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青木 森

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12.胎動の章_13

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 一夜明け―――
「お早ようございまぁす!」
 意気揚々、調査班ブースに入るエラ。
「皆さん、お早いんですねぇ!」
 既に来ていたヤマト達と挨拶を交わし、やがて朝礼の時間。
 凛然とした表情で仁王立ちするブレイクを前に、エラ達は一列に横並び。
(なぁ~んか、ガーディアンに居た頃を思い出しますねぇ)
 二度と会う事が叶わない仲間たちを想い、思わず口元が緩むと、
「そこォ! ニヤケルなァ!」
 ブレイクの檄が飛び、
「!」
 エラは叱責を受けたにもかかわらず、何処か嬉しそうな表情で、
「申し訳ありません! マァムぅ!」
(良いですねぇ~♪)
 テンションがうなぎ上りに上がる中、
「良いかオマエ達ィ! 今日の調査班の任務は!」
(ハイハイ何でしょうかぁ~♪)
『待機だぁ!』
「「「「「「了解ッ!」」」」」」
「…………はぁ?」
 面食らう、エラ。
(そ、ううか……待機も大事な任務の一つでした。いけない、いけない油断大敵ぃ)
 思い直し、
(明日にはきっと!)
 気合を入れ直したが、次の日も、また次の日も、期待を裏切る様に待機任務が続いた。
 当然である。
 ガルシアサードは出航できず、敵の襲撃も無いとなれば、調査班の出番はないのである。

 数日後―――
 調査班ブースのテーブルの上に、上半身を投げ出すエラ。気力に満ちた初日の姿は何処へやら、突っ伏した状態から無気力な顔を上げ、
「なんなんですかぁ……毎日毎日、待機待機ってぇ……たまにあるのは武器管理と、余所の班との『合同清掃』……」
 嘆き声を漏らすとジゼがクスリと笑い、
「良いじゃない」
「?」
「私達が「ヒマ」って事は、「平和」って事だよぉ」
「それは、そうですけどぉ~コーギーのお兄さんはヒマ過ぎて辛くないんですかぁ~」
 ジャックは艦内で発行されている雑誌から目を離さず、
「(呼び方は)ジャックでイイつったろぅがぁ。俺は楽なら楽なだけ構わねぇ」
「えぇ~」
 眉間にシワを寄せ、露骨に怪訝な顔し、
「なら陛下はぁ?」
 色とりどりの花が描かれた純白の「白磁のティーカップ」で、優雅に紅茶を嗜むマリアは「うふふ」と上品笑い、
「元(陛下)、ですわぁ」
 微笑を浮かべ、
「わたくしの事も、マリアで構いませんのにぃ。肩ひじ張らず、有事に対応お出来になれば、何をしていても構いませんのよぉ。郷に入っては郷に従え。ここは、そう言う所ですわぁ」
「それは、この数日で分かりましてけどもぉ……」
 不服そうな顔してヤマト、ジゼ、ナヤス、シャーロットの一団にチラリと目を移すと、四人は画用紙に紙を貼ったり、絵を描いたり、色を塗ったり、子供の図画工作の様な事をしていた。
「先程から気になっていたんですけど……(待機)任務中に、いったい何をしているんですかぁ?」
「紙芝居ニャ!」
 満面の笑顔で応えるシャーロット。
「い、いや、それは何となく分かりますけどぉ……」
 すると絵具であり得ない色に変わっている指をしたジゼが、楽し気な笑顔を見せ、
「アリアナちゃん達の教育係をしてるシセに頼まれたの。教材で使いたいんだってぇ」
「へぇ~。どんな話なんですか?」
 興味を持って身を起こし、不機嫌から少し気持ちを持ち直すエラ。いつにも増して仄暗い表情に見えるナヤスから、「シセが書いた」と言う台本を無言のうちに受け取った。
「?」
 ここ数日で、ジゼと同じくらいナヤスとも仲良くなった為、通常運転が「仄暗い表情」である事は理解していたが、平時より更に仄暗く、怒りすら滲ませる表情に、
(どうしたんだろぅ?)
 不思議に思いつつ本に目を移し、
(なるほど……)
 合点がいった。
 本のタイトルは、
『美少女勇者シセリーナとジーゼ姫の恋物語』
 苦笑するしかないエラ。中を読まずとも、内容はだいたい想像がついたが、とりあえず内容に目を通し、
「…………」
≪町を破壊し、女とみれば手あたり次第、不逞と非道の限りを尽くす「魔王ヤマート」が、絶世の美少女「ジーゼ姫」に一目ぼれ。姫を強引に連れ去り、「勇者シセリーナ」が仲間たちと共に、数々の苦難に立ち向かいつつ、「魔王ヤマート」を倒し、姫と国を救う物語≫
 何のひねりも無い、当てつけとしか思えないストーリー。
 困惑笑いのエラが、顔色を窺う様に、
「あ……あの……ヤマトさん……良いんですかぁ……コレ……」
 するとヤマトが応えるよ先、ナヤスがプチっとキレ、
「言い分けないでぇす! ヤマト様がお優しいのをいい事に、あのユリはァ!」
 激昂して立ち上がり、
「失礼にも程がありますぅ! しばしお待ち下さい、ヤマト様ァ! このナヤスが、必ず目にもの見せてやりますぅ!」
 全身から仄暗い「負のオーラ」を立ち昇らせたが、当のヤマトは、
「子供たちが喜んでくれるなら構わないさぁ。シセがそんな感じなのは、まぁいつもの事だしなぁ」
 キラッキラの笑顔を見せた。
「まっ、眩しいぃぃぃっぃぃぃ」
「ヤマト様ぁあぁぁぁぁぁ」
 浄化されて行くエラとナヤスであったが、傍らに座るジゼはムスッとし、
「ほぉ~んと、外面だけは良いんだからぁ」
 青い絵の具の付いた筆先を、ヤマトの頬にペタリ。
「「!!!!!!!!!」」
 言葉が出せない程の驚きをするエラ、ナヤスと、自身の身に何が起きたか理解出来ず、フリーズするヤマト。
 頬から伝わる筆先の冷たさに、ハッと我に返り、
「なっ、何すんだジゼぇ!」
「ふぅ~んだ。女の子二人におだてられて、鼻の下なんか伸ばしてるからでしょぉ」
「だ、誰がだよ!」
 もめ始め、エラとナヤスが狼狽すると、そんな二人にジャックとマリアが呆れ笑い。
「いつもの「痴話ケンカ」だろぅ? 放っときゃいいのさぁ」
「犬も食わないと申しますしぃ」
 いつもの自分たちの事を棚に上げた、余裕のモノ言い。
((自覚は無いんですねぇ))
 エラとナヤスが、ツッコミを入れたい衝動に駆られていると、ヤマトとジゼが恥ずかしそうに顔を赤らめ、
「「痴話って言うな!」」
 二人同時に言い返し、
「そっ、それじゃあ俺たちか、その……つ、付き合ってるみたいじゃないかぁ!」
「そ、そうだよぉ! そんなんじゃ、ないんだからぁ!」
 反論するヤマトと、反論しながらも何処か寂し気なジゼであった。

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