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１４_歪の章_８

　しばしの静観を決めてから数日―――
　病院へ通い続けるファティマと、そんな彼女に生きる術を教えるべく鍛えるアナクス。
　そんな二人の姿が、『隷属的関係である』と一方的に思い込んでいた町の人々の心に、変化をもたらし始めた。
　いつも通りの稽古を行う二人を、物陰から見つめるコーギーとヴァイオレット。
　町の人々もいつも通り我関せずを装い、遠巻きに稽古の様子を窺っていたが、この日は少し様子が違っていた。
　園内を見回すコーギー。
（ねぇ、ヴァイオレット……）
（何でございますですの？）
（何となくなんですが……今日は（年齢問わず）女性が多い気がしませんか……？）
（……明らかに、でございますですわね……）
　声を潜め、互いの認識を確認し合っていると、
「「！！」」
　ファティマと同年代と思える少女たちが、意を決した表情を以って稽古中の二人の下に駆け寄り、
「「「「「せんせぇ！　ワタシタチにもタタカイカタをおしえてぇ！」」」」」
「「！？」」
　急展開に、驚くファティマとアナクス。
　物陰から様子を窺っていたコーギーとヴァイオレットも驚きを隠せずにいたが、そんな二組を尻目に、遠巻きに窺っていた女性たちも遅ればせながら駆け寄り、
「「「「「「「「「「私達にも教えて下さい！」」」」」」」」」」
「…………」
　女性たちをしばし無言で見つめるアナクスと、そんな彼女を物陰から見つめるヴァイオレット。伝わる緊張感から思わず固唾を呑み、
（何と返事を返すのでございましょう……？）
（さぁ……ただ僕たちの頭に予め記憶されているアナクスのデータによると、彼女は「かなりの偏屈」とありますが……）
（そうでございますですわよねぇ……激昂して、追い払いでもするのでございますでしょうか……？）
　集まった女性たちに危害が加えられないか危惧する中、彼女の口から発せられた言葉は意外なモノであり、二人は耳を疑った。
　アナクスの表情が、いつも通りの「妖艶な笑み」に戻り、
「妾の事が、怖くはないでありんすかぇ？」
（な！？）
「妾のチカラは、あの男と同じモノでありんすぇ」
（ッ！？）
　驚きを隠せないヴァイオレットはコーギーの両肩を掴んで前後に激しく揺さぶり、
（ちょっとコーギィー！　今のを聞きましたでございますですか！　アナクスが他者に対して気遣いなどぉ！　これはいったい、どう言う事でございますですのぉ！）
　コーギーは前後に激しく揺さぶられながら、
（ぼぉくぅにぃきぃかれぇてぇもぉ～しぃりぃまぁせぇんよぉおぉ～）
　※「僕に聞かれても知りませんよ」
　いつも通りの作り笑顔に、苦笑いを滲ませた。
　二人の驚きなど知る由もないアナクス。向けられた女性たちの真剣な眼差しに、しばし無言の後、艶やかな笑みを浮かべて口元を袖で隠し、
「良いでありんしょう」
「「「「「「「「「「！」」」」」」」」」」
「泣いて寝入るは今日までにしんしょう！」
「「「「「「「「「「ッ！」」」」」」」」」」
　女性たちが一筋の希望の光を見い出した様な笑顔を弾けさせると、
「今より妾の事は『御姉様』と呼ぶでありんすぅ！」
「「「「「「「「「「ハイッ！　御姉様ぁ！」」」」」」」」」」
　霧雲が晴れた様な返事を返した。
　そんなやり取りを、うつ伏せたまま、
「なんなぉぅ、このチャバン……」
　呆れ顔で見上げる疲労困憊のファティマと、
「激しく同意ですねぇ」
　離れた物陰から頷くコーギー。