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１５_宿縁の章_３２

　体内のナノマシンの活躍により、辛うじて命を繋ぎ止める二人から離れ、対峙するワイスカムアとジゼ。
　怒れるジゼは、
「『矜持』よりも大切な物があるんじゃないの！」
　他者への優しさを見せながらも、最強と言う『おぼろげな称号』を狂気的に求めるワイスカムアに悔しさを滲ませると、
「最強を求めるは妾の存在理由！」
　身に絡まる様々な思いを振り払う様に右手の扇子を横一閃薙ぎ払い、
「その為の『矜持』を妾から取りんしたら、妾には何も残りんせぇん！」
「なッ！」
　ジゼは今にも命の脈動を止めそうなファティマの姿を横眼に映し、
「あるでしょうがぁあぁぁっぁぁあぁ！」
　怒りを爆発。青きフィールドから形成した二振りの剣を両手に持ち、
「そんな物よりアナタは教えるべきではないの！　「生き様」おォ！」
　ワイスカムアに猛突進。右剣を無造作に振り下ろすと、
「偽善の「世話焼き」など不要にありんすゥ！」
　扇子で受け止める事無く、
「家族の在り方はそれぞれにありんす！」
　ヒラリとかわしたが、
「「死に様」しか教えてもらえなかった子供に未来があると思うのォ！」
　無造作に放った右剣はフェイクで、かわした方向から左剣の刃が襲い掛かり、
「クッ！」
　着物の表面すれすれをかすめ通って行く切っ先。
　しかし猛るジゼは容赦なく、
「護るべきアナタが手に掛けてどうするのよォ！」
　右剣で胴払い。刃先分数歩下るもすぐさま距離を詰め、
「人でもない「造られ」如きが知った風な口を利くでありんす！」
　勢い余って流れたジゼの体を目掛けて両の扇子を交差する様に振るい、
「生きる事が地獄と同意もあるでありんす！」
　風の刃で攻撃を仕掛けようとしたが、
「確かに私は人でもないわ！」
　振るわれる直前の「両の扇子」を「両の剣」で抑え込み、
「でも私は沢山の人達から、人として生きる為に必要な、沢山の愛情と未来を貰ったわ！」
「ッ！」
　その眼、その言葉に嘘は感じられなかった。
　バァ！　バァバァバァバァ！
　干渉し合う二つのチカラ。飛び散る赤と青のスパーク。扇子と剣、鍔迫り合いの様な押し合いの中、
「人として生きていたアナタには居なかったの！」
（妾には……）
　脳裏をよぎるのは、地位、金、権力、様々な欲に彩られた、過ぎた強欲に満ち満ちた獣たちの不快な笑顔ばかり。
　一瞬の沈黙に不幸を感じ取ったジゼは、
「アナタは可哀想な人ね……」
「！」
（妾が可哀想とぉ！？）
「そんな不幸を知るアナタだからこそ、あの子の未来を照らす事が出来るんじゃないの！」
「黙るでありんす！」
　鍔迫り合いを跳ねのけ、
「甘言などォ！」
　殺し文句と断罪し、怒りを露わにするも、
（このオナゴの強さは何でありんす！　「揺るがぬ心」だけではありんせん。妾の攻撃をも先読みしている様な！？）
　内心では「人としての在り様」にも、敗北感を薄っすらと感じ始めていた。