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青木 森

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13_流転の章_8

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 数日後―――
 少女は少々黄ばんだシーツの掛かったベッドで眠っていたが、熱は下がり、顔色も戻り、容態は落ち着いていた。
 六畳ほどの部屋には壁の一部にヒールで開けた様な穴があり、アメニティーグッズもお気持ちばかり。衛生面に不安を感じる、くたびれた感のあるビジネスホテルではあったが、雨、風をしのげ、寝床があり、疲れた少女の体を癒すには十分であった。
 検診が終わり、
「もう大丈夫ですよ」
 淡々と見下ろす医師ムスカムアの顔を、仰向けの少女は上掛けから「申し訳なさげな顔」を半分だけだして見上げ、
「ごめんなさい……なぉぅ……」
 するとムスカムアは、
「謝罪ばかりではいけませんねぇ」
 少し困った顔して苦言を呈し、
「「ありがとうございました」です」
「?」
「人に何かをしてもらった時には、まず『感謝』を述べるべきなのです」
「!」
 少女は彼と出会ってから現在までを振り返り、未だ感謝を口にしていなかった事に改めて気付くと、少し照れ臭そうな顔で、
「し、シショー……」
「何です?」
「あ、あり…………とうぅなぉぅ……」
(む、むぅ~~~いまさらぁ、なんかぁハズカシイなぉぅ~)
 しかしムスカムアは、無垢な少女の心の機微を感じ取る事が出来ず、
「ん? 何と言ったんですか?」
 何も伝わっていない、真顔のキョトン顔。
(さ、さっしてほしいなぉぅ!)
 恥ずかしさのレベルゲージはグングン上がって行ったが、察しの悪いムスカムアは淡々と、
「いけませんねぇ。言いたい事はキチンと言わないと、相手には伝わりませんよ」
 お説教までし始め、耳まで真っ赤な照れ顔になった少女は、
「シショーのバカァ! ありがとうなぉぅ!!」
 枕を投げつけ、上掛けを頭からスッポリ被り、隠れてしまった。
「「罵倒」と「感謝」が一言に? うぅ~む……これは、どちらの言葉を真意と受け取れば良いのでしょう?」
『しらないなぉぅ! シショーがかんがえるなぉぅ!』
 上掛けの中から聞こえる苛立った声に、
「何をそんなに怒っているのですか?」
 首を傾げていると、
 コォンコォン!
 扉が二回ノックされ、
「誰か来たようですね」
 備え付けのイスから立ち上がり、
「しかし「二回ノック」とは、ここはトイレではありませんよ。「四回ノック」するのが礼儀と言うのに、困ったモノですね」
 誰に言うでもなくブツブツ文句を言いながら扉を見つめ、
(「普通の人間」が三人……後ろの二人は武器を所持……体温の高さから緊張しているようですねぇ……)
 スティーラーの能力で閉じた扉越しに訪問者を確認。
 少女や部屋に損害を与える事なく制圧可能と判断するや、
「どの様な御用向きでしょう?」
 身構える事もなく、淡々と扉を開けた。
「「「!」」」
 何の警戒も無くスッと開いた扉に、少々驚いた様子を見せる男性三人。
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