魔斬

夢酔藤山

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谷中奇譚

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               八



 根津色街で掻き集めた助六の情報が山田浅右衛門へ齎らされたのは、それから三日後の夕刻であった。聞き込みに手応えを覚えた助六は、嬉々と話し始めたが
「悪いな、あの仕事は終ぇだよ」
 憮然と山田浅右衛門は呟いた。
「何を今更……浅草のお頭からは、何も指図されてません。お終いなんて、納得出来やせんぜ」
「でも、終ぇなんだよ」
 苛立たしい山田浅右衛門の口調から、助六は一抹の不安を読み取った。
「まさか……あのお侍」
「ああ、八咫聖に乗換えやがった。そちらは高い銭だが、こちらはタダだからってよ。おまけに前金まで返せと抜かしやがった」
「そんなこと、お頭に……」
「お頭はまだ知らねえ。奴の使いが、直接おれの処に来ただけだ」
 義理を欠いた非礼に対する浅草弾左衛門の恐ろしさを、多分、高槻金太郎は知らないのだ。だから、こんなことを平気でやる。
「このこと、直ぐにお頭へ」
「いいんだよ、助六。俺もこの仕事は乗り気じゃなかったんだ。お前さんも調べてみて判っただろう?こんな色恋が絡んだ幽霊は、もはや妖怪みたいな怨霊だぜ。関わりになりたかねえや」
「そりゃあ、まあ」
 事実、助六の拾った情報は、高槻金太郎に溺れて見境のなくなった於露の、殺されるまでの奇行の数々だった。昼は影のように高槻金太郎に付き纏い、夜は一頻り稼いで、彼の長屋へ忍んでいく。
 女の、そうまで染まりきった盲目の深情けは、災いする者に対して、決して容赦などしない。愛欲に我を忘れた女にとっては、何よりもそれがすべてなのだ。
 確かに
(関わりにはなりたかねえや)
 八咫聖に出し抜かれた悔しさは忘れられないが、内心、助六もこの仕事を降りることに安堵感を覚えていた。
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