魔斬

夢酔藤山

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黄昏奇譚

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2024年を無事に迎えました。本年もよろしくお願い申し上げます。
顔がみえぬ場の公開にて、感想の場でお気づきのことやご指摘のことを言葉で教えて頂けましたら何よりです。
皆様にとって実り多い年でありますことを御祈念申し上げます。





               序


 世直し騒動があちらこちらで起きたのは、幕末特有の殺伐した空気が、武家社会のみならず民衆に飛び火したことを意味していた。
 民衆は、我慢強い。その我慢も、過ぎれば爆発する。そういう扇動をする輩がいるのだが、それを差し引いても、やはり鬱屈は世を覆っていた。
 騒ぎは、些細なきっかけだけでよい。
 この頃の世直し騒動は、その殆どが農村一揆や直訴決起などだ。少なくとも、政治的な意図を含むものは、少なくとも万延元年(1860)十月の時点では皆無に等しい。
 津軽国で起きた世直し騒動も、とどのつまりは、農村一揆であった。
 飢饉であるにも関わらず、横領私腹を繰り返す勘定方・福島作左衛門の不正が、度を越したためである。
「もう餓死するか、離散するしかねえべ」
 百姓たちは追いつめられ、悲痛な泣き声を上げるしかなかった。
「百姓は生かさず殺さずが幕府の教え。このままでは藩の財政は破綻する。悪いものは悪い、百姓に罪はない!」
と応じたのは、勝手方小納役・古内彦弥太である。
 日頃よりの役目柄、百姓の窮乏に精通している彼は、目を覆うばかりの惨状に胸を痛めていた。見るに見兼ねて、農村の有力者たちに直訴を勧めた。彼らはそれで飽き足らず、一揆を計画し、実行の準備を進めていた。
「すべての非は、勘定方蔵前役・福島作左衛門とそれに寄る者にある。百姓なくして武士が成り立とうものか!」
 大義名分は立派なものであった。
 が、何処にでも綻びはある。密告者により、この一揆の計画は福島作左衛門の耳に入った。
 狡猾な福島作左衛門は城家老ににじり寄り
「百姓を扇動した不貞の輩がおります。ただちに成敗します」
 百姓たちは鎮守の森に挙兵した。武器は農具しかなかったが、威勢は十分なものであった。この一揆挙兵に際し、福島作左衛門は火縄銃までも動員して、百姓どもを殲滅した。
 古内彦弥太は捕えられた。
 福島作左衛門の手により、ひどい拷問に掛けられた。口があっては何を言われるか知れぬと喋れない状態にしたのだ。
 そのうえで
「藩主への謀反は明白。直ちに処刑にするが宜しい」
と報告した。
 古内彦弥太は磔刑。
 親族一門も連座、女子供を問わず多くの者が首を斬られた。
 しかし、古内彦弥太の女房だけは、遂に行方知れずだった。

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