閻魔の庁

夢酔藤山

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平城帖

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               五



 早良親王の怨霊を弟帝に押しつけ、更に伊予親王を真剣に供養した甲斐があってか、平城上皇の病はみるみる回復した。身体の回復は心の回復にも繋がる。当然、志半ばで政を放棄してしまった己に後悔の一念が生じても、それはおかしなことではない。あとはちょっとしたきっかけさえあれば、平城上皇は再び権力の魔物に甦ってしまうのである。そのきっかけは、すぐ身辺に転がっていた。
 藤原仲成はせっかく設けた観察使制度が、帝の代替りと同時に廃されたことを
「麿への当付け」
と歯噛みしていた。
 嵯峨天皇のブレーンは藤原北家である。彼らは仲成兄妹の下品な陰謀により南家が没落した様を、身近で傍観してきた。だから次に狙われるのが
「当家なり」
と弁えていた。
 ならば、この機に先手を打つのが上策。
 手始めに観察使を廃止することで、彼らは仲成への挑発を仕掛けたのである。
 それにまんまと乗せられた仲成は
「院の気高き御心も、いまの朝廷には理解されなかった由。いま一度、帝の座へ復帰なされませ」
と平城上皇へ囁いた。
 これだけで十分きっかけである。

 翌大同五年九月六日、平城上皇は重祚を計り
「平城京へ遷都すべし」
と嵯峨天皇へ命令を出した。既に政権から退いた兄院からの意外な言葉に、嵯峨天皇は仰天した。これに朝廷の者どもは反対を示した。
「すべては式家大蔵卿の入れ知恵なり」
と、右大臣藤原内麻呂は断じて応じるべからずと主張した。多くの公卿が仲成兄妹の専横に腹を立てていたから、この言葉を殆どの者が支持した。
 かくして嵯峨天皇も兄である平城上皇と、真っ向から対立する覚悟を決めたのである。

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