60 / 129
黄昏奇譚
しおりを挟む
2024年を無事に迎えました。本年もよろしくお願い申し上げます。
顔がみえぬ場の公開にて、感想の場でお気づきのことやご指摘のことを言葉で教えて頂けましたら何よりです。
皆様にとって実り多い年でありますことを御祈念申し上げます。
序
世直し騒動があちらこちらで起きたのは、幕末特有の殺伐した空気が、武家社会のみならず民衆に飛び火したことを意味していた。
民衆は、我慢強い。その我慢も、過ぎれば爆発する。そういう扇動をする輩がいるのだが、それを差し引いても、やはり鬱屈は世を覆っていた。
騒ぎは、些細なきっかけだけでよい。
この頃の世直し騒動は、その殆どが農村一揆や直訴決起などだ。少なくとも、政治的な意図を含むものは、少なくとも万延元年(1860)十月の時点では皆無に等しい。
津軽国で起きた世直し騒動も、とどのつまりは、農村一揆であった。
飢饉であるにも関わらず、横領私腹を繰り返す勘定方・福島作左衛門の不正が、度を越したためである。
「もう餓死するか、離散するしかねえべ」
百姓たちは追いつめられ、悲痛な泣き声を上げるしかなかった。
「百姓は生かさず殺さずが幕府の教え。このままでは藩の財政は破綻する。悪いものは悪い、百姓に罪はない!」
と応じたのは、勝手方小納役・古内彦弥太である。
日頃よりの役目柄、百姓の窮乏に精通している彼は、目を覆うばかりの惨状に胸を痛めていた。見るに見兼ねて、農村の有力者たちに直訴を勧めた。彼らはそれで飽き足らず、一揆を計画し、実行の準備を進めていた。
「すべての非は、勘定方蔵前役・福島作左衛門とそれに寄る者にある。百姓なくして武士が成り立とうものか!」
大義名分は立派なものであった。
が、何処にでも綻びはある。密告者により、この一揆の計画は福島作左衛門の耳に入った。
狡猾な福島作左衛門は城家老ににじり寄り
「百姓を扇動した不貞の輩がおります。ただちに成敗します」
百姓たちは鎮守の森に挙兵した。武器は農具しかなかったが、威勢は十分なものであった。この一揆挙兵に際し、福島作左衛門は火縄銃までも動員して、百姓どもを殲滅した。
古内彦弥太は捕えられた。
福島作左衛門の手により、ひどい拷問に掛けられた。口があっては何を言われるか知れぬと喋れない状態にしたのだ。
そのうえで
「藩主への謀反は明白。直ちに処刑にするが宜しい」
と報告した。
古内彦弥太は磔刑。
親族一門も連座、女子供を問わず多くの者が首を斬られた。
しかし、古内彦弥太の女房だけは、遂に行方知れずだった。
顔がみえぬ場の公開にて、感想の場でお気づきのことやご指摘のことを言葉で教えて頂けましたら何よりです。
皆様にとって実り多い年でありますことを御祈念申し上げます。
序
世直し騒動があちらこちらで起きたのは、幕末特有の殺伐した空気が、武家社会のみならず民衆に飛び火したことを意味していた。
民衆は、我慢強い。その我慢も、過ぎれば爆発する。そういう扇動をする輩がいるのだが、それを差し引いても、やはり鬱屈は世を覆っていた。
騒ぎは、些細なきっかけだけでよい。
この頃の世直し騒動は、その殆どが農村一揆や直訴決起などだ。少なくとも、政治的な意図を含むものは、少なくとも万延元年(1860)十月の時点では皆無に等しい。
津軽国で起きた世直し騒動も、とどのつまりは、農村一揆であった。
飢饉であるにも関わらず、横領私腹を繰り返す勘定方・福島作左衛門の不正が、度を越したためである。
「もう餓死するか、離散するしかねえべ」
百姓たちは追いつめられ、悲痛な泣き声を上げるしかなかった。
「百姓は生かさず殺さずが幕府の教え。このままでは藩の財政は破綻する。悪いものは悪い、百姓に罪はない!」
と応じたのは、勝手方小納役・古内彦弥太である。
日頃よりの役目柄、百姓の窮乏に精通している彼は、目を覆うばかりの惨状に胸を痛めていた。見るに見兼ねて、農村の有力者たちに直訴を勧めた。彼らはそれで飽き足らず、一揆を計画し、実行の準備を進めていた。
「すべての非は、勘定方蔵前役・福島作左衛門とそれに寄る者にある。百姓なくして武士が成り立とうものか!」
大義名分は立派なものであった。
が、何処にでも綻びはある。密告者により、この一揆の計画は福島作左衛門の耳に入った。
狡猾な福島作左衛門は城家老ににじり寄り
「百姓を扇動した不貞の輩がおります。ただちに成敗します」
百姓たちは鎮守の森に挙兵した。武器は農具しかなかったが、威勢は十分なものであった。この一揆挙兵に際し、福島作左衛門は火縄銃までも動員して、百姓どもを殲滅した。
古内彦弥太は捕えられた。
福島作左衛門の手により、ひどい拷問に掛けられた。口があっては何を言われるか知れぬと喋れない状態にしたのだ。
そのうえで
「藩主への謀反は明白。直ちに処刑にするが宜しい」
と報告した。
古内彦弥太は磔刑。
親族一門も連座、女子供を問わず多くの者が首を斬られた。
しかし、古内彦弥太の女房だけは、遂に行方知れずだった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
【受賞作】小売り酒屋鬼八 人情お品書き帖
筑前助広
歴史・時代
幸せとちょっぴりの切なさを感じるお品書き帖です――
野州夜須藩の城下・蔵前町に、昼は小売り酒屋、夜は居酒屋を営む鬼八という店がある。父娘二人で切り盛りするその店に、六蔵という料理人が現れ――。
アルファポリス歴史時代小説大賞特別賞「狼の裔」、同最終候補「天暗の星」ともリンクする、「夜須藩もの」人情ストーリー。
異聞・鎮西八郎為朝伝 ― 日本史上最強の武将・源為朝は、なんと九尾の狐・玉藻前の息子であった!
Evelyn
歴史・時代
源氏の嫡流・源為義と美貌の白拍子の間に生まれた八郎為朝は、史記や三国志に描かれた項羽、呂布や関羽をも凌ぐ無敵の武将! その生い立ちと生涯は?
鳥羽院の寵姫となった母に捨てられ、父に疎まれながらも、誠実無比の傅役・重季、若き日の法然上人や崇徳院、更には信頼できる仲間らとの出会いを通じて逞しく成長。
京の都での大暴れの末に源家を勘当されるが、そんな逆境はふふんと笑い飛ばし、放逐された地・九州を平らげ、威勢を轟かす。
やがて保元の乱が勃発。古今無類の武勇を示すも、不運な敗戦を経て尚のこと心機一転。
英雄神さながらに自らを奮い立て、この世を乱す元凶である母・玉藻、実はあまたの国々を滅ぼした伝説の大妖・九尾の狐との最後の対決に挑む。
平安最末期、激動の時代を舞台に、清盛、義朝をはじめ、天皇、上皇、著名な公卿や武士、高僧など歴史上の重要人物も多数登場。
海賊衆や陰陽師も入り乱れ、絢爛豪華な冒険に満ちた半生記です。
もちろん鬼若(誰でしょう?)、時葉(これも誰? 実は史上の有名人!)、白縫姫など、豪傑、美女も続々現れますよ。
お楽しみに 😄
櫻雨-ゆすらあめ-
弓束しげる
歴史・時代
新選組隊士・斎藤一の生涯を、自分なりにもぐもぐ咀嚼して書きたかったお話。
※史実を基にしたフィクションです。実在の人物、団体、事件とは関わりありません。
※敢えて時代考証を無視しているところが多数あります。
※歴史小説、ではなく、オリジナルキャラを交えた歴史キャラ文芸小説です。
筆者の商業デビュー前に自サイトで連載していた同人作です。
色々思うところはありますが、今読み返しても普通に自分が好きだな、と思ったのでちまちま移行・連載していきます。
現在は1週間ごとくらいで更新していけたらと思っています(毎週土曜18:50更新)
めちゃくちゃ長い大河小説です。
※カクヨム・小説家になろうでも連載しています。
▼参考文献(敬称略/順不同)
『新選組展2022 図録』京都府京都文化博物館・福島県立博物館
『新撰組顛末記』著・永倉新八(新人物往来社)
『新人物往来社編 新選組史料集コンパクト版』(新人物往来社)
『定本 新撰組史録』著・平尾道雄(新人物往来社)
『新選組流山顛末記』著・松下英治(新人物往来社)
『新選組戦場日記 永倉新八「浪士文久報国記事」を読む』著・木村幸比古(PHP研究所)
『新選組日記 永倉新八日記・島田魁日記を読む』著・木村幸比古(PHP研究所)
『新選組全史 天誅VS.志士狩りの幕末』著・木村幸比古(講談社)
『会津戦争全史』著・星亮一(講談社)
『会津落城 戊辰戦争最大の悲劇』著・星亮一(中央公論新社)
『新選組全隊士徹底ガイド』著・前田政記(河出書房新社)
『新選組 敗者の歴史はどう歪められたのか』著・大野敏明(実業之日本社)
『孝明天皇と「一会桑」』著・家近良樹(文藝春秋)
『新訂 会津歴史年表』会津史学会
『幕末維新新選組』新選社
『週刊 真説歴史の道 2010年12/7号 土方歳三 蝦夷共和国への道』小学館
『週刊 真説歴史の道 2010年12/14号 松平容保 会津戦争と下北移封』小学館
『新選組組長 斎藤一』著・菊地明(PHP研究所)
『新選組副長助勤 斎藤一』著・赤間倭子(学習研究社)
『燃えよ剣』著・司馬遼太郎(新潮社)
『壬生義士伝』著・浅田次郎(文藝春秋)
(本編&番外編 完結)チンギス・カンとスルターン
ひとしずくの鯨
歴史・時代
チンギス・カン率いるモンゴル軍が西域のホラズムへ遠征する話です。第一部は戦の原因となる出来事、第2部で進軍、第3部「仇(あだ)」で、両国間の戦記となります。「仇」をテーマとする本編は完結。現在、『ウルゲンチ戦――モンゴル崩し』を投稿中です。虚実織り交ぜて盛上げられたらいいなと。
1217年の春メルキト勢を滅ぼしシルダリヤ川の北の地を引き上げる(チンギス・カンの長子)ジョチの部隊とホラズムのスルターン軍が遭遇する場面から、この物語は始まります。
長編が苦手な方向けに、本作中で短編として読める話を第2話にて紹介しております。
魂盗り
冴條玲
恋愛
“ 次の満月までにどちらかが死ぬ ”
それは始まる前から終わりの見えた、
決して、捕らわれてはならない恋だった。
しかし、互いに惹かれまいとするその心とは裏腹に、
瞳は相手を求め――
月は残酷に満ちる。
【表紙】谷空木まのみ様
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
薙刀姫の純情 富田信高とその妻
もず りょう
歴史・時代
関ヶ原合戦を目前に控えた慶長五年(一六〇〇)八月、伊勢国安濃津城は西軍に包囲され、絶体絶命の状況に追い込まれていた。城主富田信高は「ほうけ者」と仇名されるほどに茫洋として、掴みどころのない若者。いくさの経験もほとんどない。はたして彼はこの窮地をどのようにして切り抜けるのか――。
華々しく活躍する女武者の伝説を主題とし、乱世に取り残された武将、取り残されまいと足掻く武将など多士済々な登場人物が織り成す一大戦国絵巻、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる