猫舌ということ。

結愛

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動き

第64話

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「ここですね」
「入れますかね」
13時過ぎというバッチリお昼の時間帯ということもあり
席が空いているか少し不安ながらもお店の扉を押して中に入った。
木製の扉を押すと扉の上部に取り付けられていた金属の装飾がカランカラン鳴る。
「いらっしゃいませ」
と腰巻きのエプロンをした女性の店員さんが接客してくれた。
「あ、席って空いてますか」
そう聞くと
「はい。空いております」
と笑顔で答えてくれた。
「じゃあ2名お願いします」
「2名様ですね。ではお席にご案内いたします」
そう言う店員さんの後をついて行き席に座る。
「こちらがメニューになります」
とテーブルの下からメニューを取り出し、僕と妃馬さんそれぞれに渡してくれる。
「お水とおしぼりをお持ちしますので少々お待ちください」
と少し頭を下げ、キッチンのほうへ行く店員さん。
「どうします?」
「んん~…。まぁボロネーゼは間違いないですよね」
と写真の無い文字だけのメニュー表のボロネーゼの文字を指指す妃馬さん。
「あとミートソースも裏切りませんよね」
と僕はミートソースの文字を指指す。
「わかります。…ん?…ミートソースとボロネーゼ。なにが違うんだろう…」
と妃馬さんが小声で呟く。僕も視線を右上に送り少し考える。
自分の中で答えは出ず、僕はスマホを取り出し検索する。
Hoogle(ホーグル)の検索欄に「ミートソース ボロネーゼ 違い」と入れて
検索ボタンをタップすると大まかな解答が出てきた。
「ミートソースは細麺でボロネーゼは平麺だそうです。
あとボロネーゼはお肉ゴロゴロだそうです」
とさらに大雑把に説明した。
「あぁ!言われてみれば!」
と妃馬さんが納得したところで
「お待たせしました。こちらおしぼりでこちらお水になります。
ご注文お決まりでしたらお伺いします」
とおしぼりと水を出してくれた店員さんがそう言ってくれたがまだ決めていなかったので
「すいません。まだなのでまた声かけさせていただきます」
と言うと
「あ、いえ。ごゆっくりお選びください。失礼します」
と軽く頭を下げてキッチンのほうへ行った。
「どうします?」
改めて妃馬さんに聞く。
「んん~…。ミートソースかボロネーゼですかねぇ~…。怜夢さんは決まってます?」
とパスが回ってきた。
「あぁ~僕はペペロンチーノの辛さレベル2くらいを頼んでみようかなと」
とメニュー表のペペロンチーノの下に追加で書いてある
辛さレベルのレベル2の部分を指指す。
「辛いのお好きなんですか?」
「んん~好きってほどじゃないけど…。嫌いではない?」
「チャレンジですか?」
「んん~まぁ?興味本位ですかね」
「興味本位…そう言われると気になるな」
「ミートソースかボロネーゼで悩んでたんじゃないんですか」
と笑うと妃馬さんはハッっとし
ペペロンチーノの文字からミートソースとボロネーゼの文字に視線を戻す。
「ミー…ボロネーゼにします」
「今ミートソースって言いかけた」
「やっぱミートソースにします」
その優柔不断さ加減が可愛くて微笑みながら
「はい」
と了解する。そして
「すいませーん」
と普段よりは大きい声で、ただうるさくない程度の声で店員さんを呼ぶ。
すると少し早足の足音が聞こえ
「はい。ご注文お決まりでしょうか」
と注文を聞きに来てくれたので
「はい。えぇとミートソースを量75%で」
「はい。ミートソース75」
「ペペロンチーノも量75%で辛さレベル2でお願いします」
「はい。ペペロンチーノ辛さ2の75ですね」
「あ、あと取り皿ってもらえたりしますか?」
「はい。取り皿ですね。お2つでよろしいでしょうか?」
「あ、はい。お願いします」
「はい。では少々お待ちください」
と頭を下げキッチンのほうへ下がっていく。
「取り皿ありがとうございます」
と妃馬さんが僕にお礼を言う。
「いえ、妃馬さんにもペペロンチーノ食べてもらおうと思っただけです」
とイタズラを思いついたときの少年のようなニヤつきを顔に出す。
「辛かったらやだなぁ~」
「辛いの苦手ですか?」
「んん~怜夢さんと同じ感じかな」
「なるほど」
「あ、飲み物頼んでなかった」
「あ、たしかに」
と辛いものを頼んでいたのに失念していた。
今一度メニューを開き、ドリンクと書かれた箇所を見る。
オシャレなパスタ屋さんだけあって飲み物の種類はそんなに多くなかった。
しかしその少ない枠の1つにソラオーラの名前があり、さすがはソラオーラと思った。
「私メロンソーダにしよ」
「いいですねメロンソーダ。僕はソラオーラにします」
と言うと今度は妃馬さんが
「すみませーん」
と店員さんを呼ぶ。奥からまた早足の足音が聞こえてきて先程の店員さんが出てきた。
「はい」
「あ、すみません。追加注文いいですか?」
と妃馬さんが少し申し訳なさそうに言うと
「はい。もちろんです」
と笑顔で対応してくれる。
「ソラオーラとメロンソーダをお願いします」
「はい。ソラオーラとメロンソーダですね。パスタと一緒にお持ちしましょうか?」
と聞いてくれた。僕と妃馬さんは目を合わせ頷く。
「はい。お願いします」
と妃馬さんが言うと
「かしこまりました。少々お待ちください」
と頭を下げキッチンへ戻る。パスタが席に届けられるまで2人で何気ない会話をしていた。
足音がこちらへ近づいてくるのに気づき
「お待たせいたしました」
と茶色の木製のお盆にパスタ2種類と2枚重ねた小さなお皿と
よくわからない籠と飲み物を乗せた店員さんがやってきた。
「こちらがペペロンチーノ辛さレベル2です」
と店員さんが言うので吐息のような「あっ」というのを漏らし、軽く右手を挙げる。
すると店員さんは僕の前にペペロンチーノ置いてくれた。
必然的にもう片方のミートソースは妃馬さんの注文となるので
店員さんはなにも言わずに妃馬さんの前にミートソーススパゲッティを置く。その後に
「こちらがメロンソーダになります」
と言うので今度は妃馬さんが「あ、はい」と言い手を上げる。
妃馬さんの前にメロンソーダが置かれる。
もう片方のソラオーラは必然的に僕の注文となるので
店員さんはなにも言わずに僕の前にソラオーラを置く。
「こちら取り皿になります」
と重ねたお皿を置く。その後よくわからない籠をテーブルに置く。
その籠にはフォークやスプーン紙ナプキンが入っていた。
「ではごゆっくり」
と頭を下げキッチンへ戻る。
美味しそうなニンニクの香りとペペロンチーノ独特の香りが食欲をそそる。
向かいの妃馬さんのミートソースの香りも漂って香る。トマトとお肉の香りがメインだ。
僕と妃馬さんは手を合わせ
「いただきます」
と言いフォークを取ろうとすると妃馬さんが渡してくれた。
「あ、ありがとうございます」
と言うと妃馬さんは
「いーえ」
とニコッっと笑う。ドキッっとする。
2枚重なった取り皿の上のお皿を取り、量75%の3分の1のペペロンチーノの取り分け
「よかったらチャレンジしてみてください」
と妃馬さんのミートソーススパゲッティのお皿の横に置く。
「あ、ありがとうございます。じゃあ」
と言いもう1枚の取り皿にミートソーススパゲッティを取り分け
「どうぞ」
と僕にくれた。
「ありがとうございます」
と言い受け取る。僕はまずペペロンチーノのお皿にフォークを突き立て
3回ほどフォークをクルクルと回し、パスタをフォークに巻き付ける。
そのフォークを口へ運び、パスタだけを口の中に残し、フォークを抜き取る。
口に入れるとまずニンニクの香りが口を支配し、鼻から抜ける。
その後に塩味、そして恐らく辛さレベルを調整するためであろう
唐辛子の効いたオリーブオイルの辛さが舌をジンジンとさせる。
「あぁそこそこ辛い」
美味しさのほうが圧倒的に勝っているが舌がジンジンする。
「え、ヤバいですか?」
ミートソーススパゲッティを巻きながら妃馬さんが聞いてくる。
「いや美味しさのほうが圧勝です」
「お、そうなんだ。ちなみにミートソースも超美味です」
と言った後フォークに巻き付けたミートソーススパゲッティを口に入れる妃馬さん。
「じゃ、いただきますね」
と言いながら今度はミートソーススパゲッティを巻き付ける。
口に入れるとトマトとお肉の合わさった「ミートソース」の香り、味が口いっぱいに広がる。
先程のペペロンチーノの匂いがまだ鼻に残っているのか
フォークに残っているのか、ほんの少しニンニクの香りもした。
「うわっ美味しっ」
「なんかミートソースって懐かしい感じしますよね」
「わかります。小学校、中学校思い出します」
「そう!給食ね!」
「はい。給食です」
「あの銀色のおっきな箱?に薄黄色の麺がいっぱい入ってて」
「うわっ、懐かしっ。んで銀色の円柱状のやつにミートソースが入ってるんですよね」
「そうそう!懐かしいなぁ~」
「懐かし」
なぜか少し心が寂しさを感じた気がした。
「このミートソースは本格的な味なのになぜか懐かしいんですよ」
「きっとミートソースはどこかで繋がってるんですよ」
「人類皆兄弟的な?」
「んん~まぁ?」
と言い2人で笑った。
「よし。食べてみよ」
と小声で言った妃馬さんはミートソースのついたフォークを1度口に入れ
舐め取ってからペペロンチーノを巻き付ける。口に入れ味わう妃馬さん。
「あっ!美味しい!」
「そう。美味しいんですよ」
「うん!全然辛く…」
その続きを言いかけて止まる。
「あ…舌ジンジンしてきた」
と言いメロンソーダを飲む妃馬さん。
「結構辛いじゃないですか」
と眉間に皺を寄せ少し困り顔で言う妃馬さん。
「でも美味しさが圧勝でしょ?」
と聞くと少し考え
「5対2で美味しさ勝利です。でも圧勝ではありません」
と言う妃馬さん。
「5対2?何の競技ですか」
と笑いながら聞く。
「サッカーです」
「え?サッカーなら5対2なら圧勝でしょ」
「そうなんですか?」
「知らなかったんですか」
と笑う。
「なんとなくは?」
「だいたい3対2とか3対1とかですよ」
「へぇ~知らなかった」
「鹿島の弟くんがサッカーしてるんですよ」
「あぁ!へぇ!そうなんですね!」
「鹿島もサッカーしてたんだっけな」
「あ、サッカー部だったんですか?」
「ん~たしか?」
「怜夢さんは何部だったんですか?」
「あ、僕ですか?中学はバスケしてましたね。高校は~、ほとんど部活してなかったですね」
「ほとんど?」
「はい。中学の頃、まぁ強くはなかったですけどバスケやってたので
高校でもバスケ部入ろうと思って入ったんですけど
1年で先輩との反りが合わなくて辞めました」
ふとその頃の映像が頭の中で流れた。バレーボールや
バスケットボールなどのいろいろな色のいろいろな線が引かれたピカピカの床に
跳ねるオレンジ色のバスケットボール。
床にバスケットボールシューズが擦れるキュッキュッっという音。
ただ鼻から抜けるニンニクの香りと目の前で
「あぁ…」
と聞いちゃいけなかったかな?という様子で
少し眉間に皺を寄せ頷く妃馬さんを見たら一瞬で頭が切り替わった。
「妃馬さんは?なにか部活してたんですか?」
「私は料理部でした」
「料理部!?」
聞いたことのない部活に驚く。
「はい」
「料理をする部活?」
「はい。そのまんまですね」
「へぇ~そんな部活あるんですね」
「なかったですか?」
「んん~あったのかな?わかんないです。じゃあ妃馬さん料理得意なんですか?」
「んん~得意な方になりましたね。
元々苦手で人並みにできるようになるために入ったんです」
「なるほどですね」
と部活の話で盛り上がり、気づけば僕のお皿にはオリーブオイルのテカリと
輪切りの唐辛子が数個残っているだけになり
妃馬さんのお皿には細かく切られた野菜の欠片
お肉の欠片、ミートソースが少しお皿についているだけとなった。
僕と妃馬さんはそれぞれ紙ナプキンで口元を拭き
「美味しかったですね」
「常連になりそうです」
と会話を交わす。
「これ飲み切ったら出ますか」
「そうですね」
とまだ半分ほどある飲み物を飲みながら会話をする。
「あ、そういえば昨日LIMEで言った私の幼馴染覚えてます?」
唐突な質問に思考を巡らせるとすぐにゴールに行き着いた。
「あ、はい。あのゲーム好きと言っていた方ですよね?」
「あ、そうですそうです。その子もファンタジア フィナーレやってくれるそうです」
「お!パーティー増えましたねぇ。その方とはいつからの幼馴染なんですか?」
「あ、小学校からですね」
そこから妃馬さんとその幼馴染の方の話を聞いた。
「小学3年のときに転校してきたんですよ。ドイツから」
「ドイツから!?」
「ドイツとのハーフなんですよ。フィンちゃん」
「ハーフ!?フィンちゃん!?」
「あ、はい。森本デルフィンていうんですけど」
「カッケェ名前…」
「カッコいいですよね」
と妃馬さんの言葉を聞く前になぜかその名前に引っかかり考えた。
「なんか聞いたことある…」
と机の木目を見ながら考える。
「モリモトって木の森に読む本の本ですか?」
「はいそうですよ。でカタカナでデルフィンです」
「ふぅ~ん」
と鼻から息を出しながら悩む。
「なんかやってました?」
と聞くと妃馬さんは少し悩んだあとに
「ちょっと本人に聞きますね」
と言いながらスマホを出し、両手で手慣れた手つきでスマホを操作する妃馬さん。
本人に聞くってなんだろうと思いながらもソラオーラを飲む。
その後妃馬さんと雑談をしていたが、僕のグラスと妃馬さんのグラスが空になるまで
恐らくその妃馬さんの幼馴染から連絡が来ることはなかったのだろう。
その話の続きが話されることはなかった。
「じゃあそろそろ出ましょうか」
「そうですね」
そして僕はテーブルの端に置かれた伝票を取り、レジに向かう。
「あ、お会計ですね。ありがとうございます」
と言いながらレジを操作する店員さん。
「お会計2620円になります」
僕はバッグから財布を取り出し、千円札を1枚取り出し
小銭の入った部分のジッパーを開く。
幸いなことに620円があり銀色のトレイに、千円札と620円を置く。
「あっ」という顔をする妃馬さんに、視線で「千円だけお願いします」とお願いする。
妃馬さんは気持ちを汲み取ってくれお財布から千円札を取り出し、銀色のトレイに置く。
「はい。2620円ちょうどいただきます。レシートは?」
と聞かれるので
「あ、いただいてもいいですか?」
「あ、はい。こちらレシートですね。ありがとうございました」
と頭を下げる店員さんに小声で
「ありがとうございました」
と言いお店を出る。後ろの妃馬さんも
「ありがとうございました」
と言っているのが聞こえる。
僕は先に外に出てドアを開けたままにして、妃馬さんが外に出るまで待つ。
「あ、ありがとうございます」
と言い外に出た妃馬さんを確認し、扉から手を離す。
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