猫舌ということ。

結愛

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お泊まり会

第102話

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「ハレルヤ、テレビをつけて」
と言い匠がテレビをつけ、ガラスのローテーブルの下に置いてあったリモコンで
nAmaZon(ニャマゾン)プライムを開き
一般の人から集めた投稿動画を収録した有名なシリーズを再生する。
「ハレルヤ、電気を消して」
部屋の照明が消え、暗くなる。
しかし、庭の見える大きな窓ガラスから微かな住宅の明かりや
街灯の明かり、月明かりなどが入り、さほど暗くは感じなかった。
匠もそれを思ったのか
「ハレルヤ、カーテンを閉めて」
と言うと2階の天井まである長いカーテンが両サイドから
シャラシャラ音を立てて閉まり始める。
カーテンが閉まることにより、外からの明かりも徐々に幅が狭まり
左右のカーテンがくっついたとき、テレビの明かりだけで匠邸内部は暗黒に包まれた。
「え、こっわ」
周囲を見渡し、つい声が漏れる。
「え、怜ちゃんこーゆー系苦手?」
嬉しそうな鹿島。
「いや、ん~。まぁ得意ではない。ってか2階とか見てみ?」
鹿島に2階を指指して見せる。
「あぁ…たしかに怖いかもな」
「あとお風呂までの廊下も怖いよ」
匠がリモコンを操作し、後ろを見ずに言う。鹿島と僕は振り返り、キッチン奥を見る。
大きなテレビのお陰でキッチンは微かに見えるものの
お風呂へ続く廊下は本当にそこに世界があるのか疑わしいくらい暗黒に包まれていた。
「ヤバくね?」
「怖すぎね?」
鹿島と顔を合わせる。匠、鹿島、僕でテレビ正面のソファーに悠々と座っていたが
鹿島と僕は真ん中の匠ににじり寄る。
3人で座っても悠々でスペースが余っていたソファーが
3人肩を寄せ合うことでさらにスペースが空く。
「んじゃ、いい?再生するよ?」
なんだか匠も少し怖がっているような気がして
「うん」
鹿島が返事をし、僕は頷くだけで、匠は再生ボタンを押し、様々な投稿動画が再生される。
正直作り物臭いなというものや本物っぽく見せようとしすぎて
「ここに女性が叫んびながら、こちらを見ている顔が写っている」と言われても
「顔に見えた?」
と寄り添う鹿島や匠に聞いても
「いや?」
「わからん」
と言うものなどが多かった。
「なんだぁ~ビビって損したわぁ~」
「一旦飲み物取り行かん?」
「おけー。ハレルヤ、電気をつけて」
匠の一言でリビングの暗闇に光が差し込み、あっという間に光で包まれる。
「あー、オレのグラスにはソラオーラでお願い」
「どしたん?トイレ?」
「いや、クッションとか毛布とかあったほうがそれっぽくない?」
「匠ちゃんナイス!」
「取ってくるからよろしく~」
「あぁ~いよ」
鹿島と僕で冷蔵庫を開き、鹿島はりんごジュースを
僕はココティー(心の紅茶の略称)のストレートティーを
匠のグラスには望み通りのソラオーラを注ぎ、ソファーに戻る。
匠が帰ってくる間にトイレに行ったりした。匠はクッション3つに白い毛布を持ってきて
それぞれ1つずつクッションを抱き、3人横並びで膝に毛布をかけた。
「じゃ、次行くか。ハレルヤ、電気を消して」
匠の一言でリビングがまた闇に包まれる。
ついさっきトイレに行った玄関までの廊下、キッチン奥のお風呂場へ行くための廊下が
またそこに本当に世界があるのかと疑ってしまうほどの暗黒に包まれた。
匠がリモコンでテレビ画面を操作し、先程見たもののシリーズの次を再生する。
先程見たものが期待のハードルを越えることなく、くぐり抜けたため
鹿島はクッションを片手で軽く抱き、ソファーの背もたれに寄りかかり余裕をかましていた。
僕も先程見ていたときは少し強張った体だったが、今は脱力し、腕を組み
その組んだ腕の中でクッションを抱き、脚を組み、まるで評論家のような姿勢でテレビを見る。
先程はあまりにも高いハードルを設置していたが、そのハードルを越えることはなかったので
次設置するハードルは小学生でも跨げるような低いハードルを設置することにした。
映像が進む。次々と設置したハードルを小学生1年生かそれより小さい子が
「うんしょ、うんしょ」と越えていく。次のハードルに近づく。

誕生日のサプライズで火のついた蝋燭を挿したケーキを持った男性が
部屋に入ってきて、加工された女性の声が
「えー!」
などと言っている。撮影者が部屋全体を写し、そこにいた全員が
「ハッピーバースデートゥーユー」を歌い始める。部屋の電気が消える。
蝋燭の明かりと蝋燭の明かりで照らされた周囲が写る。歌が終盤に差し掛かり、最後の
「ハッピーバースデートゥーユー」
と歌い終わり
「「おめでとー!」」
の後に主役であろう女性が
「ありがとー!!」
と言って蝋燭の火を消す。拍手の音が周りを包む。パチンという音と共に部屋に明かりが戻る。
その部屋に続く暗い廊下、最初にケーキを持ってきた男性が入ってきた廊下に
髪の長い女の人の首から上が浮かび上がっていた。
撮影者も拍手をしているのか、カメラが上下に振動する。
その振動に合わせてその女性の顔も上下に動く。合成や作り物とは思えなかった。
その振動の最中もその女性の顔は部屋を見渡すように動いていた。
「おわかりいただけただろうか?」

「わかるわボケェ!」
鹿島が叫ぶ。その声に匠も僕もビクッっとなり鹿島のほうを見る。
先程まで片手で軽く抱いていたクッションを
中の綿か羽毛が出るんじゃないかと思うほど強く抱く鹿島がいた。その気持ちはよーくわかる。
「おわかりいただけただろうか?」
という男性の声の後に何度もリプレイがなされる。
最後2回のリプレイはその部分をアップにしており、最後にはそのアップで静止画になった。
今まで「うんしょ、うんしょ」と可愛く一生懸命跨いでいた小さな子が
ハードルを前に急激に成長し、棒高跳びでもないのに棒高跳びの棒を持って
その低いハードルの上をもの凄い高さで飛び越えた。舐めてかかった事を後悔した。
先程まで少し怖いだけの暗闇がとてつもなく恐ろしい暗闇に変わった。
ついさっき見た映像の女性が潜んでいるように感じる。
正直その映像だけであとは作り物っぽいものや顔に見えないけど
解説する男性の声が「顔が見える」と言って、無理矢理顔に見せるものだった。
しかし、僕ら3人を恐怖させるには、その1本の映像だけで充分だった。
「はい。一回電気つけまーす」
「「はぁ~い」」
3人ともどこか強張った声を出す。
「ハレルヤ、電気をつけて」
リビングが光に包まれる。
「今日寝れっかな?」
「もう暗闇マジ怖い」
「夜中のトイレとかヤバいだろうね」
「え、ハレルヤって誰の声でも反応する?」
「うん。たぶんいける」
「トイレ行くときとか、ハレルヤに電気つけてもらお」
一回飲み物を取りに行き、懲りずにシリーズの続きを見る。
2本見て、1本だけ多少怖い映像があったが、あの映像に敵う怖さはなかった。
「はぁ~うぁ」
鹿島が大あくびをする。
「今日は寝とくか」
「いつもは朝までよゆーなんだけどなぁ~」
「今日は歩いたし、温泉で気持ち良くなったし
普段と違うことだらけでテンションも高かったから疲れたんだろうな」
「それな~。んじゃ、どーする?和室で寝る?どこで寝る?」
「和室がいーな」
「おけー」
グラスを持ち、全員どこか重い腰を上げ、2階へ上がる。
廊下を進み、匠が和室のゲストルームの扉を開く。3人ピタッっと凍りつく。
窓から外の街灯や月明かりなどが差し込み、真っ暗ではないものの、暗い和室は怖かった。
匠が入り口付近のスイッチで部屋の電気をつける。明かりがついた和室は全く怖くはなかった。
ただ押し入れを開けるの抵抗があり、別にいわくつきでも、心霊スポットでもないのに
じゃんけんをして負けた人が押し入れを開けることになった。じゃんけんは一発で決まった。
「んじゃ、開けるぞ?」
鹿島が思い切って押し入れを開ける。
もちろんそこには人も霊もおらず、ただただ布団が詰まっていた。
なぜか全員安心して、鹿島から渡された布団を受け取る。
座椅子から座布団を取り、座椅子を重ね、さらにその上に座布団を重ねて壁際に置く。
暗い色の座卓と呼ばれる和のローテーブルも壁際に寄せる。
川の字になるように各自で敷き布団を敷き、枕を置いて、掛け布団をかける。
全員で布団に寝転がる。
「あぁ~気持ち良いぃ~。寝れるわぁ~」
「布団で寝るの久々だわぁ~」
「わかる!家族旅行以来だわ」
「オレはたまーに布団で寝てる」
「いいな。オレん家布団あんのかな」
「わかる。うちないかも」
それぞれスマホを出し、いじる。妃馬さんからのLIMEが来ていたことを思い出し
即座に妃馬さんからの通知をタップし、妃馬さんとのトーク画面に勢いよく飛ぶ。

「屋上もめちゃくちゃ広いじゃないですか!もう笑っちゃうくらい広いw」

そのメッセージの後に猫がお腹を抱えて大笑いしてるスタンプが送られていた。
さらにそのスタンプの後に

「もう寝ちゃいましたか?」

とメッセージが来ていた。すぐに送られた時間を確認する。
3時11分。まだついさっきだった。僕は怒涛の打ち込みを行う。

「とにかくとんでもないんですよw」

その後フクロウが驚いて目を丸くしているスタンプを送り、続けて

「まだ起きてます。妃馬さんもまだ起きてたんですね?」

と送る。トーク一覧に戻り、通知がわかるように
サイレントモードからバイブレーションモードにして枕元に置く。
「ふぁ~」
と鹿島が息を吐く。僕も鼻から息を吐き出す。
「恋バナでもする?」
「しない」
「ふぁ~あ」
鹿島があくびをする。
「じゃ、電気消すよー」
「「はぁ~い」」
匠が照明のリモコンをピッっと押し、徐々に正面が暗くなり、窓の外からの明かりだけとなる。
「明日なにする?」
「今日な」
「あぁ、もう今日か」
「んん~とりあえず昼起きでしょ」
「あたぼーよ」
「あたぼーよ?」
笑う。
「昼ご飯食べてー」
「食べてー」
「あ、金鉄やるか」
「あぁ、そうだそうだ」
「あ、でもオレパソコン持ってくんの忘れた」
「とりあえず楽しむだけでいいか」
「だなー」
「お昼どうする?カップ麺ならあるけど」
「おぉーいいじゃんいいじゃん」
「まぁ一旦コンビニ行くのもありだよな」
「あり寄りのあり」
「朝起きて」
「昼ね」
「あぁ。昼起きて歯磨いて…あっ。歯ブラシ持ってきてねぇわ!」
「あぁ!オレもだ!」
「たぶん洗面所に予備あるからそれ使えば?」
「マジでホテルやん」
「アメニティーやん」
「それそれ。アメニティーやん」
そんななんてことない話をしているうちに鹿島が会話に入ってこなくなり
鹿島のほうを見ると気持ち良さそうに寝ていた。
「んじゃ、寝るか」
「ん。おやすみ」
「おやすみ」
そう言って寝ようとした。
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