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１４_歪の章_２７

　一夜明け――
　いつも通り、稽古に参加するヴァイオレットとコーギー。
　しかし今日は、周囲の様子がいつもと異なっていた。
　稽古開始の十分ほど前に到着すると、門下の女性たちが一斉に駆け寄って来て、
「先輩にお怪我はありませんの！」
「ヴァイオレットさんも、お怪我はありませんの！」
「先日の知れ者が首謀者とお聞きしましたが、本当でございますですの！」
「御姉様の御怒りは、いか程でございますの！」
　昨日の「ファティマ拉致未遂事件」が、既に町中の噂になっていた様である。
　矢継ぎ早の質問攻めに、
「いえ、それはでございますですわねぇ……」
　面食らっていると、
『斯様に囃し立てる様に問うては、答えられる物も答えられませんぇ』
　背後からの声に女性たちは一斉に振り返り、
「「「「「「「「「「おはようございます、御姉様ぁ、ファティマ先輩ぃ」」」」」」」」」」
　笑顔で頭を下げた。
　そこにはファティマを連れたアナクスの姿が。
「皆も壮健で、何よりでありんす」
　いつもと変わらぬ妖艶な笑みを口元に浮かべると、ヴァイオレットの下にすぅと歩み寄り、
「ファティ坊より話は聞いたでありんすぅ。何と謝意を述べれば良いモノやらぁ」
　頭を下げたが、ヴァイオレットはかしこまる風も無く、
「あたくしは、たまたま通りかかっただけでございますですわ」
　そして過度な謙遜をする風でもなく、
「同じ状況に遭遇しましたら、ここに居る誰もが同じ様に行動しましたでございますですわ」
　門下の女性たちを笑顔で見回し、女性たちも笑顔で頷き応えると、
「そうでありんすか」
　嬉しそうな笑みを浮かべ、
「今後も、妾の目が行き届かぬ事が幾度となくありんしょう……皆、ファティ坊の事をよろしゅう」
　ファティマの為に頭を下げる姿に、門下の女性たちも笑顔を見合わせ、
「今後は数人でチームを組んで、先輩の送迎を致しましょう」
「ですわねぇ」
「そうなりますと、持ち回りがよろしいですわよね」
　会話が盛り上がりを見せる中、
「ついてはヌシよ、礼として、食事を馳走させてもらえぬかぇ？」
「！？」
　驚くヴァイオレットに、
「一人がためらわれるのであれば、コーギーも一緒で構わぬぇ」
「「…………」」
　突然の誘いに、二人は門下の女性たちの気持ちも踏まえ、どうしたものかと思案していると、
「何を悩む必要がありましょう」
　女性たちは笑顔で、
「御姉様のお誘いを断るのは失礼ですわぁ」
「御姉様の礼を無下にしては、それこそ失礼ですわぁ」
「私達もお誘いを受けられるよう、頑張りますわぁ」
　二人は背中を押され、迷う理由はそれだけではなかったが、
「分かりました」
　コーギーは頷くと、ヴァイオレットと了承のアイコンタクトを交わし、
「「謹んでお受けいたします（でございますですわ）」」
　丁寧に頭を下げ応え、四人で食事をする事となった。