小河内ムーンライト

夢酔藤山

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 昭和一三年の最新型で知られるトンボの一〇二型大衆型手風琴、今日でいうピアノアコーデオンだ。浅草の谷口楽器で、それを入手した。少しでも練習したら、またバンドメンバーに加えて貰えるだろうか。
 それが淡い幻想だということくらい、上寺智は十分知っていた。
 流しで日銭を稼ぐなら、サックスより手風琴がよかった。クラブといった上流のお店でなくとも、酒場や屋台でさえ、客に聞かせて銭を稼ぐことだって出来た。でも、どこか違うのだ。本当にやりたいのは大衆音楽じゃない。
「ジャズ、やりてえなあ」
 一年後、駄目で元々と、上寺智は銀座のクラブを訪れた。
 店の扉には、閉店と貼られていた。
 クラブの隣にはバーがあった。マスターとも顔なじみだった。顔を出すと
「久しぶりだな、ジョー」
 上寺智の上の字をもじって、ジョー。よくあるニックネームだ。
「店、閉じたんですね」
「お前が辞めて半年以上経った頃かな、陸軍さんがなあ。銀座も、息苦しくなったよ」
 つまりは、こうだ。
 ジャズは、新しい音楽だ。海外から渡ってきた、洗練された都会の、大人の音楽といってよい。こういう物が日本で受け容れられたのは、ひとえに大正という時代の持つ陽性の賜物ともいえる。大正デモクラシー。世の中は明るく軽くという風潮が、疑いもなくジャズを受け容れて、豊饒させた。
 そのためだろうか。軽薄な音楽だと揶揄し、ジャズを嫌う者もいた。特に陸軍は目をつけていた。
(陸軍が駄目といえば、良し悪しに関係なく駄目なのだ)
 察しても、口には出せない。
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