本当の絶望を

夕浪沙那

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3章

15-2

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オドールが亡くなり一週間ほど時間が経ち、大分落ち着き始めたが、オドールが亡くなってから数日は、デミアン邸、そしてアンディーク中がパニックを起こしていた。

デミアン様に伝えずに殺ってしまったことは申し訳ないと思っているが、そのことを伝えていれば罪悪感に苛まれる事になっただろう。

オドールが亡くなってから、デミアン様とは顔を合わせられていない。

私への怒りでいっぱいなのだろうか…
むしろその方がいい、私を憎んでくれればいい。

その方が、私もやりやすい…

1週間に渡って捜索が行われが、結局遺体は見つからず、オドールの遺品だけが二ポエ神殿に置かれることになった。

二ポエ神殿は100年ほど前に、故人の魂を保安する専用の場所として作られ、
アンディークに住む貴族、アンディークに
貢献した人だけが神殿に亡くなった後も身をおける。

オドールの最後を見届けに、オドールの家族、デミアン様を含む数人の貴族、私、
オドールに忠誠を誓っていたチンピラ数名が、雨の中神殿に集まった。

「無念だろうに」

オドールの家族、チンピラ、そしてデミアン様は涙を流した。

あれだけの悪事を働いたオドールにも、こうやって涙を流してくれる人たちがいる。

私は幸せには死ねないな…

私が死ぬとき、せめて未練に取り憑かれて死ぬことだは避けたい。

見届けが終わり、みなそれぞれ帰っていく中、
デミアン様は、私を睨みつけるように見つめてきた。

話したいということだろう。

初めて見た怒りに満ちたデミアン様の瞳、
喜ぶべきことなのに、悲しいような複雑な
気分だ。

……

私が感じるこの罪悪感は、復讐を成し遂げる上では邪魔にしかならない。

切り捨てても、切り捨てても蘇ってくる。

胸が奥底に広がる痛みは、日々強くなっていく。

こうやって悲しそうな表情のデミアン様を見ると、もっと痛い。

私の部屋に入ったデミアン様は、
開口一番に強い口調で私に問いかけた。

「どうしてオドールを殺したのですか?」

「オドールは、
ロッキー兄さんに虐められていた私をいつも守ってくれた。
『いつかこのアンディークを、再び活気のある街に一緒にしていこう』といつも声を掛けてくれた優しい人でした」

「デミアン様、それは心からの優しさではなく、自分の手のひらの上で転がしておくための優しさです」

心の優しい人ほど、こういった手口に引っかかる。

「本当に優しいのなら、あのような悪事を
働くことはしないでしょう」

「あのような悪事?」

「デミアン様は、自分の目で確かめた方がいいと思います」

そうでないと、信じてくれないだろう。

デミアン様と数人の護衛を連れ、アンディーク北西部にあるブドウ畑へと向かった。

一体、どんな反応をするのだろうか…

~~

「そんな…」

デミアン様一行は、信じ難い様子で目の前に広がった綺麗なブドウ畑を見ていた。

初めて見たときの私も、このような反応をしていたのだろう。

「オドールは、デミアン様の兄であるロッキー卿、そして、王家のロミナ卿とも学園時代からの学友だったそうです」

「そんな…」

デミアン様はショックが大きかったのか、
膝から崩れ落ちた。

「おそらく、アンディークを活気ある街にするつもりなど、微塵も持ち合わせていなかったでしょう」

デミアン様の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。

「現実は悲しくて無情です。
多くの人にとっては、知らない方が自分のためになることで溢れています」

「ですが、私たちは知る必要があります、
知っていなければなりません」

こんなことを口にする権利など、私にはないだろう。

復讐とは、
瞬間瞬間、自分を殺していく行為なのかもしれない。

「ローズ様、貴方が正しかった、
失礼な態度をとってしまい申し訳ありません」

「そんなことを仰らないでください。
私こそ、声をかけてあげられれば…」

「強くならなければなりませんね、
心が壊れてでも復讐を成し遂げましょう」

デミアン様の言葉には、力がこもっていた。
 
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