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動き
第51話
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階段を上り切ったところで周りを見渡す。そんなに混んではおらず、ちらほら空席があった。
壁際の席が空いていたので僕が先導して
「妃馬さん壁のほうがいいですか?」
と聞くと
「あ、えぇ~とじゃあ、こっちで」
と妃馬さんは壁際のほうに座った。
僕はトレイをテーブルに置き、イスを引いて座った。
妃馬さんはトレイからアールグレイティーを手に取り、自分の前に置く。
そしてトレイから紙に包まれたストローを手に取り
包んでいる紙の端を破り、中からストローを取り出す。
紙コップについたプラスチックの蓋にストローを挿し飲む。
僕も妃馬さん同じ動作をし、ソラオーラを飲む。すると
「あっ」
と妃馬が言い
「お金払わなきゃ」
と言うので「あぁ忘れてなかったか」と思い
「いや、いいです」
と言いまたストローでソラオーラを飲む。
「いやそれは出しますよ」
と言うので紙コップを置いて、ナゲットの箱を開けながら
「いや昨日払わなかった分一緒にやるゲーム買ってくださいってわがまま言っちゃったし
安くなってるかなぁ~って思ったけど、さすがマエダ電気。
ほぼ通常価格で昨日の会費より全然高かったので、ここは僕に奢らせてください」
と言った。良い口実だと思ったけど口に出してみると少し無理矢理かなとも思った。
僕はナゲットの箱を開けた後、バーベキューソースの蓋も捲った。
返事を考えているのか少しの間妃馬さんからの返事がなかった。
僕はそのままナゲットをバーベキューソースにつけて口へ運んだ。
別に告白をしたわけでもないのに
妃馬さんからの返事を待っている間、鼓動が高鳴っていた。
1口ナゲットを噛む。カリッっとした外の衣を感じて間もなく中の柔らかいお肉を感じる。
口がバーベキューソースの強烈な味に支配され、ナゲットの香ばしさが鼻から抜ける。
しかし鼓動が高鳴っているせいか、覚えている味より薄く感じた。
ナゲット1個の最後の1口を口に入れたとき、妃馬さんからの返事が耳に届いた。
「わかりました。ここはありがたく奢っていただきます」
妃馬さんのその言葉で緊張が解けた。緊張でなぜか少し味が薄く感じていたナゲットが
妃馬さんの返事を聞き、緊張が解けた瞬間、覚えている味に戻った気がした。
「でも次からは割り勘か、私が出しますからね」
そう言いながらフルーリーをトレイから自分の目の前に置く妃馬さん。
そしてビニールに包まれた白いプラスチックスプーンを
ビニールの破るためのギザギザ部分から破って取り出し、フルーリーを混ぜる。
「いやいや、その2択なら割り勘です」
と笑いながらポテトに手をつける。平然を装ってはいたが
妃馬さんは何気なく言ったのだろうけど
妃馬さんの「次からは」という部分で「次もあるんだ!」と勝手に浮き足だっていた。
「じゃあ次からは割り勘でお願いしますね」
妃馬さんもポケットを一本口に咥え微笑む。その妃馬さんを見たとき、また鼓動が高鳴った。
ポテトを咥えた妃馬さんはどこかイタズラっぽい少女のようにも
妖艶なお姉さんのようにも見えた。
僕はナゲットを1つ手に取り、バーベキューソースにつけて一口で食べる。
また口の中がバーベキューソースとナゲットのお肉の味に支配され
鼻は衣の香ばしい香りに占拠される。
ナゲットのお陰で一瞬その妃馬さんを頭から追いやることができた。
僕はその一瞬を狙いまたあの妃馬さんが頭に戻ってこないうちに
「そういえば妃馬さんパス4(パスタイム スポット 4の略称)持ってたんですね」
と話を切り替える。
「はい。持ってなかったら買わないですよ」
と言って笑う。
「たしかに。いや、でも意外だったもんで」
「そうですか?」
「講義中LIMEでも言いましたけど
妃馬さんって、こう「真面目お嬢様!」って感じだったので」
「講義中も言いましたけど、全然違います」
と言って2人で笑った。
「あれですか?お父様が買ったとか?」
「いえ。まぁ買ったのはたしかに父ですけど
私がやりたいゲームがあっておねだりして買ってもらいました」
意外な回答に目を見開く。
「え、妃馬さんが?」
と言うとコクリと頷く妃馬さん。
「なんのゲームですか?」
そう聞くとまたも意外な答えが返ってきた。
「「First Hatch」です」
そう僕もプレイしていた「獣が躍るスタジオ」の新シリーズ。
日本が誇る人気アイドルグループの元メンバーの「季村桜」さんが主人公のゲームだ。
その意外な回答に
「え!?マジっすか!?」
と少し大きめの声が出た。
「はい。マジっす」
「え、なんでですか?」
と聞くとこれまた驚きの回答が返ってきた。
「MyPiperの寿司沢さんって方がいるんですけど
その方がたしか体験版をプレイされててその動画見たら続きが気になっちゃって」
なんと僕の好きな実況者の寿司沢さんを妃馬さんも見ていた。
当たり前だが別に寿司沢さんの友達でも関係者でもないのになぜか嬉しくなった。
「おぉ~マジか~へぇ~」
と言いストローでソラオーラを吸い上げる。
「「Hatch」の新しいのやりました?」
と聞くと
「やりましたよ?」
という返事が返ってきて嬉しくなり
「あれストーリーえげつないくらい面白かったですよね」
「え?怜夢さんもやったんですか!?」
妃馬さんも驚いたのか声が少し大きくなっていた。
「はい。僕も好きなんです」
「あぁ、なんか嬉しい」
「僕もです」
「新作も最後で犯人を追い詰めるじゃないですか。
でも犯人も犯人で過去があって犯行はその犯人の正義の下に犯罪を犯していて
なんか、もちろんその犯罪はダメなことなんだけど犯人の気持ちもわかる気がして
「あぁこの犯人もストーリーの流れ上、捕まって反省して終わるのか」と思ったら
結局捕まらなかったじゃないですか。ありきたりって言ったら悪いですけど
「王道」のストーリーの流れじゃなくて「意外性」も入れてくる辺り。
なんか「綺麗事」で終わらせない辺り、そこが良いなって思いました」
よほど好きになったのか鹿島のように熱の入ったプレゼンが始まった。
「わかります。「獣が躍るシリーズ」もそうでしたけど
脚本?っいうのかな?ストーリー構成がとにかく素晴らしいですよね」
「え?怜夢さん「獣が躍るシリーズ」もやったんですか?」
「あ、いえ。「獣が躍るシリーズ」は実況動画で見ました」
「もしかして…」
「…はい。寿司沢さんです」
そう答えると妃馬さんの顔がメーターのように
顎から「嬉しさゲージ」が溜まっていって顔がニヤニヤし始め
頭のてっぺんまで貯まったとき、妃馬さんは左手を開き前に突き出した。
恐らくハイタッチを求めていると思った僕は
それに応えて僕は右手を前に突き出して、妃馬さんの左の掌にに僕の右の掌を当てた。
パチンという良い音が響いた。あまりにも良い音に
「あ、大丈夫ですか?」
と心配してしまうほどだった。
「ちょっと痛かったかな?」
やはりそうだったらしい。
「あ、やっぱり。すいません」
妃馬さんは左手でフルーリーを持つ。
「私もテンション上がっちゃったので」
「いやフルーリーで冷やしてるし。結構痛かったんじゃないですか?」
「いえ、全然大丈夫です」
「手見せてください」
「だから大丈夫ですって」
そう言う妃馬さんだが僕は席を立ち妃馬さんの近くに寄り
しゃがんだ状態で妃馬さんの左手に触れ掌を見た。
見たところ赤くもなっておらず白くキレイ手で
たしかに全然大丈夫そうだったが、だんだん熱くなっていった。
最初は気づかなかっただけで赤くはなっていなかったものの
本当は熱を持つほど、強く当ててしまったのかもしれない。そう思い
「やっぱり」
と顔を上げその先を言おうとして止まる。
視線の先にいる妃馬さんが、少し顔を右下に逸らし
ほんの少しだけ頬がピンクに染まっている気がした。照れているように見えた。
その様子に面食らい言葉が詰まる。照れているような様子の妃馬さんに僕も鼓動が高鳴る。
僕が妃馬さんの左手に触れたまま無言の時間が少しあった。
その無言の時間はほんの少しだったはずなのにその何倍もの時間に感じた。
その沈黙を破ったのは妃馬さんだった。
「なんか結婚指輪はめるときみたいですよ」
そう照れを隠すように笑いながら言う妃馬さん。
僕はその言葉が頭の中で処理されるのに時間がかかった。
理解して自分の視界内の状況を把握した。
しゃがんだ状態の僕が妃馬さんの左手に触れている。
その状況を理解した瞬間に僕は妃馬さんの左手から手を離した。
そして僕はどこかに逃げ道を探し
「まぁ妃馬さんの手は反対ですけどね」
とイメージ上の結婚指輪をはめるシーンでは女性の左手は手の甲を上にしているけど
今妃馬さんは掌を上にしているという点を指摘し逃げようとした。
「たしかに」
と言い照れながら笑う妃馬さん。
その道とも思えないような細い道の先に一筋の微かな光を見逃さず
その細い道の枝を掻き分け逃げる。
「でしょ!?」
と立ちながら言う。顔を隠すように振り返り自分の席に座る。
そこから少し気まずく、他愛もない話を2人ともぎこちなく話した。
その他愛もない話の中で「服」の話になり
「あ、そういえば」
と思い出し、「ぎこちなさ」というアタッチメントが外れる。
「妃馬さんGジャンとか着るんですね」
とその日の妃馬さんの服装について触れた。
「あ、これですか?」
と妃馬さんも照れを忘れたように自分のGジャンを触る。
「はい」
「え、なんでですか?」
「いや、昨日フォーマルというか白いYシャツみたいなワンピースに
薄手のカーディガンだったじゃないですか」
「そうですね?」
「これまたあれですけど「お嬢様」の印象が強くて
こんなカジュアルな服も着るんだなぁ~って」
「そろそろ私の「お嬢様」印象無くしてください」
そう笑いながらも少し不貞腐れたような表情で言う。
「はい。努力します」
そう言い笑う。
「でも似合いますね」
とその日の服装を褒める。
「褒めても何も出ませんよ」
ふざけた感じで少しツンとした言い方をする妃馬さん。
「いえ、ほんとに」
と言うと妃馬さんは
「え、ほんとですか?」
と自分で自分の服装を確認する。
「はい。個人的には好きです」
そう言うと妃馬さんは嬉しそうに
「え、やったぁ~」
と満面の笑みを浮かべる。その妃馬さんの表情にまた思い出したかのように鼓動が高鳴る。
その高鳴った鼓動を誤魔化すようにポテトを食べる。
ふとポテトの袋を見ると、あと7本くらいでなくなりそうだった。
ふと思ったことを口にする。
「ワックのポテトってSサイズとMサイズですごい差がありませんか?」
ワクデイジーのポテトはSサイズMサイズLサイズとあり
Sサイズは白い紙の袋?に入っており
MサイズとLサイズは少し硬い赤い紙の袋?入っている。
そして僕は中学生くらいからSサイズとMサイズにすごい差を感じていた。
「んん~…たしかに。そう…かな?」
「なんかMサイズ買うと満腹になるし、Sサイズだとちょっと少なく感じるんですよ」
「あぁ!それはわかるかも!」
というポテト談義で少し盛り上がった。
そのポテト談義の火種が小さくなってきたころにちょうどポテトの袋も空になった。
「ナゲット良かったらどうぞ?」
と妃馬さんに促す。
「いえ、怜夢さん頼んだんだし、怜夢さんどうぞ?」
妃馬さんは僕に譲る。5つ入りのナゲットの最後の1つを譲り合う。
「食べたくなかったら僕食べますけど
良かったらフルーリー1口ください。で交換でナゲット食べてください」
そう提案すると
「溶けかけですけど…」
とフルーリーの容器の中を見せる妃馬さん。
「あ、全然全然。妃馬さんが食べてるの見てたらひさしぶりに食べたくなっちゃって」
と言うと
「じゃあ、残りあげます」
とフルーリーの容器を手渡してくれる。
「え、でもまだ3分の1くらいありますよ?」
「怜夢さんもフルーリー教になってもらおうかと」
そうどことなくイタズラで無邪気な笑顔で言う妃馬さん。またその表情に鼓動が高鳴る。
「じゃあ、いたがきまーす」
そう言いナゲットを手に取り、バーベキューソースにつけて口に運ぶ妃馬さん。
逐一妃馬さんの行動を目で追っている自分に気づき、その自分を振り払うように
「あ、じゃあ、いただきます」
と言ってフルーリーに目を向ける。白いプラスチックのスプーンを手に取る。
3口分くらいある溶けかけのフルーリーをその白いプラスチックのスプーンで1口分掬う。
その時中学生みたいな考えが過った。
間接キスになるのでは?
そんな考えを振り払うように
白いプラスチック製のスプーンに乗ったフルーリーを勢い良く口に入れる。
「どうですか?」
と聞く妃馬さん。妃馬さんからしたら何気ない質問だろうが
なんとなく見透かされている気がして
「間接キスですね?どうですか」という風に聞こえてしまう。
妃馬さんの目を見ながら話し始めたらしどろもどろになり
余計なことを口走ってしまいそうだったので、視線を妃馬さんからフルーリーに移し
「あ、はい。めちゃくちゃ美味しいです」
と質問に答える。
「フルーリー教入ります?」
「ちなみに教祖様は誰ですか?」
「…えぇ~…誰だろ」
「決まってないんすか」
「…フルーリーそのもの?」
「あぁ平和的で良かった」
とまるで鹿島と話すようなくだらない話で笑い合った。
気がつけばテーブルにはポテトの入っていた袋
ナゲットの入っていた箱、クッキーの欠片や
バニラアイスの溶けたものが少し付いているフルーリーの容器
空になったものたちが並んでいた。そして僕のソラオーラももうすぐ底を尽く。
「そろそろ帰りますか?」
そう伝える。
「そうですね」
妃馬さんが同意してくれ、2人それぞれで飲み物の残りを啜った。
ズズズズズという音が飲み物が底を尽いたことを知らせる。
妃馬さんもズズズズズという音をさせ、飲み物の容器をトレイに置く。
僕はトレイを持ってゴミ箱へ向かう。
紙、プラスチック、氷、飲みかけと分別し、ゴミ箱の上のトレイを置くところに重ねる。
テーブルに戻る。すると
「ありがとうございます。捨ててもらっちゃって」
と妃馬さんに感謝される。
「いや、後輩なんで捨てるの当たり前っすよ」
とペコペコする。すると妃馬さんは不思議そうな表情で
「後輩…?ってなんのですか?」
と言うので
「いや、フルーリー教の先輩じゃないですか」
とまたペコペコしながら言う。すると妃馬さんは
「そっか。そこはたしかに先輩だ」
と笑いながら言う。
「じゃあ帰りましょうか」
「はい」
そして僕と妃馬さんはまた急で幅の狭い階段を降り、ワクデイジーから出る。
壁際の席が空いていたので僕が先導して
「妃馬さん壁のほうがいいですか?」
と聞くと
「あ、えぇ~とじゃあ、こっちで」
と妃馬さんは壁際のほうに座った。
僕はトレイをテーブルに置き、イスを引いて座った。
妃馬さんはトレイからアールグレイティーを手に取り、自分の前に置く。
そしてトレイから紙に包まれたストローを手に取り
包んでいる紙の端を破り、中からストローを取り出す。
紙コップについたプラスチックの蓋にストローを挿し飲む。
僕も妃馬さん同じ動作をし、ソラオーラを飲む。すると
「あっ」
と妃馬が言い
「お金払わなきゃ」
と言うので「あぁ忘れてなかったか」と思い
「いや、いいです」
と言いまたストローでソラオーラを飲む。
「いやそれは出しますよ」
と言うので紙コップを置いて、ナゲットの箱を開けながら
「いや昨日払わなかった分一緒にやるゲーム買ってくださいってわがまま言っちゃったし
安くなってるかなぁ~って思ったけど、さすがマエダ電気。
ほぼ通常価格で昨日の会費より全然高かったので、ここは僕に奢らせてください」
と言った。良い口実だと思ったけど口に出してみると少し無理矢理かなとも思った。
僕はナゲットの箱を開けた後、バーベキューソースの蓋も捲った。
返事を考えているのか少しの間妃馬さんからの返事がなかった。
僕はそのままナゲットをバーベキューソースにつけて口へ運んだ。
別に告白をしたわけでもないのに
妃馬さんからの返事を待っている間、鼓動が高鳴っていた。
1口ナゲットを噛む。カリッっとした外の衣を感じて間もなく中の柔らかいお肉を感じる。
口がバーベキューソースの強烈な味に支配され、ナゲットの香ばしさが鼻から抜ける。
しかし鼓動が高鳴っているせいか、覚えている味より薄く感じた。
ナゲット1個の最後の1口を口に入れたとき、妃馬さんからの返事が耳に届いた。
「わかりました。ここはありがたく奢っていただきます」
妃馬さんのその言葉で緊張が解けた。緊張でなぜか少し味が薄く感じていたナゲットが
妃馬さんの返事を聞き、緊張が解けた瞬間、覚えている味に戻った気がした。
「でも次からは割り勘か、私が出しますからね」
そう言いながらフルーリーをトレイから自分の目の前に置く妃馬さん。
そしてビニールに包まれた白いプラスチックスプーンを
ビニールの破るためのギザギザ部分から破って取り出し、フルーリーを混ぜる。
「いやいや、その2択なら割り勘です」
と笑いながらポテトに手をつける。平然を装ってはいたが
妃馬さんは何気なく言ったのだろうけど
妃馬さんの「次からは」という部分で「次もあるんだ!」と勝手に浮き足だっていた。
「じゃあ次からは割り勘でお願いしますね」
妃馬さんもポケットを一本口に咥え微笑む。その妃馬さんを見たとき、また鼓動が高鳴った。
ポテトを咥えた妃馬さんはどこかイタズラっぽい少女のようにも
妖艶なお姉さんのようにも見えた。
僕はナゲットを1つ手に取り、バーベキューソースにつけて一口で食べる。
また口の中がバーベキューソースとナゲットのお肉の味に支配され
鼻は衣の香ばしい香りに占拠される。
ナゲットのお陰で一瞬その妃馬さんを頭から追いやることができた。
僕はその一瞬を狙いまたあの妃馬さんが頭に戻ってこないうちに
「そういえば妃馬さんパス4(パスタイム スポット 4の略称)持ってたんですね」
と話を切り替える。
「はい。持ってなかったら買わないですよ」
と言って笑う。
「たしかに。いや、でも意外だったもんで」
「そうですか?」
「講義中LIMEでも言いましたけど
妃馬さんって、こう「真面目お嬢様!」って感じだったので」
「講義中も言いましたけど、全然違います」
と言って2人で笑った。
「あれですか?お父様が買ったとか?」
「いえ。まぁ買ったのはたしかに父ですけど
私がやりたいゲームがあっておねだりして買ってもらいました」
意外な回答に目を見開く。
「え、妃馬さんが?」
と言うとコクリと頷く妃馬さん。
「なんのゲームですか?」
そう聞くとまたも意外な答えが返ってきた。
「「First Hatch」です」
そう僕もプレイしていた「獣が躍るスタジオ」の新シリーズ。
日本が誇る人気アイドルグループの元メンバーの「季村桜」さんが主人公のゲームだ。
その意外な回答に
「え!?マジっすか!?」
と少し大きめの声が出た。
「はい。マジっす」
「え、なんでですか?」
と聞くとこれまた驚きの回答が返ってきた。
「MyPiperの寿司沢さんって方がいるんですけど
その方がたしか体験版をプレイされててその動画見たら続きが気になっちゃって」
なんと僕の好きな実況者の寿司沢さんを妃馬さんも見ていた。
当たり前だが別に寿司沢さんの友達でも関係者でもないのになぜか嬉しくなった。
「おぉ~マジか~へぇ~」
と言いストローでソラオーラを吸い上げる。
「「Hatch」の新しいのやりました?」
と聞くと
「やりましたよ?」
という返事が返ってきて嬉しくなり
「あれストーリーえげつないくらい面白かったですよね」
「え?怜夢さんもやったんですか!?」
妃馬さんも驚いたのか声が少し大きくなっていた。
「はい。僕も好きなんです」
「あぁ、なんか嬉しい」
「僕もです」
「新作も最後で犯人を追い詰めるじゃないですか。
でも犯人も犯人で過去があって犯行はその犯人の正義の下に犯罪を犯していて
なんか、もちろんその犯罪はダメなことなんだけど犯人の気持ちもわかる気がして
「あぁこの犯人もストーリーの流れ上、捕まって反省して終わるのか」と思ったら
結局捕まらなかったじゃないですか。ありきたりって言ったら悪いですけど
「王道」のストーリーの流れじゃなくて「意外性」も入れてくる辺り。
なんか「綺麗事」で終わらせない辺り、そこが良いなって思いました」
よほど好きになったのか鹿島のように熱の入ったプレゼンが始まった。
「わかります。「獣が躍るシリーズ」もそうでしたけど
脚本?っいうのかな?ストーリー構成がとにかく素晴らしいですよね」
「え?怜夢さん「獣が躍るシリーズ」もやったんですか?」
「あ、いえ。「獣が躍るシリーズ」は実況動画で見ました」
「もしかして…」
「…はい。寿司沢さんです」
そう答えると妃馬さんの顔がメーターのように
顎から「嬉しさゲージ」が溜まっていって顔がニヤニヤし始め
頭のてっぺんまで貯まったとき、妃馬さんは左手を開き前に突き出した。
恐らくハイタッチを求めていると思った僕は
それに応えて僕は右手を前に突き出して、妃馬さんの左の掌にに僕の右の掌を当てた。
パチンという良い音が響いた。あまりにも良い音に
「あ、大丈夫ですか?」
と心配してしまうほどだった。
「ちょっと痛かったかな?」
やはりそうだったらしい。
「あ、やっぱり。すいません」
妃馬さんは左手でフルーリーを持つ。
「私もテンション上がっちゃったので」
「いやフルーリーで冷やしてるし。結構痛かったんじゃないですか?」
「いえ、全然大丈夫です」
「手見せてください」
「だから大丈夫ですって」
そう言う妃馬さんだが僕は席を立ち妃馬さんの近くに寄り
しゃがんだ状態で妃馬さんの左手に触れ掌を見た。
見たところ赤くもなっておらず白くキレイ手で
たしかに全然大丈夫そうだったが、だんだん熱くなっていった。
最初は気づかなかっただけで赤くはなっていなかったものの
本当は熱を持つほど、強く当ててしまったのかもしれない。そう思い
「やっぱり」
と顔を上げその先を言おうとして止まる。
視線の先にいる妃馬さんが、少し顔を右下に逸らし
ほんの少しだけ頬がピンクに染まっている気がした。照れているように見えた。
その様子に面食らい言葉が詰まる。照れているような様子の妃馬さんに僕も鼓動が高鳴る。
僕が妃馬さんの左手に触れたまま無言の時間が少しあった。
その無言の時間はほんの少しだったはずなのにその何倍もの時間に感じた。
その沈黙を破ったのは妃馬さんだった。
「なんか結婚指輪はめるときみたいですよ」
そう照れを隠すように笑いながら言う妃馬さん。
僕はその言葉が頭の中で処理されるのに時間がかかった。
理解して自分の視界内の状況を把握した。
しゃがんだ状態の僕が妃馬さんの左手に触れている。
その状況を理解した瞬間に僕は妃馬さんの左手から手を離した。
そして僕はどこかに逃げ道を探し
「まぁ妃馬さんの手は反対ですけどね」
とイメージ上の結婚指輪をはめるシーンでは女性の左手は手の甲を上にしているけど
今妃馬さんは掌を上にしているという点を指摘し逃げようとした。
「たしかに」
と言い照れながら笑う妃馬さん。
その道とも思えないような細い道の先に一筋の微かな光を見逃さず
その細い道の枝を掻き分け逃げる。
「でしょ!?」
と立ちながら言う。顔を隠すように振り返り自分の席に座る。
そこから少し気まずく、他愛もない話を2人ともぎこちなく話した。
その他愛もない話の中で「服」の話になり
「あ、そういえば」
と思い出し、「ぎこちなさ」というアタッチメントが外れる。
「妃馬さんGジャンとか着るんですね」
とその日の妃馬さんの服装について触れた。
「あ、これですか?」
と妃馬さんも照れを忘れたように自分のGジャンを触る。
「はい」
「え、なんでですか?」
「いや、昨日フォーマルというか白いYシャツみたいなワンピースに
薄手のカーディガンだったじゃないですか」
「そうですね?」
「これまたあれですけど「お嬢様」の印象が強くて
こんなカジュアルな服も着るんだなぁ~って」
「そろそろ私の「お嬢様」印象無くしてください」
そう笑いながらも少し不貞腐れたような表情で言う。
「はい。努力します」
そう言い笑う。
「でも似合いますね」
とその日の服装を褒める。
「褒めても何も出ませんよ」
ふざけた感じで少しツンとした言い方をする妃馬さん。
「いえ、ほんとに」
と言うと妃馬さんは
「え、ほんとですか?」
と自分で自分の服装を確認する。
「はい。個人的には好きです」
そう言うと妃馬さんは嬉しそうに
「え、やったぁ~」
と満面の笑みを浮かべる。その妃馬さんの表情にまた思い出したかのように鼓動が高鳴る。
その高鳴った鼓動を誤魔化すようにポテトを食べる。
ふとポテトの袋を見ると、あと7本くらいでなくなりそうだった。
ふと思ったことを口にする。
「ワックのポテトってSサイズとMサイズですごい差がありませんか?」
ワクデイジーのポテトはSサイズMサイズLサイズとあり
Sサイズは白い紙の袋?に入っており
MサイズとLサイズは少し硬い赤い紙の袋?入っている。
そして僕は中学生くらいからSサイズとMサイズにすごい差を感じていた。
「んん~…たしかに。そう…かな?」
「なんかMサイズ買うと満腹になるし、Sサイズだとちょっと少なく感じるんですよ」
「あぁ!それはわかるかも!」
というポテト談義で少し盛り上がった。
そのポテト談義の火種が小さくなってきたころにちょうどポテトの袋も空になった。
「ナゲット良かったらどうぞ?」
と妃馬さんに促す。
「いえ、怜夢さん頼んだんだし、怜夢さんどうぞ?」
妃馬さんは僕に譲る。5つ入りのナゲットの最後の1つを譲り合う。
「食べたくなかったら僕食べますけど
良かったらフルーリー1口ください。で交換でナゲット食べてください」
そう提案すると
「溶けかけですけど…」
とフルーリーの容器の中を見せる妃馬さん。
「あ、全然全然。妃馬さんが食べてるの見てたらひさしぶりに食べたくなっちゃって」
と言うと
「じゃあ、残りあげます」
とフルーリーの容器を手渡してくれる。
「え、でもまだ3分の1くらいありますよ?」
「怜夢さんもフルーリー教になってもらおうかと」
そうどことなくイタズラで無邪気な笑顔で言う妃馬さん。またその表情に鼓動が高鳴る。
「じゃあ、いたがきまーす」
そう言いナゲットを手に取り、バーベキューソースにつけて口に運ぶ妃馬さん。
逐一妃馬さんの行動を目で追っている自分に気づき、その自分を振り払うように
「あ、じゃあ、いただきます」
と言ってフルーリーに目を向ける。白いプラスチックのスプーンを手に取る。
3口分くらいある溶けかけのフルーリーをその白いプラスチックのスプーンで1口分掬う。
その時中学生みたいな考えが過った。
間接キスになるのでは?
そんな考えを振り払うように
白いプラスチック製のスプーンに乗ったフルーリーを勢い良く口に入れる。
「どうですか?」
と聞く妃馬さん。妃馬さんからしたら何気ない質問だろうが
なんとなく見透かされている気がして
「間接キスですね?どうですか」という風に聞こえてしまう。
妃馬さんの目を見ながら話し始めたらしどろもどろになり
余計なことを口走ってしまいそうだったので、視線を妃馬さんからフルーリーに移し
「あ、はい。めちゃくちゃ美味しいです」
と質問に答える。
「フルーリー教入ります?」
「ちなみに教祖様は誰ですか?」
「…えぇ~…誰だろ」
「決まってないんすか」
「…フルーリーそのもの?」
「あぁ平和的で良かった」
とまるで鹿島と話すようなくだらない話で笑い合った。
気がつけばテーブルにはポテトの入っていた袋
ナゲットの入っていた箱、クッキーの欠片や
バニラアイスの溶けたものが少し付いているフルーリーの容器
空になったものたちが並んでいた。そして僕のソラオーラももうすぐ底を尽く。
「そろそろ帰りますか?」
そう伝える。
「そうですね」
妃馬さんが同意してくれ、2人それぞれで飲み物の残りを啜った。
ズズズズズという音が飲み物が底を尽いたことを知らせる。
妃馬さんもズズズズズという音をさせ、飲み物の容器をトレイに置く。
僕はトレイを持ってゴミ箱へ向かう。
紙、プラスチック、氷、飲みかけと分別し、ゴミ箱の上のトレイを置くところに重ねる。
テーブルに戻る。すると
「ありがとうございます。捨ててもらっちゃって」
と妃馬さんに感謝される。
「いや、後輩なんで捨てるの当たり前っすよ」
とペコペコする。すると妃馬さんは不思議そうな表情で
「後輩…?ってなんのですか?」
と言うので
「いや、フルーリー教の先輩じゃないですか」
とまたペコペコしながら言う。すると妃馬さんは
「そっか。そこはたしかに先輩だ」
と笑いながら言う。
「じゃあ帰りましょうか」
「はい」
そして僕と妃馬さんはまた急で幅の狭い階段を降り、ワクデイジーから出る。
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