりとBGM替わりにとテレビをつけ、全員布団に入り、匠が電気消す。
「あぁ~怖いわぁ~」
「あの音思い出すよな」
「やめてやめて」
「あ、そうだ」
思い出したとあることを匠に聞く。
「あのさ、あのリンスの片方なんなの?」
「急だな。あれね、京弥には言ったんだけど」
「あれ紫シャンらしい」
「あぁ~そうなのね」
「まぁ元はふつーのリンスなんだけど、そこにマジパニのウルトラバイオレットってのを
量調整して入れてめちゃくちゃシャッフルしてあるから、ワンチャン紫に染まるよって話」
「あぁだからオレには関係ないって言ったのね」
「そそ。京弥はワンチャン紫になるかもだから説明しといた」
「ま、オレがなんなん?これ?って聞いたからってのもあるけどな」
「そうな。怜夢聞かなかったし」
「あぁ~オレもなんか色入れようかなぁ~」
「金髪に近い茶髪似合ってんのに」
「お?マジ?」
「マジマジ」
「あとオレ黒なのに周り2人派手髪は逆に黒髪のオレが浮くから嫌」
「たしかに」
笑う。
「じゃ、恋バナだな」
匠も僕も黙る。テレビの音が流れる。
「おい!黙るなよ!」
「オレ話すことないよ?」
「オレもオレも」
「匠ちゃんは置いとくとして怜ちゃんはあるでしょ!」
「あへぇ~?なんことぉ~」
「まずは!なんで妃馬さん家行ったの!?」
聞かれた。ただ森本さんのことがあるので、どう話すべきか考えながら喋り出す。
「まぁまずはね、あのぉ~姫冬ちゃん。
妃馬さんの妹なんだけど姫冬ちゃんの誕生日プレゼントを一緒に買いに行ったんよ」
「なに!?デートもしてんの!?」
「んん~…デート?デートかなぁ~…」
「いやデート…あ!あの日か!」
「あ?あぁ、あぁあの日あの日」
思い出して笑ってしまった。
「クソがぁ~デート行ってんじゃねぇ~か!」
鹿島が僕の脇腹をくすぐる。そこまで脇腹は弱くなかったが、なんかソワソワしたので
「ごめんごめん」
と謝ってやめてもらった。
「で?」
「んで、まぁ2人で姫冬ちゃんの誕生日プレゼントを買って
で、お昼食べて、井の蛙公園で話して、何時だったっけな?
5時くらい?に帰りますか?って話したら…」
そこからは森本さんの話が絡むことだったので
「オ~レ~が、夜ご飯もどうですか?って誘ったら
じゃあ家でどうですか?って誘ってもらえて
まぁ断るのもどうかと思ってお家に伺ったってとこかな」
「え、マジ?」
「うん。マジ」
「え、それってさ、妃馬さんも怜ちゃんのこと好きなんじゃないの?」
別にそれが事実って訳でもないし、その事実が確定した訳でも
妃馬さんがそう言った訳でもないのに鹿島のその一言で心臓が跳ね、鼓動が高鳴り始めた。
「ねぇ?匠ちゃん」
「んん~…オレはあんま無責任なこと言えないから
そうだね。とは言えないけど、まぁ印象は悪くはないはず」
「そうそう」
「あ、そうなの?かな?」
「じゃないと、実家でしょ?行ったの。妃馬さん一人暮らし?」
「ううん。実家」
「女の子が実家で夜ご飯一緒には印象悪いやつは誘わんよ」
「そうそう」
「ならいいんだけど」
「で?」
「で?って?」
「いや、怜ちゃんは妃馬さんのことどう思ってるのかってこと」
ど直球の球が飛んできた。悩む。どう答えるか悩む。
「んん~…。どうなんだろ」
「好き?嫌い?」
「その2択なら迷わず好きだけど」
「まぁだろうな」
「恋愛的に好き…なのか…」
「まだ迷ってる感じ?」
「いや匠には軽く言ったんだけどさ、恋愛的に好きって認めたら怖いんよちょっと」
「怖い?」
「うん。まぁ恋愛的に好き=まぁ普通は告白して付き合いたいって思うわけじゃん?」
「まぁそうね?」
「そこでもしフラれたら、たぶんもう元関係に戻ることは、まぁ難しいじゃん」
「あぁ~そーゆーことね」
「だからまだ曖昧なうちは決定させたくないんよね」
「あぁ~まぁわからんことはないな」
「鹿島は?今好きな人は?」
「怜ちゃん匠ちゃん」
「そーゆーのいいから」
「えぇ~。…んん~今は~…どうだろ。それこそ恋愛的に好きな人はまだいないかな?」
「まだ?まだってなに」
「そこ引っかかっちゃう?」
「そりゃ、な?」
「うん」
「はぇ~…まぁ2人にならいいかな。全然出会って間もないから
恋愛的に好きかどうかは置いといて、森もっさんにはちょっと惹かれるね」
「おぉ~。そうなん?」
結構ビックリする。
「まぁ趣味が合うってのもそうなんだけどさ、ガチ可愛くなかった?」
「まぁ美人だったね」
「オレ昔のしか知らない」
「あ、昨日見なかったん?」
「そうね、鹿島と匠しか見てないよ」
「もったな!ヤバいよマジ」
「お前もう森本さんのこと好きだろ」
「まぁ好きか嫌いかだったら好きよ」
「いやだろうな」
鹿島が笑った。
「じゃあ匠ちゃんは?」
「あぁ~そういえば匠の恋愛事情、最近聞いてないな」
「まぁあのことがあったからな」
「あのことって?」
「京弥とは長い付き合いになりそうだし言うか」
「いや~ん。嬉しぃ~」
「思い出すの大丈夫なん?辛ない?」
「まぁ思い出そうにも思い出せないんよあの期間のこと」
「あぁ~…」
「え、なに?笑えない話?」
「あぁ…うん。全然笑えない」
「あ、マジ?」
「じゃ、話すよ?いい?」
「あ、はい」
鹿島が布団の上で正座をする。
「いや、別にそんなしなくていいけど…。
まぁザックリよ?ザックリとだけど、元カノと別れて鬱になりました」
「…」
無言の鹿島。
「まぁそんな感じ」
「おぉ…なんて言ったらいいか…」
「まぁ全然覚えてないのよ元カノのこと。たぶんショックすぎて記憶に鍵かけてるんだろうね。
だから全然重い話ではなー…あ、鬱は重いか」
「あぁ…うん…うん?うん」
「鬱になって大学行かなくなった。ってか行けなかった」
「あぁ~なるほどね?だから入学から少ししたら見なくなったのか」
「そーゆーこと」
「え、鬱の期間…あ、これ聞いていいのかな?」
「うん?まぁ覚えてることなら答えられるよ」
「鬱だった期間ってどれくらい?だったの?」
「うぅ~ん…。これもマジで鬱になったらわかると思うんだけど
ガチで時間の感覚がないのよ」
「へぇ~。マジか」
「そうそう。だから大体でいうと3ヶ月くらい?」
「うっ…長っ。長っ…いのか?」
「わからん。短いんじゃない?」
「薬とか飲んだの?」
「極力飲まないほうがいいって言われたから全然飲まなかったよ。抗うつ剤は」
「そうなんだ?」
「あれって鬱と闘いながらも仕事する人とか、そういう人のためというか
鬱ってさ、イメージあると思うけど気分が落ち込むのよ簡単に言うと」
「あぁイメージある」
「んでオレが言ったように時間の感覚もないし、マジでなにも思考が働かないのよ。
社会人の人とかはそれだと仕事に支障きたすじゃん?
だから薬飲んで鬱の症状を軽減させて鬱と闘いながら仕事してるんだと思う。
そーゆー人のための薬だから、オレみたいに大学生とかで全然時間によゆーで休める人は
飲まないでいいなら極力飲まないほうがいいらしい」
「これも聞いていいのかな…。死にたくとかならなかったん?」
「あぁ!それもだわ。死にたいとか思う鬱の場合も危ないからね?
だから薬飲むように勧めるらしいんだけど
オレの場合はマジで死にたいとかすら考えられないくらい思考が停止してたから
助かったのかも」
「良かったぁ~。いや良くないんだけど良かったぁ~」
座っている鹿島がもじもじする。
「まぁ生きててくれて良かったってのは確か」
「ねぇ!そうだよねぇ!」
「まぁ怜夢も連絡くれたしね」
「そりゃそうだろ。急に来なくなって彼女と別れたって聞いたら、なぁ?」
「まぁいろいろなお陰で生きとります」
「ん~良かったわぁ~。で?で?今は?今は?」
「あからさまにテンション切り替えたな」
「だってぇ~、ねぇ?暗い話から切り替えよって」
「まぁオレも気になるからな」
「今?今は音成かな」
僕の頭の上に「?」がみるみうちに増えていく。
僕の脳が匠の言葉を処理するのに時間がかかった。
処理する部署が仕事を終えて、その書類を理解する部署に送る。
今度は理解するのにまた時間がかかった。
「え?え?音成さんてあの音成さん?」
さすがに鹿島も驚く。
「どの音成さんのこと言ってんのかは知らんけど
昨日LIMEのテレビ通話で写ってた音成」
「え?え?匠ちゃんが?音成さんのこと好きなの?」
「まぁ、好きなんだろうな。別に、当たり前だけど音成は「物」じゃないけど
音成を誰かに取られたくはないかな」
中学からの親友だし、最初の彼女も次の彼女も知っていた。
その時だって好きな人の話をしたので
今さら好きな人の話を聞いたところで、どうってことないと思っていた。が
なぜか小っ恥ずかしかった。
「え、音成さんとは付き合い長いんでしょ?」
「うん。最初は中2かな。同じクラスだった」
「おぉ」
「まぁ同じ学校ってので言うと今年でぇ~…」
「9年目かな」
「だね。ヤバ。9年か。スゴいな」
「人生の半分だもんな」
「で?匠ちゃんが好きだって思ったのは?」
「うぅ~ん。まぁ高校くらいからかな?意識し始めたのは」
「え!?マジで!?」
「マジ!?そんなの聞いたことない」
「まぁ意識はあっただけで中、高は遊びで夢中だったし、中3?で彼女できたじゃん?
んで高校に上がるときに別れて、でまた高校でも彼女できて
大学の最初のほうで別れたじゃん?そんな感じだったから
音成への…気持ち?に意識を向けることがなかったんだよね」
「ほお!?ほお!?」
あからさまに鹿島が楽しそうにする。
「んで、まぁ鬱になるわけですよ。そのときに連絡くれてね。そのときかな。
はっきり意識し始めたのは」
「おぉ~。てことは?1年2年3年目?片想いなん!?」
音成さんの反応を見る限り「片想い」ではないんじゃないか?と思いながらも
それは言わずに2人の会話を聞く。
「まぁ~。そうね。たまにLIMEしたりしてたけどね。誕生日とかお正月とかね」
「あぁ~その感じいいねぇ~」
「で、最近になって密に連絡取り始めて、より感じたかもね」
「いいねぇ~!これよ!恋バナは!」
「まぁたしかに楽しいな」
「青春感…ある?かな?」
「それこそ修学旅行の夜したでしょ!」
「え、した?正直した?」
「いや、正直ゲームしたり、スマホいじって終わったと思う」
「だよな。恋バナ…せんかった気がする」
「まぁマンガ、アニメでは定番だよね」
「で話戻すけど、匠ちゃんどうすんの?告んの?」
「んん~まぁ告白~するんじゃない?」
「マジ!?」
「ただ迷うよねぇ~いつにするか」
「わかるわかる」
「早めに告白したいんだけど、シチュエーションどうしようかとかね」
「そうそう!」
「誕生日11月だし、夏祭りっていってもまあまあ先だし」
「5月ねぇ~…」
鹿島の顔がスマホの画面の光で照らされる。
「5月…イベント…イベント…。十三参り、潮干狩り、ゴールデンウィーク
メーデー、八十八夜、憲法記念日…。あ、全然ねぇわ」
「だしょー?だから、まぁ昼くらいから出掛けて夜ご飯食べて、夜どっかで告白するとかな」
「遠出する?」
「いや、そこなんよ。東京ツリーに行くにしても意外と遠いじゃん」
「わかるわかる」
「東京スカイタワーにしても同じじゃん?」
「わかるわかる」
「あぁ、でもそのほうが特別感は出るか」
「あぁ、それはあるな」
「たしかにね」
すると匠の顔もスマホの画面の光で照らされる。
「んん~…と?…こうでこう…。あぁ~1時間くらいだ」
「匠ちゃん家から?」
「まぁ…うん。オレん家というか最寄り駅から」
「あぁ~。その前はどうすんの?」
「あぁ~…スカイタワー…周辺…。あぁ、スカイタワー周辺いろいろあるじゃん」
匠が画面を鹿島と僕に見せる。
「ほおほお。あぁいいね。ショッピングして水族館行って、んで夜ご飯食べて…だね」
「よし。そうするか」
「え、マジで?」
「まぁうん。近いうちに話すよ」
「ひょー!なんかオレまでドキドキするわ」
「な。親友として落ち着かんわ」
「続報を待て」
「ゲームの広告か!」
「いや、匠なんだからアニメかマンガだろ」
「正解」
「呪音」のことなどすっかり忘れて、ドキドキ、ソワソワしながら眠りについた。
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