469 / 535
14_歪の章_36
しおりを挟む
静寂を取り戻す夜の砂漠――
月明りに照らされ立っていたのは、ナアクスカムアとワイスカムアであった。
ナアクスカムアは剣を収めた鞘をおもむろ肩に担ぐと、肩越しにチラリとワイスカムアを見据え、
「何か物言いたげでござるなぁ。(コーギーを)手籠めにした批判でござるか?」
不敵な笑みを浮かべると、
「…………」
ワイスカムアはフイッと顔を背け、
「何でんありんせぇん」
(勝者が正義……敗者は現実を受け入れるのみでありんす……)
小さく呟いたが、言葉とは裏腹に、隠した顔には嫌悪が浮かんでいた。
「…………」
向けられた背に、微かな不快感を滲ませるナアクスカムア。すると戦いが終わっているにもかかわらず、突如、明後日の方角を向き、左手に剣の収まる鞘を持ち、右手で抜刀する様な構えを見せた。
異変に気付き、振り返るワイスカムア。
「ヌシ、何を……」
疑問を投げかけるより先、
「!」
ナアクスカムアが身構えている方角、町の方から急速に接近する何かを察知し、
(ファティ坊!)
それは直感であった。と、同時に真意は不明だが、ナアクスカムアが切り捨てようと身構えている事に気付き、
「ヌシよ!」
声を上げ、その先は一瞬であった。
激しい砂塵が舞い上がり視界の一切を遮った後、もうもうと立ち込める砂煙が次第に落ち着き始めると、
「流石でござるなぁ」
ニヤリと笑うナアクスカムアと、憤怒の目を以って睨み付けるワイスカムア。
二人は、額同士がぶつかりそうな距離で対峙していた。
抜刀寸前のナアクスカムアの柄頭(つかがしら)を右掌で押さえるワイスカムアの腰には、背後から抱き付くファティマの姿が。
「ヌシよ……迫るがファティ坊と知っての狼藉でありんすかぇ……」
今にも首を噛み裂きそうな目を向ける彼女に、ナアクスカムアは鞘から数センチ抜き出した剣をカチリと音を立てて収め直し、白々しくも笑いながら、
「はっはっは。是非も無し。新たな敵の襲撃と思っただけでござるよぉ。童よぉ、済まなかったでござるなぁ~」
二人に背を向けた。
「…………」
日ごと募る不信感。しかし今は相手にする気が起きず、
「ファティ坊よ……」
顔が見えないほど腰にしがみつくファティマの頭にそっと手を添え、
「何ゆえ来たでありんす……文(ふみ)に書いたでありんしょ……妾と居れば、いずれヌシの命とて、」
「イイなぉぅ!」
「?」
「ヒトリにされるくらいならぁ!」
上げた涙顔は、悲しみでグチャグチャになっていた。
その顔に、珍しくもうろたえを見せるワイスカムア。
「妾は強者である事を証明する為に、ヌシの恋しい男の子(おのこ)を手に掛け、今は恩人二人をも手に掛けた阿呆でありんすぇ」
するとファティマは大粒の涙をとめどなく溢れさせながら、
「ぜんぶユルスなぉぅ!」
「!」
「ツミ(罪)があるならファティマもせおうからぁ! オネガイだから……」
声を詰まらせ、
「オネガイだから、おいていかないでぇ! ヒトリボッチはシヌよりツライなぉぉぉおぉぉぉぉぉ!」
号泣するファティマに、ワイスカムアも涙で顔を歪め、
「堪忍でありんす!」
屈んで首元に抱き付き、
「もぅ、一人にしんせんぇ!」
「ゼッタイなぉうぅぅぅぅうぅぅうぅぅうぅ!」
心を通わせ、泣きじゃくる二人。
そんな二人に背を向け立つナアクスカムアの口元には苛立ちが。
不穏な空気を内包しつつも、世は何事も無かったかのように白々と明け、熱を帯び始める砂の大地を吹き抜けた一陣の風は、やがて空へと消えて逝った。
月明りに照らされ立っていたのは、ナアクスカムアとワイスカムアであった。
ナアクスカムアは剣を収めた鞘をおもむろ肩に担ぐと、肩越しにチラリとワイスカムアを見据え、
「何か物言いたげでござるなぁ。(コーギーを)手籠めにした批判でござるか?」
不敵な笑みを浮かべると、
「…………」
ワイスカムアはフイッと顔を背け、
「何でんありんせぇん」
(勝者が正義……敗者は現実を受け入れるのみでありんす……)
小さく呟いたが、言葉とは裏腹に、隠した顔には嫌悪が浮かんでいた。
「…………」
向けられた背に、微かな不快感を滲ませるナアクスカムア。すると戦いが終わっているにもかかわらず、突如、明後日の方角を向き、左手に剣の収まる鞘を持ち、右手で抜刀する様な構えを見せた。
異変に気付き、振り返るワイスカムア。
「ヌシ、何を……」
疑問を投げかけるより先、
「!」
ナアクスカムアが身構えている方角、町の方から急速に接近する何かを察知し、
(ファティ坊!)
それは直感であった。と、同時に真意は不明だが、ナアクスカムアが切り捨てようと身構えている事に気付き、
「ヌシよ!」
声を上げ、その先は一瞬であった。
激しい砂塵が舞い上がり視界の一切を遮った後、もうもうと立ち込める砂煙が次第に落ち着き始めると、
「流石でござるなぁ」
ニヤリと笑うナアクスカムアと、憤怒の目を以って睨み付けるワイスカムア。
二人は、額同士がぶつかりそうな距離で対峙していた。
抜刀寸前のナアクスカムアの柄頭(つかがしら)を右掌で押さえるワイスカムアの腰には、背後から抱き付くファティマの姿が。
「ヌシよ……迫るがファティ坊と知っての狼藉でありんすかぇ……」
今にも首を噛み裂きそうな目を向ける彼女に、ナアクスカムアは鞘から数センチ抜き出した剣をカチリと音を立てて収め直し、白々しくも笑いながら、
「はっはっは。是非も無し。新たな敵の襲撃と思っただけでござるよぉ。童よぉ、済まなかったでござるなぁ~」
二人に背を向けた。
「…………」
日ごと募る不信感。しかし今は相手にする気が起きず、
「ファティ坊よ……」
顔が見えないほど腰にしがみつくファティマの頭にそっと手を添え、
「何ゆえ来たでありんす……文(ふみ)に書いたでありんしょ……妾と居れば、いずれヌシの命とて、」
「イイなぉぅ!」
「?」
「ヒトリにされるくらいならぁ!」
上げた涙顔は、悲しみでグチャグチャになっていた。
その顔に、珍しくもうろたえを見せるワイスカムア。
「妾は強者である事を証明する為に、ヌシの恋しい男の子(おのこ)を手に掛け、今は恩人二人をも手に掛けた阿呆でありんすぇ」
するとファティマは大粒の涙をとめどなく溢れさせながら、
「ぜんぶユルスなぉぅ!」
「!」
「ツミ(罪)があるならファティマもせおうからぁ! オネガイだから……」
声を詰まらせ、
「オネガイだから、おいていかないでぇ! ヒトリボッチはシヌよりツライなぉぉぉおぉぉぉぉぉ!」
号泣するファティマに、ワイスカムアも涙で顔を歪め、
「堪忍でありんす!」
屈んで首元に抱き付き、
「もぅ、一人にしんせんぇ!」
「ゼッタイなぉうぅぅぅぅうぅぅうぅぅうぅ!」
心を通わせ、泣きじゃくる二人。
そんな二人に背を向け立つナアクスカムアの口元には苛立ちが。
不穏な空気を内包しつつも、世は何事も無かったかのように白々と明け、熱を帯び始める砂の大地を吹き抜けた一陣の風は、やがて空へと消えて逝った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる