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青木 森

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14_歪の章_23

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 数分後――
「ヘイッ! お待ちどうぅ!」
 カウンターに並べられる、二人前のケバブサンドとクスクス。
 初めて見たのか、アナクスは二品を興味深げに眺め、
「「さんどいっち」……などと言う物でありんすかぇ?」
「うぅ~ん、ちょっと違うんですけど、でもまぁその様なものです。美味しいですよ」
 促され、
「そうでありんしょうがぁ……」
 訝し気に匂いを嗅ぎつつ、カウンターの小窓で存在感を放つ肉柱のドネルケバブに視線を移し、
「かような肉塊を、得物で削いで食すとは……正直、驚きでありんすぅ。して、その肉塊は「象の足」でありんすかぇ?」
「え?」
「ん?」
 なぜ聞き返されたのか、不思議そうな顔。
(このヒトって……天然?)
 意外な一面に驚いていると、話を聞いていた店員が「ははは」と笑い、
「姫様ぁ、コイツはヒツジ肉っスよぉ」
「ひっ、ヒツジ肉とぉ!?」
 その驚き様に、既視感を覚えるコーギー。ヴァイオレットの姿とダブらせ「もしかして」と思っていると、
「かように大きなヒツジが居るのでありんすかぇ!?」
(やっぱりですかぁ)
「品種改良でぇありんしょうかぇ?」
 感慨深げに肉柱を眺めアナクスに、店員は『ワァハハハハハハ!』と大笑い。
「!」
 的外れな事を言ってしまった自身に気付くアナクス。
「…………」
 店員の笑いが既視感から生じた物である事を知らない彼女は、珍しくも、恥ずかしさから首筋までピンク色に染め上げつつ、大笑いする店員に鋭い視線を向け、
「魚の餌にしんしょうかァ?」
「しぃ、しぃましぇん……」
 調子に乗り過ぎた笑いを猛省し、半泣きの引きつり顔で謝罪する店員。
 そんな二人のやり取りを、楽しげに眺めていたコーギー。いつも通りの裏表を感じさせない作り笑顔で、
「これは、調味料に漬け込んだ肉をスライスした物を重ねて、柱状にしているそうですよ」
「なんとぉそうでありんすかぁ」
 表情をコロリと変え、手の込んだ調理法に感心しつつ、 視線をクスクスに移し、
「してこの米は……やけに大きいでありんすなぁ? ふやかしているでありんすかぇ?」
 するとコーギーは備え付けのプラスプーンを差し出し、
「まぁ食べてみて下さい」
「……ヌシが言うならぁ…………」
 受け取ると、ゆっくり一口。
「…………」
 不安げな表情で祈る様に見守る店員の前で、
「美味しいでありんす!」
 驚き顔に、
『ヨッシャーーーッ!』
 店員は思わずガッツポーズ。
 アナクスはその間にも二口、三口と食べ進め、
「この味は麦でありんすなぁ!? 「ぱすた」と言う物でありんすかぇ!?」
「正解です。世界最小のパスタと言われているそうですよ」
 笑顔の回答に、
「ヌシは博識でありんすなぁ~」
 誰と比較しての事なのか感嘆の声を漏らすと、コーギーは決まりが悪そうな笑顔を滲ませ、
「全部、そちらの店員さんの受け売りなんですよ。僕は「博識」などではありません。世の中は、僕の知らない事だらけです」
 その謙虚な笑顔の横顔に、
「妾でもありんす……」
 いつも通りの妖艶な笑みの中に、寂しさや、悲しさの様な物をそこはかとなく滲ませ、
(近しい者の心さえ分からぬ……)
 自嘲する様な笑みを微かに浮かべた。
「?」
 笑顔の影に見え隠れする哀愁を感じ取るコーギー。
(悲嘆? 感傷? 何故笑顔の中に暗さが……)
 表情を変えず、気付かぬフリをしていると、
「のぅ、ヌシよ」
「?」
「ヌシは外の世界の人々を、数々見て来たのでありんしょう?」
「「人よりは」と言った程度ですが」
「ならばヌシが見て来た世界の人々の話を、妾に聞かせてはくれぇんせんかぇ?」
 笑みに、
「構いませんよ。お時間に都合が付いた時にいつでも」
 笑顔を以って返すコーギーであった。

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