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10.徳義の章_28
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数時間後―――
三人は州首相ケビン・ウォーカーの私邸の前に立っていた。
エラの「直接会って話がしたい」との申し出に対し、秘書官を通してではあるが、二言返事で「会ってくれる」と言うのである。
いくら「実の娘」と「子供たち」を救ってくれた恩人の頼み事とは言え、州首相として忙しい毎日を送る人間が、要職に就いている訳でもない「謝意の済んだ人間」に、普通はおいそれと会ってくれるモノではない。
彼の義理堅い性格ゆえであるのか、エラとの面会の為にわざわざスケジュールをこじ開け、私邸で会ってくれると言うのである。
ビィー!
幾分緊張した面持ちで、ブザーを鳴らすエラ。
するとケビン・ウォーカーが待っていたかのように、即座に扉を開け、
「ようこそぉ!」
満面の笑顔。
(((警備は大丈夫(なんですかぁ・かしらぁ・でしょうかぁ)……?)))
要人としての「危機感の無さ」と「警備体制の緩さ」を、他人事ながら危惧する三人。
しかし本人はいたって気にする素振りも見せず、
「そちらのお二人が、エラさんが言っていた「部下のお二人」ですねぇ! お初にお目にかかります!」
先日、謝意を伝えられなかった事もあってか、感謝しきりにコーギーとヴァイオレットの手を握り、
「さぁさぁ! どうぞ中へお入り下さぁい!」
室内へと促された。
コーギーとヴァイオレットを『部下』として説明していた事を思い出し、内心では「マズイ!」と思いつつ、表面上は平静を装い、
「でぇ、では失礼しまぁす!」
笑顔で敷居をまたごうとすると、案の定コーギーとヴァイオレットが左右の耳元に顔を近づけ小声で、
(へぇ~僕たちが、エラの「部下」だってぇ~?)
(後でその辺り、きっちりカッチリ窺いますでございますですわねぇ~)
冷笑と共に脅す様に囁いた。フリーズするエラ。
(そ、それは「その場の勢い」と言いますかぁ、何と言いますかぁ~)
引きつった笑顔で言い訳を並べ始めると、ヴァイオレットはエラを押しのけ、
「おほほほ。ケビン州首相ぉ、『部下』のあたくしになど、お気遣いなくでございますですわぁ~」
コーギーも反対側から、いつも通りの作り笑顔でエラを押しのけ、
「『部下』の僕たちはスグに退散しますのでお気遣いなくですぅ~」
二人は最高の笑顔を以って、部屋の奥へと消えて行った。
「あは、あはははは……」
困惑した笑いで見送るエラ。
ヤレヤレ顔で小さく息を吐き、
(お二人は強いですねぇ……腹を括った筈が、未だ心の何処かで迷っている私と違って)
いつもと変わらない調子の二人に、半ば呆れた様な、それでいて感心した様に呟くと、三人の後に続き部屋の奥へと向かった。
三人は州首相ケビン・ウォーカーの私邸の前に立っていた。
エラの「直接会って話がしたい」との申し出に対し、秘書官を通してではあるが、二言返事で「会ってくれる」と言うのである。
いくら「実の娘」と「子供たち」を救ってくれた恩人の頼み事とは言え、州首相として忙しい毎日を送る人間が、要職に就いている訳でもない「謝意の済んだ人間」に、普通はおいそれと会ってくれるモノではない。
彼の義理堅い性格ゆえであるのか、エラとの面会の為にわざわざスケジュールをこじ開け、私邸で会ってくれると言うのである。
ビィー!
幾分緊張した面持ちで、ブザーを鳴らすエラ。
するとケビン・ウォーカーが待っていたかのように、即座に扉を開け、
「ようこそぉ!」
満面の笑顔。
(((警備は大丈夫(なんですかぁ・かしらぁ・でしょうかぁ)……?)))
要人としての「危機感の無さ」と「警備体制の緩さ」を、他人事ながら危惧する三人。
しかし本人はいたって気にする素振りも見せず、
「そちらのお二人が、エラさんが言っていた「部下のお二人」ですねぇ! お初にお目にかかります!」
先日、謝意を伝えられなかった事もあってか、感謝しきりにコーギーとヴァイオレットの手を握り、
「さぁさぁ! どうぞ中へお入り下さぁい!」
室内へと促された。
コーギーとヴァイオレットを『部下』として説明していた事を思い出し、内心では「マズイ!」と思いつつ、表面上は平静を装い、
「でぇ、では失礼しまぁす!」
笑顔で敷居をまたごうとすると、案の定コーギーとヴァイオレットが左右の耳元に顔を近づけ小声で、
(へぇ~僕たちが、エラの「部下」だってぇ~?)
(後でその辺り、きっちりカッチリ窺いますでございますですわねぇ~)
冷笑と共に脅す様に囁いた。フリーズするエラ。
(そ、それは「その場の勢い」と言いますかぁ、何と言いますかぁ~)
引きつった笑顔で言い訳を並べ始めると、ヴァイオレットはエラを押しのけ、
「おほほほ。ケビン州首相ぉ、『部下』のあたくしになど、お気遣いなくでございますですわぁ~」
コーギーも反対側から、いつも通りの作り笑顔でエラを押しのけ、
「『部下』の僕たちはスグに退散しますのでお気遣いなくですぅ~」
二人は最高の笑顔を以って、部屋の奥へと消えて行った。
「あは、あはははは……」
困惑した笑いで見送るエラ。
ヤレヤレ顔で小さく息を吐き、
(お二人は強いですねぇ……腹を括った筈が、未だ心の何処かで迷っている私と違って)
いつもと変わらない調子の二人に、半ば呆れた様な、それでいて感心した様に呟くと、三人の後に続き部屋の奥へと向かった。
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