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青木 森

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13_流転の章_34

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 悔し気に奥歯をギリギリと鳴らし、
「ふざけるなぁ!」
 右手を天にかざして、何かをローディングしようとした瞬間、
「ッ!」
 ロイドは男のクローザーに上半身を袈裟切りに、一刀の下に切り伏せられ、
「…………」
 呻き声の一つ上げる事無く絶命し、男はいつの間にローディングしていたのか、日本刀のような剣を鞘に収めながら、
「詰まらぬモノを切ってしまった」
 小馬鹿にした様な笑みを浮かべ、物言わぬ亡骸となったロイドを見くだす様に見下ろすと、
「私怨に囚われ、弱者に足元をすくわれた、小さき男でありんした」
 女も嫌悪を以って見下ろしつつ、
「それに比べ……」
 横たわるファティマにチラリと視線を送った刹那、
「がっ!」
 緊張を解かず身構えていたムスカムアが、突如大きなチカラで弾き飛ばされ、残骸の壁を背中で突き破り、砂の大地にもんどり打って転がった。
「うくっ……」
 自身の身に何が起きたか理解出来ないまま、
「いったい……何が……」
 ダメージを抱えつつ、上半身を起こすと、先程まで立っていた場所にクローザーの女が立ち、虫の息のファティマを見下ろしていた。
 彼女は警戒していたムスカムアの認識力を上回る速度で一瞬にして距離を縮め、細身の裏拳一発で、自身より頭二つ分ほども大きいムスカムアを殴り飛ばしたのである。
「ふぁ……ファティマに……触るなぁ……」
 ヨロヨロと立ち上がるも、膝から崩れ、片膝と片手を地に着ける。
(た、たった一撃がこれ程とは……)
 実力の違いを、身を以って知らされ、ロイドの言っていた『絶対』を思い出すムスカムア。しかしだからと言って引き下がっている場合ではない。何故なら、清い体のまま死地へと向かわせたファティマが、今まさに目の前で、手籠めにされようとしていたのだから。
「げ……ゲスどもがぁ……」
 ファティマの情操教育上不適であると判断し、また自身の性格から下卑た言葉は使わないムスカムアであったが、怒りを堪えきれずに二人を口汚く罵ると、気持ちを受け取った血まみれファティマは、虫の息で震える手をムスカムアに懸命に伸ばし、
(し、シショ……)
 するとその様子をジッと見おろしていたクローザーの女が、「おぉ~ほっほっほっほっ!」と突如高笑い。
「この童ぇ、良いでありんすぅ!」
「「!」」
 ギョッとするムスカムアとクローザーの男。何かを察した男は困惑交じりの呆れ顔をし、
「また悪癖が始まったでござる」
 頭を抱えると、
「辛辣な物言いでありんすなぁ」
 クローザーの女は淫魔の如き笑みを浮かべ、
「たいした童でありんすぅ。全てを理解した上で、死地へと向かわせた男を気遣うとは」
 悦に入って見せたが、
「その覚悟に比べて、アンタさん」
 目の奥だけがギラリと光り、目だけでムスカムアを見据え、
「童を手に掛ける事を、ためらいんしたなぁ?」
 それは同性として抱いた怒りからか、
「残される無力な女子(オナゴ)が、どんな扱いを受けるか分かりんしょうにぃ」
「く……」
 返す言葉もないムスカムア。「情けを掛けてしまった」と言えばそれまでだが、辱めを受け続けながら命を長らえる事と、人としての尊厳を持ったまま命を終らせる事。ファティマにとって、どちらが優しい選択であったと言えるのか。
「妾が、そこに転がる下郎(ロイド)と同類でなく良ぅありんしたなぁ」
 クローザーの女は流麗な笑みを浮かべ、
「妾が興味あるは「最強」の二文字のみぃ」
「最強……」
 聞き覚えのあるフレーズなのか、深刻な手傷を追いながらも怪訝な顔をするムスカムア。
「最強を目指す妾の足元には、死屍累々たる強者(つわもの)どもの亡骸が横たわるが相応しい。それこそが、最強の証でありんす」
(ま、まさか……)
 とある疑念を抱き始めた彼に、女は解決を待たずに右掌の向けかざし、
「来るでありんすぅ」
 激しい赤光が右腕に集まると、光はレーザー式のバズーカ砲へと姿を成し、
「……!」
 ムスカムアの危機を感じ取った「風前の灯火のファティマ」が見上げる目の前で、
「終わりでありんす」
 砲口で赤い光が急速に収束。辛うじて立ち上がっていたムスカムアに向かって射出され、
「しっ、シショー……!」
 ファティマが辛うじて発した叫びもむなしく、直撃した光により高温の炎に包まれ、
(そうか……この二人は……)
「ふぁ……てぃ……ま……」
 ムスカムアはチカラなくうつ伏せに倒れ、瞬く間に灰燼と化した。
「ッ!」
 動けない体でありながら、今にも消えそうな命の炎でありながら、射殺す様に睨むファティマに、
「おぉ~ほっほっほっほっ! 見るでありんす! 好いた男の為に妾を睨む、この童ぇ! 幼くとも女でありんすぅ!」
 クローザーの女は愉快そうに笑い、
「益々気に入ったでありんすぅ」
 動けない体を必死に動かし、飛び掛かろうともがくファティマの傍らに屈み、
「童よぉ、生きたいでありんすかぁ? 好いた男の仇を取りたいでありんすかぁ?」
「う、うぅ! くっ……」
 悔し気に大粒の涙を流すと、
「良き返事でありんすぅ。生きていれば、仇を取れるやもありせんえ?」
 不敵な笑みを浮かべ、いきなり自身の左手首を手刀で切った。
(な、なん……なぉぅ……この……ヒト……)
 最期の時は容赦なく、刻一刻と迫っていた。
 徐々に消え行く意識の中で、彼女の奇行に驚くファティマであったが、それ以上に、
「……!」
 慄いた。
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