小町のひとりごと

夢酔藤山

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……萌える情熱(2)

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 藤原明子、そしてその父・中納言藤原良房(よしふさ)。
 この父子は魔物です。妖怪です。およそ栄達の為なら、他人は勿論、同族までも踏み台にし、余人を貶めて顧みることもない。こんな化物が、宮様を廃嫡させようと、その血に汚れた触手を延ばしたのです。
 静子様は身を挺して、宮様の盾になられました。
 しかし、化物相手に、人の道徳が通じる筈がありません。かくして宮様は、天子様への門を閉ざされてしまいました。宮様は幼き瞳で、この現実を静かに受けとめられたのです。
 哀れです。
 哀れなことではありませんか。

 静子様の推挙で、わたしが宮様のお世話を仰せ遣ったのは、天安元年(857)。たしか、まだわたしが一〇歳い輝きに彩られた貴公子のように映りました。しかも物腰柔らかく、決して驕らず、なんとも涼やかにして眩い御尊顔……ああ、わたしはこのときから、宮様に心を奪われてしまったのです。
 わたしの一族は小原に領地を賜り、都大路の賑わいとは裏腹に、月の蒼さと風の囁きを愛でてきました。偏にわたしの一族を歌人の傑出に富むと称する輩もございますが、何のことはない、喧噪から離れて、刻の流れの直中にじっと身を置けば、誰もが詩人になれるのであります。
 そんな田舎に、宮様は御下がりなさいました。
 逐われたという方が正しいでしょうか。

 この小原へは稀人が赴きます。
 宮様の御母宮・紀静子さまの兄である紀有常さまの娘は、阿保(あぼ)親王さまに嫁し、その皇子が、たまさかに〈雅〉を求めて小原までお越しになります。この御方の申される〈雅〉とは、鄙びた風情を愛でる感性なのだそうですが、凡人のわたしには理解できません。しかし小原に隠棲される宮様とは、歳が一九も離れているというのに、この稀人とは実にウマが合うようです。
 この風雅好みの貴公子の御名を、在原業平さまと申します。
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