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夢 仕事
本編
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いい天気の午後。お昼真っ只中から暇そうに
そして気持ちよさそうに屋根のある公園のベンチに腰掛けている人物。
天野 青空(そら)27歳。ピアス多めで
金髪に左側の耳付近と触角と呼ばれる部分の髪だけ青く染めている。
職業…職業か。職業は親の脛を齧ること。誰でもできる簡単なお仕事です。
笑顔の絶えない職場です。微風が気持ちいい4月。
「んん~!気持ちいい~」
伸びをする青空(そら)。非常に気持ち良さそうである。
「ん?どこだよぉ~…」
公園の案内板、地図を指指しながら呟く。
「ここが現在地でしょ?…わからんて」
呟きながらスマホを取り出し、LIMEのアプリを開く。青空(そら)とのトーク画面に入り
「公園に着いて公園内の地図見てるけど、そらのいる位置さっぱりわからん」
と打ち込み送信ボタンを押した。
深呼吸をする青空(そら)。
肺丸々大自然に覆われた感じ
とか思っている。すると
「あ」
スーツ姿にバッグを持ち、コンビニのレジ袋を持った男性が青空(そら)を指指す。
「おった」
と言う彼。雨御(あまご) 虹(なな)。青空(そら)と同じく27歳。
会社員で自社のウォーターサーバーの売り込みの営業マンである。
風の声、砂を踏み締める音。2人の間に謎の静寂が響く。
「ちょっとこっち来てぇ~!」
「なにぃ~?どしたぁ~?」
「フリスビー消えたぁ~!」
「マジかよ」
若者の声が聞こえる。青空(そら)から静寂を断ち切る。
「よお。よくぞ辿り着いたな若者よ」
「いやいやいや!良い笑顔で「よお」じゃないよ!しかもゲームの仙人みたいな口調で!」
ゲームの仙人キャラへの大いなる偏見である。
「ん?どった?そんな剣幕で」
優しい笑顔の青空(そら)。
「いやいやいや!「どったの?」じゃない「どったの?」じゃ」
虹(なな)はスマホを取り出し、青空(そら)とのトーク画面を開き、青空(そら)に見せつける。
「これだよこれ」
虹(なな)「おはよう。起きてー…ないよなw」
虹(なな)「今日さ、営業途中でそのままお昼って思ってるんだけど、そんときさ会えない?」
虹(なな)「もしいつもの公園ならそこの位置情報送っといて」
青空(そら)「おはよー。今起きたわーw」
青空(そら)「いつもの公園行くつもり」
青空(そら)「着いたら位置情報送るわ」
青空から送られたただ木々と多少の桜と広場が映っている写真。
青空(そら)「ゆっくり来たらいいよ( ^ω^ )」
「え!?なにこれ?え?なにこれ?この写真でわかるわけなくない?」
スマホと青空(そら)の顔を忙しく交互に見る虹(なな)。
「えへへぇ~クイズ風にしたら楽しいかなって。ちょっと茶目っ気出ちゃったかな?」
「えへへ~」と照れくさそうに頭の後ろを掻く青空(そら)。
「いやいやいや!クイズならクイズらしくして?ヒントとか写して?
ヒントゼロだと難問が過ぎるって」
「でもわかったじゃ~ん」
「オレすごすぎない?…せめてあの時計入れてくれたら少しはヒントになったのに」
と言いながら青空(そら)の座るベンチに近づいて
「ま、いいけどさ」
と言いながら座る。虹(なな)はコンビニのレジ袋を広げて
「テキトーにいろいろ買ってきたからお昼にしようぜ」
と言う。
「おぉ!」
虹(なな)はコンビニのレジ袋から2本のペットボトルを取り出し
「ちゃんと飲み物も買ってきました。
ココティーストレートとMEGAGIGA(メガギガ)。どっちがい?」
虹(なな)がそう聞くと青空(そら)は悩み、悩み、写真を撮る構図を決める手
人差し指と親指を立ててフレームのようにし、その中に虹(なな)を入れる。
「なに…?なんでそんな絵描きの人が構図決めるみたいなポーズとってんの?」
「え?いやぁ~虹(なな)ってイケメンだよなぁ~って」
「なんだよ急に」
「だからなんか今のこの感じ。「どっちにする?」って感じ?なんかポスターみたいだなって」
青空(そら)の想像では女の子の部屋の机の前の壁に
虹(なな)が「君ならどっち?」という文字が書かれているポスターがあった。
「こんな感じで」
「こんな感じって言われてもわからんけど。でもこんなスーツのポスター誰が買う?誰が作る?
洋服の赤山かスーツのAKAGI(アカギ)だけだろ」
「まあ、たしかに」
青空(そら)が笑う。
「で?どっちにする?」
「んん~…。どーちーらーにーしー」
「長い長い。こんなことに神様使うな」
「こっち」
「はい」
「サンクス」
青空(そら)はMEGAGIGA(メガギガ)を受け取り
ベリベリと新品特有の音をさせながらキャップを開ける。プシュッ。
「いただきます」
「どおぞ」
青空(そら)はMEGAGIGA(メガギガ)を流し込む。
「ップハアァ~~!!」
周りの鳩たちは「何事だ?」とビクッっと2人のほうを向く。
「うっっま!ひさしぶりにMEGAGIGA(メガギガ)飲んだわ。めっちゃうまいな」
「わかるわかる。ひさしぶりに飲むとうまいやつあるよな」
「そうそう。あぁ~今日使った1日分のエネルギーが補充されるわ」
「今日使ったエネルギーって」
思わず笑う虹(なな)。
「今日使ったエネルギーってなんだよ。ここに歩いてきたくらいだろ。
あとさっきオレのことポスターみたいだって言ってたけど
青空(そら)のプッハーはCMみたいだったぞ」
「え?イケメンってこと?」
「…相変わらずココティーのストレートティーうまいな」
「無視っ」
2人で笑った。
「なに食べる?ぶっかけ蕎麦とー手のひらオムライスとシーチキンマヨネーズ」
「おにぎりをいただきます」
こいつMEGAGIGA(メガギガ)にシーチキンマヨネーズのおにぎりって
どんな組み合わせだよと心の中で思う虹(なな)。
「そーいや調べてみたけど。やっぱりスーツでのポスターってないぞ」
虹(なな)はスマホの画面を見せる。そこにはイケメン俳優や全裸系国民的アイドル
シルフィーのプリンセスのコスプレをした国民的猫型ロボットアニメの
お前のものはオレのもの、オレのものもオレのもの系声優さんの写真があった。
「まだ言ってたんかい」
「いや、自分で言って気になったから…ん?」
虹(なな)はおにぎりの包装に苦戦している青空(そら)を見ていたら
どこからか音楽が聞こえてきた気がした。
大人気ゲーム、モンスターナンバーのお肉を焼くときの音楽だ。
すぐに青空(そら)はおにぎりの包装を剥き終わったと思いきや
両端のビニールを取った勢いでおにぎりが宙を舞う。虹(なな)も青空(そら)も
「「あっ」」
っと少しヒヤッっとしたが青空(そら)のナイスキャッチ。虹(なな)には
「上手に剥けました!」
という声と共にモンスターナンバーの世界にいて
おにぎりを誇り高く掲げている青空(そら)が見えたようにみえた。
「上手に剥けました!」
青空(そら)が本当に言った。
「ふっ」
虹(なな)が思わず笑う。太ももの上に置いたぶっかけ蕎麦に揚げ玉をのせて、箸で混ぜる。
「いいな。青空(そら)って。なんていうか自分の世界でさ、楽しく笑って、幸せそうで」
皮肉でもなんでもない。虹(なな)は本当に青空(そら)が羨ましかった。
「今日も相変わらず仕事でさ。9時に出社、10時から外回り。
ま、営業の運命(さだめ)よな。んでろくに話もできずに今に至るわけよ」
ふと青空(そら)を見る。するとめちゃくちゃ真剣に
「いや、シーチキンマヨネーズもひさびさに食べると美味いもんだな。
正直「シーチキンマヨネーズかよ。牛カルビやろがい」って思ってたけど
ひさしぶりに食べると美味しいな。おにぎり自体ひさしぶりだけど。
あぁ、今度からおにぎりありだな」
とおにぎりを堪能していた。
「ねえ。自分の世界でいいなとは言ったけど少しはこっちの世界にも干渉してきて?話聞いて?
寂しい。お兄さん寂しいよ?あとおにぎりちょっと嫌やったんかい。
蕎麦もオムライスもあったのに」
「いや、蕎麦は多いし、オムライスは…なんか重い?」
「あぁそうですか」
「ごめんごめん。ちょっとおにぎりのあまりの美味しさにビックリしちゃってさ」
「ま、それなら良かったけど」
「で?仕事の話でしょ?ちゃんと聞いてたって。どうした?」
「うん…。オレさ?…仕事辞めよっかなって」
少しだけ2人の間に静寂が訪れ、葉が風で動かされ、地面と擦れる音さえも鮮明に聞こえる。
「辞める…なるほど…。うぅ~ん。なるほど?…なんかあった?」
「いや、なんもない。…なんもないって言ったらあれだけど」
「うん」
「今一人暮らししてんじゃん?今の部屋から遠くはないのよ。
ま、近いってほどでもないんだけどさ。お給料もしっかり貰っててさ。
ま、全然優雅に暮らせるほどではないけど
めちゃくちゃ普通に暮らせるくらいには貰ってるのよ。
残業も滅多にないし、ほんとホワイト企業って言ったらいいのか。とにかくいい会社。
上司も先輩もいい人ばっかだし、27にもなると後輩もできるわけよ。
ま、最初は大変…でもなかったか、後輩くんも仕事覚えようってしっかりしてたし
覚えて1人で仕事できるようになってからもなんか可愛い後輩だったしで
周りの人もいい人ばっかなのよ」
アンケートがあるなら
1,自宅から会社までの距離
a,遥か彼方(師匠じゃないよ)□b,遠い□c,丁度良い☑︎d,近い□e,目と鼻の先□f,会社住み□
2,給料に関して
a,石油王並み□b,高い□c,丁度良い☑︎b,安いe,無いに等しい□f,無い□
3,残業の量
a,欲しい□b,無い□c,少ない☑︎b,丁度良い□e,多い□f,残業ってなに?□
4,上司、先輩について
a,崇め祀る□b,良い人☑︎c,普通□b,興味がない□e,嫌な人f,末代まで恨む□
5,同僚について
a,崇め祀る□b,良い人☑︎c,普通□b,興味がない□e,嫌な人f,末代まで恨む□
6,後輩、新人について
a,崇め祀る□b,良い人☑︎c,普通□b,興味がない□e,嫌な人f,末代まで恨む□
という感じだろう。
「ほんと恵まれてると思う。MyPipeとかニュースとかでブラック企業の話聞くと。でもね…」
綺麗な青空が少しだけ曇り始めた。
「ふと思っちゃったんだよね。「オレなにしてるんだろう」って」
「…なにしてるんだろうって?」
「さっきも言ったけど、対人関係なんてまあ文句のつけどころないし
文句とかあっちゃいけないレベルで恵まれてる環境なんだけどさ?
でも「オレなにしてるんだろう?」「オレのやりたかったことってなんだっけ?」
「オレなんのために働いて、誰のためになんのためにお金稼いでるんだろう?」って
思っちゃってさ」
真剣な表情の虹(なな)がパッっと笑顔に変わる。
「まあ、自分が生きていくためだろ!って言われたらぐうの音も出ないんだけどさ」
と笑う。
「あ!そうだ!オレの一人暮らしのこと思い出したら思い出したんだけどさ。
青空(そら)覚えてる?」
「なに?」
「大学1年から一昨年?だっけ?くらいまでのこと」
「大学1年から…なんかあったっけ」
「はぁ~?青空(そら)が一人暮らし始めたじゃんか」
「あぁ。そっか、あれ大1か」
そこから2人は2人共通の思い出の頃に遡り、思い出に浸り始めた。
「そーだよ。んでオレがギター持ってってさ」
「はいはいはい。思い出した思い出した。
虹(なな)が「じゃーん!一人暮らし記念でーす」とか
言ってギター持ってきてなんか弾いてたな」
「じゃーん!とは言ってないけどな」
「んで、オレん家(ち)防音じゃないって言ってんのにギター弾き始めてな」
「アンプ繋いでないから全然へーきだったと思うけどね」
「んで虹(なな)がギター弾いてオレが歌ってな」
「そうそう!んで大学2年?1年の後期くらいか?からろくに講義出ないで作詞したり
作詞のためだって言って映画見たりして朝まで飲んで、んで朝に寝て昼起きて
昼ならみんな仕事だろっつって作曲とか歌歌うのとかは昼にしたりな」
現在に戻ってくる2人。
「うわっ、やっばいな!ヤバい懐かしいな!」
「な!懐かし過ぎるでしょ!」
「今シラフだからへーきだけど、アルコール入ってたらやばかったな。
大号泣か大爆笑のどっちか。どっちにしろリミッター外れてる」
「わかるわかる。オレはたぶん両方してると思う。
こんなことあったよねぇ~大爆笑からのあぁ~良かったなぁ~で大号泣。
感情も顔もぐっちゃぐちゃ」
「いやぁ~マジで楽しかったなぁ~。
もう思い出になるくらい時間経っちゃったんだな。ま、割と最近の思い出もあるけど」
「たしかになぁ~。…そっか…。ま!でもマジで良い思い出よ?もう最っっ高の思い出!
それこそ今でもあのときが永遠に続けばいいのにって思うくらい最高だった」
2人とも感傷に浸る。
「マジで楽しかった」
虹(なな)がポツリと呟く。
「あ!そうだ!」
パッっと閃いたような、でもどこか無理に笑っているような表情になる。
「またギター始めよっかな」
虹(なな)は自分の部屋を思い出す。
「まだ枕元ってか、ベッドの近くに立て掛けてあるんだよね。未練たらたらっていうか。
夢諦めて就職活動始めて、運良く今の会社に拾ってもらって稼げるようになって
仕事して帰っても着替えて夜ご飯作って
ま、作ってっていっても大概レンチンとか出来合いのだけど。
んでテレビ見ながら夜ご飯食べてお風呂入ってってやってたら
気づいたら眠くなって寝ての繰り返し。休日は休日で仕事ない嬉しさで寝てゲームして
でもどっかで仕事のことが頭にあってさ、紛らわすためにお酒飲んで
映画見てってしてたら1日過ぎてるしさ。社会人になってからというものの
あいつ(ギター)にスポットライト当てられてあげてないんだよね」
虹(なな)はギターケースの中の寂しそうにしてるギターを想う。
「今日帰ったら顔見よ」
と言うと
「でもオレあいつ(ギター)の顔見たら、触ったら、また夢追いたくなるだろうな。
でもオレ知っての通りのバカだからさ、2つのこと同時にできないから。
夢追いたくなってギター再開したら、仕事ろくにできなくなるだろうな」
自分で自分がおかしいように笑う。
「夢諦めて就職して社会人になったけど、やっぱどっかで夢を諦めきれてないんだよね。
夢のカケラにでも触れたらまた夢追いたくなっちゃうような
根はどこまで行っても社会不適合者なんだよな」
とどこか切なく、どこか自虐的に笑う。
「あ!」
その声にビックリした鳩たちが飛び立つ。
「ビックリしたぁ~…なに?どしたん」
虹(なな)も驚く。
「今オレのことバカにしたな。さすがに気づいた」
青空(そら)はジト目で虹(なな)を見ながら、おにぎりを持っている手で虹(なな)を指す。
「なんだよ。バカにしてないし、あと食べ物で人のこと指指さない。
あ、指じゃないか…おにぎり指さない。
人のこと指指すのも食べ物使うのも両方お行儀悪いからやめなさい」
まるでお母さんのような虹(なな)。
青空(そら)はおにぎりをジーっと見て、パクンと口び放り込む。
「あっいおえおおおわあいいた」
口の中パンパンにおにぎりが入っているため聞き取れない。
「食べながら喋らない。お行儀が悪い。そもそもそんなパンパンに入れるなよ」
「ごふぇん」
「うん。「ごめん」はわかった」
「ま、焦ってないからゆっくり食べ?」
「わふぁっふぁ。ふぁうぇふぇふぁあふぁべうああ」
「わかったから喋るな」
口パンパンに入れたおにぎりはちょっとやそっとじゃ無くならず
青空(そら)は無言でもぐもぐを続ける。そんな青空(そら)を見て
オレも今のうちに蕎麦食うか
と割り箸を持って
「いただきます」
と手を合わせて蕎麦を食べ始めた。その間に空は段々と曇り始め
「待って。今ポツッってきたんだけど」
「嘘?マジ?…いや?感じないけど。お前の上にだけ雨雲来てんじゃね?」
「んなわけ…あ、ほら今ちょうどつむじに」
「マジ?」
とポツポツと雨も降ってきているようだった。
「ご馳走様でした」
つゆまでしっかり完食した。
「もういいっすかぁ~?食べ終わりました?長いっすよ先輩~。
ちなみにオレも頑張って食べたから途中で喉詰まらせそうになったわ」
「マジか。オレ青空(そら)のを待ってるついでに食べただけなんだけど。
あと危ないからちゃんと飲み物は飲みなさい」
またお母さんみたいになる虹(なな)。
「ごめんごめん。さすがに冗談」
手を合わせて謝る青空(そら)。
「で?オレをバカにしたーってなに」
「あぁ、はいはい。いやさ、さっき虹(なな)が
「わーオレは社会不適合者だー(虹(なな)の声真似のつもり)って言ってたじゃん?」
「うん。うん?待って。今のオレのつもり?」
「うぬ」
「バカにしすぎだろ」
「って落ち込んでたでしょ?
でもオレは生まれてこのかた、ずっと社会不適合者やってんだぞって。
ポツッターのプロフィール欄に書けるレベルで。なんなら履歴書にも書けるわ」
と少し自慢そうに胸を張りながら笑う青空(そら)。
「なに自慢してんだよ。そんなことポツッターのプロフィールにも履歴書にも書くなよ?」
思わず笑う虹(なな)。
「ま、冗談に聞こえたかもだけど、結構ガチな話でさ?虹(なな)は立派だと思うよ。
オレはほんとに最底辺の人間だからさ」
と言うと「ん?」と腕を組み、悩んだ表情をする青空(そら)。
「あれ?でもおかしいな。全ての会社の新人研修のときに、この世のカーストっていって
ホワイトボードに三角形描いて1番上が「神、仏」で
2番目が「家族、両親、もしくは育ての親や恩師」で
3番目が「社会人、学生、1度でも働いたことのあるもの」そして4番目が「ニート」
5番目、1番下がオレ「天野青空」って習うはずだけど…。習ってない?
あ、テストのときはポイントとして「最底辺=天野青空なため
空欄には「最底辺」でも「天野青空」でもどちらでも正解とする」って
教えられてるはずなんだけど…」
虹(なな)が思わず笑う。
「んな訳ねぇだろ。そんな最底辺が青空(そら)です。なんて研修、親友としてさせねぇわ」
青空(そら)の口角が思わず上がる。
「「親友としてさせない」か。嬉しいこと言ってくれるねぇ~」
と言うと
「うっし!」
と言い、ベンチを両足で挟むように、バイクのシートに跨るように座り
「虹(なな)!いつでもおいで!オレが受け止めたる!」
と両手を広げる。2人の間に静寂が訪れる。
「人間ってよくオレたちのこと、のんびり生きてていいよなぁ~とか言うけどさ
オレらはオレらなりに必死に生きてんだよな」
「それな!ご飯見つけるのも大変だし」
「ご飯の美味しさだって運だし…あいつの隣にゴミあるなぁ~」
「こっちにいいものはありそうにないですー」
「こっちも無さそうですー」
周りの鳩の会話が聞こえてくるくらいに。
「は?」
なんの感情かわからない顔をする虹(なな)。
「ん?」
青空(そら)は青空(そら)で「どうした?」という表情をする。
「いやいや「ん?」じゃない「ん?」じゃない」
ブンブンと手を横に振る。すると
「あ…」
と何かに気づいた表情になり
「いや…あ、ごめん。オレ、ドノーマルだからさ。
いや、そーゆー趣向を否定する気はないけどさ…ごめん」
と謝ると
「は?え?怖い怖い。オレもそーゆー趣向を否定はしないけど、オレもドノーマルだから。
なに考えてんの?怖っ。なに少し顔赤てんの?引くわぁ~」
と引いた顔をする青空(そら)。
「冗談だよ!マジで捉えんな!」
少しイラッっとする虹(なな)。そして続ける。
「んで?さっきのなに?」
「んん~そうだなぁ~説明…あ、それ貸して」
「どれ?」
「それ」
「これ?」
虹(なな)がレジ袋を指指す。
「あ、そうそうそう」
「ゴミだぞ?」
と言いながらレジ袋を渡す。
「あ、これだけでいいわ」
とレジ袋を返す青空(そら)。
「テレレレッテレー!えぇ~っと蕎麦?うどん?
蕎麦だっけ?虹(なな)の食べ終わった蕎麦の容器~!」
と虹(なな)が綺麗に食べた蕎麦の空きプラスチック容器を出した。
「某国民的アニメの道具みたいに出さないで?ただのゴミを。
あと声真似も全然似てないし、そもそもやるなら道具名決めとけよ」
「ごめん」
やれやれといった表情で
「で?その道具はどう使うんだい?“ソラえもん”」
「えぇ~ではこちらを使って説明させていただきます」
「おい!乗り損じゃねーか。
なんで某国民的猫型ロボットからコース料理説明するスタッフみたいになってんの」
「こぉーこぉーにぃー(某国民的猫型ロボットの声真似のつもり)」
「もういいわ。たぶん説明グダるだろ」
「あ、じゃあふつーに。ここに虹(なな)が座ってるとするじゃん」
青空(そら)が容器の縁を指指す。
「縁にってこと?」
「そうそう。もちろん小さい虹(なな)がね?」
「可愛いな」
「んで今度はここね」
青空(そら)が今度は容器の底を指指す。
「あぁ、今度は“そこ”ね」
「うん。うん?うん。底。え、今のどっち?ここそこの“そこ“なのか蓋底の”底“なのか」
「え?…いや、何気に言ったから覚えてない。ってどっちでもいいよ。で?」
「はいはい。で、そう。今度は底にオレがいるとするじゃん。
虹(なな)は縁に座って「はぁ~今日も仕事疲れたなぁ~」とか言ってるわけよ」
「言ってそう」
「でオレは最底辺から虹(なな)のこと見上げて「おぉ~い」って叫ぶんだけど
虹(なな)には届かないのよ」
「そんな高さあるんだ」
「めっちゃある。ゆーて虹(なな)がいるのは地上だから」
「なるほど。そっか。そこは地下なのか。青空(そら)がいるのは何階なの?」
「オレ?最下層は100階」
「めっちゃ地下じゃん」
100階とかいう小学生みたいな発言に小学生みたいな無邪気な笑顔になる2人。
「でさ、さっき言ってたじゃん?夢追いたくなったら仕事できなくなるかもって」
「うん」
「仮に。これは仮によ?虹(なな)が仕事辞めて夢を追う決断をしたとしよう。
その決断ってのは今いる場所」
青空(そら)がプラスチック容器の縁を指指す。
「ここから飛び降りるってことだと思って?
意を決して飛び降りても、本来ならここに蕎麦という名のクッションがあるわけよ。
だからオレのとこには、最底辺には来ない。
蕎麦の柔らかいクッションに受け止めてもらえるはずなんだよ。
だって立派に社会人してた虹(なな)と1回も社会に出ず
夢ばっか追ってるオレとは雲泥の差があるんだから」
虹(なな)は口を挟まず聞いている。
「でも!もし!もしだよ?今みたいに
何の間違いか、クッションがない状態で飛び込んじゃったとしよう。
そうなったらオレのいる最下層まで真っ逆さまよ。でもさ、そんなときは…」
虹(なな)が上から落ちてきたところを腕でお姫様抱っこのような形で受け止める青空(そら)。
「地下100階。最下層に住む唯一の住人であり、虹(なな)の親友であるオレが受け止めてやる」
虹(なな)は少し嬉しかった。
「本当ならここで「金の心配はするな。
困ったら支えてやるからまた一緒に夢追おうぜ」とか言えたらカッコいいんだけどね。
夢追いニートのオレに金の余裕なんてないし、ただ受け止めるだけ。カッコ悪いな」
青空(そら)は笑う。そんな青空(そら)を見て虹(なな)は
充分カッコいいって
と思った。
「ま、そんなことないだろうけどね。蕎麦クッションあるから」
「蕎麦クッション。二八?十割?」
「んん~二八かな」
「いいねぇ~いい匂いしそうだし、美味しそう」
「ま、でももし蕎麦クッションなくて最下層来ちゃったら、オレがいろいろ案内してあげる。
地獄は地獄なりの楽しみ方あるから。地獄で一緒に踊ろうぜ!」
ふざけたように笑う青空(そら)。
「海外映画の日本語版みたいな文言だな」
「それ狙ってた」
「そんなもん狙うなよ」
「さすが虹(なな)。長い付き合いだけあってオレの欲しいツッコミわかってるぅ~」
「つっこんではないけどな?」
2人が笑う。今まで曇り空だった空も
2人に釣られて笑ったように、雲が途切れて、その雲の隙間から太陽の光が差し込む。
「お。晴れてきた」
「ほんとだ」
雲が段々途切れて差し込む光の柱も太くなる。
「あ!見て虹(なな)」
「うわっ。なんだよ。ビックリした」
「後ろ。後ろ見てみ?」
青空(そら)はいつの間にか後ろを向いていた。
虹(なな)も後ろを向く。青空(そら)が指指す先を見る。
「…鳩?」
そこには2羽の鳩が向かい合わせでいた。
「聞いてホロ~。今日はあの高級住宅街でご飯探してきたホロォ~」
「急になした」
思わず笑う虹(なな)。
「いいからいいから」
「えぇ?…どっち?」
「オレ右側。虹(なな)左ね」
「はいはい。…えぇ!?お前“ごとき”があんな高級住宅街行ってきたホロかぁ~?」
「おい。“ごとき”って。ふつーこーゆーときって仲良い設定でやらん?」
「まあ、たしかに」
2人で笑う。
「見てみ?やっぱあの2人なんか話してるって。幼馴染かな」
と鳩を見ながら言う青空(そら)を見て
青空(そら)がこの世の最底辺か。
じゃあなんで…なんでそんな楽しそうに見えるんだろう。なんで輝いて見えるんだろう。
と虹(なな)は思った。
「あぁ~あ!」
と大きな声を出しながら腕を天に向かって伸ばす虹(なな)。
「うわっ。ビックリした。急に大声出すなよ」
ビクッっとなる青空(そら)。
「あぁ、ごめんごめん。伸びをしたくなるお年頃なのよ」
「いつだよ」
先程の鳩2羽もこちらを見ている。
「ほらぁ~大声出すから、あの子らもこっち見てんじゃん」
「あ、ほんとだ。ごめんごめん」
鳩2羽に手を振る虹(なな)。
「あぁ~ビックリしたホロ。心臓に悪いホロ」
「え、また始まんの?」
と冷静なツッコミを入れた虹(なな)が
「ねえ、なんで最底辺のくせにそんな楽しそうなの?」
といい笑顔で率直なドストレートの言葉を青空(そら)に投げる。
「うわっ。引くほどの悪口」
「ごめんごめん。言い方間違っただけ」
「んん~…でもオレも考えたことなかった…けど…」
と悩むポーズをとった青空(そら)だがすぐに顔を上げ、人生楽しんでるという笑顔になり
「強いて言うのであれば、ほら、オレさ、大学も卒業してないし、バイトもしてない。
ただただ夢を追いたい、叶えたいってだけで人生生きてるじゃん?
…「適当」に生きることってオレにとっては難しいけど
「テキトー」には生きられてるからそれでいっかって。
怒ったり悲しんだり、落ち込んだりが多い人生でも、笑顔ばっかの人生でも
オレにとってはどっちにしろテキトーな人生しか歩めない。
なら笑顔ばっかの人生のほうが楽しそうじゃん?
だからくだらないことで笑ってられる…って感じ?」
その横顔は本当に人生を楽しんでいるように見えた。
「へぇ~。なるほどねぇ~?」
「あ!ちなみによく箸が転がっただけで笑う。みたいなこと言うけど
オレもたぶん箸が転がっただけでも笑うと思うよ」
とめちゃくちゃアホ面で言う青空(そら)。
虹(なな)はレジ袋からお昼に使った割り箸を取り出し、足元の石のタイルに投げる。
カランカッカッコロンコロン。割り箸の軽くも綺麗な音が響く。虹(なな)は青空(そら)を見る。
「おい。オレの公園にゴミを捨てるなよ。ポイ捨てアカン」
とジト目で言い放った。たしかに公園の注意書にも
出たゴミはゴミ箱へ、できれば持ち帰って公園を綺麗に保とう!
と書かれている。
「おい。全然笑わねーじゃねーか。あと“オレの”じゃなくて“みんなの”公園な?」
と少しイラッっとして言った。
「ごめんごめん。冗談冗談」
「あ、笑った。結局箸が転がったことで笑うことに繋がったな」
「たしかに」
2人は笑った。笑いながら
笑うっていいな
と思った。
「よしっ!決めたっ!」
虹(なな)は両太ももをパチンと叩き立ち上がる。
「おぉ~随分スッっと立ったね。卒業式みたい」
「わかる。めっちゃ卒業式思い出した」
「で?雨御(あまご) 虹(なな)くん!決めたって?」
「うん。とりあえず仕事は続ける。あ、“とりあえず”ね。で、ギターもも1回始める」
「おっ」
「で、あーもー無理ー!ってなったら仕事辞める…か?」
「おぉ、決めたって割に決めきれてない」
「いや、社会人になったらわかるって。会社辞めて夢もう1回追う怖さ?不安さが。
…でももう1回夢追ってみたくはなっちゃったから
もし仕事辞めることになったら、そんときは地下100階の住人に責任取ってもらうわ!」
と虹(なな)は弾けた笑顔で言った。
空もだいぶ雲が散って、太陽の光の柱が太く、多く差し込んでいた。
「お?地下100階の住人とは誰ぞや?」
「おい」
「嘘嘘」
虹(なな)はスマホの画面をつけ、時刻を確認し
「さて。そろそろ営業に戻りますかね」
とバッグを持って立ち去ろうとして顔だけ振り返り
「そんときが来たら、頼んだぞ?親友」
と笑顔で言った。
「頼まれた」
「じゃ、また連絡するわ」
「へいよー」
と言って虹(なな)は営業へ戻り、青空(そら)はベンチに座ったまま。
虹(なな)は公園を歩いている最中、青空(そら)はベンチに座ったまま
2人は同じタイミングで別の場所で空を見上げた。
晴れたな
2人とも同じことを思った。
「んあぁ~!…さてと。晴れてきたし作詞の続きでもしますかね。
夢追いニートが夢追わなくなったらマジで終わりだからねぇ~」
と言いながらスマホを取り出す青空(そら)。
「んん~…夢…虹(なな)みたいに社会に出たけど
夢も捨てきれないみたいな人への応援ソング的な…の…」
青空(そら)はベンチの足元を見た。そこにはレジ袋が置かれておいた。
「あいつ…ゴミ置いてきやがった…」
その頃虹(なな)はどこか悩みも晴れ
好きなアーティストの曲を聴き、ゴミを忘れたことも忘れ、青空の下ルンルンと歩いていった。
出たゴミはゴミ箱へ、できれば持ち帰って公園を綺麗に保とう!
ゴミはしっかりと青空(そら)が持ち帰った。
そして気持ちよさそうに屋根のある公園のベンチに腰掛けている人物。
天野 青空(そら)27歳。ピアス多めで
金髪に左側の耳付近と触角と呼ばれる部分の髪だけ青く染めている。
職業…職業か。職業は親の脛を齧ること。誰でもできる簡単なお仕事です。
笑顔の絶えない職場です。微風が気持ちいい4月。
「んん~!気持ちいい~」
伸びをする青空(そら)。非常に気持ち良さそうである。
「ん?どこだよぉ~…」
公園の案内板、地図を指指しながら呟く。
「ここが現在地でしょ?…わからんて」
呟きながらスマホを取り出し、LIMEのアプリを開く。青空(そら)とのトーク画面に入り
「公園に着いて公園内の地図見てるけど、そらのいる位置さっぱりわからん」
と打ち込み送信ボタンを押した。
深呼吸をする青空(そら)。
肺丸々大自然に覆われた感じ
とか思っている。すると
「あ」
スーツ姿にバッグを持ち、コンビニのレジ袋を持った男性が青空(そら)を指指す。
「おった」
と言う彼。雨御(あまご) 虹(なな)。青空(そら)と同じく27歳。
会社員で自社のウォーターサーバーの売り込みの営業マンである。
風の声、砂を踏み締める音。2人の間に謎の静寂が響く。
「ちょっとこっち来てぇ~!」
「なにぃ~?どしたぁ~?」
「フリスビー消えたぁ~!」
「マジかよ」
若者の声が聞こえる。青空(そら)から静寂を断ち切る。
「よお。よくぞ辿り着いたな若者よ」
「いやいやいや!良い笑顔で「よお」じゃないよ!しかもゲームの仙人みたいな口調で!」
ゲームの仙人キャラへの大いなる偏見である。
「ん?どった?そんな剣幕で」
優しい笑顔の青空(そら)。
「いやいやいや!「どったの?」じゃない「どったの?」じゃ」
虹(なな)はスマホを取り出し、青空(そら)とのトーク画面を開き、青空(そら)に見せつける。
「これだよこれ」
虹(なな)「おはよう。起きてー…ないよなw」
虹(なな)「今日さ、営業途中でそのままお昼って思ってるんだけど、そんときさ会えない?」
虹(なな)「もしいつもの公園ならそこの位置情報送っといて」
青空(そら)「おはよー。今起きたわーw」
青空(そら)「いつもの公園行くつもり」
青空(そら)「着いたら位置情報送るわ」
青空から送られたただ木々と多少の桜と広場が映っている写真。
青空(そら)「ゆっくり来たらいいよ( ^ω^ )」
「え!?なにこれ?え?なにこれ?この写真でわかるわけなくない?」
スマホと青空(そら)の顔を忙しく交互に見る虹(なな)。
「えへへぇ~クイズ風にしたら楽しいかなって。ちょっと茶目っ気出ちゃったかな?」
「えへへ~」と照れくさそうに頭の後ろを掻く青空(そら)。
「いやいやいや!クイズならクイズらしくして?ヒントとか写して?
ヒントゼロだと難問が過ぎるって」
「でもわかったじゃ~ん」
「オレすごすぎない?…せめてあの時計入れてくれたら少しはヒントになったのに」
と言いながら青空(そら)の座るベンチに近づいて
「ま、いいけどさ」
と言いながら座る。虹(なな)はコンビニのレジ袋を広げて
「テキトーにいろいろ買ってきたからお昼にしようぜ」
と言う。
「おぉ!」
虹(なな)はコンビニのレジ袋から2本のペットボトルを取り出し
「ちゃんと飲み物も買ってきました。
ココティーストレートとMEGAGIGA(メガギガ)。どっちがい?」
虹(なな)がそう聞くと青空(そら)は悩み、悩み、写真を撮る構図を決める手
人差し指と親指を立ててフレームのようにし、その中に虹(なな)を入れる。
「なに…?なんでそんな絵描きの人が構図決めるみたいなポーズとってんの?」
「え?いやぁ~虹(なな)ってイケメンだよなぁ~って」
「なんだよ急に」
「だからなんか今のこの感じ。「どっちにする?」って感じ?なんかポスターみたいだなって」
青空(そら)の想像では女の子の部屋の机の前の壁に
虹(なな)が「君ならどっち?」という文字が書かれているポスターがあった。
「こんな感じで」
「こんな感じって言われてもわからんけど。でもこんなスーツのポスター誰が買う?誰が作る?
洋服の赤山かスーツのAKAGI(アカギ)だけだろ」
「まあ、たしかに」
青空(そら)が笑う。
「で?どっちにする?」
「んん~…。どーちーらーにーしー」
「長い長い。こんなことに神様使うな」
「こっち」
「はい」
「サンクス」
青空(そら)はMEGAGIGA(メガギガ)を受け取り
ベリベリと新品特有の音をさせながらキャップを開ける。プシュッ。
「いただきます」
「どおぞ」
青空(そら)はMEGAGIGA(メガギガ)を流し込む。
「ップハアァ~~!!」
周りの鳩たちは「何事だ?」とビクッっと2人のほうを向く。
「うっっま!ひさしぶりにMEGAGIGA(メガギガ)飲んだわ。めっちゃうまいな」
「わかるわかる。ひさしぶりに飲むとうまいやつあるよな」
「そうそう。あぁ~今日使った1日分のエネルギーが補充されるわ」
「今日使ったエネルギーって」
思わず笑う虹(なな)。
「今日使ったエネルギーってなんだよ。ここに歩いてきたくらいだろ。
あとさっきオレのことポスターみたいだって言ってたけど
青空(そら)のプッハーはCMみたいだったぞ」
「え?イケメンってこと?」
「…相変わらずココティーのストレートティーうまいな」
「無視っ」
2人で笑った。
「なに食べる?ぶっかけ蕎麦とー手のひらオムライスとシーチキンマヨネーズ」
「おにぎりをいただきます」
こいつMEGAGIGA(メガギガ)にシーチキンマヨネーズのおにぎりって
どんな組み合わせだよと心の中で思う虹(なな)。
「そーいや調べてみたけど。やっぱりスーツでのポスターってないぞ」
虹(なな)はスマホの画面を見せる。そこにはイケメン俳優や全裸系国民的アイドル
シルフィーのプリンセスのコスプレをした国民的猫型ロボットアニメの
お前のものはオレのもの、オレのものもオレのもの系声優さんの写真があった。
「まだ言ってたんかい」
「いや、自分で言って気になったから…ん?」
虹(なな)はおにぎりの包装に苦戦している青空(そら)を見ていたら
どこからか音楽が聞こえてきた気がした。
大人気ゲーム、モンスターナンバーのお肉を焼くときの音楽だ。
すぐに青空(そら)はおにぎりの包装を剥き終わったと思いきや
両端のビニールを取った勢いでおにぎりが宙を舞う。虹(なな)も青空(そら)も
「「あっ」」
っと少しヒヤッっとしたが青空(そら)のナイスキャッチ。虹(なな)には
「上手に剥けました!」
という声と共にモンスターナンバーの世界にいて
おにぎりを誇り高く掲げている青空(そら)が見えたようにみえた。
「上手に剥けました!」
青空(そら)が本当に言った。
「ふっ」
虹(なな)が思わず笑う。太ももの上に置いたぶっかけ蕎麦に揚げ玉をのせて、箸で混ぜる。
「いいな。青空(そら)って。なんていうか自分の世界でさ、楽しく笑って、幸せそうで」
皮肉でもなんでもない。虹(なな)は本当に青空(そら)が羨ましかった。
「今日も相変わらず仕事でさ。9時に出社、10時から外回り。
ま、営業の運命(さだめ)よな。んでろくに話もできずに今に至るわけよ」
ふと青空(そら)を見る。するとめちゃくちゃ真剣に
「いや、シーチキンマヨネーズもひさびさに食べると美味いもんだな。
正直「シーチキンマヨネーズかよ。牛カルビやろがい」って思ってたけど
ひさしぶりに食べると美味しいな。おにぎり自体ひさしぶりだけど。
あぁ、今度からおにぎりありだな」
とおにぎりを堪能していた。
「ねえ。自分の世界でいいなとは言ったけど少しはこっちの世界にも干渉してきて?話聞いて?
寂しい。お兄さん寂しいよ?あとおにぎりちょっと嫌やったんかい。
蕎麦もオムライスもあったのに」
「いや、蕎麦は多いし、オムライスは…なんか重い?」
「あぁそうですか」
「ごめんごめん。ちょっとおにぎりのあまりの美味しさにビックリしちゃってさ」
「ま、それなら良かったけど」
「で?仕事の話でしょ?ちゃんと聞いてたって。どうした?」
「うん…。オレさ?…仕事辞めよっかなって」
少しだけ2人の間に静寂が訪れ、葉が風で動かされ、地面と擦れる音さえも鮮明に聞こえる。
「辞める…なるほど…。うぅ~ん。なるほど?…なんかあった?」
「いや、なんもない。…なんもないって言ったらあれだけど」
「うん」
「今一人暮らししてんじゃん?今の部屋から遠くはないのよ。
ま、近いってほどでもないんだけどさ。お給料もしっかり貰っててさ。
ま、全然優雅に暮らせるほどではないけど
めちゃくちゃ普通に暮らせるくらいには貰ってるのよ。
残業も滅多にないし、ほんとホワイト企業って言ったらいいのか。とにかくいい会社。
上司も先輩もいい人ばっかだし、27にもなると後輩もできるわけよ。
ま、最初は大変…でもなかったか、後輩くんも仕事覚えようってしっかりしてたし
覚えて1人で仕事できるようになってからもなんか可愛い後輩だったしで
周りの人もいい人ばっかなのよ」
アンケートがあるなら
1,自宅から会社までの距離
a,遥か彼方(師匠じゃないよ)□b,遠い□c,丁度良い☑︎d,近い□e,目と鼻の先□f,会社住み□
2,給料に関して
a,石油王並み□b,高い□c,丁度良い☑︎b,安いe,無いに等しい□f,無い□
3,残業の量
a,欲しい□b,無い□c,少ない☑︎b,丁度良い□e,多い□f,残業ってなに?□
4,上司、先輩について
a,崇め祀る□b,良い人☑︎c,普通□b,興味がない□e,嫌な人f,末代まで恨む□
5,同僚について
a,崇め祀る□b,良い人☑︎c,普通□b,興味がない□e,嫌な人f,末代まで恨む□
6,後輩、新人について
a,崇め祀る□b,良い人☑︎c,普通□b,興味がない□e,嫌な人f,末代まで恨む□
という感じだろう。
「ほんと恵まれてると思う。MyPipeとかニュースとかでブラック企業の話聞くと。でもね…」
綺麗な青空が少しだけ曇り始めた。
「ふと思っちゃったんだよね。「オレなにしてるんだろう」って」
「…なにしてるんだろうって?」
「さっきも言ったけど、対人関係なんてまあ文句のつけどころないし
文句とかあっちゃいけないレベルで恵まれてる環境なんだけどさ?
でも「オレなにしてるんだろう?」「オレのやりたかったことってなんだっけ?」
「オレなんのために働いて、誰のためになんのためにお金稼いでるんだろう?」って
思っちゃってさ」
真剣な表情の虹(なな)がパッっと笑顔に変わる。
「まあ、自分が生きていくためだろ!って言われたらぐうの音も出ないんだけどさ」
と笑う。
「あ!そうだ!オレの一人暮らしのこと思い出したら思い出したんだけどさ。
青空(そら)覚えてる?」
「なに?」
「大学1年から一昨年?だっけ?くらいまでのこと」
「大学1年から…なんかあったっけ」
「はぁ~?青空(そら)が一人暮らし始めたじゃんか」
「あぁ。そっか、あれ大1か」
そこから2人は2人共通の思い出の頃に遡り、思い出に浸り始めた。
「そーだよ。んでオレがギター持ってってさ」
「はいはいはい。思い出した思い出した。
虹(なな)が「じゃーん!一人暮らし記念でーす」とか
言ってギター持ってきてなんか弾いてたな」
「じゃーん!とは言ってないけどな」
「んで、オレん家(ち)防音じゃないって言ってんのにギター弾き始めてな」
「アンプ繋いでないから全然へーきだったと思うけどね」
「んで虹(なな)がギター弾いてオレが歌ってな」
「そうそう!んで大学2年?1年の後期くらいか?からろくに講義出ないで作詞したり
作詞のためだって言って映画見たりして朝まで飲んで、んで朝に寝て昼起きて
昼ならみんな仕事だろっつって作曲とか歌歌うのとかは昼にしたりな」
現在に戻ってくる2人。
「うわっ、やっばいな!ヤバい懐かしいな!」
「な!懐かし過ぎるでしょ!」
「今シラフだからへーきだけど、アルコール入ってたらやばかったな。
大号泣か大爆笑のどっちか。どっちにしろリミッター外れてる」
「わかるわかる。オレはたぶん両方してると思う。
こんなことあったよねぇ~大爆笑からのあぁ~良かったなぁ~で大号泣。
感情も顔もぐっちゃぐちゃ」
「いやぁ~マジで楽しかったなぁ~。
もう思い出になるくらい時間経っちゃったんだな。ま、割と最近の思い出もあるけど」
「たしかになぁ~。…そっか…。ま!でもマジで良い思い出よ?もう最っっ高の思い出!
それこそ今でもあのときが永遠に続けばいいのにって思うくらい最高だった」
2人とも感傷に浸る。
「マジで楽しかった」
虹(なな)がポツリと呟く。
「あ!そうだ!」
パッっと閃いたような、でもどこか無理に笑っているような表情になる。
「またギター始めよっかな」
虹(なな)は自分の部屋を思い出す。
「まだ枕元ってか、ベッドの近くに立て掛けてあるんだよね。未練たらたらっていうか。
夢諦めて就職活動始めて、運良く今の会社に拾ってもらって稼げるようになって
仕事して帰っても着替えて夜ご飯作って
ま、作ってっていっても大概レンチンとか出来合いのだけど。
んでテレビ見ながら夜ご飯食べてお風呂入ってってやってたら
気づいたら眠くなって寝ての繰り返し。休日は休日で仕事ない嬉しさで寝てゲームして
でもどっかで仕事のことが頭にあってさ、紛らわすためにお酒飲んで
映画見てってしてたら1日過ぎてるしさ。社会人になってからというものの
あいつ(ギター)にスポットライト当てられてあげてないんだよね」
虹(なな)はギターケースの中の寂しそうにしてるギターを想う。
「今日帰ったら顔見よ」
と言うと
「でもオレあいつ(ギター)の顔見たら、触ったら、また夢追いたくなるだろうな。
でもオレ知っての通りのバカだからさ、2つのこと同時にできないから。
夢追いたくなってギター再開したら、仕事ろくにできなくなるだろうな」
自分で自分がおかしいように笑う。
「夢諦めて就職して社会人になったけど、やっぱどっかで夢を諦めきれてないんだよね。
夢のカケラにでも触れたらまた夢追いたくなっちゃうような
根はどこまで行っても社会不適合者なんだよな」
とどこか切なく、どこか自虐的に笑う。
「あ!」
その声にビックリした鳩たちが飛び立つ。
「ビックリしたぁ~…なに?どしたん」
虹(なな)も驚く。
「今オレのことバカにしたな。さすがに気づいた」
青空(そら)はジト目で虹(なな)を見ながら、おにぎりを持っている手で虹(なな)を指す。
「なんだよ。バカにしてないし、あと食べ物で人のこと指指さない。
あ、指じゃないか…おにぎり指さない。
人のこと指指すのも食べ物使うのも両方お行儀悪いからやめなさい」
まるでお母さんのような虹(なな)。
青空(そら)はおにぎりをジーっと見て、パクンと口び放り込む。
「あっいおえおおおわあいいた」
口の中パンパンにおにぎりが入っているため聞き取れない。
「食べながら喋らない。お行儀が悪い。そもそもそんなパンパンに入れるなよ」
「ごふぇん」
「うん。「ごめん」はわかった」
「ま、焦ってないからゆっくり食べ?」
「わふぁっふぁ。ふぁうぇふぇふぁあふぁべうああ」
「わかったから喋るな」
口パンパンに入れたおにぎりはちょっとやそっとじゃ無くならず
青空(そら)は無言でもぐもぐを続ける。そんな青空(そら)を見て
オレも今のうちに蕎麦食うか
と割り箸を持って
「いただきます」
と手を合わせて蕎麦を食べ始めた。その間に空は段々と曇り始め
「待って。今ポツッってきたんだけど」
「嘘?マジ?…いや?感じないけど。お前の上にだけ雨雲来てんじゃね?」
「んなわけ…あ、ほら今ちょうどつむじに」
「マジ?」
とポツポツと雨も降ってきているようだった。
「ご馳走様でした」
つゆまでしっかり完食した。
「もういいっすかぁ~?食べ終わりました?長いっすよ先輩~。
ちなみにオレも頑張って食べたから途中で喉詰まらせそうになったわ」
「マジか。オレ青空(そら)のを待ってるついでに食べただけなんだけど。
あと危ないからちゃんと飲み物は飲みなさい」
またお母さんみたいになる虹(なな)。
「ごめんごめん。さすがに冗談」
手を合わせて謝る青空(そら)。
「で?オレをバカにしたーってなに」
「あぁ、はいはい。いやさ、さっき虹(なな)が
「わーオレは社会不適合者だー(虹(なな)の声真似のつもり)って言ってたじゃん?」
「うん。うん?待って。今のオレのつもり?」
「うぬ」
「バカにしすぎだろ」
「って落ち込んでたでしょ?
でもオレは生まれてこのかた、ずっと社会不適合者やってんだぞって。
ポツッターのプロフィール欄に書けるレベルで。なんなら履歴書にも書けるわ」
と少し自慢そうに胸を張りながら笑う青空(そら)。
「なに自慢してんだよ。そんなことポツッターのプロフィールにも履歴書にも書くなよ?」
思わず笑う虹(なな)。
「ま、冗談に聞こえたかもだけど、結構ガチな話でさ?虹(なな)は立派だと思うよ。
オレはほんとに最底辺の人間だからさ」
と言うと「ん?」と腕を組み、悩んだ表情をする青空(そら)。
「あれ?でもおかしいな。全ての会社の新人研修のときに、この世のカーストっていって
ホワイトボードに三角形描いて1番上が「神、仏」で
2番目が「家族、両親、もしくは育ての親や恩師」で
3番目が「社会人、学生、1度でも働いたことのあるもの」そして4番目が「ニート」
5番目、1番下がオレ「天野青空」って習うはずだけど…。習ってない?
あ、テストのときはポイントとして「最底辺=天野青空なため
空欄には「最底辺」でも「天野青空」でもどちらでも正解とする」って
教えられてるはずなんだけど…」
虹(なな)が思わず笑う。
「んな訳ねぇだろ。そんな最底辺が青空(そら)です。なんて研修、親友としてさせねぇわ」
青空(そら)の口角が思わず上がる。
「「親友としてさせない」か。嬉しいこと言ってくれるねぇ~」
と言うと
「うっし!」
と言い、ベンチを両足で挟むように、バイクのシートに跨るように座り
「虹(なな)!いつでもおいで!オレが受け止めたる!」
と両手を広げる。2人の間に静寂が訪れる。
「人間ってよくオレたちのこと、のんびり生きてていいよなぁ~とか言うけどさ
オレらはオレらなりに必死に生きてんだよな」
「それな!ご飯見つけるのも大変だし」
「ご飯の美味しさだって運だし…あいつの隣にゴミあるなぁ~」
「こっちにいいものはありそうにないですー」
「こっちも無さそうですー」
周りの鳩の会話が聞こえてくるくらいに。
「は?」
なんの感情かわからない顔をする虹(なな)。
「ん?」
青空(そら)は青空(そら)で「どうした?」という表情をする。
「いやいや「ん?」じゃない「ん?」じゃない」
ブンブンと手を横に振る。すると
「あ…」
と何かに気づいた表情になり
「いや…あ、ごめん。オレ、ドノーマルだからさ。
いや、そーゆー趣向を否定する気はないけどさ…ごめん」
と謝ると
「は?え?怖い怖い。オレもそーゆー趣向を否定はしないけど、オレもドノーマルだから。
なに考えてんの?怖っ。なに少し顔赤てんの?引くわぁ~」
と引いた顔をする青空(そら)。
「冗談だよ!マジで捉えんな!」
少しイラッっとする虹(なな)。そして続ける。
「んで?さっきのなに?」
「んん~そうだなぁ~説明…あ、それ貸して」
「どれ?」
「それ」
「これ?」
虹(なな)がレジ袋を指指す。
「あ、そうそうそう」
「ゴミだぞ?」
と言いながらレジ袋を渡す。
「あ、これだけでいいわ」
とレジ袋を返す青空(そら)。
「テレレレッテレー!えぇ~っと蕎麦?うどん?
蕎麦だっけ?虹(なな)の食べ終わった蕎麦の容器~!」
と虹(なな)が綺麗に食べた蕎麦の空きプラスチック容器を出した。
「某国民的アニメの道具みたいに出さないで?ただのゴミを。
あと声真似も全然似てないし、そもそもやるなら道具名決めとけよ」
「ごめん」
やれやれといった表情で
「で?その道具はどう使うんだい?“ソラえもん”」
「えぇ~ではこちらを使って説明させていただきます」
「おい!乗り損じゃねーか。
なんで某国民的猫型ロボットからコース料理説明するスタッフみたいになってんの」
「こぉーこぉーにぃー(某国民的猫型ロボットの声真似のつもり)」
「もういいわ。たぶん説明グダるだろ」
「あ、じゃあふつーに。ここに虹(なな)が座ってるとするじゃん」
青空(そら)が容器の縁を指指す。
「縁にってこと?」
「そうそう。もちろん小さい虹(なな)がね?」
「可愛いな」
「んで今度はここね」
青空(そら)が今度は容器の底を指指す。
「あぁ、今度は“そこ”ね」
「うん。うん?うん。底。え、今のどっち?ここそこの“そこ“なのか蓋底の”底“なのか」
「え?…いや、何気に言ったから覚えてない。ってどっちでもいいよ。で?」
「はいはい。で、そう。今度は底にオレがいるとするじゃん。
虹(なな)は縁に座って「はぁ~今日も仕事疲れたなぁ~」とか言ってるわけよ」
「言ってそう」
「でオレは最底辺から虹(なな)のこと見上げて「おぉ~い」って叫ぶんだけど
虹(なな)には届かないのよ」
「そんな高さあるんだ」
「めっちゃある。ゆーて虹(なな)がいるのは地上だから」
「なるほど。そっか。そこは地下なのか。青空(そら)がいるのは何階なの?」
「オレ?最下層は100階」
「めっちゃ地下じゃん」
100階とかいう小学生みたいな発言に小学生みたいな無邪気な笑顔になる2人。
「でさ、さっき言ってたじゃん?夢追いたくなったら仕事できなくなるかもって」
「うん」
「仮に。これは仮によ?虹(なな)が仕事辞めて夢を追う決断をしたとしよう。
その決断ってのは今いる場所」
青空(そら)がプラスチック容器の縁を指指す。
「ここから飛び降りるってことだと思って?
意を決して飛び降りても、本来ならここに蕎麦という名のクッションがあるわけよ。
だからオレのとこには、最底辺には来ない。
蕎麦の柔らかいクッションに受け止めてもらえるはずなんだよ。
だって立派に社会人してた虹(なな)と1回も社会に出ず
夢ばっか追ってるオレとは雲泥の差があるんだから」
虹(なな)は口を挟まず聞いている。
「でも!もし!もしだよ?今みたいに
何の間違いか、クッションがない状態で飛び込んじゃったとしよう。
そうなったらオレのいる最下層まで真っ逆さまよ。でもさ、そんなときは…」
虹(なな)が上から落ちてきたところを腕でお姫様抱っこのような形で受け止める青空(そら)。
「地下100階。最下層に住む唯一の住人であり、虹(なな)の親友であるオレが受け止めてやる」
虹(なな)は少し嬉しかった。
「本当ならここで「金の心配はするな。
困ったら支えてやるからまた一緒に夢追おうぜ」とか言えたらカッコいいんだけどね。
夢追いニートのオレに金の余裕なんてないし、ただ受け止めるだけ。カッコ悪いな」
青空(そら)は笑う。そんな青空(そら)を見て虹(なな)は
充分カッコいいって
と思った。
「ま、そんなことないだろうけどね。蕎麦クッションあるから」
「蕎麦クッション。二八?十割?」
「んん~二八かな」
「いいねぇ~いい匂いしそうだし、美味しそう」
「ま、でももし蕎麦クッションなくて最下層来ちゃったら、オレがいろいろ案内してあげる。
地獄は地獄なりの楽しみ方あるから。地獄で一緒に踊ろうぜ!」
ふざけたように笑う青空(そら)。
「海外映画の日本語版みたいな文言だな」
「それ狙ってた」
「そんなもん狙うなよ」
「さすが虹(なな)。長い付き合いだけあってオレの欲しいツッコミわかってるぅ~」
「つっこんではないけどな?」
2人が笑う。今まで曇り空だった空も
2人に釣られて笑ったように、雲が途切れて、その雲の隙間から太陽の光が差し込む。
「お。晴れてきた」
「ほんとだ」
雲が段々途切れて差し込む光の柱も太くなる。
「あ!見て虹(なな)」
「うわっ。なんだよ。ビックリした」
「後ろ。後ろ見てみ?」
青空(そら)はいつの間にか後ろを向いていた。
虹(なな)も後ろを向く。青空(そら)が指指す先を見る。
「…鳩?」
そこには2羽の鳩が向かい合わせでいた。
「聞いてホロ~。今日はあの高級住宅街でご飯探してきたホロォ~」
「急になした」
思わず笑う虹(なな)。
「いいからいいから」
「えぇ?…どっち?」
「オレ右側。虹(なな)左ね」
「はいはい。…えぇ!?お前“ごとき”があんな高級住宅街行ってきたホロかぁ~?」
「おい。“ごとき”って。ふつーこーゆーときって仲良い設定でやらん?」
「まあ、たしかに」
2人で笑う。
「見てみ?やっぱあの2人なんか話してるって。幼馴染かな」
と鳩を見ながら言う青空(そら)を見て
青空(そら)がこの世の最底辺か。
じゃあなんで…なんでそんな楽しそうに見えるんだろう。なんで輝いて見えるんだろう。
と虹(なな)は思った。
「あぁ~あ!」
と大きな声を出しながら腕を天に向かって伸ばす虹(なな)。
「うわっ。ビックリした。急に大声出すなよ」
ビクッっとなる青空(そら)。
「あぁ、ごめんごめん。伸びをしたくなるお年頃なのよ」
「いつだよ」
先程の鳩2羽もこちらを見ている。
「ほらぁ~大声出すから、あの子らもこっち見てんじゃん」
「あ、ほんとだ。ごめんごめん」
鳩2羽に手を振る虹(なな)。
「あぁ~ビックリしたホロ。心臓に悪いホロ」
「え、また始まんの?」
と冷静なツッコミを入れた虹(なな)が
「ねえ、なんで最底辺のくせにそんな楽しそうなの?」
といい笑顔で率直なドストレートの言葉を青空(そら)に投げる。
「うわっ。引くほどの悪口」
「ごめんごめん。言い方間違っただけ」
「んん~…でもオレも考えたことなかった…けど…」
と悩むポーズをとった青空(そら)だがすぐに顔を上げ、人生楽しんでるという笑顔になり
「強いて言うのであれば、ほら、オレさ、大学も卒業してないし、バイトもしてない。
ただただ夢を追いたい、叶えたいってだけで人生生きてるじゃん?
…「適当」に生きることってオレにとっては難しいけど
「テキトー」には生きられてるからそれでいっかって。
怒ったり悲しんだり、落ち込んだりが多い人生でも、笑顔ばっかの人生でも
オレにとってはどっちにしろテキトーな人生しか歩めない。
なら笑顔ばっかの人生のほうが楽しそうじゃん?
だからくだらないことで笑ってられる…って感じ?」
その横顔は本当に人生を楽しんでいるように見えた。
「へぇ~。なるほどねぇ~?」
「あ!ちなみによく箸が転がっただけで笑う。みたいなこと言うけど
オレもたぶん箸が転がっただけでも笑うと思うよ」
とめちゃくちゃアホ面で言う青空(そら)。
虹(なな)はレジ袋からお昼に使った割り箸を取り出し、足元の石のタイルに投げる。
カランカッカッコロンコロン。割り箸の軽くも綺麗な音が響く。虹(なな)は青空(そら)を見る。
「おい。オレの公園にゴミを捨てるなよ。ポイ捨てアカン」
とジト目で言い放った。たしかに公園の注意書にも
出たゴミはゴミ箱へ、できれば持ち帰って公園を綺麗に保とう!
と書かれている。
「おい。全然笑わねーじゃねーか。あと“オレの”じゃなくて“みんなの”公園な?」
と少しイラッっとして言った。
「ごめんごめん。冗談冗談」
「あ、笑った。結局箸が転がったことで笑うことに繋がったな」
「たしかに」
2人は笑った。笑いながら
笑うっていいな
と思った。
「よしっ!決めたっ!」
虹(なな)は両太ももをパチンと叩き立ち上がる。
「おぉ~随分スッっと立ったね。卒業式みたい」
「わかる。めっちゃ卒業式思い出した」
「で?雨御(あまご) 虹(なな)くん!決めたって?」
「うん。とりあえず仕事は続ける。あ、“とりあえず”ね。で、ギターもも1回始める」
「おっ」
「で、あーもー無理ー!ってなったら仕事辞める…か?」
「おぉ、決めたって割に決めきれてない」
「いや、社会人になったらわかるって。会社辞めて夢もう1回追う怖さ?不安さが。
…でももう1回夢追ってみたくはなっちゃったから
もし仕事辞めることになったら、そんときは地下100階の住人に責任取ってもらうわ!」
と虹(なな)は弾けた笑顔で言った。
空もだいぶ雲が散って、太陽の光の柱が太く、多く差し込んでいた。
「お?地下100階の住人とは誰ぞや?」
「おい」
「嘘嘘」
虹(なな)はスマホの画面をつけ、時刻を確認し
「さて。そろそろ営業に戻りますかね」
とバッグを持って立ち去ろうとして顔だけ振り返り
「そんときが来たら、頼んだぞ?親友」
と笑顔で言った。
「頼まれた」
「じゃ、また連絡するわ」
「へいよー」
と言って虹(なな)は営業へ戻り、青空(そら)はベンチに座ったまま。
虹(なな)は公園を歩いている最中、青空(そら)はベンチに座ったまま
2人は同じタイミングで別の場所で空を見上げた。
晴れたな
2人とも同じことを思った。
「んあぁ~!…さてと。晴れてきたし作詞の続きでもしますかね。
夢追いニートが夢追わなくなったらマジで終わりだからねぇ~」
と言いながらスマホを取り出す青空(そら)。
「んん~…夢…虹(なな)みたいに社会に出たけど
夢も捨てきれないみたいな人への応援ソング的な…の…」
青空(そら)はベンチの足元を見た。そこにはレジ袋が置かれておいた。
「あいつ…ゴミ置いてきやがった…」
その頃虹(なな)はどこか悩みも晴れ
好きなアーティストの曲を聴き、ゴミを忘れたことも忘れ、青空の下ルンルンと歩いていった。
出たゴミはゴミ箱へ、できれば持ち帰って公園を綺麗に保とう!
ゴミはしっかりと青空(そら)が持ち帰った。
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