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１３_流転の章_２８

　ムスカムアにお姫様抱っこされたまま、屋外に飛び出るファティマ―――
「！？」
　監禁される前の状態から一変した町の様子に言葉を失った。
　いたる所から火の手が上がり、けたたましく走り回る消防車と救急車。ビルなどの建築物は目につく範囲でもアチラコチラで倒壊し、まるで空爆を受けたかの有り様。
（な、なんなぉぅ……コレ……）
　ひょうひょうとした表情で走り続けるムスカムアの腕の中、恐る恐る顔を見上げ、
「もしかして……シショーがやった……なぉぅ……？」
「町の状態についてですか？」
　さも当然と言った風に、
「貴方の居場所を教えてくれなかったので、自分で探し回った結果です。早く、素直に教えてくれれば、このよう『惨状』にまでならなかったのですが」
「サンジョウにしたジカクは、あるなぉぅね……」
　一人の男性が、自分一人の為にココまでしてくれた事を、幼いながらも「一人の女性」として、素直に喜んで良いものか複雑な思いでいると、
「舌を噛みますから、しっかり口を閉じていて下さい」
「へ？」
　言い終わるが先か、ムスカムアは人間離れした跳躍で大ジャンプ。
「なのぉぅうぅぅぅっぅぅぅぅぅ！」
　彼らを捕らえよう集結していた軍隊や、軍用車両の頭上数メートルを易々と飛び越え、
「あべしぃ！」
　着地の衝撃によるファティマの呻き声と共に、町からの脱出を果たした。

　ファティマをお姫様抱っこしたまま、砂漠を疾走するムスカムア―――
「シタかんだなぉぅ……」
　腕の中で、ファティマが恨めしそうな顔して見上げたが、
「口を閉じていないからですよ」
　ムスカムアは悪びれる様子もなく、原因の分析でもする様に淡々と語って見せ、
「いうのがおそいからなぉぅ！」
　憤慨すると、
「そうでしょうか？」
「もぅ！　シショーのバカぁ！　レイケツカン！　ヨウジョずき！」
「馬鹿と冷血漢は認めますが、「幼女好き」とは、些か語弊があるのではありませんか？」
「ワタシのココロをうばったんだから、とうぜんなぉぅ！」
「……言われている意味は分かりませんが、相応の責任は取るつもりです」
「え…………」
　無言でムスカムアの顔を見上げるファティマ。
（シショーのコトバは、たまにムズカシくてよくわからないけど……）
「たぶん……ソレでいいなぉぅ……」
　両頬を、ポッとサクラ色に染めたが、
「そうですか。それは良かった」
「…………」
　物言いに、若干の腑に落ちなさを感じたが、「彼の性格から仕方がない」と諦め、
「これからどこにいくなおぅ？」
「さほど離れていない距離に村があるので、そこで一旦体勢を立て直そうと考えています」
「しってるムラ、なおぅ……？」
　不安を滲ませると、
「私が目覚めた時、初めてお世話になった村です。とても優しい村です。素性の知れない私を、受け入れてくれました。思えば、この世界における私の規範は、彼ら、彼女らが作ってくれたモノと言って良いでしょう」
「…………」
「どうかしましたか？」
「シショーって、たまに「べつのセカイのヒト」みたいなことをいうなぉぅ……すごいジャンプしたりするし」
「怖いですか？」
　チラリと見降ろす顔に、ファティマはフルフルと首を横に振り、
「いつかおいていかれそうで、コワイだけ……」
　胸元をキュッと握りしめると、
「そうですね……落ち着いたら、貴方にはその事も含めて全てお話します」
（アナタには……）
　特別扱いされている事に頬を緩めると、
「うん。わかったなぉぅ。まってるなぉぅ」
「見えてきました。あの丘を越えた先に村があります」
　前方に見える小高い砂漠の丘の天辺に視線を送った。