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青木 森

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11.交錯の章_5

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 場所をキャンピングカーのリビングに移し―――
 テーブルを挟んで座るジャックとコーギー、マリアとヴァイオレット。
「「「「…………」」」」
 誰も何も言わず、何とも気まずい、重苦しい空気が漂う中、初めに口を開いたのは意外にもジャックであった。
「んでぇ……あんで無関係のオメェがそこに居据わんだぁ?」
 不愉快そうに横向く視線の先、
「肉親同士の話し合いは、とかくヒートアップしやすいと言いますからね、私みたいな緩衝材が居た方が、落ち着いて話せますよ。まぁ置物だと思って気になさらないで下さい」
 満面の笑顔のエラ。一般的に難しいとされる初対面の人間との間合いに、違和感なくスッと入り込むコミュ力の高さに、
「チッ」
(この男オンナが……)
 苦々しくも「スゲェヤツだ」と、顔には出さず心の内で感心していると、
「それより、「コーギーのお兄さん」と「ヴァイオレットのお姉さん」♪」
「「?」」
「なんで、そんな怪しげな格好しているんですか?」
「「怪しげ?」」
 以外そうな顔を見合わせるジャックとマリア。完璧な変装であると自負していた二人は、何を指摘されたのか分からず、
「「???」」
 何だかんだで、やはり似た者同士である。
(((よく通報されなかった(ですねぇ・でしたねぇ・でございますですわねぇ)……)))
 半ば呆れた三人のジト目。
「「!」」
 三人の物言いたげな目から、世間と感覚ズレした変装であった事に初めて気付かされるジャックとマリア。思い返してみれば、妹たちの情報を尋ねた時の「町の人達」の反応は、みな一様に引き気味で、引きつった顔。
(((俺・わたくし)の(迫力・神々しさ)に萎縮してた訳(じゃ・では)なく、単に不審者扱いされて(いたのかぁ・いましたのねぇ)……))
 込み上げて来る恥ずかしさを平静で装いつつ、変装セット三点を静かに外す二人。
「面白い「お兄さんとお姉さん」ですねぇ♪」
「「…………」」
((は、恥ずかしいぃ……))
 コーギーとヴァイオレットが、自分の事の様に赤面して下を向くと、
「でもお二人のお兄さん、お姉さんだけあって、さすが美男美女ですね」
 裏表を感じさせない口調で褒めたが、
「それにしてもお二人とも…………」
 ジャックとマリアの顔をしげしげ見つめ、
「……私と何処かでお会いした事がありますか?」
「「「「!」」」」
「何故か、何処かでお会いした事がある様な……」
 首を傾げると、二人に話しかける切り口を探していたジャックは、正体がバレる事を避ける名目で、
「ケッ、偽名を使うにしても『コーギーとヴァイオレット』だぁ? オメェら女盗賊のつもりかよぉ」
 皮肉を込めたニヤケ顔を向けたが、
「「?」」
「?」
 きょとん顔の二人とマリア。
 確かにジャックの言う通り、大戦前、二人と同じ名前を持った女性二人組が、マフィアの金を盗んで逃避行する映画が上映された時期があった。しかしオーストラリアに居た頃、たまたまテレビで放送されていたのを目にしたジャックと違い、三人が知る筈もなく、そもそも二人が今の名前を選んだのは別々のタイミングで、別々の物からであり、ジャックの言わんとする意味が分からなかったのは無理からぬ話である。
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