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13_流転の章_19
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近代兵士の集まりの様な戦いぶりを見せる村人たちを前に、劣勢を強いられる野盗たち。
村人たちをその様な「一人前の兵士」にまで鍛え上げたのは少女の父親である。
彼は西欧のとある国で特殊部隊隊員として活動していた。しかし血生臭い日常に嫌気がさして退官し、ボランティアとして活動していたのである。
そして、その様な経歴を持つ彼は良く知っていた。組織が大きくなればなるほど端々に目が行き届かなくなり、裏切り者が出る事を。
故に彼は「この村の住人だけ」を対象に、身に付けた軍事技術を以って、周囲の村人たちに気付かれない様に細心の注意を払いつつ、教練を施していたのであった。
村人たち(教え子たち)が奮戦する中、村長の家に身を潜める父と娘。それは村長の命であり、大好物のニンジンを目の前に吊るされた馬の様に、野盗たちを刺激しない為の配慮からではあり、彼も重々承知の上ではあったが、怯えた表情の愛娘を胸に抱きつつもジッとしていられず、
「村長! 私も戦いに!」
「ダメだ!」
村長は続く言葉を即座に切り落とし、
「目当てのモノが目の前に出てくれば、奴らの士気は否応なしに上がってしまう! それが分からぬではあるまい!」
「しかし!」
尚も食い下がろうとすると、ジェスチャーでそれを制し、
「そんな事より、オマエ達は非常用トンネルを通って今スグに村から逃げるのだ」
「な!?」
「奴等の一番の目当ての「この子」が奴等に捕まれば、どんな扱いを受けるかは火を見るよりも明らか。その様な事、想像もしたくない」
村長は嫌悪感を露わ、眉間にシワを寄せ、
「それに、分かっているのだよ」
「え?」
「にわか仕込みの我々が、元兵士である奴ら相手に、いつまでも優勢でいられる筈が無い事を」
「…………」
返す言葉も見つからない。士気が下がる事を恐れ、黙っていた事実であるから。
すると村長は、怯えた表情で父親にしがみつく少女の下に屈み、優しくも悲し気に、頭をそっと撫で、
「思えば……祖父らしい事は何一つしてやれなんだ……」
「お義父さん……」
彼が妻としてめとった女性は「村長の一人娘」であり、少女は村長の「実の孫」であった。
村長は名残惜し気に少女の頭から手を離すと、想いを断ち切る様に、
「さぁもう行け!」
バッと立ち上がり、
「奴等に気付かれては元も子も、」
言い終わるが先か、村人の一人が駆け込んで来て、
「村長ォ! 奴等が「鋼鉄の車(装甲車)」で突っ込んで来て入り口が強引に、」
パァン!
「「「!」」」
三人の目の前で、背後から何者かに撃たれ前のめりに卒倒した。
村長は急ぎ二人を強引に地下隠し通路の中へと押しやり、
「早く行けぇ!」
入り口を塞ぐと、更に荷物を乗せ隠し、少女の父親から護身用として渡されていたオートマチックのハンドガンを懐から取り出して部屋から飛び出した。
「ワシがこの村の長だァ! この村は貴様らの好きにはさせぇん!」
怒声と足音は遠ざかって行き、暗がりの中、ただ事ではない事を感じ取った少女は、
「パパぁ、じぃじぃ(村長)は? じぃじぃは!?」
今にも泣き出しそうな顔に、父親は精一杯の作り笑顔で、
「ここでお別れだよ。じぃじぃには仕事があるんだよ」
しかしその様な取り繕いが通用する筈も無く、
「いやぁ! じぃじぃと、ムラのみんなといっしょがイイなおぅ!」
大泣きしそうな気配を見せると、
「ごめん!」
父親は娘の口を手で塞ぐと小脇に抱え、頭上に銃撃音と爆発音が鳴り、地揺れする、大人一人が通れるトンネルの中を出口に向かってひた走った。
村人たちをその様な「一人前の兵士」にまで鍛え上げたのは少女の父親である。
彼は西欧のとある国で特殊部隊隊員として活動していた。しかし血生臭い日常に嫌気がさして退官し、ボランティアとして活動していたのである。
そして、その様な経歴を持つ彼は良く知っていた。組織が大きくなればなるほど端々に目が行き届かなくなり、裏切り者が出る事を。
故に彼は「この村の住人だけ」を対象に、身に付けた軍事技術を以って、周囲の村人たちに気付かれない様に細心の注意を払いつつ、教練を施していたのであった。
村人たち(教え子たち)が奮戦する中、村長の家に身を潜める父と娘。それは村長の命であり、大好物のニンジンを目の前に吊るされた馬の様に、野盗たちを刺激しない為の配慮からではあり、彼も重々承知の上ではあったが、怯えた表情の愛娘を胸に抱きつつもジッとしていられず、
「村長! 私も戦いに!」
「ダメだ!」
村長は続く言葉を即座に切り落とし、
「目当てのモノが目の前に出てくれば、奴らの士気は否応なしに上がってしまう! それが分からぬではあるまい!」
「しかし!」
尚も食い下がろうとすると、ジェスチャーでそれを制し、
「そんな事より、オマエ達は非常用トンネルを通って今スグに村から逃げるのだ」
「な!?」
「奴等の一番の目当ての「この子」が奴等に捕まれば、どんな扱いを受けるかは火を見るよりも明らか。その様な事、想像もしたくない」
村長は嫌悪感を露わ、眉間にシワを寄せ、
「それに、分かっているのだよ」
「え?」
「にわか仕込みの我々が、元兵士である奴ら相手に、いつまでも優勢でいられる筈が無い事を」
「…………」
返す言葉も見つからない。士気が下がる事を恐れ、黙っていた事実であるから。
すると村長は、怯えた表情で父親にしがみつく少女の下に屈み、優しくも悲し気に、頭をそっと撫で、
「思えば……祖父らしい事は何一つしてやれなんだ……」
「お義父さん……」
彼が妻としてめとった女性は「村長の一人娘」であり、少女は村長の「実の孫」であった。
村長は名残惜し気に少女の頭から手を離すと、想いを断ち切る様に、
「さぁもう行け!」
バッと立ち上がり、
「奴等に気付かれては元も子も、」
言い終わるが先か、村人の一人が駆け込んで来て、
「村長ォ! 奴等が「鋼鉄の車(装甲車)」で突っ込んで来て入り口が強引に、」
パァン!
「「「!」」」
三人の目の前で、背後から何者かに撃たれ前のめりに卒倒した。
村長は急ぎ二人を強引に地下隠し通路の中へと押しやり、
「早く行けぇ!」
入り口を塞ぐと、更に荷物を乗せ隠し、少女の父親から護身用として渡されていたオートマチックのハンドガンを懐から取り出して部屋から飛び出した。
「ワシがこの村の長だァ! この村は貴様らの好きにはさせぇん!」
怒声と足音は遠ざかって行き、暗がりの中、ただ事ではない事を感じ取った少女は、
「パパぁ、じぃじぃ(村長)は? じぃじぃは!?」
今にも泣き出しそうな顔に、父親は精一杯の作り笑顔で、
「ここでお別れだよ。じぃじぃには仕事があるんだよ」
しかしその様な取り繕いが通用する筈も無く、
「いやぁ! じぃじぃと、ムラのみんなといっしょがイイなおぅ!」
大泣きしそうな気配を見せると、
「ごめん!」
父親は娘の口を手で塞ぐと小脇に抱え、頭上に銃撃音と爆発音が鳴り、地揺れする、大人一人が通れるトンネルの中を出口に向かってひた走った。
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