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10.徳義の章_25
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少しくたびれた感のある平屋の一軒家前―――
三人は、幅四百メートルほどのSpencer湾をまたぐ長い橋、Joy Baluch Am Bridgeを渡り、ウエスト地区中心から少し外れた所にある、アプリマークが到着を知らせる明滅を繰り返す家の前に車を止め、車内から様子を窺っていた。
「ここですね」
コーギーは車を歩道に寄せて止め、降車すると、ヴァイオレットとエラも後に続いた。
玄関扉に続くエントランスに立ち、家を見上げる三人。
「本当に、この家におりますですのぉ? 何やら仄暗く、湿っぽい家ですわねぇ」
エバンのキャラクターとそぐわぬ佇まいに、腑に落ちなさを滲ませたが、コーギーが裏付けする様に、
「発信機を付けたバイクは……ガレージの中のようですね」
潮風に晒された為か、少し錆の目立つガレージを指差した。
すると気の逸るエラが二人を置き去りに玄関扉の前に立ち、
「お二人とも!」
急かされた二人も、扉の前に立った。
扉をノックしようとするエラ。しかし、上げた右手は扉の前でピタリと止まり、
「どうしましたですのぉ?」
「な、」
「「な?」」
「何て切り出せば良いんでしょうかぁ~?」
半泣きの顔で振り返った。
((この期に及んで意外と意気地がない(です・でございますわ)ねぇ))
ヤレヤレ顔の二人。
「その様な些末な事、面と向かってから考えれば良いのでございますですわぁ!」
ヴァイオレットが扉に手を伸ばすと、
「まっ! 待って下さい、ヴァイオレットぉ! わ、わた、私、まだ心の準備がぁ!」
しかし有無を言わさず容赦なく、お上品に扉をノック。
コンコン!
「ひゃぁうあ!」
未だ腹の据わらないエラが頭を抱えたが、
「「「…………」」」
返事は返らなかった。耳を澄ますが、室内から物音一つもない。
「お留守の様でございますですわねぇ?」
「ですねぇ。では出直してきましょう」
何気にお育ちの良い(元王族)ヴァイオレットとコーギー。もとより「居留守を使っている」と言う発想が頭に無く、大人しく扉の前から立ち去ろうとし、内心ホッとしたエラが気の緩みから思わず、
「それにしても、こんな広い町で生活しているのに、バイクを置いて何処に行ったんでしょうねぇ」
「「!」」
((そう言えば……))
はたと立ち止まるコーギーとヴァイオレット。
(し、しまったぁ、余計な一言をぉおぉぉっぉぉぉぉお)
後悔は先に立たず。
「なるほど……そう言う発想はありませんでした」
「ですわねぇ」
目から鱗。居留守と言う考えに至った二人は振り返り、再び扉の前に立つと、コーギーがコホンと咳払いを一つ。軽く凹むエラを横目に、
「コンチワぁ! エバン・ケリーさん、お届け物でぇ~す! 郵便でぇ~す! デリバリーでも良いですけどぉ!」
からかい口調で声を高らかに上げ、途端に閉ざされた扉の向こうからドタバタと走り近づく足音が聞こえ、
「馬鹿にしてるのかァ! とっと帰れぇ!」
中からエバンの怒鳴り声。
いつも通りの作り笑顔に「どうだ」と言わんばかりのドヤ顔を交えるコーギー。すかし笑顔で頷いて見せるヴァイオレットは扉に向かい、
「エバン! ヴァイオレットでございますですわぁ! お話を少し伺いたいんですの! お願いでございますですわぁ!」
懇願する声がエバンの耳に届いたかは不明だが、
「「「…………」」」
固唾を呑んで扉を見守る三人の前で、しばしの静寂の後、
キィ……
扉は弱弱しく、短い軋みを上げて少し開き、真っ暗な闇の奥から、
「本当に……ヴァイオレッ……なのか……?」
呻く様なエバンの弱弱しい声が聞こえた。
家中のカーテンを閉め切り、部屋の灯りも点けていないようである。
初対面にして自信過剰を思わせた、お祭り男の変わりように、
「どうしましたですのぉ、エバン……?」
言葉少なに声を掛けたが、
「ヴァイオレットたち意外に……誰もいない……よな……?」
暗がりの中から、周囲を窺う様な声。
「え、えぇ……」
ヴァイオレットが戸惑いつつ頷くと、
「とにかく中に入ってくれ……」
声は闇の奥へと消えて行き、ヴァイオレット達は怪訝な顔を見合わせ、
「失礼致しますでございますですわ……」
室内に入り、静かに扉を閉めた。
三人は、幅四百メートルほどのSpencer湾をまたぐ長い橋、Joy Baluch Am Bridgeを渡り、ウエスト地区中心から少し外れた所にある、アプリマークが到着を知らせる明滅を繰り返す家の前に車を止め、車内から様子を窺っていた。
「ここですね」
コーギーは車を歩道に寄せて止め、降車すると、ヴァイオレットとエラも後に続いた。
玄関扉に続くエントランスに立ち、家を見上げる三人。
「本当に、この家におりますですのぉ? 何やら仄暗く、湿っぽい家ですわねぇ」
エバンのキャラクターとそぐわぬ佇まいに、腑に落ちなさを滲ませたが、コーギーが裏付けする様に、
「発信機を付けたバイクは……ガレージの中のようですね」
潮風に晒された為か、少し錆の目立つガレージを指差した。
すると気の逸るエラが二人を置き去りに玄関扉の前に立ち、
「お二人とも!」
急かされた二人も、扉の前に立った。
扉をノックしようとするエラ。しかし、上げた右手は扉の前でピタリと止まり、
「どうしましたですのぉ?」
「な、」
「「な?」」
「何て切り出せば良いんでしょうかぁ~?」
半泣きの顔で振り返った。
((この期に及んで意外と意気地がない(です・でございますわ)ねぇ))
ヤレヤレ顔の二人。
「その様な些末な事、面と向かってから考えれば良いのでございますですわぁ!」
ヴァイオレットが扉に手を伸ばすと、
「まっ! 待って下さい、ヴァイオレットぉ! わ、わた、私、まだ心の準備がぁ!」
しかし有無を言わさず容赦なく、お上品に扉をノック。
コンコン!
「ひゃぁうあ!」
未だ腹の据わらないエラが頭を抱えたが、
「「「…………」」」
返事は返らなかった。耳を澄ますが、室内から物音一つもない。
「お留守の様でございますですわねぇ?」
「ですねぇ。では出直してきましょう」
何気にお育ちの良い(元王族)ヴァイオレットとコーギー。もとより「居留守を使っている」と言う発想が頭に無く、大人しく扉の前から立ち去ろうとし、内心ホッとしたエラが気の緩みから思わず、
「それにしても、こんな広い町で生活しているのに、バイクを置いて何処に行ったんでしょうねぇ」
「「!」」
((そう言えば……))
はたと立ち止まるコーギーとヴァイオレット。
(し、しまったぁ、余計な一言をぉおぉぉっぉぉぉぉお)
後悔は先に立たず。
「なるほど……そう言う発想はありませんでした」
「ですわねぇ」
目から鱗。居留守と言う考えに至った二人は振り返り、再び扉の前に立つと、コーギーがコホンと咳払いを一つ。軽く凹むエラを横目に、
「コンチワぁ! エバン・ケリーさん、お届け物でぇ~す! 郵便でぇ~す! デリバリーでも良いですけどぉ!」
からかい口調で声を高らかに上げ、途端に閉ざされた扉の向こうからドタバタと走り近づく足音が聞こえ、
「馬鹿にしてるのかァ! とっと帰れぇ!」
中からエバンの怒鳴り声。
いつも通りの作り笑顔に「どうだ」と言わんばかりのドヤ顔を交えるコーギー。すかし笑顔で頷いて見せるヴァイオレットは扉に向かい、
「エバン! ヴァイオレットでございますですわぁ! お話を少し伺いたいんですの! お願いでございますですわぁ!」
懇願する声がエバンの耳に届いたかは不明だが、
「「「…………」」」
固唾を呑んで扉を見守る三人の前で、しばしの静寂の後、
キィ……
扉は弱弱しく、短い軋みを上げて少し開き、真っ暗な闇の奥から、
「本当に……ヴァイオレッ……なのか……?」
呻く様なエバンの弱弱しい声が聞こえた。
家中のカーテンを閉め切り、部屋の灯りも点けていないようである。
初対面にして自信過剰を思わせた、お祭り男の変わりように、
「どうしましたですのぉ、エバン……?」
言葉少なに声を掛けたが、
「ヴァイオレットたち意外に……誰もいない……よな……?」
暗がりの中から、周囲を窺う様な声。
「え、えぇ……」
ヴァイオレットが戸惑いつつ頷くと、
「とにかく中に入ってくれ……」
声は闇の奥へと消えて行き、ヴァイオレット達は怪訝な顔を見合わせ、
「失礼致しますでございますですわ……」
室内に入り、静かに扉を閉めた。
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