猫舌ということ。

結愛

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出会い

第32話

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紅茶ハイを1口飲みテーブルに置く前にグラスの中を見た。
あと3口くらいで無くなるだろうと思うくらいの量だった。僕の視線から察したのか妃馬さんが
「次も紅茶ハイですか?」
と聞いてきた。少しだけ悩んだ後
「そ う で す ね。妃馬さんも次もアスピスサワーですか?」
と妃馬さんのように聞き返してみた。妃馬さんは少し考えるように視線を上に向けてから
「そ う で す ね」
と僕の真似をしている感じに思えた。
「真似しました?」
と微笑み少し首を傾けながら言うと
「しました」
と笑顔で答える。
「じゃあ注文しちゃいますか?」
と言うと妃馬さんが隣の姫冬ちゃんのグラスに視線を向けた。
僕もそれに釣られて姫冬ちゃんのグラスを見る。すると
「そうですね。注文しちゃいますか」
と妃馬さんが言う。姫冬ちゃんのグラスにはまだアスピスが半分ほど入っていた。

なるほど。姫冬ちゃんの飲み物の残りの量を見たのか。さすがはお姉さん。

そう思い僕もそれを見習って鹿島のほうを見る。
鹿島のグラスは空で俊くんはあと1口で無くなるほどだった。
「鹿島、俊くん。オレら飲み物頼もうと思うんでけど2人ともどうする?」
そう2人に向かって尋ねると
「オレ同じのでお願い」
そう言う鹿島に「グラスちょうだい」と無言で指をクイクイとする。
鹿島は無言でグラスを指指し僕が頷くと
鹿島は僕のほうに空のグラスをスライドさせて渡してきた。
「俊くんは?」
と俊くんのほうを向き尋ねると俊くんはメニューを見ながら
「んん~ブラッドオレンジジュースでお願いします」
と言うので
「りょーかい」
と返す。僕は手を挙げ
「すいませ~ん!」
といつもの話し声よりは大きく、でもうるさく思われない程度の声量で店員さんを呼ぶ。
僕の声が届いたのか、僕の挙げた手を見てなのか
「はーい!」
と元気いい返事と共に爽やかな青年が近寄ってきた。
「はい!ご注文でしょうか?」
「はい。えぇとアスピスサワーと紅茶ハイ。
あとレモンサワーとブラッドオレンジジュースをお願いします」
注文を言い終わる。注文する前と注文を注文用紙に書いた後
ちゃんと目を合わせてくれる真面目な青年だった。
ここの店員さんはみんな真面目でカッコいいなぁ~。と思っていると
「はい!少々お待ちください」
と行こうとしたので
「あ、これお願いします」
と鹿島の空いたグラスを持って渡そうとすると
「あっ、すいません!ありがとうございます!」
と言って左手をグラスの底に右手を側面にし、丁寧に受け取ってくれた。
受け取るとき軽く頭を下げ、颯爽とキッチンへ向かって言った。
「たしかにカッコいいですね」
ポツリと妃馬さんがそう言った。
たぶん僕が言った「「店員さん」ってカッコいい」ということなのだろうがここはあえて
「妃馬さんはあの方みたいな人がタイプなんですか?」
と少しニヤつき聞いてみた。店員さんの背中を目で追い、キッチンを見たまま妃馬さんは
「はい。そうですね」
と答えた。ニヤついてた顔が固まった。
固まっていたが口角がどんどん落ちていくのがわかった。不意打ちすぎた。
僕の頭の中に住む住人は目に見えて混乱していた。
天体観測者が見てないところから急に隕石がこちらに降ってきたかのように
僕の頭の中に住んでいる住人は右往左往とあわあわしていた。
視線も妃馬さんの横顔を見たまま眼球が動かなくなった。
そんな視界の中の妃馬さんがこちらを向き目が合った。
「ふふっ」
目の前で笑い始めた。そんな妃馬さんにこれまた僕の頭の中に住む住人は混乱し始める。
妃馬さんが5秒ほどクスクス笑った後
「冗談ですよ」
そう言った。まるで妃馬さんのその言葉が石化の呪いを解く魔法のように
眼球や表情筋が動かせるようになった。
僕の頭の中の住人も降ってきた隕石がホログラムだと知って安堵し
落ち着きを取り戻していた。
「ビックリしましたよぉ~」
安心してポロッっと口から言葉が溢れた。

あれ?今オレなんか言ったな。

そう思い冷静に考えた。

あれ?なんでオレビックリしたんだ?あれ?なんで安心してんだ?あ、オレ変なこと言った。

思った頃には遅かった。
「なにビックリしてるんですか?」
ニヤニヤ顔の妃馬さんが目の前にいた。咄嗟に頭をフル回転させた。
「いや、妃馬さんが僕を揶揄おうとして失敗したときみたいに
僕も妃馬さんを揶揄おうとしたけど、予想だにしない返事が返ってきたので
面食らっちゃって」
と微笑みながら言う。
ほろ酔い+さっきまでプチパニックになっていた自分が
ここまで脳を早く回転させられることに少し驚き関心してしまった。
そんな自分を褒めたくなった。
「そ う で す か」
少し口を尖らせて少し不満そうな口調で妃馬さんが言う。心の中でホッっと胸を撫で下ろした。
なんでホッっとしたのか、なんで胸を撫で下ろしたのかはわからなかった。
妃馬さんに心の内と動揺がバレず安心した気持ちと
自分のこの感覚がわからないモヤモヤが同時に混在していた。
ちぇっっとした顔をしながら枝豆を食べる妃馬さんの姿は大人でありながらも
どこか子供らしさがあり、自分の脳が今目に映る光景を不思議な感覚に陥らせていた。
いる場所は居酒屋で妃馬さんの前のテーブルにはアルコールの入っていたグラス。
紛うことなく大人だ。
しかしその表情はまるでおもちゃを買ってもらえなかったときの子供のようだった。
その2つの平均を取れば中高生にも見えるし、大人にも子供にも見えた。
そんな不思議な感覚でいると
「お待たせしましたぁ~」
とお盆にグラスを乗せた店員さんがやってきた。
店員さんの声でその不思議空間から抜け出て
「あ、はい」
そう返事したときには完全に現実の世界に帰ってきていた。そんな感覚だった。
「こちらアスピスサワーと紅茶ハイですね。そ れ か ら。こちらがレモンサワーで
こちらがブラッドオレンジジュースですねぇ~。では、またなにかあればお呼びください」
そう言って颯爽と去っていった。まだちょっと不貞腐れた様子の妃馬さんに
「そろそろ機嫌直してくださいよ」
そう言うとトロンとした目なのか、少し機嫌が悪くて目を細くしているのか
細くなった目で僕を見て
「じゃあ、弱点教えてください」
そんな目と子供のような不貞腐れた表情で言われたら断り様がなかった。
「んん~」
と少し考える。
「僕の命とか家族の命を人質に取られてたら、ほぼなんでもやると思います」
今思い付いた本当の弱点を教えた。すると
「なんですかそれ」
そう言いながら笑い始めた。
「そんなの私もそうですよ」
笑いながら言った妃馬さんの言葉に

たしかに。家族がよっぽど嫌いな人じゃない限りそうだよな。そりゃそうか。

そう思いじわじわと自分でも可笑しく思えて笑えてきた。
つま先からじわじわと「笑っちゃうよ」のメーターが溜まっていって
そのメーターが口元まできたとき口角がどんどん上がっていって
頭の先までメーターがMAXまで溜まったときプッっと吹き出し
ダムが崩壊したように笑ってしまった。そんな僕と妃馬さんの様子に鹿島も
「なに?なにそんな笑ってんの?」
とさすがに気になったようで聞いてきた。
そんな鹿島に釣られて姫冬ちゃんも俊くんも気になってこちらに身を乗り出していたので
3人に事の経緯を説明し5人で笑った。
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