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１０．徳義の章_１６

　女の子が別で連れ去られた事を知らないコーギー。
「待ちくたびれましたよ、ヴァイオレットぉ」
　からかう様にぼやいて見せると、
「愚痴なら後でいくらでも聞いてやる！　一先ず南東に向かって走りなァ！」
「！」
（キレモード……何かありましたね……）
　察したコーギーは理由も聞かず、車を急発進させた。
「ひぃ！」
　慌ててシートにしがみつくエラ。短い悲鳴を上げてから、
「ヴァ、ヴァイオレットぉ！　犯人の車がどこにいるか分かってるんですかぁ！？」
「解析したデータから連れ去られた時間と方角は分かってる！　さほど遠くにゃ行ってないさぁ！　それにアタシは「使い魔」の目とリンクしてるからねぇ！　逃がしゃあしないよ！」
（あぁ……やっぱり二人（コーギーとヴァイオレット）は凄いですね……）
　無力感に苛まれ、押し黙るエラ。
（私はガーディアンなのに……いつも二人の背を追うだけ……）
　視線を落とすと、バックミラー越しに映ったエラの仄暗い表情から、コーギーが複雑な思いの心中を察し、
「どうかしましたか、エラ？」
　いつも通りの作り笑顔で、それとなく気遣ったが、
「いえ……何でもぉ……」
　エラは弱弱しい笑顔で誤魔化し、そしておもむろに、
「……一つ、聞いても良いですか？」
「？」
「……前に少しだけ伺いましたが……お二人の居た時代の文明は滅んだんですよねぇ？」
　唐突な質問に少々戸惑いつつ、
「……まぁそうですねぇ」
（完全に滅んではいませんでしたが……）
　スティーラーやクローザーの存在を思い浮かべていると、
「こんなに凄い科学力を持った文明が……どうして滅んだんですか？」
「！」
　コーギーは一瞬黙った後、変わらぬ作り笑顔で、
「人間は今も昔も愚かで、自然のチカラは偉大だった。詰まるところ、そう言う話ですよ」
「それはどう言う？」
　言いかけた刹那、
「見つけたよ、コーギィーッ！　次の十字路を左だ！」
「了解でぇす！」
　左に急ハンドル。
「うわぁ！」
　リビングを転がるエラをヴァイオレットはチラリと見、
「センチは後にしな、エラァ！　今は女の子を救う事に集中しなァ！」
「たっ、確かにそうですね！」
　よたりと起き上がるとシートに体を固定した。
「次を右だァ！」
「了解ィ！」
　町中を爆走するキャンピングカー。コーギーのチカラによるコーティングがなされていなかったら、とうの昔にバラバラである。