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出会い
第30話
しおりを挟むふと妃馬さんが右手をこちらへ伸ばしてくる。
妃馬さんの表情を見てもなぜ右手がこちらに伸びてきているのかその理由は窺い知れない。
伸びてくる手への疑問と驚きで、僕の口元のニヤつきはいつの間にかどこかへ消えていた。
なおも伸びてくる右手。その右手はどんどん僕の顔へ近づいてくる。
僕の視線は下方向で泳ぎ、たまにその右手を見る。妃馬さんと目を合わせて
「どうかしました?」と聞けばいいだけの話だが
右手が近づけば近づくほど心拍数が上がり、動揺でどうしようもできなかった。
その右手が僕の左手に触れた。そして僕の左手の小指に、はめられている指輪を触り
右手は妃馬さんの元へ戻っていった。僕は訳が分からず硬直した。
その僕と目が合い、僕の疑問が伝わったのか
「あ、すいません」
と言う妃馬さん。僕はその言葉で金縛が解けたように口元につけていた左手をパッっと離し
「あっ、いえ!」
と言った。そして続けて
「なにかありました?」
と妃馬さんに聞くと
「あ、すいません。指輪が反対向いてたんで直そうと思って。
ついでに「なんのデザインなんだろう」って気になっていたので
指輪のデザインも確認したくて」
と右手の人差し指で僕の左手を指指し言う。僕は自分の左手を開き小指の指輪を確認した。
「あぁ、これが掌側に来てたから直してくれたんですね。ありがとうございます」
「急にすいません。一声かければ良かったですよね」
「あ、いえ全然!デザインってこのフクロウですか?」
と左手の甲を妃馬さんに見せるようにして右手で小指を指指す。
「そうですそうです。フクロウの目元の指輪なんですね?」
「はい。そうなんです。あ、ついでに」
そう言い、Tシャツの中に隠れたネックレスのチャームを左手で掴み、妃馬さんに見せる。
「こっちもフクロウなんです」
「ほんとだ!可愛い~。フクロウがお好きなんですか?」
「いえ。いや、まぁ元々嫌いではなかったんですけど。
このネックレスを20歳の誕生日に母と妹がプレゼントしてくれてですね
貰ったときはもちろんちゃんとほんとに嬉しかったんですが
冷静に考えたら「なんでフクロウ?」って思っちゃって。
で、ストレートに母に聞いたんです。「ありがとう!でもなんでフクロウ?」って。
そしたら母が「2人でハタチの誕生日はちょっと良いものあげようってなって
なににしようかってなったときに夢が」あ、妹夢香っていうんですけど
「夢がアクセサリーにしようって言って、デパートとか回ったり
夢がネットで探したりしてたけど、なかなか「これっ!」ってものがなくて
調べものしてたときに私がネットでたまたま見つけた記事に
「フクロウは当て字で「不苦労」って書いて苦労しないで済むようにっていう
縁起が良い動物だ」って書いてあって、夢に「フクロウのアクセサリーにしない?」
って提案したらちょうど夢もフクロウのネックレスのページ見てて
あぁ、もうこれしかないねってなってそれにしたの」って言われて
「あぁありがたいな」って思って、良いやつなだけあってお風呂に入っても錆びないので
もう肌身離さずずっと付けてるんです。それからというものフクロウが好きになったというか
フクロウが視界に入ると気になるようになっちゃって
この指輪も一目惚れして買ってって感じです」
こんな長々としたへたくそな喋りを、飽きた表情1つせずに微笑み頷きながら聞いてくれた。
話しながら妃馬さんのその様子を見て、鼓動が早くなるとか、心臓が高鳴ったとかではなく
心のどこかで小さく、でも確実にトクンッっとした。そんな僕の話を聞いた妃馬さんは
「素敵な話ですね」
とトロンとした目をし言う。
その嘘偽りのなさそうな言葉とその表情に今度は心臓が大きく跳ね、高鳴った。
「いや、素敵な話かはわかりませんが、まぁ良い家族ですね」
きっとがシラフだったら相当照れ臭かっただろうけど
お酒の力で少し照れ臭さは軽減されていた。
妃馬さんの表情を見てもなぜ右手がこちらに伸びてきているのかその理由は窺い知れない。
伸びてくる手への疑問と驚きで、僕の口元のニヤつきはいつの間にかどこかへ消えていた。
なおも伸びてくる右手。その右手はどんどん僕の顔へ近づいてくる。
僕の視線は下方向で泳ぎ、たまにその右手を見る。妃馬さんと目を合わせて
「どうかしました?」と聞けばいいだけの話だが
右手が近づけば近づくほど心拍数が上がり、動揺でどうしようもできなかった。
その右手が僕の左手に触れた。そして僕の左手の小指に、はめられている指輪を触り
右手は妃馬さんの元へ戻っていった。僕は訳が分からず硬直した。
その僕と目が合い、僕の疑問が伝わったのか
「あ、すいません」
と言う妃馬さん。僕はその言葉で金縛が解けたように口元につけていた左手をパッっと離し
「あっ、いえ!」
と言った。そして続けて
「なにかありました?」
と妃馬さんに聞くと
「あ、すいません。指輪が反対向いてたんで直そうと思って。
ついでに「なんのデザインなんだろう」って気になっていたので
指輪のデザインも確認したくて」
と右手の人差し指で僕の左手を指指し言う。僕は自分の左手を開き小指の指輪を確認した。
「あぁ、これが掌側に来てたから直してくれたんですね。ありがとうございます」
「急にすいません。一声かければ良かったですよね」
「あ、いえ全然!デザインってこのフクロウですか?」
と左手の甲を妃馬さんに見せるようにして右手で小指を指指す。
「そうですそうです。フクロウの目元の指輪なんですね?」
「はい。そうなんです。あ、ついでに」
そう言い、Tシャツの中に隠れたネックレスのチャームを左手で掴み、妃馬さんに見せる。
「こっちもフクロウなんです」
「ほんとだ!可愛い~。フクロウがお好きなんですか?」
「いえ。いや、まぁ元々嫌いではなかったんですけど。
このネックレスを20歳の誕生日に母と妹がプレゼントしてくれてですね
貰ったときはもちろんちゃんとほんとに嬉しかったんですが
冷静に考えたら「なんでフクロウ?」って思っちゃって。
で、ストレートに母に聞いたんです。「ありがとう!でもなんでフクロウ?」って。
そしたら母が「2人でハタチの誕生日はちょっと良いものあげようってなって
なににしようかってなったときに夢が」あ、妹夢香っていうんですけど
「夢がアクセサリーにしようって言って、デパートとか回ったり
夢がネットで探したりしてたけど、なかなか「これっ!」ってものがなくて
調べものしてたときに私がネットでたまたま見つけた記事に
「フクロウは当て字で「不苦労」って書いて苦労しないで済むようにっていう
縁起が良い動物だ」って書いてあって、夢に「フクロウのアクセサリーにしない?」
って提案したらちょうど夢もフクロウのネックレスのページ見てて
あぁ、もうこれしかないねってなってそれにしたの」って言われて
「あぁありがたいな」って思って、良いやつなだけあってお風呂に入っても錆びないので
もう肌身離さずずっと付けてるんです。それからというものフクロウが好きになったというか
フクロウが視界に入ると気になるようになっちゃって
この指輪も一目惚れして買ってって感じです」
こんな長々としたへたくそな喋りを、飽きた表情1つせずに微笑み頷きながら聞いてくれた。
話しながら妃馬さんのその様子を見て、鼓動が早くなるとか、心臓が高鳴ったとかではなく
心のどこかで小さく、でも確実にトクンッっとした。そんな僕の話を聞いた妃馬さんは
「素敵な話ですね」
とトロンとした目をし言う。
その嘘偽りのなさそうな言葉とその表情に今度は心臓が大きく跳ね、高鳴った。
「いや、素敵な話かはわかりませんが、まぁ良い家族ですね」
きっとがシラフだったら相当照れ臭かっただろうけど
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