456 / 535
14_歪の章_23
しおりを挟む
数分後――
「ヘイッ! お待ちどうぅ!」
カウンターに並べられる、二人前のケバブサンドとクスクス。
初めて見たのか、アナクスは二品を興味深げに眺め、
「「さんどいっち」……などと言う物でありんすかぇ?」
「うぅ~ん、ちょっと違うんですけど、でもまぁその様なものです。美味しいですよ」
促され、
「そうでありんしょうがぁ……」
訝し気に匂いを嗅ぎつつ、カウンターの小窓で存在感を放つ肉柱のドネルケバブに視線を移し、
「かような肉塊を、得物で削いで食すとは……正直、驚きでありんすぅ。して、その肉塊は「象の足」でありんすかぇ?」
「え?」
「ん?」
なぜ聞き返されたのか、不思議そうな顔。
(このヒトって……天然?)
意外な一面に驚いていると、話を聞いていた店員が「ははは」と笑い、
「姫様ぁ、コイツはヒツジ肉っスよぉ」
「ひっ、ヒツジ肉とぉ!?」
その驚き様に、既視感を覚えるコーギー。ヴァイオレットの姿とダブらせ「もしかして」と思っていると、
「かように大きなヒツジが居るのでありんすかぇ!?」
(やっぱりですかぁ)
「品種改良でぇありんしょうかぇ?」
感慨深げに肉柱を眺めアナクスに、店員は『ワァハハハハハハ!』と大笑い。
「!」
的外れな事を言ってしまった自身に気付くアナクス。
「…………」
店員の笑いが既視感から生じた物である事を知らない彼女は、珍しくも、恥ずかしさから首筋までピンク色に染め上げつつ、大笑いする店員に鋭い視線を向け、
「魚の餌にしんしょうかァ?」
「しぃ、しぃましぇん……」
調子に乗り過ぎた笑いを猛省し、半泣きの引きつり顔で謝罪する店員。
そんな二人のやり取りを、楽しげに眺めていたコーギー。いつも通りの裏表を感じさせない作り笑顔で、
「これは、調味料に漬け込んだ肉をスライスした物を重ねて、柱状にしているそうですよ」
「なんとぉそうでありんすかぁ」
表情をコロリと変え、手の込んだ調理法に感心しつつ、 視線をクスクスに移し、
「してこの米は……やけに大きいでありんすなぁ? ふやかしているでありんすかぇ?」
するとコーギーは備え付けのプラスプーンを差し出し、
「まぁ食べてみて下さい」
「……ヌシが言うならぁ…………」
受け取ると、ゆっくり一口。
「…………」
不安げな表情で祈る様に見守る店員の前で、
「美味しいでありんす!」
驚き顔に、
『ヨッシャーーーッ!』
店員は思わずガッツポーズ。
アナクスはその間にも二口、三口と食べ進め、
「この味は麦でありんすなぁ!? 「ぱすた」と言う物でありんすかぇ!?」
「正解です。世界最小のパスタと言われているそうですよ」
笑顔の回答に、
「ヌシは博識でありんすなぁ~」
誰と比較しての事なのか感嘆の声を漏らすと、コーギーは決まりが悪そうな笑顔を滲ませ、
「全部、そちらの店員さんの受け売りなんですよ。僕は「博識」などではありません。世の中は、僕の知らない事だらけです」
その謙虚な笑顔の横顔に、
「妾でもありんす……」
いつも通りの妖艶な笑みの中に、寂しさや、悲しさの様な物をそこはかとなく滲ませ、
(近しい者の心さえ分からぬ……)
自嘲する様な笑みを微かに浮かべた。
「?」
笑顔の影に見え隠れする哀愁を感じ取るコーギー。
(悲嘆? 感傷? 何故笑顔の中に暗さが……)
表情を変えず、気付かぬフリをしていると、
「のぅ、ヌシよ」
「?」
「ヌシは外の世界の人々を、数々見て来たのでありんしょう?」
「「人よりは」と言った程度ですが」
「ならばヌシが見て来た世界の人々の話を、妾に聞かせてはくれぇんせんかぇ?」
笑みに、
「構いませんよ。お時間に都合が付いた時にいつでも」
笑顔を以って返すコーギーであった。
「ヘイッ! お待ちどうぅ!」
カウンターに並べられる、二人前のケバブサンドとクスクス。
初めて見たのか、アナクスは二品を興味深げに眺め、
「「さんどいっち」……などと言う物でありんすかぇ?」
「うぅ~ん、ちょっと違うんですけど、でもまぁその様なものです。美味しいですよ」
促され、
「そうでありんしょうがぁ……」
訝し気に匂いを嗅ぎつつ、カウンターの小窓で存在感を放つ肉柱のドネルケバブに視線を移し、
「かような肉塊を、得物で削いで食すとは……正直、驚きでありんすぅ。して、その肉塊は「象の足」でありんすかぇ?」
「え?」
「ん?」
なぜ聞き返されたのか、不思議そうな顔。
(このヒトって……天然?)
意外な一面に驚いていると、話を聞いていた店員が「ははは」と笑い、
「姫様ぁ、コイツはヒツジ肉っスよぉ」
「ひっ、ヒツジ肉とぉ!?」
その驚き様に、既視感を覚えるコーギー。ヴァイオレットの姿とダブらせ「もしかして」と思っていると、
「かように大きなヒツジが居るのでありんすかぇ!?」
(やっぱりですかぁ)
「品種改良でぇありんしょうかぇ?」
感慨深げに肉柱を眺めアナクスに、店員は『ワァハハハハハハ!』と大笑い。
「!」
的外れな事を言ってしまった自身に気付くアナクス。
「…………」
店員の笑いが既視感から生じた物である事を知らない彼女は、珍しくも、恥ずかしさから首筋までピンク色に染め上げつつ、大笑いする店員に鋭い視線を向け、
「魚の餌にしんしょうかァ?」
「しぃ、しぃましぇん……」
調子に乗り過ぎた笑いを猛省し、半泣きの引きつり顔で謝罪する店員。
そんな二人のやり取りを、楽しげに眺めていたコーギー。いつも通りの裏表を感じさせない作り笑顔で、
「これは、調味料に漬け込んだ肉をスライスした物を重ねて、柱状にしているそうですよ」
「なんとぉそうでありんすかぁ」
表情をコロリと変え、手の込んだ調理法に感心しつつ、 視線をクスクスに移し、
「してこの米は……やけに大きいでありんすなぁ? ふやかしているでありんすかぇ?」
するとコーギーは備え付けのプラスプーンを差し出し、
「まぁ食べてみて下さい」
「……ヌシが言うならぁ…………」
受け取ると、ゆっくり一口。
「…………」
不安げな表情で祈る様に見守る店員の前で、
「美味しいでありんす!」
驚き顔に、
『ヨッシャーーーッ!』
店員は思わずガッツポーズ。
アナクスはその間にも二口、三口と食べ進め、
「この味は麦でありんすなぁ!? 「ぱすた」と言う物でありんすかぇ!?」
「正解です。世界最小のパスタと言われているそうですよ」
笑顔の回答に、
「ヌシは博識でありんすなぁ~」
誰と比較しての事なのか感嘆の声を漏らすと、コーギーは決まりが悪そうな笑顔を滲ませ、
「全部、そちらの店員さんの受け売りなんですよ。僕は「博識」などではありません。世の中は、僕の知らない事だらけです」
その謙虚な笑顔の横顔に、
「妾でもありんす……」
いつも通りの妖艶な笑みの中に、寂しさや、悲しさの様な物をそこはかとなく滲ませ、
(近しい者の心さえ分からぬ……)
自嘲する様な笑みを微かに浮かべた。
「?」
笑顔の影に見え隠れする哀愁を感じ取るコーギー。
(悲嘆? 感傷? 何故笑顔の中に暗さが……)
表情を変えず、気付かぬフリをしていると、
「のぅ、ヌシよ」
「?」
「ヌシは外の世界の人々を、数々見て来たのでありんしょう?」
「「人よりは」と言った程度ですが」
「ならばヌシが見て来た世界の人々の話を、妾に聞かせてはくれぇんせんかぇ?」
笑みに、
「構いませんよ。お時間に都合が付いた時にいつでも」
笑顔を以って返すコーギーであった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い
八神 凪
ファンタジー
旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い
【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】
高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。
満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。
彼女も居ないごく普通の男である。
そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。
繁華街へ繰り出す陸。
まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。
陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。
まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。
魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。
次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。
「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。
困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。
元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。
なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。
『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』
そう言い放つと城から追い出そうとする姫。
そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。
残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。
「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」
陸はしがないただのサラリーマン。
しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。
今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~3巻が発売中!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
第四巻は11月18日に発送。店頭には2~3日後くらいには並ぶと思われます。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
電子世界のフォルトゥーナ
有永 ナギサ
SF
人工知能を搭載した量子コンピュータセフィロトが自身の電子ネットワークと、その中にあるすべてのデータを物質化して創りだした電子による世界。通称、エデン。2075年の現在この場所はある事件をきっかけに、企業や国が管理されているデータを奪い合う戦場に成り果てていた。
そんな中かつて狩猟兵団に属していた十六歳の少年久遠レイジは、エデンの治安維持を任されている組織エデン協会アイギスで、パートナーと共に仕事に明け暮れる日々を過ごしていた。しかし新しく加入してきた少女をきっかけに、世界の命運を決める戦いへと巻き込まれていく。
かつての仲間たちの襲来、世界の裏側で暗躍する様々な組織の思惑、エデンの神になれるという鍵の存在。そして世界はレイジにある選択をせまる。彼が選ぶ答えは秩序か混沌か、それとも……。これは女神に愛された少年の物語。
<注意>①この物語は学園モノですが、実際に学園に通う学園編は中盤からになります。②世界観を強化するため、設定や世界観説明に少し修正が入る場合があります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む
紫楼
ファンタジー
酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。
私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!
辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!
食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。
もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?
もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。
両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?
いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。
主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。
倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。
小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。
描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。
タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。
多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。
カクヨム様にも載せてます。
『 LOVE YOU!』 最後は君を好きになる
設樂理沙
ライト文芸
モデルをしている強引系イケメン男性に関わった3人の素敵な女性のお話
有海香 と亀卦川康之
新垣佳子と亀卦川康之
石川恭子と亀卦川康之
・・・・・・・・・・
3組のカップル
・有海香と神谷司 本編
・新垣佳子小野寺尊 --スピンオフで
・石川恭子と垣本宏 --スピンオフで
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
このお話は『神谷司』という男性をどうしても
幸せにしてあげたくて、書き始めました。
宜しくお願いします☆彡 設樂理沙 ☺
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・☆彡
♡画像はILLUSTRATION STORE様有償画像
転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
SEVEN TRIGGER
匿名BB
SF
20xx年、科学のほかに魔術も発展した現代世界、伝説の特殊部隊「SEVEN TRIGGER」通称「S.T」は、かつて何度も世界を救ったとされる世界最強の特殊部隊だ。
隊員はそれぞれ1つの銃器「ハンドガン」「マシンガン」「ショットガン」「アサルトライフル」「スナイパーライフル」「ランチャー」「リボルバー」を極めたスペシャリストによって構成された部隊である。
その中で「ハンドガン」を極め、この部隊の隊長を務めていた「フォルテ・S・エルフィー」は、ある事件をきっかけに日本のとある港町に住んでいた。
長年の戦場での生活から離れ、珈琲カフェを営みながら静かに暮らしていたフォルテだったが、「セイナ・A・アシュライズ」との出会いをきっかけに、再び戦いの世界に身を投じていくことになる。
マイペースなフォルテ、生真面目すぎるセイナ、性格の合わない2人はケンカしながらも、互いに背中を預けて悪に立ち向かう。現代SFアクション&ラブコメディー
ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~
にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。
その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。
そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。
『悠々自適にぶらり旅』
を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる