魔斬

夢酔藤山

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谷中奇譚

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               七


 助六は湯島から駿河台へ向かい、そこから入り組んだ路地を縫う様にして、江戸城御堀を左手にする格好で、どんどん歩いていった。気取られずに尾行しようとして、花吉は平河町まで来たが、とうとう見失ってしまった。
(ここまで来て!)
 しかし、とある武家屋敷から助六が出てくるのを、偶然見掛けた。
(ここに何かある)
 花吉はそうっと、屋敷内を覗き込んだ。
 途端
「なんだ、手前ぇ!」
と、大男がむんずと花吉の襟首を掴んで屋敷内へ引張り込んだ。
「手前ぇは……」
 花吉は大男を見上げて叫んだ。
 山田浅右衛門である。
「なんだ、助六の兄貴か」
「……離せよ」
「お前ぇのことは浅草のお頭から聞いた。親父の死にびびって、山谷堀を逃げ出したそうじゃねえか」
 食って掛かるような山田浅右衛門の口調に
「何が悪い。手前ぇには関係ねえ。それより早く離せよ」
と花吉は外方を向いた。
が、山田浅右衛門は襟首を掴んだまま離さなかった。
「魔斬を嫌がる手前ぇが、何故に八咫聖になったんだ。金も取らずに奉仕すれば、ご満足できるってのか?」
「うるさい。金がなければ魔斬もしないような下衆に、とやかく云われる筋合いはない」
 笑止と、山田浅右衛門は鋭く睨んで
「金を貰うから命懸けになれる。金を貰わないで死に物狂いになれるものか」
「金の払える者の仕事しかしないのなら、そなたら魔斬の者共は、ただの欲ばりじゃ!おれは違うぞ、金なくとも、皆を救済してやる。命懸けで退魔をしてみせる!」
「まあ、いいさ。こちとら手前ぇと口論してる暇はねえ。くれぐれも、おれの魔斬の邪魔だけはするなよ。じゃねえと、今度は峰じゃ済まねえぜ」
 そういって、山田浅右衛門は花吉を屋敷の外へ放り出した。
(くそ……くそ……!)
 立ち上がり埃を払うと、花吉は根津権現へと走り出した。
 道々
(助六の探っている夜鷹は、恐らく於露なる者だろう)
と考えを巡らせた。
(於露に妾にしてやると戯言を告げた侍か、於露を斬り殺した御武家家中か、そのどちらかが浅草弾左衛門へ魔斬を依頼したのだ。近いうちに、きっと魔斬が行なわれる!)
 その前に退魔し、あの山田浅右衛門の鼻を明かしてやろうと、花吉は決意を固めていた。
 まずは依頼人を探すのが先決だ。
 花吉は手掛りを求めて、根津界隈へと、背中を丸めて歩き出した。



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