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１５_宿縁の章_６

　大人しく退店する素振りを見せる三人に、表面上は努めて平静を装い、内心でホッと胸をなでおろす上司。
　するとアナスが店を出しな、
「そうでござる」
「！」
　穏やかな表情のまま、肩越しにチラリと振り返り、
「店子（社員）の教育は、もう少し念入りにするべきでござるなぁ」
「え？」
「あと少しで（この店を）地図から消すところでござったよ」
「ッ！？」
　射貫く様な眼だけ残して出て行った。
「…………」
　どっと押し寄せる疲労感。仕立ての良いシャツの下は汗でびしょ濡れ。
　そんな上司の苦労を知ってか知らずか、男性店員はへらへら笑いながら奥からやって来て、
「いやぁ～あの「御上りさん」みたいのが、噂の三人組だったんスねぇ～」
　まるで他人事。
　その態度に、
（クビだ……）
「へ？」
「毎度毎度いい加減な接客でモメ事ばかり起こしやがってぇ！」
　鬱積が爆発し、
「明日から来るなァ！　一歩違えば俺まで殺されて、家族が路頭に迷うところだったんだぞ！」
「お、俺だけのせいじゃないでしょうが！」
　店の外にまで漏れ聞こえる言い争い。
　そんな店の前には、未だアナクス達が立っていた。
「こうなると分かっていたでありんしょうにぃ。底意地が悪いでありんすなぁ～」
　皮肉った笑みを浮かべると、アナスはフッと小さく笑い、
「やられっ放しの言われ放題は性に合わぬでござってなぁ」
　話す事さえ拒むほどアナスを避けていたファティマでさえ、今度ばかりは一矢報いてくれた事に心の内で感謝。
「して、これからどう致すでありんすぅ？　店主の話では、船の便も無い様でありんしょう？」
「あったとしても巨大な氷塊を避け、極地を目指すには人手が必要で、チト面倒でござる」
「然り。で、ありんすがぁ飛行機とやらも長らく手入れされておらぬと。落水しての寒中水泳など、お断りでありんすぇ」
「そぅ難しい話ではござらんよ。店主も言っていたでござろぅ？」
「？」
「要は「整備されている飛行機」を手に入れれば、従者（人質）も少なくて済むと言う話なだけでござる」
「！」
　ハッと、意図する処を察するアナクス。
「「フッフッフッフッ」」
　不敵に笑う二人に、イヤな予感しかしないファティマであった。