小町のひとりごと

夢酔藤山

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……焦がれし日々(1)

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 夏の想い出はほろ苦いのです。
 わたしのなかでは、輝いていた日々なのかも知れません。それだけに、苦いことも思い出されて、ああ……辛い。夏という季節が巡りくるたびに、わたしは、あの夏の日々を思い出してしまうのです。
 未練……そう、未練なのかも知れませんね。
 でも、ひとつだけ言えるのです。
 この夏の出来事が、わたしを、小野小町という存在に変貌させたのだということを。それだけは、決して間違いないのだと、わたし、いまでもそう思うのです。

 在原業平さまの情熱が燃えていた頃、わたしの恋心もいよいよ募っておりました。
 宮様に愛されたい……そのことだけを考えて、わたしは精進しました。
 人の心というのは偉大なものですね。
 わたしは気づきませんでしたが、都の多くの殿方は、そんなわたしの美貌に、色めき、囁き合っていたそうです。まったく知りませんでした。そう、一〇代のわたしは、宮様から御声が懸かる日だけを信じて、外へも目を向けず、ひたすら玉の肌を磨き続けたのでした。
 もともと小原の水よりも、都の水が肌にあっていたのでしょうか。
 わたしは誰よりも美しくなりたいと願い、宮様にただただ愛されることばかりを願い続けていたのです。
 それが浅はかですって?
 何をおっしゃりますか。女子にとって、それは全てです。わたしから見れば、藤原一門が人を蹴落とし策略で死なすことの方が、余程惨めで滑稽ですわ。
 そうのこうので、わたしは得意の歌を通じて宮様の御心を慰め、いつの日にかわたしの想いに気づいてくれる日を待っていたのです。
 それにしても、育ちがおっとりしているからなのか、鈍感なのか。宮様って、人の心の機微に疎いのです。その辺りは、色好みの在原業平さまを見習って欲しいくらいに。
 それよりも宮様の関心は、ずっと世間に向いていたようでした。
 何よりも、本来ならば、帝になるべき運命の御方です。それは、仕方のないことかも知れませんね。
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