CLOUD(クラウド)

青木 森

文字の大きさ
上 下
323 / 535

10.徳義の章_25

しおりを挟む
 少しくたびれた感のある平屋の一軒家前―――
 三人は、幅四百メートルほどのSpencer湾をまたぐ長い橋、Joy Baluch Am Bridgeを渡り、ウエスト地区中心から少し外れた所にある、アプリマークが到着を知らせる明滅を繰り返す家の前に車を止め、車内から様子を窺っていた。
「ここですね」
 コーギーは車を歩道に寄せて止め、降車すると、ヴァイオレットとエラも後に続いた。
 玄関扉に続くエントランスに立ち、家を見上げる三人。
「本当に、この家におりますですのぉ? 何やら仄暗く、湿っぽい家ですわねぇ」
 エバンのキャラクターとそぐわぬ佇まいに、腑に落ちなさを滲ませたが、コーギーが裏付けする様に、
「発信機を付けたバイクは……ガレージの中のようですね」
 潮風に晒された為か、少し錆の目立つガレージを指差した。
 すると気の逸るエラが二人を置き去りに玄関扉の前に立ち、
「お二人とも!」
 急かされた二人も、扉の前に立った。
 扉をノックしようとするエラ。しかし、上げた右手は扉の前でピタリと止まり、
「どうしましたですのぉ?」
「な、」
「「な?」」
「何て切り出せば良いんでしょうかぁ~?」
 半泣きの顔で振り返った。
((この期に及んで意外と意気地がない(です・でございますわ)ねぇ))
 ヤレヤレ顔の二人。
「その様な些末な事、面と向かってから考えれば良いのでございますですわぁ!」
 ヴァイオレットが扉に手を伸ばすと、
「まっ! 待って下さい、ヴァイオレットぉ! わ、わた、私、まだ心の準備がぁ!」
 しかし有無を言わさず容赦なく、お上品に扉をノック。
 コンコン!
「ひゃぁうあ!」
 未だ腹の据わらないエラが頭を抱えたが、
「「「…………」」」
 返事は返らなかった。耳を澄ますが、室内から物音一つもない。
「お留守の様でございますですわねぇ?」
「ですねぇ。では出直してきましょう」
 何気にお育ちの良い(元王族)ヴァイオレットとコーギー。もとより「居留守を使っている」と言う発想が頭に無く、大人しく扉の前から立ち去ろうとし、内心ホッとしたエラが気の緩みから思わず、
「それにしても、こんな広い町で生活しているのに、バイクを置いて何処に行ったんでしょうねぇ」
「「!」」
((そう言えば……))
 はたと立ち止まるコーギーとヴァイオレット。
(し、しまったぁ、余計な一言をぉおぉぉっぉぉぉぉお)
 後悔は先に立たず。
「なるほど……そう言う発想はありませんでした」
「ですわねぇ」
 目から鱗。居留守と言う考えに至った二人は振り返り、再び扉の前に立つと、コーギーがコホンと咳払いを一つ。軽く凹むエラを横目に、
「コンチワぁ! エバン・ケリーさん、お届け物でぇ~す! 郵便でぇ~す! デリバリーでも良いですけどぉ!」
 からかい口調で声を高らかに上げ、途端に閉ざされた扉の向こうからドタバタと走り近づく足音が聞こえ、
「馬鹿にしてるのかァ! とっと帰れぇ!」
 中からエバンの怒鳴り声。
 いつも通りの作り笑顔に「どうだ」と言わんばかりのドヤ顔を交えるコーギー。すかし笑顔で頷いて見せるヴァイオレットは扉に向かい、
「エバン! ヴァイオレットでございますですわぁ! お話を少し伺いたいんですの! お願いでございますですわぁ!」
 懇願する声がエバンの耳に届いたかは不明だが、
「「「…………」」」
 固唾を呑んで扉を見守る三人の前で、しばしの静寂の後、
 キィ……
 扉は弱弱しく、短い軋みを上げて少し開き、真っ暗な闇の奥から、
「本当に……ヴァイオレッ……なのか……?」
 呻く様なエバンの弱弱しい声が聞こえた。
 家中のカーテンを閉め切り、部屋の灯りも点けていないようである。
 初対面にして自信過剰を思わせた、お祭り男の変わりように、
「どうしましたですのぉ、エバン……?」
 言葉少なに声を掛けたが、
「ヴァイオレットたち意外に……誰もいない……よな……?」
 暗がりの中から、周囲を窺う様な声。
「え、えぇ……」
 ヴァイオレットが戸惑いつつ頷くと、
「とにかく中に入ってくれ……」
 声は闇の奥へと消えて行き、ヴァイオレット達は怪訝な顔を見合わせ、
「失礼致しますでございますですわ……」
 室内に入り、静かに扉を閉めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

峰打ち攻撃兵の英雄伝

マサ
ファンタジー
峰打ちとは…相手を殺さずにギリギリの体力を残す攻撃 そしてもし、この峰打ちの能力をあなたが持ったらどう使いますか? アクションゲームが大好きな18歳の青年ウチダ・ミネトはゲーム内でいつも特殊なことをして負けていた そんなミネトはひょんな事から自らが戦うことに… そしてミネトの秘められた能力が明らかに! 様々な特徴を持った仲間たちと共に敵に挑んでいく!!

最弱の職業【弱体術師】となった俺は弱いと言う理由でクラスメイトに裏切られ大多数から笑われてしまったのでこの力を使いクラスメイトを見返します!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
俺は高坂和希。 普通の高校生だ。 ある日ひょんなことから異世界に繋がるゲートが出来て俺はその中に巻き込まれてしまった。 そこで覚醒し得た職業がなんと【弱体術師】とかいう雑魚職だった。 それを見ていた当たり職業を引いた連中にボコボコにされた俺はダンジョンに置いていかれてしまう。 クラスメイト達も全員その当たり職業を引いた連中について行ってしまったので俺は1人で出口を探索するしかなくなった。 しかもその最中にゴブリンに襲われてしまい足を滑らせて地下の奥深くへと落ちてしまうのだった。

電子世界のフォルトゥーナ

有永 ナギサ
SF
 人工知能を搭載した量子コンピュータセフィロトが自身の電子ネットワークと、その中にあるすべてのデータを物質化して創りだした電子による世界。通称、エデン。2075年の現在この場所はある事件をきっかけに、企業や国が管理されているデータを奪い合う戦場に成り果てていた。  そんな中かつて狩猟兵団に属していた十六歳の少年久遠レイジは、エデンの治安維持を任されている組織エデン協会アイギスで、パートナーと共に仕事に明け暮れる日々を過ごしていた。しかし新しく加入してきた少女をきっかけに、世界の命運を決める戦いへと巻き込まれていく。  かつての仲間たちの襲来、世界の裏側で暗躍する様々な組織の思惑、エデンの神になれるという鍵の存在。そして世界はレイジにある選択をせまる。彼が選ぶ答えは秩序か混沌か、それとも……。これは女神に愛された少年の物語。 <注意>①この物語は学園モノですが、実際に学園に通う学園編は中盤からになります。②世界観を強化するため、設定や世界観説明に少し修正が入る場合があります。  小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

ちびっ子ボディのチート令嬢は辺境で幸せを掴む

紫楼
ファンタジー
 酔っ払って寝て起きたらなんか手が小さい。びっくりしてベットから落ちて今の自分の情報と前の自分の記憶が一気に脳内を巡ってそのまま気絶した。  私は放置された16歳の少女リーシャに転生?してた。自分の状況を理解してすぐになぜか王様の命令で辺境にお嫁に行くことになったよ!    辺境はイケメンマッチョパラダイス!!だったので天国でした!  食べ物が美味しくない国だったので好き放題食べたい物作らせて貰える環境を与えられて幸せです。  もふもふ?に出会ったけどなんか違う!?  もふじゃない爺と契約!?とかなんだかなーな仲間もできるよ。  両親のこととかリーシャの真実が明るみに出たり、思わぬ方向に物事が進んだり?    いつかは立派な辺境伯夫人になりたいリーシャの日常のお話。    主人公が結婚するんでR指定は保険です。外見とかストーリー的に身長とか容姿について表現があるので不快になりそうでしたらそっと閉じてください。完全な性表現は書くの苦手なのでほぼ無いとは思いますが。  倫理観論理感の強い人には向かないと思われますので、そっ閉じしてください。    小さい見た目のお転婆さんとか書きたかっただけのお話。ふんわり設定なので軽ーく受け流してください。  描写とか適当シーンも多いので軽く読み流す物としてお楽しみください。  タイトルのついた分は少し台詞回しいじったり誤字脱字の訂正が済みました。  多少表現が変わった程度でストーリーに触る改稿はしてません。  カクヨム様にも載せてます。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~3巻が発売中!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  第四巻は11月18日に発送。店頭には2~3日後くらいには並ぶと思われます。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍1~7巻発売中。イラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

いらないスキル買い取ります!スキル「買取」で異世界最強!

町島航太
ファンタジー
 ひょんな事から異世界に召喚された木村哲郎は、救世主として期待されたが、手に入れたスキルはまさかの「買取」。  ハズレと看做され、城を追い出された哲郎だったが、スキル「買取」は他人のスキルを買い取れるという優れ物であった。

アンドロイドちゃんねる

kurobusi
SF
 文明が滅ぶよりはるか前。  ある一人の人物によって生み出された 金属とプラスチックそして人の願望から構築された存在。  アンドロイドさんの使命はただ一つ。  【マスターに寄り添い最大の利益をもたらすこと】  そんなアンドロイドさん達が互いの通信機能を用いてマスター由来の惚気話を取り留めなく話したり  未だにマスターが見つからない機体同士で愚痴を言い合ったり  機体の不調を相談し合ったりする そんなお話です  

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

処理中です...