小町のひとりごと

夢酔藤山

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……黄昏の果てに刻む無情(3)

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 どんな処でも、住めば都だと、心を強く保たれたのです。
 わたしとて負けは致しますまいぞ。
 生命ある限りは、泣き言なんぞ、ええい、口に致しません。
 ふと、一寺の山門が見えました。有難い、少なくとも雪を凌げます。もし、もし。風を、寒さを凌げる軒下、どうか貸して貰えませんか?
「おお、難儀なこと。ささ、上がられよ。なに、懸念は無用、人の世にあって坊主の心は常に慈悲を忘れてはならぬでのう」
 なんとも奇特な御住職さまでしょう、わたしのようなものを本堂にまで迎え入れて下さりました。人の心根の暖かさに、不覚にも涙が禁じ得ません。
 この住持さまは、御名を素性と名乗られました。
 素性法師さま、まさしく地獄に仏とはこのことです。
「老婆よ、ただし泊めて差し上げるだけぞ。この寺には、あいにくと糧がない。拙僧も昨日から断食の体じゃ」
 構いませぬ、構いませぬ。
 仏様に見守られし本堂で雪風を凌げるものならば、なんで文句がありましょうか。わたしはただただ歓喜に咽ぶばかりにございます。
 ふと、回廊の片隅に、短冊が掛けられているのを垣間見ました。
 素性法師さまも歌を嗜んでおられるのかしら。
 しかし、その短冊の歌に、わたしは思わず息を呑みました。

   花の色は雪にまじりて見えずとも
        香をだににほへ人の知るべく

 これは祖父・小野篁の歌です。素性法師さま、これは一体?
「ああ、是は我が父君の土産に候え。老婆も歌に明るい御様子ですな?」
「いえ、見知る人の歌に似ていると思ったまでで……」
 これが祖父のものと云ったところで、わたしが何者かは信じて貰えません。
 わたしは難儀を救済される名もなき老いた者。それ以外の何物でもないのです。
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