小町のひとりごと

夏

……焦がれし日々（５）

　わたし、藤原の者の感性ってよく解らないのです。
　高子という御方は、歌を嗜む折には歌人を侍らせます。文屋康秀などのちに『古今和歌集』へその名を刻む名手ばかりを招いて楽しんだようです。
　そのなかに在原業平さまが含まれていたのは、正直愕きました。
　心はどうあれ、あれほどの裏切りをした相手を、よくもまあ、臆面なく招くことなど出来ましょうや。
　さりとて、在原業平さまは大人です。
　恨み言をいうわけでもなく、自然体を決して崩しませんでした。

　　ちはやぶる神代もきかず竜田川
　　　唐紅に水くくるとは

　このとき在原業平さまが詠んだ歌です。
　心の内には未だ高子という御方への情熱が未練となって燃えているのでしょうか。色好み、未だ健在ということでしょう。

　宮様は弟帝がすっかり居場所のない閉塞感に嘆いていることを風聞にし、大変御心を痛めたそうです。御心を慰めようにも、慰める手だてすら覚束ず、いささか悶々とする日々を送られていたのです。
　わたしはわたしで、そのような宮様の気鬱を感じることもなく、ただただ華やかさだけを装って、その御御関心を引くことばかりを考えていました。
　若かったのですね。
　若すぎたのでしょうね。
　そのことが宮様の御心を遠ざけることになるとも知らず……。宮様は弟帝のために、歌会を催そうとしました。在原業平さまも賛同されました。その催しに際し宮様は、わたしに歌を一首披露するよう申し渡されました。
　想いの丈を込めて……わたしはすっかり有頂天でした。