小町のひとりごと

冬

……黄昏の果てに刻む無情（２）

　深草少将平義宜という御方。
　一体どのような心境でこの世を去られたのでしょう。
　あの日突然、この世を去りゆく無念は、何に例えたらよろしいのでしょうか。例えようもない無念が渦巻いたとしたら、いつかはそれが、怨念と化してわたしを呪い苦しめることでしょう。
　見るがいい。
　わたしの醜く落ちぶれた身形を。老いて寄る辺なき面相を。
　蝶よ華よと囃し立てた都の男どもの喝采は、何処へ消え去ったのか。

　夢か……幻か。

　そう、花の生命は移りにけりなとは、よくも云ったもの、まさにわたしは、枯れて散り果てた春の花。この老いて醜い面相は、まさしく  深草少将平義宜というその御方の呪い。
　そう思えばこそ、飢えて野垂れ死ぬその瞬間まで、罪を背負い贖罪する流離いの旅が堪えられるのです。
　しかし、さすがにわたしも年老いた……。
　齢がいくつなのか、流離いの月日が幾年月か、いまのわたしには知る由ござりません。

　ここは何処なのでしょう。
　見渡す限りの杉の山。それに積もり重なる雪。たぶん南へ歩いた筈だから、恐らくここは大和の何処かでしょう。
遠く都を離れて雪のなかに佇む身一つ、それも朽ち果てようとする老いらくの姿。ふふふ……とても絵になるものではござりません。
　標なき旅路。
　その行方も果ても知らぬ旅路。
　それにしても、おお、寒い。
　いや、このような泣き言は云いますまい。
　わたしの愛した宮様は、都を追われた折に、こう詠んで御自身を励ましたそうです。

　　白雲の絶えずたなびく峰にだに
　　　住めば住みぬる世にこそありけれ