猫舌ということ。

結愛

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出会い

第27話

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匠とは中学1年からの付き合いだ。出会いは1年の夏休み前だった。
同じクラスでもちろん存在は知っていたが
僕と小野田は仲良いグループが違い、あまり絡むことはなかった。
ある日、支度を整えて帰ろうとしたとき、ふと小野田の机の上を見ると
パスタイム スポット ポータブルが置いてあり、その横にカセットケースが置いてあった。
そのカセットケースが開いていて、その中に僕がやっているゲームがあった。
そのゲームは「戦士のくせに生意気だ」というゲームで
自分でダンジョンを造り、食物連鎖によって強力な魔物を育てることで
次々とダンジョンに侵入してくる戦士たちを倒し、世界征服を果たすことが目的のゲームだ。
僕はおもしろいと思ってやっているが
その当時仲良かった子たちはみんなモンスターナンバーをやっていて
僕もみんなに合わせてモンナンをやっていたため
その「戦士のくせに生意気だ」をやってる人がいたという驚きと嬉しさで
思うより早く口が動いていた。
「そのゲーム」
そう声を掛けてから声を掛けている自分に気づいた。
小野田が振り返る。中学生ながらに整った顔。
少し眠そうに見える目。スッっと通った話。整った唇の形。
今テレビに出ているアイドルやモデルにも匹敵する魅力が
表面張力も耐えきれずコップから溢れ出していた。
その綺麗で魅力溢れる顔にほんの少しの間見惚れていた。
おそらく時間にして数秒。
でもその数秒がスローモーションに感じて、数十秒に感じた気がした。
すると小野田が机の上に置いていたカセットケースを手に取り
「どれ?」
と聞いてきた。サラサラの髪の毛に少し短めのポニーテール。
声変わりする前の高い声。まるで女の子だった。
なぜか咄嗟にゲームの名前が出ず
「これ」
たまたまボールがバットに当たったように
反射的に「戦士のくせに生意気だ」のカセットを指指していた。
「おもしろいよ?」
「うん。オレもやってるから」
「え!?マジで!?」
第一印象では大人しそうで大人っぽい印象だったので小野田のテンションに少し驚いた。
「え、うん。おもしろいよね」
「うん!そっかぁ~嬉しいなぁ~」
さっきまで眠そうだった目が真ん丸くなり、夕陽に照らされ輝いていた。
「オレもなんか嬉しい!オレの周りでやってるやついなくてさ」
「うん!オレもそう!」
たぶん小野田も僕もおんなじことを考えていたと思う。僕から切り出した。
「ねぇ、メアド教えてよ」
「うん!もちろん!」
そういって赤外線を通し連絡先を交換した。
「今度一緒にやろ!」
僕は携帯電話を折りたたみスクールバックにしまいながらそう小野田に言った。
「もちろん!」
「もう帰る?」
「うん。帰る準備してたとこ」
「じゃあ、一緒に帰ろうよ!」
「うん!あ、ちょっと待って、準備すぐ済ますから」
そう言って準備を終え一緒に校舎を出た。
帰り道、僕とは真逆だったが、嘘をついて小野田と同じ方向に進んだ。
小野田ともっと話したいと思って。連絡先を交換したのだからメールや電話もできるのに。
そこで小野田が超のつくほどのお金持ちのおぼっちゃまだということを知った。
小野田の家がめちゃくちゃ大きかったのだ。
それからというもの僕は今まで仲良かった友達たちとも、もちろん変わらず仲良かったが
その友達たち以上に匠と仲良くなっていった。
放課後も休日も他に予定が無ければ一緒に遊んでいた。
そして高校受験が近づき僕と匠は同じ高校を目指すことにした。
2人ともあまり頭の良いほうではなかったので、その当時は勉強地獄だった。
塾自体は違ったが、僕も匠も塾に通った。そして受験当日も一緒に会場に行った。
面接もあり親も来ることになっていたが
「友達と一緒に行くからあとで来て」と言い、匠と一緒に向かった。
席は離れていたが休憩になる度にどちらかの席に集った。
「出来はどうだ~」とか「緊張する~」とかそんなありきたりな会話だけど
そんな会話が2人の緊張を少しは緩和していたんだろうと思う。
僕たち2人が目指していた高校はそんなにレベルの高い高校ではなかった。
そのため努力の甲斐あってか2人とも合格をもぎ取った。
合格が決まってからの学校はもう遊び場だった。
第一希望に合格していたり推薦で合格した者のほとんどが授業中寝ていたり
ゲームしていたり、本を読んでいたりしていた。
中には学校自体サボる者もいた。
もちろん合格が決定したけど真面目に授業を受ける人もいた。
教室内は合格が決定した者、これから試験に挑む者に二分されていた。
合格が決定した者は浮き足立つ空気感を
これから試験に挑む者は殺気立った空気感を漂わせていた。
そんな2つの相反する空気が入り混じった教室で僕と匠はゲームで通信していた。
やっていたゲームは「ゴッドリーダー」
人類の天敵神の創ったマヤカシの神マヤガミが現れた荒廃した世界で
マヤガミに対抗する特殊部隊の
各部隊のリーダーたちが集められたゴッドリーダーたちの世界を描いた作品。
これもまた僕たち以外にはやってる人を知らなかったので僕ら2人だけでやっていた。
そしてラスボス2体に裏ボス1体という意味わからんレベルのクエストがあって
推奨4人のレベルだったけど無謀にもそのクエストを2人でやっていた。
結果的にはクエストを成し遂げた。
クリアしてその達成感に机とお腹の間で小さく、でも力強くガッツポーズをした。
そして顔を上げ左側にいる匠のほうを見ようとしたら先生と目が合った。
いつの間にかすぐ側にいて
ガッツリゲームしてガッツリガッツポーズした姿をガッツリ見られた。
そして先生にテキトーに広げていたノートの端っこに
「放課後職員室に来なさい」
とシャーペンで書かれた。
授業が終わって次の授業までの間の休みで匠のとこへ行ってそのことを話した。すると
「オレも一緒に行く」
と言ってくれた。匠はバレてなく怒られることもなかったのに
そう言ってくれて本当に放課後一緒に職員室のその先生の元へ行ってくれた。
その先生の前に着いた瞬間2人で
「すいませんでした!」
と頭を下げて謝った。横目で目を合わせ
「やっちゃったな」という表情を2人ともしていた。その先生はまだ若く
「先生もやったことある」とか「まだ受験を控えてる子もいるしな?」とか
「気持ちはわかるけど」とあまり怒らず、優しく指導してくれた。
そして肌寒い夕暮れの中2人で笑って帰った。
卒業式、卒業生で歌を歌った。歌っている最中その歌の歌詞を考えたら
楽しすぎた中学校生活が今日で終わると思い、自然と涙が溢れてきた。
あんなに練習した歌も本番ではみんなへたくそだった。
へたくそだったけど練習よりみんなの気持ちが伝わった。そんな気がした。
卒業式が終わるとみんなで集合写真を撮ったり
卒業アルバムに一言書いてもらったりして回った。
そのあと学校がなくてもクラスのみんなで集まったりした。
そして高校入学。高校でも匠とたくさん思い出を作った。
1年生の慣れないソワソワした感じも2人で乗り越えたし
1年で早々に授業中にゲームしたりもした。
テストでは赤点取ったり、補習を受けたり、匠の補習を待ってたり
逆に僕の補習を匠が待ってたりもした。
2年では残念ながら同じクラスではなかったため
修学旅行で同じ班にはなれなかったが、回る場所、時間をなるべく同じにして
匠のいる別のクラスの班と一緒に回ったり、自由行動で一緒に回ったりした。
匠に彼女ができたときも、僕に彼女ができたときも
付き合う前のいい感じのとき相談に乗ったり、相談に乗ってもらったりした。
デートのことも話したし、高校の青春のほとんどの出来事に匠がいた。
大学も一緒に行くかって話になり、また勉強地獄が始まって
いつの間にか明日から高校が冬休みだった。
外の空気の色というか雰囲気が寒色がかっている気がした。
そしていつの間にか街がイルミネーションで、煌びやかになっていた。
すぐにクリスマスになり、リビングでお蕎麦を食べ、カウントダウン。
あっという間に「あけましておめでとうございます」と家族に言っていた。
三が日なんかあって無かったような感覚で、すぐにセンター試験当日になった。
匠と共に電車に乗り会場へ行き、長い時間戦いを共にした。
このセンター試験でもまた1教科が終わる毎に
どちらかの席に集ってありきたりな会話を交わした。
やはり匠も緊張してるのか、いっぱいいっぱいなのか、いつもの匠では無かったが
「匠と会話をする」というだけで少し緊張が解れる気がした。
長い戦いを終えすっかり暗くなった空に「はぁ~!終わったぁ~!」と白い息を吐き
雪が降りそうな気温に震えながら2人で電車に乗りそれぞれ家に帰った。
センター試験という長い戦いの結果は負けだった。
なのでまだ気は抜けなかった。それからまた勉強漬けの日々が続いた。
2人で受験する大学に行き、その大学で試験を受けた。
一通り試験を終え帰るときの2人の表情はあまり浮かないものだった。
2人ともセンター試験の負けという結果がまだ頭のどこかにあるらしく
もしかしたらこの試験も負けだとしたらまだ勉強しなくてはいけない。
まだ気は抜けないのか。そう思うと疲れと不安で笑顔も少し引き攣った。
後日、高校に行ったとき担任の先生から告げられた。
「合格おめでとう」と。目の前が明るくなり、パァ~と開けたような気がした。
また中学同様、合格が決まってからは高校は遊び場に変わった。
勉強地獄から抜け出し、肩の荷が下り、身体が軽くなり
歩く度、体が浮きそうな気がした。
合格してからというもの中学のときより「遊び」は加速した。
高校行くこと自体をサボり、匠の家でゲームしたり、映画見たり、堕落の限りを尽くした。
出席日数ギリギリまでサボって遊びの限りを楽しんだ。
それから少ししたら卒業式。中学のときと同様、高校生活も楽しくて
今日が終われば「この生活も終わる」そう考えたら自然に涙が頬を伝っていた。
鼻水が鼻の中にあるというのがわかり、鼻をすすり、息がいつも通りできず
涙もどんどん溢れてきた。涙を拭い、制服の右袖がすごく濡れた。
その後もまた中学同様みんなで集合写真を撮ったり
個人個人で仲良いメンバーで写真撮ったり、卒業アルバムに一言書いてもらったりした。
僕もクラスメイトや他クラスの仲良い子と写真撮ったり
卒業アルバムに一言書いてもらったりした。
卒業式で高まったためのノリだろうが
他クラスの女の子がとある女の子の背中を押しながら僕の元へ来た。
その女の子は元カノだった。どうやら一言書いてほしいということだった。
僕の元カノの背中を押してきた友達たちは元カノの代わりに
「一言ほしいらしいよ」と伝言を伝え、すぐ自分のクラスの教室に戻っていった。
元恋人同士のなんとも言えない空気の中
僕は元カノが胸に両手で抱えていた卒業アルバムを受け取り
僕が元カノの卒業アルバムに一言を書き始める。別にケンカ別れしたわけでもなく
なんならなぜ別れたのかがわからないほど仲は良かったはずだった。
だけど相手が喋らない空気につられて僕も黙ったままペンを走らせた。
校内が騒がしい中、僕と元カノは沈黙の空間にいた。書いている途中で
「オレのにも一言もらって良い?」
と言うと元カノはコクリとなにも言わず頭を縦に振り
僕の手から卒業アルバムを受け取り書き始める。
僕が書き終えて右隣で僕の卒業アルバムになにかを書いている元カノを見た。
数秒したら元カノも書き終え、ネームペンのキャップを閉めた。
元カノが僕に卒業アルバムを返してくれた。
「ありがとう」
そう言い卒業アルバムを受け取る。元カノに卒業アルバムを返す。
なにか言ったほうが良いなと思い、元カノの卒業アルバムを差し出したとき
「ありがとう。オレと付き合ってくれて。
めちゃくちゃ楽しかったし、オレの中では本当に良い思い出になった。
ほんとありがとう。大学生活楽しんでね」
そう言うと
「うん。こっちこそありがとう」
と言った元カノは笑顔だった。でもその言葉は少しだけ震えている気がした。
元カノはその一言だけ笑顔で言うと
すぐに振り返り自分のクラスの教室に駆けて行った。
後ろ姿で顔は見えなかったが、なぜか僕には泣いてるように感じた。
悪いことしたかなと胸が少し苦しくなった。すると側から見ていたのか友達が
「おーい!縁戻しですかぁ~!」
などとテンション高く近寄ってきた。
そのバカさ加減とテンションの高さと「いつも通り」感で自然に僕も笑顔になり
胸の苦しさも紛れた。それから大学入学まで遊びに遊んだ。早すぎる同窓会もした。
そして大学入学。匠と2人で大学の入学式に行くとき
お互いのスーツ姿の新鮮さと見慣れなさに笑った。
入学してすぐ匠にとある事件が起こり、そこから匠は大学に来なくなった。
たまに講義に来たりもするが稀だ。その事件の2ヶ月後くらいに急にオタクになり
年末に飲もうと誘い居酒屋で飲んだときに
「オレマンガ家になる」と唐突に夢を聞かされた。そんなこんなで今に至る。
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