CLOUD(クラウド)

青木 森

文字の大きさ
上 下
473 / 535

14_歪の章_40

しおりを挟む
 振り返るヤマト達。
「「「「「「!」」」」」」
 そこに立っていたのは、ナヤス。
 壁をつっかえ棒代わりに、いつもの「世界中の不幸を背負った様な仄暗い表情」を、より一層暗くして。
「ルムちゃん!」
 慌てて駆け寄るシャーロット。脇からかかえる様に支えると、
「ふへぇ」
 変わらぬ「下手な微笑(般若の様な顔)」を浮かべ、
「心配し過ぎです……ナヤスは、だいじょうぶです……」
 姉に対するツッコミに、以前の様な鋭さは無かった。
「勝算てのは何なんだ!」
 急くジャック。ヤマトは宥める様に、
「気持ちは分かるけど落ち着けぇって」
 その様に大人の対応で諫められると、自らの振る舞いがひときわ幼く思え、もはや黙るしかなく、苛立ちのはけ口を失ったジャックは、
(女には相変わらず甘ぇ……天然のタラシがぁ)
「聞こえてるぞぉ」
「聞こえる様に言ったんだ」
 すねた顔して横向いた。
 ヤレヤレ顔してナヤスに笑って見せるヤマト。気遣いに、ナヤスは感謝した(つもりの)笑顔を返し、
「三位以下のクローザーに保存されている、序列一位と二位のクローザーのパーソナルデータを見る限り、二人は確かに強敵ではありますが、付け入るスキが十分ある性格のようでしたから」
「でした?」
 過去形の物言いに、ジゼが首を傾げ、
「付け入るスキがあったのに負けたって事は、何か変化があったってこと?」
「ジゼ」
 それとなく苦言を呈するヤマトに、ハッとするジゼ。ジャックとマリアの胸中をないがしろにした発言である事に気付き、
「ご、ゴメン……」
 慌てて謝罪すると、ジャックは無視する様にソッポを向いたままであったが、マリアは優しくも微笑み返してくれた。
 しかし今は、無理をして気遣ってくれた微笑みが、むしろ心に痛かった。
 謝罪に謝罪を重ねても、空々しく聞こえるだけである事を理解するジゼ。
(本当にごめん……)
 心の内で不穏当であった発言を猛省。大きく凹む中、シャーロットに支えられたナヤスは話を続け、
「何があったかまでは想像も出来ません。ですが、用意周到なお二人が負けたと言う事実は、何かしらのイレギュラーが発生したのだとしか考えられません」
「チッ、ようは何も分からねぇんじゃねぇか。話になんねぇ」
 毒づきつつ、
(二人だけで行かせるんじゃなかった……)
 心の中では分かれた時の事を今更のように強く後悔し、兄として何も出来なかった無力な自分に奥歯を噛み締めたが、マリアは起きてしまった悲しい現実に浸るより、これから先を見据えた様な凛然とした眼差しで、
「だからと言って、わたくし達のする事に変わりはありませんわ」
「「「「「「!」」」」」」
 何をすべきか迷走しそうになったヤマト達に、マリアは明確な道を指し示し、
「確かにそうだなぁ」
「だよね」
 同意して頷く彼らに笑顔を向けた。
 人をからかい、困っている所を見て楽しむ悪癖があるマリアではあったが、核戦争で混乱に陥りかけたオーストラリアを立て直し、人心を導いたカリスマ性は伊達ではない一面を披露した。
 混沌とした中に、光を見い出したヤマト達がクローザーとの決意を新たにするさなか、
「ジャック、後で個人的に話がありますの。よろしくて?」
 するとマリアの目から何かを感じ取ったジャックはニヤリと笑い、
「奇遇だなぁ。オレも用があったんだ。なんならぁ今からでもイイぜぇ」
 マリアは頷くと、
「そう言う事でございますので皆様、申し訳ありませんが、わたくし達は稽古を先に上がらせていただきますわ」
 笑顔を残し、ジャックを連れ立ち去って行った。
 去った二人の背中と笑みに、一抹の不安を覚えるヤマトとジゼ。
「…………」
「…………」
 お互いの胸の内を確認し合う様に無言でアイコンタクトを交わしていると、
「「!?」」
 ジゼが腕を強引に引っ張られ、
「シセの目が黒いうちは、目と目で通じ合いなどさせませぇんよ!」
 シセはヤマトに敵意丸出しの目を向けた。
 異常事態が判明した直後でありながら変わらぬ姿勢のシセに、思わず苦笑うヤマト達。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

『 LOVE YOU!』 最後は君を好きになる 

設樂理沙
ライト文芸
モデルをしている強引系イケメン男性に関わった3人の素敵な女性のお話 有海香 と亀卦川康之 新垣佳子と亀卦川康之 石川恭子と亀卦川康之 ・・・・・・・・・・ 3組のカップル ・有海香と神谷司 本編 ・新垣佳子小野寺尊 --スピンオフで ・石川恭子と垣本宏 --スピンオフで  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  このお話は『神谷司』という男性をどうしても 幸せにしてあげたくて、書き始めました。  宜しくお願いします☆彡 設樂理沙 ☺ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・☆彡 ♡画像はILLUSTRATION STORE様有償画像  

ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

紫楼
ファンタジー
 酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。  私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!    辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!  食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。  もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?  もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。  両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?    いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。    主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。  倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。    小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。  描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。  タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。  多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。  カクヨム様にも載せてます。

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~3巻が発売中!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  第四巻は11月18日に発送。店頭には2~3日後くらいには並ぶと思われます。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

SEVEN TRIGGER

匿名BB
SF
20xx年、科学のほかに魔術も発展した現代世界、伝説の特殊部隊「SEVEN TRIGGER」通称「S.T」は、かつて何度も世界を救ったとされる世界最強の特殊部隊だ。 隊員はそれぞれ1つの銃器「ハンドガン」「マシンガン」「ショットガン」「アサルトライフル」「スナイパーライフル」「ランチャー」「リボルバー」を極めたスペシャリストによって構成された部隊である。 その中で「ハンドガン」を極め、この部隊の隊長を務めていた「フォルテ・S・エルフィー」は、ある事件をきっかけに日本のとある港町に住んでいた。 長年の戦場での生活から離れ、珈琲カフェを営みながら静かに暮らしていたフォルテだったが、「セイナ・A・アシュライズ」との出会いをきっかけに、再び戦いの世界に身を投じていくことになる。 マイペースなフォルテ、生真面目すぎるセイナ、性格の合わない2人はケンカしながらも、互いに背中を預けて悪に立ち向かう。現代SFアクション&ラブコメディー

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

処理中です...