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再会
第85話
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駅へ向かう。改札に交通系電子マネーをあてる電子音が近づき、改札を通り、ホームへ入る。
その道中、どうしても後ろで歩いてあるだろう妃馬さんのことが気になってしょうがなかった。
ホームで電車を待つ間、チラッ、チラッっと左右周辺を確認する。
すると電車のドアの位置、電車を待つ位置2つ空けて、右側に妃馬さんのいるグループがいた。
地味でもなく派手でもない子たちと一緒にいる妃馬さん。
あまりこういう言い方は好きではないが
カーストでいうとカースト上位の陽キャのグループでも
カースト下位の陰キャのグループでもない、中間の子という印象だった。
もちろんみんなブスではないし、むしろ可愛いと思うのだが
僕から見たら、その中でも妃馬さんは一際輝いて見えた。
すると妃馬さんと目が合う。妃馬さんが微笑む。
いつの間にか妃馬さんを目で追っていたこと気づいた。
え、これストーカー予備軍じゃね?
心のに住む住民が「キモいぞー!」「気持ち悪い!」
「ストーカーダメ!」などといったプラカードを掲げていた。僕も
うん。ストーカーにはなりたくない。なりたくないし、ならないから。
と思い心に住む住民を落ち着かせる。前を向き腕を組む。
イヤホンの上から腕を組んだせいでコードが引っ張られてピーンってなったので
腕組みを一旦解いて、イヤホンのコードを外側に出して腕組みをし直す。
するとアナウンスが流れる。
「電車が通過します」
急行が通過するアナウンスがホームに響く。
まもなく各駅停車の電車とは比にならないほどの風という名の舎弟を引き連れて
駅を過ぎ去っていった。髪がもの凄く靡く。左側の髪が口に入る。
口に入った髪を取る。髪を撫で付けて、はねていないかを確認しつつ直す。
スマホをポケットから出し、ホームボタンを押す。
妃馬さんからのLIMEの通知。「スタンプを送信しました」の下に
「お疲れ様です。目合いましたね(๑′ฅฅ‵๑)キャ」
僕はつい妃馬さんのほうに視線を送ってしまう。妃馬さんはお友達と談笑していた。
なぜかメッセージを確認した瞬間ではなく、今心臓が高鳴り始めた。
暗くなった画面を点け直し、妃馬さんのLIMEの通知をタップし
妃馬さんとのトーク画面へ飛び、返信を打ち込む。
「お疲れ様です。ですねw見回してたらたまたま」
嘘をついた。「たまたま」ではない。後ろを歩いているだろう妃馬さんが気になって
ホームで妃馬さんを探し、見つけて、いつの間にか目で追っていたのだから
「たまたま」なはずない。その後にフクロウが大きな翼で
後頭部を掻きながら照れている様子のスタンプを送った。しばらくすると
「間もなく電車が参ります」
とアナウンスがホームに響き、各駅停車の電車がホームに入ってきた。
先程経験した風から比べたら微風に感じる。扉が開き、中の人が降りてくるのを待つ。
残念なことに妃馬さんとは車両が違った。
シートに空きはあったが、すぐ降りるので扉のサイドで立っていることにした。
扉が閉まり、ゆっくりと動き出す。慣性の力で蹌踉めく。
すぐに降りるが、スマホで意味がわかると怖い話を読もうとホームボタンを押す。
妃馬さんからの通知が目に入り
意味がわかると怖い話を読もうという気持ちが一瞬で上書きされる。
「スタンプを送信しました」の下のメッセージを読む。
「たまたまぁ~?本当ですかぁ~?( ¯▽¯ )ニヤニヤ」
嘘です。すいません。
心の中で妃馬さんに謝る。通知をタップし、妃馬さんとのトーク画面に飛び、返信を打ち込む。
「マジですマジですw」
その後にフクロウが「マジで」と言っているスタンプを送った。
すぐに隣の駅について、もうあと1駅で降りるため、ただただ窓の外を眺めて電車を降りた。
降りるときもつい妃馬さんのほうを見てしまった。
妃馬さんを含めて4人いたはずなのに降りてきたのは3人だった。
恐らくそのまま乗っていく子がいたんだろう。改札を出て、乗り換えの電車の改札を通る。
ホームで電車を待つ。そのときもどうしても妃馬さんを探してしまう。いなかった。
もしかしたら大吉祥寺駅で友達と遊んだりご飯食べたりするのだろう。
そう思って、スマホを取り出す。先程のメッセージに妃馬さんから返信が来ていた。
通知をタップし、妃馬さんとのトーク画面に飛ぶ。
「マジだったか…。車両別でしたね」
そのメッセージの後に猫が残念そうにしてるスタンプが送られていた。
そのスタンプで淡い想像をしてしまうがすぐ振り払う。そして返信を打ち込む。
「ですね。お友達とお出掛けですか?」
その後にフクロウが「?」を浮かべているスタンプを送った。
スタンプを送る瞬間に気がついた。
「お友達とお出掛けですか?」
というのは「同じホームに姿を確認できなかったので」と言っているようなものだと。
あぁ。気持ちが悪い。もはや心に住む住民は気持ち悪すぎて
プラカードも掲げずにただただジーっとこちらを見ていた。
ただスタンプを送った瞬間、もう1つ気づいたことがあった。
僕がメッセージを送った瞬間、スタンプを送った瞬間
送った時間の表示の上に既読の文字がついたということ。
え?トーク画面開きっぱなしなの?
そう思った瞬間、返信が来た。
「後ろ見てください」
「?」が頭に浮かんだが言われた通り後ろを振り返る。なんとそこには妃馬さんが立っていた。
驚きと嬉しさが6対4ほどの割合で同時に襲ってきた。そして納得したことがあった。
ホームを見渡しても妃馬さんがいなかったことだ。
ホームを見渡してもいるはずがない。なぜなら後ろにいたからだ。
納得したところで一度冷静になり、右手で右耳のイヤホンを外し
「わぁ~ビックリしたぁ~。どうも」
と言うと
「どうも」
と返してくれた。そこで気がつく。
大吉祥寺で降りた子は3人なはずなのに、また1人減って2人になっていた。
黒髪のショートカット。顔は可愛い系で身長は妃馬さんよりも低い。
僕の妹より少しだけ高いかな?というくらいの身長だ。その子にも
「あ、どうも」
と言う。すると
「どうも」
と小さな声で返してくれた。
「この子が前言ったフィンちゃんのこと唯一知ってる子です」
少し記憶を巡らせる。
妃馬さんのお家に伺ったときに妃馬さんが言っていた。
「はい。でも大学で仲良くなった子ってほんと少なくて、私と仲良い子は5人?で
フィンちゃんと仲良いのは1人かな?みんな女の子で」
思い出した。
「あぁ~はいはい。仲良いとか」
「ですです!あ、こちら」
とまるでバスガイドさんが
「右手に見えますのはー」とするように隣の女の子に手を添えて
「オトナシ レンちゃんです」
と紹介する。オトナシさんは会釈くらいの頭の下げ具合でお辞儀をした。僕も
「あ、どうも」
と軽く頭を下げる。
「でこちらが」
とバスガイドさんのような手を僕に向け
「暑ノ井怜夢さんです」
紹介されたので先程お辞儀したが
「どうも」
と言いながらもう一度頭を下げる。すると
「あ、やっぱりそうだったんだ。あの暑ノ井くんですよね?」
とオトナシさんから呼ばれる。
「ん?あの?えぇ~と、そ う で す ね?」
「あ、私覚えてないですか?」
記憶を巡らせる。申し訳ないが出てこない。
妃馬さんもきょとんとしている。僕もきょとんとしそうだったが
「すいません」
と声を振り絞る。
「中学、高校と一緒です」
脳の処理が追いつかない。
「えっ?」
と一文字だけ溢れ落ち、髪をオールバックのように撫で付ける。そのまま頭の上で指を組む。
「あの…萌佳ちゃんの友達の」
高校生時代の彼女の名前が出てきた。これで高校の同級生ということはほぼ確定となった。
「え、っとぉ~?同じクラスになったことは?」
「あ、中学を含めて一度もないです」
「あ、あぁそうなんだ。ごめん覚えてなくて」
「あ、でも小野田くんとは中学と高校で何回か同じクラスになりました」
匠と同じ中学ということは僕とも同じ中学ということなので
中学でも同級生とということもこれでほぼ確定となった。
「あ、そうなんだ。てことは匠とは仲良かったり?」
「あんまり話したことないです」
どうしたものか考える。するとオトナシさんがスッっと寄って来て、少し背伸びをし小声で
「萌佳ちゃんが暑ノ井くんに卒業アルバムになにか書いてほしいって相談されて
萌佳ちゃんの背中を押していったときにいました」
記憶を巡らせる。だがやはり出てこない。
妃馬さんの手前で元カノの話ということで小声で言ってくれたのだろう。心の中で感謝する。
「あ、ちょっとすいません」
と言って妃馬さんとオトナシさんに背を向け、手に持ったままのスマホのホームボタンを押し
ロックを解除し、妃馬さんとのトーク画面からトーク一覧に戻り、匠とのトーク画面に行き
匠のアイコンをタップし、無料通話のところをタップする。
スマホを耳にあてる。LIME特有の呼び出し音が聞こえる。背後からは
「怜夢さんと同じ中学だったの?」
という妃馬さんの声が聞こえてくる。呼び出し音が数回鳴った後に
「もしもしぃ~?」
とダルそうな匠の声が聞こえた。聞こえた瞬間電話を切る。
そしてメッセージを打ち込み送信する。
「ちょ、ごめん。漢字はわかんないけど、おとなし れんさんって覚えてる?」
すぐに既読がつく。
「なに急に。覚えてるけど」
「どんな子だった?」
「メガネかけて大人しそうな子」
「髪は?ショートカット?」
「いや?たしか肩より長かったな」
「おっけ。ありがと」
スマホの電源を切り
「すいませんすいません」
と言って妃馬さんとオトナシさんのほうを向く。
「オトナシさん、メガネだったとか?」
と聞く。
「はい、今はコンタクトです」
そんなオトナシさんが自分が持っているトートバッグを見る。
「すいません」
と言いトートバッグからスマホを出す。
そして画面を点けた時、表情が一瞬明るくなった気がした。
そうかと思ったらキッっと僕のほうを見て、またにじり寄ってきて
「聞きましたね」
となんとも言えない表情で聞いてくる。
「あ、バレました?」
「まぁ覚えてなくても当然っちゃ当然ですけどね」
「すいません」
すると今まで完全に蚊帳の外だった妃馬さんが入ってくる。
「あ、2人はそんなに知り合いではないのね」
「なんか嬉しそうだね」
オトナシさんが言う。
「んふふ~黙ろうかレンちゃん」
仲良いな。そんなことを思っていると
駅構内にアナウンスが流れ、間もなくしてホームに電車が入ってくる。
扉の右側に寄り、降りる人を待っていると
妃馬さん、オトナシさんも扉の右側、僕の後ろに並んでいた。
降りる人が僕たちのほうに流れてくるため
扉の左側に寄っていた人が電車内の人が降り切る前になだれ込んだ。
僕たちは電車内の人が降り切るのを待って乗り込んだ。
幸いシートはまだまだ空きがあったので
妃馬さんとオトナシさんに先に座ってもらった。
オトナシさんがシートの端、その隣に妃馬さん。
すると妃馬さんが自分の隣の空いてる席をトントンと叩き
「座らないんですか?」
と聞いてくる。あまり座る気はなかったが妃馬さんの一連の言動にやられ、座ることにした。
電車内はみるみる内に混んでくる。
すると若く見えるが灰色の髪に白髪の混じるおばあちゃんが狭苦しそうに立っていたので
今座ったばかりだが譲ろうと決め、立ち上がる。
「「よかったらどうぞ」」
声がハモって左を見る。僕の顔を見る妃馬さんと目が合った。
2人で立って2人で譲っていた。心臓が一度ドクンッっと跳ね、止まったように静かになった。
「あら、どうもありがとうね」
どちらに座るのかわからず、僕と妃馬さん2人で
「あはぁ~いえいえ~」となんとも微妙な顔をしていると
おばあちゃんが奥からおじいちゃんを連れてきて
「譲ってくれたから」
「あ、そうなのか。ありがとね」
「ありがとう」
と言われ、たまたま2人で譲って、たまたまご夫婦だったという
小さな奇跡に妃馬さんと顔を見合わせ笑った。座ったおばあちゃんから
「良かったら食べて?」
と飴を貰って
「ありがとうございます」
と言って妃馬さんと一緒に食べ
「あ、美味しいです。ありがとうございます」
と話したりした。結局そのご夫婦は僕の家の最寄り駅の1つ前の駅で降りた。
席を譲るという世間的には良いことをしたのだが
席を譲った相手が目の前にいて、それが中々の長時間となるとなぜか気まずかった。
降りるときにまた
「ありがとうね」
と頭を下げながら言われ
「いえいえ」
と僕と妃馬さんも軽く頭を下げた。
目の前の席が空いたのになぜか僕も妃馬さんもすぐには座ろうとしなかった。
「あ、僕、次ですから」
と言い僕は座らず妃馬さんだけに座ってもらおうとした。だが
「あ、降りちゃうんですね」
という妃馬さんの言葉が聞こえ、妃馬さんに小声で
「だってオトナシさんいるし、変に思われませんか」
というと妃馬さんがオトナシさんに
「怜夢さんが送ってくれるって」
と言いながらオトナシさんの隣に座る妃馬さん。僕は「え?」と少し焦る。
「お、そうなんですか。優しいですね」
とオトナシさんに言われる。妃馬さんに視線を移す。
妃馬さんはイタズラに成功した子供のような、してやったり顔のような笑顔をしていた。
ということで妃馬さんの隣に座る。そこで気がつく。
「ん?もしかして2人って最寄り駅同じ?」
「そうなんですよ!」
オトナシさんはコクコク頷く。
「あ、それで」
と先程の妃馬さんの「送ってくれるって」発言に合点がいった。
「レンちゃんともそれで仲良くなったっていうか」
オトナシさんはコクコク頷く。
「仲良くなったグループにレンちゃんがいて、みんなで帰るってなったときに方向が一緒で
まさかの降りる駅も一緒で話盛り上がって、で、まさかの帰る方向も一緒。家も近くて」
オトナシさんが首がもげそうになるほど、激しくブンブン頷く。
「まぁ僕はオトナシさんと同級生だったわけで」
苦笑いを浮かべる。オトナシさんはコクコク頷いた後、ジーッっとこちらを見る。
「さーせん」
調子が狂う。
「2人は面識はないの?」
「いやぁ~…」
「私が一方的にあったらしい」
なぜかわからないが、そこでパッっと思い出した会話があった。
その道中、どうしても後ろで歩いてあるだろう妃馬さんのことが気になってしょうがなかった。
ホームで電車を待つ間、チラッ、チラッっと左右周辺を確認する。
すると電車のドアの位置、電車を待つ位置2つ空けて、右側に妃馬さんのいるグループがいた。
地味でもなく派手でもない子たちと一緒にいる妃馬さん。
あまりこういう言い方は好きではないが
カーストでいうとカースト上位の陽キャのグループでも
カースト下位の陰キャのグループでもない、中間の子という印象だった。
もちろんみんなブスではないし、むしろ可愛いと思うのだが
僕から見たら、その中でも妃馬さんは一際輝いて見えた。
すると妃馬さんと目が合う。妃馬さんが微笑む。
いつの間にか妃馬さんを目で追っていたこと気づいた。
え、これストーカー予備軍じゃね?
心のに住む住民が「キモいぞー!」「気持ち悪い!」
「ストーカーダメ!」などといったプラカードを掲げていた。僕も
うん。ストーカーにはなりたくない。なりたくないし、ならないから。
と思い心に住む住民を落ち着かせる。前を向き腕を組む。
イヤホンの上から腕を組んだせいでコードが引っ張られてピーンってなったので
腕組みを一旦解いて、イヤホンのコードを外側に出して腕組みをし直す。
するとアナウンスが流れる。
「電車が通過します」
急行が通過するアナウンスがホームに響く。
まもなく各駅停車の電車とは比にならないほどの風という名の舎弟を引き連れて
駅を過ぎ去っていった。髪がもの凄く靡く。左側の髪が口に入る。
口に入った髪を取る。髪を撫で付けて、はねていないかを確認しつつ直す。
スマホをポケットから出し、ホームボタンを押す。
妃馬さんからのLIMEの通知。「スタンプを送信しました」の下に
「お疲れ様です。目合いましたね(๑′ฅฅ‵๑)キャ」
僕はつい妃馬さんのほうに視線を送ってしまう。妃馬さんはお友達と談笑していた。
なぜかメッセージを確認した瞬間ではなく、今心臓が高鳴り始めた。
暗くなった画面を点け直し、妃馬さんのLIMEの通知をタップし
妃馬さんとのトーク画面へ飛び、返信を打ち込む。
「お疲れ様です。ですねw見回してたらたまたま」
嘘をついた。「たまたま」ではない。後ろを歩いているだろう妃馬さんが気になって
ホームで妃馬さんを探し、見つけて、いつの間にか目で追っていたのだから
「たまたま」なはずない。その後にフクロウが大きな翼で
後頭部を掻きながら照れている様子のスタンプを送った。しばらくすると
「間もなく電車が参ります」
とアナウンスがホームに響き、各駅停車の電車がホームに入ってきた。
先程経験した風から比べたら微風に感じる。扉が開き、中の人が降りてくるのを待つ。
残念なことに妃馬さんとは車両が違った。
シートに空きはあったが、すぐ降りるので扉のサイドで立っていることにした。
扉が閉まり、ゆっくりと動き出す。慣性の力で蹌踉めく。
すぐに降りるが、スマホで意味がわかると怖い話を読もうとホームボタンを押す。
妃馬さんからの通知が目に入り
意味がわかると怖い話を読もうという気持ちが一瞬で上書きされる。
「スタンプを送信しました」の下のメッセージを読む。
「たまたまぁ~?本当ですかぁ~?( ¯▽¯ )ニヤニヤ」
嘘です。すいません。
心の中で妃馬さんに謝る。通知をタップし、妃馬さんとのトーク画面に飛び、返信を打ち込む。
「マジですマジですw」
その後にフクロウが「マジで」と言っているスタンプを送った。
すぐに隣の駅について、もうあと1駅で降りるため、ただただ窓の外を眺めて電車を降りた。
降りるときもつい妃馬さんのほうを見てしまった。
妃馬さんを含めて4人いたはずなのに降りてきたのは3人だった。
恐らくそのまま乗っていく子がいたんだろう。改札を出て、乗り換えの電車の改札を通る。
ホームで電車を待つ。そのときもどうしても妃馬さんを探してしまう。いなかった。
もしかしたら大吉祥寺駅で友達と遊んだりご飯食べたりするのだろう。
そう思って、スマホを取り出す。先程のメッセージに妃馬さんから返信が来ていた。
通知をタップし、妃馬さんとのトーク画面に飛ぶ。
「マジだったか…。車両別でしたね」
そのメッセージの後に猫が残念そうにしてるスタンプが送られていた。
そのスタンプで淡い想像をしてしまうがすぐ振り払う。そして返信を打ち込む。
「ですね。お友達とお出掛けですか?」
その後にフクロウが「?」を浮かべているスタンプを送った。
スタンプを送る瞬間に気がついた。
「お友達とお出掛けですか?」
というのは「同じホームに姿を確認できなかったので」と言っているようなものだと。
あぁ。気持ちが悪い。もはや心に住む住民は気持ち悪すぎて
プラカードも掲げずにただただジーっとこちらを見ていた。
ただスタンプを送った瞬間、もう1つ気づいたことがあった。
僕がメッセージを送った瞬間、スタンプを送った瞬間
送った時間の表示の上に既読の文字がついたということ。
え?トーク画面開きっぱなしなの?
そう思った瞬間、返信が来た。
「後ろ見てください」
「?」が頭に浮かんだが言われた通り後ろを振り返る。なんとそこには妃馬さんが立っていた。
驚きと嬉しさが6対4ほどの割合で同時に襲ってきた。そして納得したことがあった。
ホームを見渡しても妃馬さんがいなかったことだ。
ホームを見渡してもいるはずがない。なぜなら後ろにいたからだ。
納得したところで一度冷静になり、右手で右耳のイヤホンを外し
「わぁ~ビックリしたぁ~。どうも」
と言うと
「どうも」
と返してくれた。そこで気がつく。
大吉祥寺で降りた子は3人なはずなのに、また1人減って2人になっていた。
黒髪のショートカット。顔は可愛い系で身長は妃馬さんよりも低い。
僕の妹より少しだけ高いかな?というくらいの身長だ。その子にも
「あ、どうも」
と言う。すると
「どうも」
と小さな声で返してくれた。
「この子が前言ったフィンちゃんのこと唯一知ってる子です」
少し記憶を巡らせる。
妃馬さんのお家に伺ったときに妃馬さんが言っていた。
「はい。でも大学で仲良くなった子ってほんと少なくて、私と仲良い子は5人?で
フィンちゃんと仲良いのは1人かな?みんな女の子で」
思い出した。
「あぁ~はいはい。仲良いとか」
「ですです!あ、こちら」
とまるでバスガイドさんが
「右手に見えますのはー」とするように隣の女の子に手を添えて
「オトナシ レンちゃんです」
と紹介する。オトナシさんは会釈くらいの頭の下げ具合でお辞儀をした。僕も
「あ、どうも」
と軽く頭を下げる。
「でこちらが」
とバスガイドさんのような手を僕に向け
「暑ノ井怜夢さんです」
紹介されたので先程お辞儀したが
「どうも」
と言いながらもう一度頭を下げる。すると
「あ、やっぱりそうだったんだ。あの暑ノ井くんですよね?」
とオトナシさんから呼ばれる。
「ん?あの?えぇ~と、そ う で す ね?」
「あ、私覚えてないですか?」
記憶を巡らせる。申し訳ないが出てこない。
妃馬さんもきょとんとしている。僕もきょとんとしそうだったが
「すいません」
と声を振り絞る。
「中学、高校と一緒です」
脳の処理が追いつかない。
「えっ?」
と一文字だけ溢れ落ち、髪をオールバックのように撫で付ける。そのまま頭の上で指を組む。
「あの…萌佳ちゃんの友達の」
高校生時代の彼女の名前が出てきた。これで高校の同級生ということはほぼ確定となった。
「え、っとぉ~?同じクラスになったことは?」
「あ、中学を含めて一度もないです」
「あ、あぁそうなんだ。ごめん覚えてなくて」
「あ、でも小野田くんとは中学と高校で何回か同じクラスになりました」
匠と同じ中学ということは僕とも同じ中学ということなので
中学でも同級生とということもこれでほぼ確定となった。
「あ、そうなんだ。てことは匠とは仲良かったり?」
「あんまり話したことないです」
どうしたものか考える。するとオトナシさんがスッっと寄って来て、少し背伸びをし小声で
「萌佳ちゃんが暑ノ井くんに卒業アルバムになにか書いてほしいって相談されて
萌佳ちゃんの背中を押していったときにいました」
記憶を巡らせる。だがやはり出てこない。
妃馬さんの手前で元カノの話ということで小声で言ってくれたのだろう。心の中で感謝する。
「あ、ちょっとすいません」
と言って妃馬さんとオトナシさんに背を向け、手に持ったままのスマホのホームボタンを押し
ロックを解除し、妃馬さんとのトーク画面からトーク一覧に戻り、匠とのトーク画面に行き
匠のアイコンをタップし、無料通話のところをタップする。
スマホを耳にあてる。LIME特有の呼び出し音が聞こえる。背後からは
「怜夢さんと同じ中学だったの?」
という妃馬さんの声が聞こえてくる。呼び出し音が数回鳴った後に
「もしもしぃ~?」
とダルそうな匠の声が聞こえた。聞こえた瞬間電話を切る。
そしてメッセージを打ち込み送信する。
「ちょ、ごめん。漢字はわかんないけど、おとなし れんさんって覚えてる?」
すぐに既読がつく。
「なに急に。覚えてるけど」
「どんな子だった?」
「メガネかけて大人しそうな子」
「髪は?ショートカット?」
「いや?たしか肩より長かったな」
「おっけ。ありがと」
スマホの電源を切り
「すいませんすいません」
と言って妃馬さんとオトナシさんのほうを向く。
「オトナシさん、メガネだったとか?」
と聞く。
「はい、今はコンタクトです」
そんなオトナシさんが自分が持っているトートバッグを見る。
「すいません」
と言いトートバッグからスマホを出す。
そして画面を点けた時、表情が一瞬明るくなった気がした。
そうかと思ったらキッっと僕のほうを見て、またにじり寄ってきて
「聞きましたね」
となんとも言えない表情で聞いてくる。
「あ、バレました?」
「まぁ覚えてなくても当然っちゃ当然ですけどね」
「すいません」
すると今まで完全に蚊帳の外だった妃馬さんが入ってくる。
「あ、2人はそんなに知り合いではないのね」
「なんか嬉しそうだね」
オトナシさんが言う。
「んふふ~黙ろうかレンちゃん」
仲良いな。そんなことを思っていると
駅構内にアナウンスが流れ、間もなくしてホームに電車が入ってくる。
扉の右側に寄り、降りる人を待っていると
妃馬さん、オトナシさんも扉の右側、僕の後ろに並んでいた。
降りる人が僕たちのほうに流れてくるため
扉の左側に寄っていた人が電車内の人が降り切る前になだれ込んだ。
僕たちは電車内の人が降り切るのを待って乗り込んだ。
幸いシートはまだまだ空きがあったので
妃馬さんとオトナシさんに先に座ってもらった。
オトナシさんがシートの端、その隣に妃馬さん。
すると妃馬さんが自分の隣の空いてる席をトントンと叩き
「座らないんですか?」
と聞いてくる。あまり座る気はなかったが妃馬さんの一連の言動にやられ、座ることにした。
電車内はみるみる内に混んでくる。
すると若く見えるが灰色の髪に白髪の混じるおばあちゃんが狭苦しそうに立っていたので
今座ったばかりだが譲ろうと決め、立ち上がる。
「「よかったらどうぞ」」
声がハモって左を見る。僕の顔を見る妃馬さんと目が合った。
2人で立って2人で譲っていた。心臓が一度ドクンッっと跳ね、止まったように静かになった。
「あら、どうもありがとうね」
どちらに座るのかわからず、僕と妃馬さん2人で
「あはぁ~いえいえ~」となんとも微妙な顔をしていると
おばあちゃんが奥からおじいちゃんを連れてきて
「譲ってくれたから」
「あ、そうなのか。ありがとね」
「ありがとう」
と言われ、たまたま2人で譲って、たまたまご夫婦だったという
小さな奇跡に妃馬さんと顔を見合わせ笑った。座ったおばあちゃんから
「良かったら食べて?」
と飴を貰って
「ありがとうございます」
と言って妃馬さんと一緒に食べ
「あ、美味しいです。ありがとうございます」
と話したりした。結局そのご夫婦は僕の家の最寄り駅の1つ前の駅で降りた。
席を譲るという世間的には良いことをしたのだが
席を譲った相手が目の前にいて、それが中々の長時間となるとなぜか気まずかった。
降りるときにまた
「ありがとうね」
と頭を下げながら言われ
「いえいえ」
と僕と妃馬さんも軽く頭を下げた。
目の前の席が空いたのになぜか僕も妃馬さんもすぐには座ろうとしなかった。
「あ、僕、次ですから」
と言い僕は座らず妃馬さんだけに座ってもらおうとした。だが
「あ、降りちゃうんですね」
という妃馬さんの言葉が聞こえ、妃馬さんに小声で
「だってオトナシさんいるし、変に思われませんか」
というと妃馬さんがオトナシさんに
「怜夢さんが送ってくれるって」
と言いながらオトナシさんの隣に座る妃馬さん。僕は「え?」と少し焦る。
「お、そうなんですか。優しいですね」
とオトナシさんに言われる。妃馬さんに視線を移す。
妃馬さんはイタズラに成功した子供のような、してやったり顔のような笑顔をしていた。
ということで妃馬さんの隣に座る。そこで気がつく。
「ん?もしかして2人って最寄り駅同じ?」
「そうなんですよ!」
オトナシさんはコクコク頷く。
「あ、それで」
と先程の妃馬さんの「送ってくれるって」発言に合点がいった。
「レンちゃんともそれで仲良くなったっていうか」
オトナシさんはコクコク頷く。
「仲良くなったグループにレンちゃんがいて、みんなで帰るってなったときに方向が一緒で
まさかの降りる駅も一緒で話盛り上がって、で、まさかの帰る方向も一緒。家も近くて」
オトナシさんが首がもげそうになるほど、激しくブンブン頷く。
「まぁ僕はオトナシさんと同級生だったわけで」
苦笑いを浮かべる。オトナシさんはコクコク頷いた後、ジーッっとこちらを見る。
「さーせん」
調子が狂う。
「2人は面識はないの?」
「いやぁ~…」
「私が一方的にあったらしい」
なぜかわからないが、そこでパッっと思い出した会話があった。
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サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
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