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青木 森

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14_歪の章_12

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 数日後――
 門下の女性たちに混じり、稽古に専念するコーギーとヴァイオレット。
 よそ者である二人が彼女たちから情報を聞き出すには先立つ信用が必要であり、信頼関係が構築されていない今、根掘り葉掘り聞くのは警戒心を招きかねず、「得策ではない」と判断した二人は、多少遠回りにはなるものの、先ずは関係構築に努める事にしたのである。
 その様な中でも、体を動かす稽古の時間帯は細心の注意を払った。
 普通の人間ではない事を気付かれないように。
「ツギはカケアシなぉぅ!」
 彼女たちを指導するのは幼いファティマ。
 門下生一人一人の疲労状態を見て適度な休憩を入れるなど、配慮を交えた指導は的確であり、自らも厳しい稽古に励む姿からも不満に思う者など皆無なうえ、疲労困憊の中にあってもファティマの一挙手一投足を時折り見つめ、
「「「「「「「「「「はぁあぁ~~~」」」」」」」」」」
 癒された萌え顔をする門下生たち。
 彼女の存在は「指導員」に留まらず、厳しい稽古の中においての「癒し」でもあった。
 一方のアナクスは言うと、基本的な指導はファティマ任せ。
 ファティマの背後にある園内の据え置きのベンチに涅槃図姿で横になり、くつろぎモードで稽古を窺うのが常であったが、彼女を批判的に見る者もまた皆無であった。
 単にダラけた姿で稽古を眺めているだけでは当然反感を買うであろうが、ファティマの稽古相手が必要な時や、戦い方の肝となる「秘訣」を伝える時だけは起き上がって熱心な指導をし、そのメリハリを利かせた姿はカリスマ的。
『『『『『『『『『『カッコイイですわぁ~』』』』』』』』』』
 同性の心を鷲掴みにしていた。
 そして今日も一通りのトレーニングを終え、仕上げとして「二人一組の柔軟」で体を整えていると、
「今日はここまでなぉぅ!」
 ファティマの一声に、門下生たちは一斉に整列。
 揃ったところで、
「オタガイ(お互い)に、レイ(礼)なぉ!」
 門下生たちは互いに向き合い、頭を下げ合った後、正面に向き直ると、揃ったタイミングを見計らい、
「センセイ(先生)に、レイ(礼)なぉぅ!」
 ベンチの上に横たわるアナクスに頭を下げようとしたが、アナクスはすかさずファティマの両頬を手で挟み、
「『センセイ』ではなく、『オネェサマ』でありんしょうぅうぅ?」
 呼称を強要しようとしたが、
「そんにゃ(そんな)はうかしぃほとぉ(恥ずかしい事)いいたにゃぃ(言いたくない)あぉぅ!」
 頑として拒否するファティマ。
 稽古終わりの「言え」、「言わない」は、もはや恒例行事と化していた。
 そんな二人のやり取りを、尊いモノを見つめる眼差しでウットリ眺める門下生たちと、苦笑うしかないコーギーとヴァイオレット。
 裏切り者のクローザーを倒すと言う、本来の目的が霞みそうになるくらい、穏やかな日々が過ぎる中、次第に顔見知りも増え、「誰に」、「なんと話を切り出そうか」と考え始めていた矢先の、とある日の稽古終わり、
「あ、あの……コーギーさん、ヴァイオレットさん」
 振り返ると、門下の女性たち数名が、顔色を窺う様な表情で立っていた。
「「?」」
 二人は顔を見合わせ、
「どうかなさいましたで、ございますですの?」
 同性の方が答え易いと判断してヴァイオレットが尋ねると、一人の女性が意を決し、
「わたくし達と、お茶などいかがでしょうかぁ!」
 同意の女性たちが不安気に見守る中、「自然な形での接触の機会」を窺っていた二人は、
(ラッキーですね)
(申し出を、当然受けますですわよねぇ?)
 アイコンタクトを交わし、
「モチロンで、ございますですわぁ」
「僕も、喜んで参加させていただきます」
 快諾に、女性たちは安堵の混じった笑顔をパッと弾けさせ、
「美味しい紅茶を出す店がありますの!」
「海外の話など、是非に伺いたいですわぁ!」
 後ろに控え、もじもじしていた女性たちも身を乗り出した。
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