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第3話 鳳凰群鶏と食を争わず
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第3話 鳳凰群鶏と食を争わず③
九月七日、織田信長は近江一国平定のため、尾張・美濃・伊勢・三河四カ国の兵を動員して、岐阜城を出発した。この日、織田勢は平尾村(現・岐阜県不破郡垂井町)に陣を構え、敵の襲来に備えた。この動員のことは北伊勢より甲賀を経て、蒲生家をはじめとする被官領主のもとへと達していた。
蒲生賢秀は手勢を率いて観音寺城に入り
「籠城に徹し、敵の弱きをみて野戦で戦力を削ぐ。このこと、繰り返すことで敵の戦意を奪うことを第一。救援なき籠城であるからには、そのことは絶対なり」
と訴えた。
観音寺城と箕作城で独立連携し、双方の呼吸で野戦を仕掛けることが重要だという賢秀の策に
「よく練られたものじゃ」
と、六角入道承禎は頷いた。
このとき日野城には蒲生定秀が入り、鶴千代は城の奥に守られた。
蒲生賢秀の留守中、日野城に神戸友盛からの密書が届いた。場合が場合であるからと、定秀が封を開いた。そこに記されていたのは、織田に降るよう、友盛からの諫言だった。武力で四か国の軍勢を敵にするよりは、いっとき生を拾うことが大事であるころを、切々と綴られていた。
「道理である」
しかし、蒲生賢秀が観音寺山城にある以上は、見捨てることが出来ず、これにて敵に下ることは出来なかった。
八日、織田勢は近江国高宮(滋賀県彦根市)に到着し、軍を停止した。これは、浅井長政の合流を待つためである。観音寺城の六角義治は敵の行動を把握しつつも、箕作城主・吉田出雲守重光に籠城と野戦の相互連携を徹底する指図をした。更に前衛の和田山城には田中治部大輔が兵六〇〇〇をもって籠城。大小の山城で連携を保つ策である。
一一日、浅井勢が合流すると信長は愛知川辺りまで進み、攻めの狙いを観音寺・箕作・和田山の三つに絞った。六角氏だけを狙い、被官領主を目こぼすのが目的である。つまり、守護を倒して在地の理解を得ることで与力とすることが目的だ。
「夜討ちじゃ」
信長は稲葉彦六郎良通に和田山城、柴田権六勝家・森三左衛門可成らが観音寺城、滝川一益・木下藤吉郎・丹羽五郎太長秀に信長本陣で箕作城へ兵を進めた。
この動きは、敵を分散させるといった当初の目論見に沿ったものだ。ただし連携し、相互の兵を割いて野戦を仕掛けるというのが、蒲生賢秀の策だった。
「籠っていればいい」
土壇場で、六角義治が策を引っ繰り返した。
「ただ籠っても、援軍は参らず」
賢秀は強く訴えたが
「じきに三好勢が駆けつけるだろう」
と、聞く耳持たぬ様に、とうとう憤慨し
「三好の勢などあり得ませぬ。我が策が退けられたとあらば、ここにいる甲斐なし。日野へ戻らせてもらう」
そう云って、蒲生勢は観音寺山城を出て日野城に退いた。
「食い扶持が減って丁度いい」
義治は戦況を楽観視していた。
九月七日、織田信長は近江一国平定のため、尾張・美濃・伊勢・三河四カ国の兵を動員して、岐阜城を出発した。この日、織田勢は平尾村(現・岐阜県不破郡垂井町)に陣を構え、敵の襲来に備えた。この動員のことは北伊勢より甲賀を経て、蒲生家をはじめとする被官領主のもとへと達していた。
蒲生賢秀は手勢を率いて観音寺城に入り
「籠城に徹し、敵の弱きをみて野戦で戦力を削ぐ。このこと、繰り返すことで敵の戦意を奪うことを第一。救援なき籠城であるからには、そのことは絶対なり」
と訴えた。
観音寺城と箕作城で独立連携し、双方の呼吸で野戦を仕掛けることが重要だという賢秀の策に
「よく練られたものじゃ」
と、六角入道承禎は頷いた。
このとき日野城には蒲生定秀が入り、鶴千代は城の奥に守られた。
蒲生賢秀の留守中、日野城に神戸友盛からの密書が届いた。場合が場合であるからと、定秀が封を開いた。そこに記されていたのは、織田に降るよう、友盛からの諫言だった。武力で四か国の軍勢を敵にするよりは、いっとき生を拾うことが大事であるころを、切々と綴られていた。
「道理である」
しかし、蒲生賢秀が観音寺山城にある以上は、見捨てることが出来ず、これにて敵に下ることは出来なかった。
八日、織田勢は近江国高宮(滋賀県彦根市)に到着し、軍を停止した。これは、浅井長政の合流を待つためである。観音寺城の六角義治は敵の行動を把握しつつも、箕作城主・吉田出雲守重光に籠城と野戦の相互連携を徹底する指図をした。更に前衛の和田山城には田中治部大輔が兵六〇〇〇をもって籠城。大小の山城で連携を保つ策である。
一一日、浅井勢が合流すると信長は愛知川辺りまで進み、攻めの狙いを観音寺・箕作・和田山の三つに絞った。六角氏だけを狙い、被官領主を目こぼすのが目的である。つまり、守護を倒して在地の理解を得ることで与力とすることが目的だ。
「夜討ちじゃ」
信長は稲葉彦六郎良通に和田山城、柴田権六勝家・森三左衛門可成らが観音寺城、滝川一益・木下藤吉郎・丹羽五郎太長秀に信長本陣で箕作城へ兵を進めた。
この動きは、敵を分散させるといった当初の目論見に沿ったものだ。ただし連携し、相互の兵を割いて野戦を仕掛けるというのが、蒲生賢秀の策だった。
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「ただ籠っても、援軍は参らず」
賢秀は強く訴えたが
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と、聞く耳持たぬ様に、とうとう憤慨し
「三好の勢などあり得ませぬ。我が策が退けられたとあらば、ここにいる甲斐なし。日野へ戻らせてもらう」
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